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第ニ章「力の呼び声」
「顕現せし力」
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オーガは横たわるレイナに近づいていく。レイナは気絶したまま動かない。
(俺が…守らなきゃ…!)
レイナは短時間とはいえ、アルに優しくしてくれた人間の一人だ。その時間は今、アルの中で大切な時間になりつつある。
だから、アルはここでレイナを失うわけにはいかなかった。
しかし、アルの身体は動かない。恐怖がアルを支配していた。
オーガがレイナを掴み上げようと手を伸ばした時、やっとアルの身体は動いた。
アルは手を前に突き出した。オーガは動きを止め、不思議そうにアルの方を向く。
「なっ…!魔術が発動しない!」
オーガにはなんの変化もなかった。吹き飛ぶことも浮くことも潰れることもなかった。
オーガは頭がいい。そのため、気絶しているレイナより、起きていてオーガに敵意を抱いているアルのことを片付けるべきだと気づいたようだ。
オーガはアルに身体を向けた。そしてアルの方へ向かって歩き始めた。
ニ・五メートルの、巨大で恐ろしい見た目をしたオーガが歩いてくる様はアルの戦意を喪失させるには充分すぎた。
そのままオーガはアルの目の前に立つと、手をアルの首に伸ばし、掴み上げる。
アルは中に浮いた。
(死ぬのか…。俺は…。)
やけに冷静だった頭でアルはそう考えていた。
その時、アルはオーガの顔を至近距離で見てしまった。
醜い顔だった。まるで下手な木彫り職人が顔とはこんなものだろうと想像して削った結果のような顔であった。
アルはその顔に今更ながら恐怖を抱いた。
(嫌だ…死にたくない…!)
アルはオーガの手に掴まれながらも必死にもがいた。
「うわあああぁぁぁぁァァァァ‼︎」
アルは叫びながら手をバタつかせ、足でオーガの身体を蹴った。
しかし、オーガはびくともしない。
オーガの口がアルの頭を喰いちぎろうと近づいてくる。
「あああぁぁぁぁァァァァ‼︎」
アルは全力でもがいた。
その時、再び時が止まった。
『恐怖だ…。恐怖に身を任せ、我輩を解放するのだ…。』
ふと、アルの頭にそんな声が響く。
アルはその声によって冷静を取り戻した。
『さあ、我輩を解放しろ…。さすればあの小娘の命は助かるぞ?』
「お前は一体、何者なんだ?
レイナが助かるって、この状況見てから言えよ!」
『もちろん見ていたとも。宿主が何を見ているのか、身体を共有する私は見ることができるからな。』
「だったらなんで今なんだよ!もっと早く出てきて、俺たちを助ければよかったじゃないか!」
蛇影は一瞬の沈黙の後、こう答えた。
『私にとって、宿主がやることを見る以外の暇つぶしはないからな。早く終わらせてはつまらんだろう?』
アルはその答えに嫌悪感を覚えた。
「ならば、お前は解放しない。」
『何故だ?お前はそうしないと死んでしまうぞ?』
蛇影は焦っていた。何故なら…
「宿主に死なれたら困るもんな?
俺の身体に住まわせてやってんだ。家賃は貰うぜ?」
『この小童め…。仕方ない。今回の敗因はうっかりもらした我輩にあるだろう。
お主に死なれると我輩も困る。力を貸そう…。」
蛇影はそうふてぶてしく呟くとアルに力を流し込んだ。
『我輩の力を貸してやったんだ。絶対に勝つのだぞ。』
「当たり前だ。」
そう答えるとアルの頭から声が離れていった。同時に時間も流れ始める。
オーガの顔が目の前にあった。しかし、アルは先程のようには焦らなかった。
アルは身体を捻ると、オーガの手を切り裂いた。
着地したアルの手には一振りの剣が握られていた。
アルは手に持った剣を見る。
[バックバイター]-噛み返す-
そう剣の柄に書いてあった。
オーガは手首から斬り落とされた左手をみて呆然としている。
アルは自身に身体強化術(運動能力や反射神経を向上させる効果を持つ術)をかけ、剣を握り直した。
そして、一瞬のうちに距離を詰めると剣を振りかぶり、オーガに斬りつけた。
剣はオーガの肌で跳ね返った。
「なっ…‼︎」
オーガの左手首を最も簡単に斬り落としたのだ。肌を斬り裂けないわけがない。
ならばそこには理由が有る。
その時、アルは理解した。
(この剣の銘はバックバイター…。
ならば…!)
「おい、オーガ!
俺のことを叩いてみろよ。それとも怖くてできないのか?」
アルはオーガを挑発し始めた。
オーガに知能があるとは言えども、それは三、四歳児並みの知能である。あくまで魔物の中では知能が高いという話なのである。
オーガは挑発にのり、アルを殴ろうとした。
「カウンター‼︎」
アルはオーガの攻撃を流すと懐に入り、胴を斬り裂いた。
オーガの胴から血飛沫が飛び、オーガは上半身と下半身が離れた。
アルの手から剣が霧となって消えた。
オーガは絶命した。
何故アルがオーガを挑発したのか。
それは剣の銘がバックバイター -噛み返す-だったからだ。その名前から察する通り、この剣の攻撃は自分が攻撃された瞬間、その攻撃をまるで噛み返すかのようにカウンターする。
オーガが完全に絶命したのをみて、グランウルフ達も離れていく。
それを確認してアルはレイナを起こしにいこうとした。
しかし、レイナはすでに気が付いていた。そして、アルの方を見て目を丸くしたまま動かなかった。
「レ…レイナ?」
その声にレイナは我に返ったようだ。
「い、今のは…一体?」
「俺の新しい攻撃手段だよ。」
アルは笑いながらレイナにそう答える。
同時にアルの身体の中にいるという蛇影にも話しかける。
(蛇影…ありがとうな。)
『何をいう。我輩に馬鹿みたいに高い家賃を請求したのはどこのどいつじゃ、小童め。』
(これからもちょくちょく請求させてもらうからな)
アルは心の中で笑いながらそう答えると、問いを蛇影になげかけた。
(このバックバイター、いつでも出せるのか?)
『嗚呼、この剣はな、お前が名前を呼べば現れるぞ。しかし、剣に依存しすぎるなよ。』
(なんでだ?)
『その剣は数多の人間の命を奪ってきた。お前も気をつけることだな。では、我輩ひこれで失礼するぞ』
蛇影の声は謎めいた言葉を残し消えていった。
「じゃ、レイナ、帰ろう。」
「何がどうなっているのか分からないけど…。
帰ろっか。」
レイナは笑ってそう答えた。
「あ、あと、今日のことはみんなには内緒な。心配かけるといけないから。」
「ん~。言っても変わらないと思うけどな~。
アル君がそういうなら、分かった。」
そうして二人は林の道を街に向けて帰っていくのだった。
(俺が…守らなきゃ…!)
レイナは短時間とはいえ、アルに優しくしてくれた人間の一人だ。その時間は今、アルの中で大切な時間になりつつある。
だから、アルはここでレイナを失うわけにはいかなかった。
しかし、アルの身体は動かない。恐怖がアルを支配していた。
オーガがレイナを掴み上げようと手を伸ばした時、やっとアルの身体は動いた。
アルは手を前に突き出した。オーガは動きを止め、不思議そうにアルの方を向く。
「なっ…!魔術が発動しない!」
オーガにはなんの変化もなかった。吹き飛ぶことも浮くことも潰れることもなかった。
オーガは頭がいい。そのため、気絶しているレイナより、起きていてオーガに敵意を抱いているアルのことを片付けるべきだと気づいたようだ。
オーガはアルに身体を向けた。そしてアルの方へ向かって歩き始めた。
ニ・五メートルの、巨大で恐ろしい見た目をしたオーガが歩いてくる様はアルの戦意を喪失させるには充分すぎた。
そのままオーガはアルの目の前に立つと、手をアルの首に伸ばし、掴み上げる。
アルは中に浮いた。
(死ぬのか…。俺は…。)
やけに冷静だった頭でアルはそう考えていた。
その時、アルはオーガの顔を至近距離で見てしまった。
醜い顔だった。まるで下手な木彫り職人が顔とはこんなものだろうと想像して削った結果のような顔であった。
アルはその顔に今更ながら恐怖を抱いた。
(嫌だ…死にたくない…!)
アルはオーガの手に掴まれながらも必死にもがいた。
「うわあああぁぁぁぁァァァァ‼︎」
アルは叫びながら手をバタつかせ、足でオーガの身体を蹴った。
しかし、オーガはびくともしない。
オーガの口がアルの頭を喰いちぎろうと近づいてくる。
「あああぁぁぁぁァァァァ‼︎」
アルは全力でもがいた。
その時、再び時が止まった。
『恐怖だ…。恐怖に身を任せ、我輩を解放するのだ…。』
ふと、アルの頭にそんな声が響く。
アルはその声によって冷静を取り戻した。
『さあ、我輩を解放しろ…。さすればあの小娘の命は助かるぞ?』
「お前は一体、何者なんだ?
レイナが助かるって、この状況見てから言えよ!」
『もちろん見ていたとも。宿主が何を見ているのか、身体を共有する私は見ることができるからな。』
「だったらなんで今なんだよ!もっと早く出てきて、俺たちを助ければよかったじゃないか!」
蛇影は一瞬の沈黙の後、こう答えた。
『私にとって、宿主がやることを見る以外の暇つぶしはないからな。早く終わらせてはつまらんだろう?』
アルはその答えに嫌悪感を覚えた。
「ならば、お前は解放しない。」
『何故だ?お前はそうしないと死んでしまうぞ?』
蛇影は焦っていた。何故なら…
「宿主に死なれたら困るもんな?
俺の身体に住まわせてやってんだ。家賃は貰うぜ?」
『この小童め…。仕方ない。今回の敗因はうっかりもらした我輩にあるだろう。
お主に死なれると我輩も困る。力を貸そう…。」
蛇影はそうふてぶてしく呟くとアルに力を流し込んだ。
『我輩の力を貸してやったんだ。絶対に勝つのだぞ。』
「当たり前だ。」
そう答えるとアルの頭から声が離れていった。同時に時間も流れ始める。
オーガの顔が目の前にあった。しかし、アルは先程のようには焦らなかった。
アルは身体を捻ると、オーガの手を切り裂いた。
着地したアルの手には一振りの剣が握られていた。
アルは手に持った剣を見る。
[バックバイター]-噛み返す-
そう剣の柄に書いてあった。
オーガは手首から斬り落とされた左手をみて呆然としている。
アルは自身に身体強化術(運動能力や反射神経を向上させる効果を持つ術)をかけ、剣を握り直した。
そして、一瞬のうちに距離を詰めると剣を振りかぶり、オーガに斬りつけた。
剣はオーガの肌で跳ね返った。
「なっ…‼︎」
オーガの左手首を最も簡単に斬り落としたのだ。肌を斬り裂けないわけがない。
ならばそこには理由が有る。
その時、アルは理解した。
(この剣の銘はバックバイター…。
ならば…!)
「おい、オーガ!
俺のことを叩いてみろよ。それとも怖くてできないのか?」
アルはオーガを挑発し始めた。
オーガに知能があるとは言えども、それは三、四歳児並みの知能である。あくまで魔物の中では知能が高いという話なのである。
オーガは挑発にのり、アルを殴ろうとした。
「カウンター‼︎」
アルはオーガの攻撃を流すと懐に入り、胴を斬り裂いた。
オーガの胴から血飛沫が飛び、オーガは上半身と下半身が離れた。
アルの手から剣が霧となって消えた。
オーガは絶命した。
何故アルがオーガを挑発したのか。
それは剣の銘がバックバイター -噛み返す-だったからだ。その名前から察する通り、この剣の攻撃は自分が攻撃された瞬間、その攻撃をまるで噛み返すかのようにカウンターする。
オーガが完全に絶命したのをみて、グランウルフ達も離れていく。
それを確認してアルはレイナを起こしにいこうとした。
しかし、レイナはすでに気が付いていた。そして、アルの方を見て目を丸くしたまま動かなかった。
「レ…レイナ?」
その声にレイナは我に返ったようだ。
「い、今のは…一体?」
「俺の新しい攻撃手段だよ。」
アルは笑いながらレイナにそう答える。
同時にアルの身体の中にいるという蛇影にも話しかける。
(蛇影…ありがとうな。)
『何をいう。我輩に馬鹿みたいに高い家賃を請求したのはどこのどいつじゃ、小童め。』
(これからもちょくちょく請求させてもらうからな)
アルは心の中で笑いながらそう答えると、問いを蛇影になげかけた。
(このバックバイター、いつでも出せるのか?)
『嗚呼、この剣はな、お前が名前を呼べば現れるぞ。しかし、剣に依存しすぎるなよ。』
(なんでだ?)
『その剣は数多の人間の命を奪ってきた。お前も気をつけることだな。では、我輩ひこれで失礼するぞ』
蛇影の声は謎めいた言葉を残し消えていった。
「じゃ、レイナ、帰ろう。」
「何がどうなっているのか分からないけど…。
帰ろっか。」
レイナは笑ってそう答えた。
「あ、あと、今日のことはみんなには内緒な。心配かけるといけないから。」
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