少年と蛇影

Zerueru

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第三章「力というモノ」

「学校へ」

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アル達はそのあと何事もなく街へとたどり着いた。
その頃、街ではグランウルフの遠吠えが聴こえたと騒ぎになっていた。
ただでさえ魔物が出なくて平和ボケした街なのだ。当然、魔物が近くにいるとわかったら騒ぎ出す。
アルはレイナを家に送りとどけた。
「また明日ね。」
レイナがそう言ってきたので、
「うん。また明日。」
アルもそう返しておく。
レイナが家に入るのを見届けたあと、アルも帰路に着いた。
こうして夜は更けていく。

「起きなさい!アル!起きなさい!」
いつもと同じ声で目が覚める。
「今起きますよ…。」
アルは眠たい目をこすり、いつものように声の主に聴こえないように悪態をついて、低い天井に頭をぶつけないように起き上がる。
アルはいつもの服を着て、いつもの朝のルーチンをこなしていく。
そうしていると昨日の出来事が嘘のように感じられる。
アルは朝のやるべきことを終わらせ、学校へ向かう。
街の住民からのアルに対する視線もいつも通りだ。
アルは学校に着くと、自分の教室へ行き窓の外を眺めていた。
「ア~ル君!」
アルを呼ぶ声が耳に届く。
声のした方を向くと、そこにはレイナがいた。
周りの視線がアル達に集まる。
「な、なんだよ…。」
アルはこの状況に焦ってしまった。
何故ならアルにだけでなくレイナにも好奇の眼が集まるからだ。
「おい、落ちこぼれにあのレイナが話しかけてるぞ…。」
「なんだなんだ、何があったんだ?」
いろんなところからヒソヒソ話が聞こえる。
当然だろう。レイナはクラスでもカースト上位の美人さんである。
おまけに家も小金持ち。
(全部聞こえてんぞ‼︎)
アルはそう心の中で呟く。しかし、声には出さない。
「なによ。私が話しかけただけで嫌そうな顔しないでよ~。」
「なんで学校で話しかけてくるんだよ。」
「挨拶しようとしただけだも~ん。」
アルは何も言い返せない。
学校で話す相手ができたことはアルにとってすごく嬉しいことであったからだ。
「挨拶済んだら早く席に戻ってくれ…。」
アルの心の声が漏れたようだ。
「なにそれ~。私と話したくないの?
友達いないんでしょ?」
「ウグッ…!」
レイナはアルの傷を抉ってくる。
「とりあえず、用事済んだし戻るね~。」
最後に無邪気な笑顔を振りまいてから、レイナは席に戻った。

今日の授業は座学が多い。
そのため、脳みそが二学年ほど上のアルにとって、非常に退屈だった。
なので…。
(蛇影。起きてる?)
蛇影と話し合うことにした。
『我輩を話し相手に使うとは…。お前はなかなか肝が据わっとるな…。』
嫌そうな声が返ってくる。
『仕方ない。我輩も暇な故、お主の暇つぶしに付き合ってやろう。』
(なら遠慮なく。)
アルはそう言って質問をぶつける。
(前から気になってたんだけど、蛇影って何者なの?いや、何「者」はおかしいか…。)
『我輩か?う~む。説明は難しい。何故なら我輩の仇名に影とついている通り、我輩は影のようなものだからな。』
(影…?)
『うむ。そうだ。』
そして、その後に続いた言葉はアルを驚かせた。
蛇影の言った「影」とはどういうことなのかとアルが考えていると、蛇影が答えを投げてくれた。
『我輩は、実体をなくすことができるのだ。』
(じ、実態を無くす…?)
アルは驚いた。
魔術でも実体を無くすことはできないからだ。
魔術には「物資変換の原則」というものがある。
この原則では、
・魔術によって質量の増減は可能であるが、零にすることはできない。
・体積の増減はほぼ無限にできるが、零にすることはできない。
などなど…たくさんこの後に続いている。しかし量が多いため紹介はこのくらいにしておく。
『そうだ。』
蛇影は短くそう答えると黙ってしまった。
(それじゃ別の質問。
なんでお前は俺の身体に住んでる?)
蛇影の声の向こうに嘲笑うかのような感情が混じったのをアルは感じた。
『それはお前が知るべき時になったらわかるだろう。今は耐え忍ぶのみだ。』
(どういうことだ?)
『どういうもなにも言葉の通りだ。
そろそろいい時間なんじゃないか?』
アルが時計を見るとちょうど授業が終わる時間になった。
(話に付き合ってくれてサンキューな。)
『いや、我輩もいい暇つぶしになった。』
その言葉を残して蛇影の声は消えた。
次の時間も座学であったが、アルの知らない範囲だったのでアルは真面目に授業に取り組んでいた。
すると、そこにクリスが近づいてきて、(注 魔術学校では授業中の立ち歩きが許されている。机に座っているのはアルのみであった。)
「おい、アル。」
「なんですか?」
アルはクリスに敬語を使うのは嫌だと思っていたが、ここは学校である。アルは無駄な反感を買いたくなかった。
「なんでお前がレイナと一緒にいる…!」
そう言われてアルは戸惑った。
「あの…どういう意味で-」
「その通りの意味だ!なんでレイナがお前なんかと一緒にいるんだ⁈」
(なるほど。これは俗に言う嫉妬ってやつか…。
どうすれば正解なんだ…。)
「わかりません。
彼女は善意で話しかけてくださっているだけだと思います。
クリスさんが嫌なのであれば僕は離れておきますけど…。」
とりあえずアルはそう答えておいた。
アルは何が正解か分からなかった。
「気安く名前で呼ぶな‼︎
それとレイナには近づくな!あいつは俺のものだ。」
最後は声を低くし、アルにしか聞こえない声量でクリスは答えた。
『ほう…。こいつは…なんというか…。』
蛇影の声がいきなり聴こえてアルは驚いた。しかし、顔に出ないように慌てて取り繕った。
『我輩の一番嫌いなタイプの人間だな』
(ちょ!見てるなら助けてよ!)
アルは蛇影に助けを求める。
『嫌だな。』
返ってきたのはその一言だけだった。
(じゃあなんで今出てきたのさ!
頼むよ。助けて?)
蛇影は少し間をあけ答えた。
『う~む…。仕方ないな。今回だけだぞ。』
蛇影と話していると、
「おい、聞いているのか?」
アルはクリスが近くにいることをすっかり忘れていた。
「うん。聞いてますよ。」
アルはそう答えながら、心の中でクリスに仕返しするのが楽しみでならなかった。
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