落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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魔龍動乱

連邦の行く先

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「お前は……なにをしようとしているんだ?」

 日の光も届かない程に鬱蒼と茂った森の中、シンピは向かい合ったウルフに向かって問う。
 ウルフは口角を吊り上げ、悠々とそれに話し出す。

「なにって……分からないのか? 悲しいなぁ。シンピ、賢い君なら分かってくれていると思ってたんだが」

 芝居がかった口調のウルフから、這いずり回る蛇のようにおぞましい何かを感じ、シンピの額から冷や汗が伝う。

「いいから質問に答えろ」

 そう急かす声には、仄かに焦りの色が混じっていた。
 それを分かっているのか、ウルフはにやけ顔のままで焦らすように話し続ける。

「おいおい。質問する側の態度じゃないだろそれは……まあ、私とシンピ、君の仲だ。特別に教えてやることとしようかなぁ」

 大げさな身振り手振りを交えつつウルフはチラチラとシンピを見やる。

「くそが……」

 シンピの後ろで構えているビーディーが呟く。
 ビーディーはずっとウルフに攻撃を加えられる隙を伺っていたが、一見隙だらけなその動きの中に“隙”と呼べる間は一切なかった。

「簡単な話だよ。私は壊したいんだ。この連邦をね」

「……それはどうしてだ」

 シンピが重ねて問うと、ウルフは「やれやれ」と言わんばかりに首を横に振った。

「そんなの決まってるじゃないか。そもそもが馬鹿げているんだ。近くの二国が争っているから、身を守るためにこの地域に住む数々の部族で協力し合い連邦を形成しようなどと……夢想家の描いた絵空事に過ぎない」

「何故そう思う」

「ははっ! ここまで言っても分からないか。君もいよいよ衰えたかい? シンピ」

 揶揄うようなウルフを、シンピはただ睨みつける。
 張り合いがないので、ウルフは仕方なく質問に答えることとした。

「だってそうだろう? 人間に、獣人に、亜人に……果ては魔人まで手を取り合うなんて不可能だ。例え今は上手く回っているように見えたとしても、必ずいつか己が優位性を主張する種族達が現れる。そして紛争……行きつく先は殺戮と、紛争に勝利した種族による支配だ」

 そう語るウルフの目は、いつの間にか真剣な眼差しへと変わっていた。
 シンピの心が、少し揺らぐ。

「……だが、お前のやっているテロ行為が、それをどう解決へと導く? 連邦は団結しなければ、隣国の軍隊によって食い物となるだけだ」

「それは違う」

 ハッキリと、ウルフが答える。

「連邦なんかいらないんだ……この地に、本当に必要なものは」

 ウルフの口端が、再び上を向く。

「魔獣だよ」
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