落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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魔龍動乱

撃墜

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 空を微塵に切り裂くかの如き咆哮。
 爆風と激しい揺れが、魔龍の上に立つビーディーとシンピを襲う。

「あいつら、やりやがった!」

 ビーディーが足場の鱗をえぐり掴むようにしてその場に留まる。

「『鋼鉄の門扉メタル・ゲート』」

 シンピは守護魔法を発動し、風から身を守る。
 しかし揺れを対処することは出来ず、その身は中空に放り出された。

「シンピ!」

 ビーディーが手を伸ばすも、シンピがそれを握ることはなかった。

「『転移ザ・ワープ』」

 シンピが転移し、ビーディーの隣に現れる。
 さっきまですっかり焦っていたビーディーは気が抜けたようにため息を吐き、不服そうにシンピを見やった。

「……心配して損した」

「そうだろうな。それより……今がチャンスだ。墜とすぞ」

「あ? そうなのか?」

 シンピは魔龍の翼を指差す。
 たしかに、その動きは先程よりも明らかに鈍くなっていた。

「……なんでだ?」

「知らん。だが恐らくはレオンも短剣の力だろう」

「あ~……そういやマジックアイテムだったな、あれ。んじゃ、やるか」

 シンピが頷くと、二人はそれぞれ右翼と左翼に向かう。

「行くぞドラクルぅぅぅ!!!」

 ビーディーが飛び掛かり、信じ難い速度で拳を繰り出す。
 すると、本人の予想よりもあっけなく翼の皮膜に穴が開いた。

「……年食って衰えたっつーのは本当だったか」

 小さな戦士は容赦することなく、連打によって幾つもの穴を開ける。
 耳をつんざくような咆哮も、ビーディーにはどこか弱々しく感じられた。
 そのまま十数回の殴撃を加えると魔龍の巨体が落下を始め、ビーディーの体が空を舞う。

「ビーディー!」

 呼ばれ振り向くと、転移してきたシンピが眼前で落下しながら手を差し出していた。

「シンピ!」

 ビーディーがニヤリと笑って、その手を強く握る。

「『転移ザ・ワープ』!」

 シンピが呪文を唱えると、二人の視界が緑に包まれる。
 地上に転移したのだ。
 ビーディーが上空を見やる。
 そこには、自分達の立っている地点に向かって落下してくる黒の龍がいた。

「師匠! ビーディー!」

 二人の背後に、レオンとオーバを乗せた青い龍が着陸する。

「レオン、思ったより早くなったが……ここでやるぞ」

「はい!」

 シンピの言葉に、レオンが頷く。
 恐ろしき魔龍の姿は、もうすぐそこまで迫ってきていた。
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