9 / 13
第三章「力というモノ」
「仕返し」
しおりを挟む
クリスは一通り愚痴を垂らしたあと、アルの席から去っていった。
(蛇影。どうすればいい?)
『今回は我輩があいつのことが気に入らないから手を貸すのだ。勘違いするなよ。我輩はお主の味方になったわけじゃない。』
アルはいきなり蛇影がそう言い出したのでこう言い返した。
(安心しろ。それは理解している。)
そのあと、アルは蛇影に問うた。
(しかし、それなら何故俺と話したりするんだ?)
『なんとなくだ。我輩も暇なんでな…』
そう言ったきり、蛇影は黙ってしまった。
アルの考えでは恐らく蛇影は嘘をついている。
しかし、アルはそれを問いたださず、話を元に戻した。
(それで?どうやって仕返しするんだ?)
『ふむ。我輩にいい考えがある。
次の魔術学の時に吾輩を起こせ。そうしたら教えてやる。』
アルは魔術学で一騒動起こすと考えると少し恐ろしいと感じたが、蛇影がいい考えがあると言うので黙っていた。
(わかった。)
『では我輩は寝かせてもらおう。』
そういうと、蛇影の声は聞こえなくなった。
次の魔術学は昼休みが終わった後、五時間目にある。
またあの先生の授業かと思うとアルは嫌気がさした。
(できればこのまま帰りたい…。
もうどうでもいいから帰らせてくれ…。)
先程蛇影との作戦会議(?)を終わらせたというのに、アルは魔術学と聞いただけで先日の嫌な思い出が蘇って鬱になってしまう。
今は三時間目。次の四時間目は「魔石加工術」だ。
アルはこの授業は好きだった。
先生は優しいし、魔石の反応を見るのは綺麗で楽しかった。
魔石加工術の教室にアルは足を踏み入れる。いつもの通り、教室には魔石の発する金属の匂いが充満していた。
アルは席について授業の始まりを待つ。
と、その時…
「アル君!やっと見つけた~。」
レイナがアルに話しかけてきた。
アルは先程クリスに「レイナに近づくな」と言われていたのでどうしようかと考えていると、案の定、クリスがすごい眼でこちらを睨んでいた。
それを横目で見つつ、アルは引き攣った笑いを浮かべ、レイナに問いかける。
「レイナか。どうしたの?」
「いや、アル君さっきの授業ボ~っとしてたから大丈夫かなって思って。」
どうやらレイナはアルが蛇影と話しているのを見ていたらしい。しかし蛇影の声は身体に住まわせているアルにしか聞こえないので、はたから見るとボ~っとしているようにしか見えないのだろう。
「ああ、そのことなら大丈夫だよ。」
そう答えてアルはレイナの方に顔を向けると、レイナはちゃっかりアルの隣の席に座っていた。
アルの背中にクリスの視線が刺さる。
(ま、まずくないか?これ…。)
そのタイミングで始業の鈴が鳴った。
どうやら、今日も面倒なことになりそうだとアルは一人考えてしまった。
魔石加工術の講師は男の先生である。
腕は丸太のように太く、肩幅は大木のように広い。顔は無精髭が生えていて、いつもしかめっ面をしている。
(この人…怖い…。)
アルの先生への第一印象はこのような印象だった。
しかし、その先生はガタイが大きいのと同じように、心も大きい、良い人格者であった。種族はドワーフ。名前は「ゴルドだ。
アルはゴルド先生のことを知るにつれてこの先生が好きになっていった。
「では、授業を始める。
お前ら、準備はいいか?」
ゴルド先生が話し始めるとクラスは一瞬で静かになる。
「さて、今日も魔石の加工をやるわけだ。
てことで、今日の課題はこれだ‼︎」
ゴルド先生は黒板を叩いた。すると、黒板に文字が浮かぶ。
《自分が思うものを作れ!
最優秀作は賞品「グルーのチョコミント」だ!》
グルーのチョコミントと聞いて、クラスは沸き立った。
グルーのチョコミントとは、北の地でグルー達が栽培している、チョコのように甘く、しかし後味の爽やかなミントだ。
アル達の住む街では子供達に大人気だが、北の地から仕入れているだけあって、軽く手に取れない値段なのだ。
(まあ、今回も僕はビリなんだろうけど…。)
そうアルは沈む。毎回のことであった。
魔石加工も魔力がないと行えない。つまり、落ちこぼれのアルはからっきし魔石加工ができなかった。
「じゃあ、今回使う魔石を配るぞ。
今回は木の魔石だ!」
そう言ってゴルド先生は緑の光を淡く放つ石を教卓に広げた。
ゴルド先生が手を一振りするだけで、生徒一人一人に一つずつ魔石が飛んでいった。
アルの手元に来たその石は持つとゴツゴツしていて少し重かった。
この石の中に魔力が閉じ込められているのを感じ、アルは毎回見ていると言うのに見惚れてしまった。
ハッとなって隣を見やるとレイナも魔石を見てうっとりしている。
レイナの顔は幸せそうだった。
アルはそれをずっと見ていられると思った。それほど、今のレイナは美しかった。
(って、何考えてんだ、俺‼︎レイナは手に届かないんだから諦めろ‼︎)
そう考えて、アルは頭を振り煩悩を追い払うとレイナに声をかけた。
「始めなくていいのか?」
レイナはハッとした後、顔を赤らめて慌てた様子で作業を始めた。
(はあ…。俺に一体何を作れと言うんだ…。)
魔力のないアルに魔石が扱えないのをアルは理解しており、どうしようかと考えているとゴルド先生が近づいてきた。
「おう!アル!どうした?」
クリスが後ろでクスクス笑うのが聞こえた。
「落ちこぼれには何もできないよ。」
そんな声もどこからか聞こえた。
その声をゴルド先生はひと睨みで黙らせた。
「お前、魔力上がったな…?俺にはわかる。色々な魔石を見てきたからな。魔力を感知する力には長けてるんだ。いいから、魔石を触ってごらん…。」
ゴルド先生はアルにしか聞こえないようにそう言うとアルにウインクして去っていった。
何故魔力が上がったのか。
アルには心当たりがあったので、玉砕覚悟でやってみることにした。
(蛇影。どうすればいい?)
『今回は我輩があいつのことが気に入らないから手を貸すのだ。勘違いするなよ。我輩はお主の味方になったわけじゃない。』
アルはいきなり蛇影がそう言い出したのでこう言い返した。
(安心しろ。それは理解している。)
そのあと、アルは蛇影に問うた。
(しかし、それなら何故俺と話したりするんだ?)
『なんとなくだ。我輩も暇なんでな…』
そう言ったきり、蛇影は黙ってしまった。
アルの考えでは恐らく蛇影は嘘をついている。
しかし、アルはそれを問いたださず、話を元に戻した。
(それで?どうやって仕返しするんだ?)
『ふむ。我輩にいい考えがある。
次の魔術学の時に吾輩を起こせ。そうしたら教えてやる。』
アルは魔術学で一騒動起こすと考えると少し恐ろしいと感じたが、蛇影がいい考えがあると言うので黙っていた。
(わかった。)
『では我輩は寝かせてもらおう。』
そういうと、蛇影の声は聞こえなくなった。
次の魔術学は昼休みが終わった後、五時間目にある。
またあの先生の授業かと思うとアルは嫌気がさした。
(できればこのまま帰りたい…。
もうどうでもいいから帰らせてくれ…。)
先程蛇影との作戦会議(?)を終わらせたというのに、アルは魔術学と聞いただけで先日の嫌な思い出が蘇って鬱になってしまう。
今は三時間目。次の四時間目は「魔石加工術」だ。
アルはこの授業は好きだった。
先生は優しいし、魔石の反応を見るのは綺麗で楽しかった。
魔石加工術の教室にアルは足を踏み入れる。いつもの通り、教室には魔石の発する金属の匂いが充満していた。
アルは席について授業の始まりを待つ。
と、その時…
「アル君!やっと見つけた~。」
レイナがアルに話しかけてきた。
アルは先程クリスに「レイナに近づくな」と言われていたのでどうしようかと考えていると、案の定、クリスがすごい眼でこちらを睨んでいた。
それを横目で見つつ、アルは引き攣った笑いを浮かべ、レイナに問いかける。
「レイナか。どうしたの?」
「いや、アル君さっきの授業ボ~っとしてたから大丈夫かなって思って。」
どうやらレイナはアルが蛇影と話しているのを見ていたらしい。しかし蛇影の声は身体に住まわせているアルにしか聞こえないので、はたから見るとボ~っとしているようにしか見えないのだろう。
「ああ、そのことなら大丈夫だよ。」
そう答えてアルはレイナの方に顔を向けると、レイナはちゃっかりアルの隣の席に座っていた。
アルの背中にクリスの視線が刺さる。
(ま、まずくないか?これ…。)
そのタイミングで始業の鈴が鳴った。
どうやら、今日も面倒なことになりそうだとアルは一人考えてしまった。
魔石加工術の講師は男の先生である。
腕は丸太のように太く、肩幅は大木のように広い。顔は無精髭が生えていて、いつもしかめっ面をしている。
(この人…怖い…。)
アルの先生への第一印象はこのような印象だった。
しかし、その先生はガタイが大きいのと同じように、心も大きい、良い人格者であった。種族はドワーフ。名前は「ゴルドだ。
アルはゴルド先生のことを知るにつれてこの先生が好きになっていった。
「では、授業を始める。
お前ら、準備はいいか?」
ゴルド先生が話し始めるとクラスは一瞬で静かになる。
「さて、今日も魔石の加工をやるわけだ。
てことで、今日の課題はこれだ‼︎」
ゴルド先生は黒板を叩いた。すると、黒板に文字が浮かぶ。
《自分が思うものを作れ!
最優秀作は賞品「グルーのチョコミント」だ!》
グルーのチョコミントと聞いて、クラスは沸き立った。
グルーのチョコミントとは、北の地でグルー達が栽培している、チョコのように甘く、しかし後味の爽やかなミントだ。
アル達の住む街では子供達に大人気だが、北の地から仕入れているだけあって、軽く手に取れない値段なのだ。
(まあ、今回も僕はビリなんだろうけど…。)
そうアルは沈む。毎回のことであった。
魔石加工も魔力がないと行えない。つまり、落ちこぼれのアルはからっきし魔石加工ができなかった。
「じゃあ、今回使う魔石を配るぞ。
今回は木の魔石だ!」
そう言ってゴルド先生は緑の光を淡く放つ石を教卓に広げた。
ゴルド先生が手を一振りするだけで、生徒一人一人に一つずつ魔石が飛んでいった。
アルの手元に来たその石は持つとゴツゴツしていて少し重かった。
この石の中に魔力が閉じ込められているのを感じ、アルは毎回見ていると言うのに見惚れてしまった。
ハッとなって隣を見やるとレイナも魔石を見てうっとりしている。
レイナの顔は幸せそうだった。
アルはそれをずっと見ていられると思った。それほど、今のレイナは美しかった。
(って、何考えてんだ、俺‼︎レイナは手に届かないんだから諦めろ‼︎)
そう考えて、アルは頭を振り煩悩を追い払うとレイナに声をかけた。
「始めなくていいのか?」
レイナはハッとした後、顔を赤らめて慌てた様子で作業を始めた。
(はあ…。俺に一体何を作れと言うんだ…。)
魔力のないアルに魔石が扱えないのをアルは理解しており、どうしようかと考えているとゴルド先生が近づいてきた。
「おう!アル!どうした?」
クリスが後ろでクスクス笑うのが聞こえた。
「落ちこぼれには何もできないよ。」
そんな声もどこからか聞こえた。
その声をゴルド先生はひと睨みで黙らせた。
「お前、魔力上がったな…?俺にはわかる。色々な魔石を見てきたからな。魔力を感知する力には長けてるんだ。いいから、魔石を触ってごらん…。」
ゴルド先生はアルにしか聞こえないようにそう言うとアルにウインクして去っていった。
何故魔力が上がったのか。
アルには心当たりがあったので、玉砕覚悟でやってみることにした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる