少年と蛇影

Zerueru

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第三章「力というモノ」

「仕返し」

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クリスは一通り愚痴を垂らしたあと、アルの席から去っていった。
(蛇影。どうすればいい?)
『今回は我輩があいつのことが気に入らないから手を貸すのだ。勘違いするなよ。我輩はお主の味方になったわけじゃない。』
アルはいきなり蛇影がそう言い出したのでこう言い返した。
(安心しろ。それは理解している。)
そのあと、アルは蛇影に問うた。
(しかし、それなら何故俺と話したりするんだ?)
『なんとなくだ。我輩も暇なんでな…』
そう言ったきり、蛇影は黙ってしまった。
アルの考えでは恐らく蛇影は嘘をついている。
しかし、アルはそれを問いたださず、話を元に戻した。
(それで?どうやって仕返しするんだ?)
『ふむ。我輩にいい考えがある。
次の魔術学の時に吾輩を起こせ。そうしたら教えてやる。』
アルは魔術学で一騒動起こすと考えると少し恐ろしいと感じたが、蛇影がいい考えがあると言うので黙っていた。
(わかった。)
『では我輩は寝かせてもらおう。』
そういうと、蛇影の声は聞こえなくなった。
次の魔術学は昼休みが終わった後、五時間目にある。
またあの先生の授業かと思うとアルは嫌気がさした。
(できればこのまま帰りたい…。
もうどうでもいいから帰らせてくれ…。)
先程蛇影との作戦会議(?)を終わらせたというのに、アルは魔術学と聞いただけで先日の嫌な思い出が蘇って鬱になってしまう。
今は三時間目。次の四時間目は「魔石加工術」だ。
アルはこの授業は好きだった。
先生は優しいし、魔石の反応を見るのは綺麗で楽しかった。
魔石加工術の教室にアルは足を踏み入れる。いつもの通り、教室には魔石の発する金属の匂いが充満していた。
アルは席について授業の始まりを待つ。
と、その時…
「アル君!やっと見つけた~。」
レイナがアルに話しかけてきた。
アルは先程クリスに「レイナに近づくな」と言われていたのでどうしようかと考えていると、案の定、クリスがすごい眼でこちらを睨んでいた。
それを横目で見つつ、アルは引き攣った笑いを浮かべ、レイナに問いかける。
「レイナか。どうしたの?」
「いや、アル君さっきの授業ボ~っとしてたから大丈夫かなって思って。」
どうやらレイナはアルが蛇影と話しているのを見ていたらしい。しかし蛇影の声は身体に住まわせているアルにしか聞こえないので、はたから見るとボ~っとしているようにしか見えないのだろう。
「ああ、そのことなら大丈夫だよ。」
そう答えてアルはレイナの方に顔を向けると、レイナはちゃっかりアルの隣の席に座っていた。
アルの背中にクリスの視線が刺さる。
(ま、まずくないか?これ…。)
そのタイミングで始業の鈴が鳴った。
どうやら、今日も面倒なことになりそうだとアルは一人考えてしまった。
魔石加工術の講師は男の先生である。
腕は丸太のように太く、肩幅は大木のように広い。顔は無精髭が生えていて、いつもしかめっ面をしている。
(この人…怖い…。)
アルの先生への第一印象はこのような印象だった。
しかし、その先生はガタイが大きいのと同じように、心も大きい、良い人格者であった。種族はドワーフ。名前は「ゴルドだ。
アルはゴルド先生のことを知るにつれてこの先生が好きになっていった。
「では、授業を始める。
お前ら、準備はいいか?」
ゴルド先生が話し始めるとクラスは一瞬で静かになる。
「さて、今日も魔石の加工をやるわけだ。
てことで、今日の課題はこれだ‼︎」
ゴルド先生は黒板を叩いた。すると、黒板に文字が浮かぶ。
《自分が思うものを作れ!
最優秀作は賞品「グルーのチョコミント」だ!》
グルーのチョコミントと聞いて、クラスは沸き立った。
グルーのチョコミントとは、北の地でグルー達が栽培している、チョコのように甘く、しかし後味の爽やかなミントだ。
アル達の住む街では子供達に大人気だが、北の地から仕入れているだけあって、軽く手に取れない値段なのだ。
(まあ、今回も僕はビリなんだろうけど…。)
そうアルは沈む。毎回のことであった。
魔石加工も魔力がないと行えない。つまり、落ちこぼれのアルはからっきし魔石加工ができなかった。
「じゃあ、今回使う魔石を配るぞ。
今回は木の魔石だ!」
そう言ってゴルド先生は緑の光を淡く放つ石を教卓に広げた。
ゴルド先生が手を一振りするだけで、生徒一人一人に一つずつ魔石が飛んでいった。
アルの手元に来たその石は持つとゴツゴツしていて少し重かった。
この石の中に魔力が閉じ込められているのを感じ、アルは毎回見ていると言うのに見惚れてしまった。
ハッとなって隣を見やるとレイナも魔石を見てうっとりしている。
レイナの顔は幸せそうだった。
アルはそれをずっと見ていられると思った。それほど、今のレイナは美しかった。
(って、何考えてんだ、俺‼︎レイナは手に届かないんだから諦めろ‼︎)
そう考えて、アルは頭を振り煩悩を追い払うとレイナに声をかけた。
「始めなくていいのか?」
レイナはハッとした後、顔を赤らめて慌てた様子で作業を始めた。
(はあ…。俺に一体何を作れと言うんだ…。)
魔力のないアルに魔石が扱えないのをアルは理解しており、どうしようかと考えているとゴルド先生が近づいてきた。
「おう!アル!どうした?」
クリスが後ろでクスクス笑うのが聞こえた。
「落ちこぼれには何もできないよ。」
そんな声もどこからか聞こえた。
その声をゴルド先生はひと睨みで黙らせた。
「お前、魔力上がったな…?俺にはわかる。色々な魔石を見てきたからな。魔力を感知する力には長けてるんだ。いいから、魔石を触ってごらん…。」
ゴルド先生はアルにしか聞こえないようにそう言うとアルにウインクして去っていった。
何故魔力が上がったのか。
アルには心当たりがあったので、玉砕覚悟でやってみることにした。
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