落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

文字の大きさ
上 下
85 / 101
魔龍動乱

青の弾丸

しおりを挟む
「しっかり掴まれよ。落ちられたら面倒だかんな」

 オーバからの忠告を受けつつ、彼の相棒ジジの背にレオンが跨る。
 龍の鱗というものは想像以上にスベスベしていて、気を抜けばすぐにでも落ちてしまいそうだ。

――ドラゴンライダーが希少な理由の一端だな

 ジジの体には掴まるところもないので、オーバの腰に手を回す。
 オーバがリンネ達を乗せなかった理由はもしかしたらここにあるのかもしれないな、とレオンは思った。

「だいぶ密着するもんな……」

「……そういうこと。んじゃあ行くぞ! ジジ!」

 オーバの声に反応して、ジジが吼える。
 周囲に風をまき散らしながら翼を広げると、青き龍は弾丸のように空へと飛び出した。

「……ッ! やばいなこれ……!」

 ジジの胴を挟む足にレオンは無意識に力を入れる。
 空気の壁を切り裂いて進む圧力によって弾き飛ばされてしまいそうだったからだ。

「もうすぐ着く! 耐えろよっ!」

 オーバの声が風に流され消えていく。
 レオンは奥歯を嚙みしめ薄く目を開けた。
 たしかにドラクルの姿はさっきよりずっとハッキリと、そしてみるみるうちに大きくなっていた。

「奴の空域に着いた! 止まるぞっ!」

 その言葉と共に風の層が一気に開ける。
 レオン達の眼下に広がるのは無限のように広がる森林地帯、そしてその上を威風堂々と飛翔するドラクルの巨体だった。

「師匠とビーディーだ!」

 レオンが声を上げる。
 よくよく目を凝らして見ると、たしかにドラクルの大きな背の上には二つの人影があった。

「本当だ。あまりにあの龍がでかくて気づかなかったな……接近するか?」

 オーバの提案に、レオンは少し考えてから首を横に振る。

「いや、俺たちはさっきリンネ達と考えた作戦をそのまま実行しよう」

「いいのか? あの二人が落ちる可能性もあるぞ」

「大丈夫。師匠達なら問題ない」

 そう答えるレオンは全くもって心配をしていない様子だったので、オーバは言う通り作戦を実行することにした。

「どうなっても知らねぇからな」

「ああ。頼んだ」

「……ったく。冒険者ってのはイカレてんのか? ジジ! 急降下だ!」

 オーバの命令通り、ジジが凄まじい速度で降下を始める。
 目指すはドラクルの頭部だ。

「いけっ! レオン!」

「おおおおおおお!!!」

 〈殺気〉を剝き出しにしたレオンが短剣を抜く。
 その時レオンの瞳が微かに赤く染まったことに気づくものは、この場にはいなかった。

――絶対に当てる

 レオンの〈殺気〉に呼応するように、短剣の刀身が怪しく輝く。
 ドラクルが物凄い勢いで接近してくる青い龍に気づくが、もう遅い。
 既に彼らは、目と鼻の先まで迫ってきていた。

「喰らえっ……!」

 一閃。
 レオンの振りぬいた剣先が、魔龍の鼻先を切り裂いた。
しおりを挟む

処理中です...