少年と蛇影

Zerueru

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第三章「力というモノ」

「魔石」

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アルの心当たり。それはアルの中の蛇影が覚醒したこと。
蛇影はふと現れてはアルに力を与え、アルを死なないようにしてきた。その力の残滓(と言っても巨大な)がアルにはまだ残っていた。
アルは少しの希望を抱きつつ、魔石に手を翳した。
魔石の加工方法は、思いを込めた魔力を魔石に送ることである。ようはイメージを乗せた魔力を魔石に送ることだと考えて欲しい。
単純だがそれ故に難しい。
イメージや気持ちが不明瞭だと魔石は望んだ形にはならない。
アルは今、作りたいものの形を考えないといけない訳だが、アルには欲しいものが思い浮かばなかった。
その時、アルの脳裏にふとレイナの顔が浮かんだ。
(それなら…レイナの喜びそうなやつ…レイナの喜びそうなやつ…)
しかし、アルはレイナと一緒にいた時間がまだ短いため、何も思い浮かばなかった。だから、アルは本で読んだ、レイナの喜びそうなものを作ることにした。
アルは魔石に手を翳した。そして深呼吸をすると魔力を一気に流し込んだ。
魔石が輝き出す。隣で先生が鋭く息を吐く音が聞こえた。
その光は数秒で収まると、魔石の姿が見えるようになった。
最初はゴツゴツしていた魔石が表面が滑らかになっている。
それはアルが本で見た、美しい幻獣、異流華(イルカ)そのものだった。
異流華は、海に生息し、流線的な身体をしており、それが泳ぐ様は他の生き物が見えなくなるくらい華やかだと言われる。
目の前のものは周りの目を引く不思議な力があった。
「お前…これ、異流華か…?」
ゴルド先生はそう呟くように問いかけてきた。
「はい。多分…。」
アルには自信がなかった。
何故なら、アルは落ちこぼれであったのだ。前まで魔石など、全く扱えなかった。それなのに異流華など到底作れようはずもない。
アルは周りをおそるおそる見回した。周りの視線はこちらに集まっている。
アルは恐ろしくなりゴルド先生を見た。
「お前…………。」
ゴルド先生は長い間沈黙した。
そして、何も言わずに教卓に戻った。
(やっぱり失敗だったんだ…。)
アルは落ち込んでしまった。
(やっぱり落ちこぼれに魔石加工なんて無理なんだ…。)
そうしているうちにゴルド先生が終了の合図を出した。
「はい、やめ!
それじゃこれから作品の採点をするぞ!
全員前に作品を持ってこい!」
アルは下を向きながら先生の前に作品を置きに行った。
他の生徒も作品を置いていて、アルは自分の作品を置くスペースを探すのに苦労した。
「それじゃ、採点結果は次の授業で出すから、楽しみにしとけよ!」
ゴルド先生はそういうと豪快に笑い、
「今日の授業はこれで終わり!解散!」
そう言って教室を出て行った。
次は魔術学の授業だ。
教室を出るために荷物をまとめていると、レイナが話しかけてきた。
「アル君の作品、すごかったね!」
「そう?先生は期待通りじゃなかったみたいだけど、、、。」
「なんでそんなに落ち込むのよ!次の授業行くわよ。」
レイナは励ましてくれたが、アルの気分は一向に晴れなかった。
何故なら、レイナがアルの元を離れると同時にクリスが近づいてくるのが見えたからだ。
クリスはこちらに近づいてくると、
「おい、アル…!」
声量を抑えて、しかし激情を込めてアルに叫んだ。
「お前、レイナに近づくなと言っただろう!」
アルはそう言われてもさして驚かなかった。
何故なら、授業中にアルのことをチラチラ睨んでいだからだ。
話の中心人物であるレイナはその視線には全く気付かなかったようだ。しかし、アルは街からのみんなの視線を浴び、その視線がどんな感情を含んでいるか大体理解できるようになっていった。
そして、それはクリスの視線も例外ではなかった。
それ故、クリスの嫉妬と怒りにまみれた視線にも気づくことができた。
「そんなこと言ったって、あちらから近づいてきたら対処のしようがないでしょう。」
「そんなもの知らん!俺が近づくなと言ったら近づくな!」
「じゃあ、どうしろっていうんですか?」
クリスは少し考え込んだ。
「…………………」
「…………………」
二人とも沈黙する。
(いや、考えないの⁈なんだよ、この沈黙。次の授業の教室そろそろ行かないとヤバくね?)
アルはそう思いつつも黙っていた。
クリスが口を開いた。
「とっ、とにかく!レイナには近づくなよ‼︎」
そう言ってクリスは足音荒くアルのもとを去っていった。
「はぁ~……。次の授業の準備するかな…。」
アルは荷物をまとめ、魔術学の教室に向かう。
教室を目指して歩きながら、アルは蛇影を起こした。
(おい、蛇影。時間だぞ。次は魔術学の授業だ。)
『分かっている。
しかし、何故前の授業で力を使った?
あれではクリスとやらに警戒されるだろう?』
(ウッ…。それは…。)
アルも薄々感じていたのだ。ここで魔力を使えば警戒されると。
(だ、だけど…。あの先生の期待裏切るのが嫌で…。)
力なくアルは反論する。
『はぁ~…。仕方ない。起こったことをグダグダ言うつもりはないからな。
しかし、これからは少し気をつけてくれよ?』
(すまん。分かった。)
話しているうちに教室に着いた。
今回も例に漏れず先生から遠い席に座り、蛇影との話し合いを再開する。
(んで、作戦あるの?)
『もちろん。
今日の授業は我輩の考えだと決闘のはずだ。そこで-』
(いや、予想かよ。そう言うのって確実じゃないとダメなんじゃないの?)
『まあ、最後まで話を聞け。
先程も言ったが、今日の授業はおそらく決闘についてやるはずだ。
恐らく、その時にお前はあぶれてクリスと組むことになるだろう。』
(酷い言い草だな…。)
『事実だから仕方ないだろう?』
(ウグッ!少しはフォローしてくれよ…。)
アルは容赦ない蛇影の言葉につい呻き声を漏らしてしまった。
『話を戻すぞ。
クリスとお前が組んだら、後は簡単。我輩とお前の力でクリスを張り倒すのみ。』
(何その雑だけど行けそうなプラン。
蛇影がいれば簡単だろうけど、クリス倒せるのか?)
『我輩の力を舐めるなよ?
我輩ぎ思うに、あやつの力はお前より低い。』
(俺、蛇影がいないと魔術使えないけど?)
『おっと、口が滑った。
とりあえず、そう言うことだ。その時になったらまた呼べ。
じゃあな。』
アルは蛇影の『口が滑った』の意味を知りたかったが、聞く前に蛇影の声は消えてしまった。
それと同時に始業の鈴がなる。
幸いにも(?)隣にレイナの姿はない。
そうして、アルの苦手な授業が始まった。
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