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第16話 魔族の子
第16-2話 事件の真相は
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私は、玄関から出て見えなくなるまで見送った。
「心配性の過保護の父親じゃな」
「まったく。そのくらい信用しなさい。いや信頼か」
「そうなんですけどねえ。一緒にいると安心なんですが、別に動くとなると不安で不安で」
「親馬鹿じゃな」
「さて、やることはいっぱいあるわよ。まずあなたには魔族の匂いや気配が漏れないように結界を修正してほしいのだけれど。それと町長にしばらく預かるつもりだったが、さる人に違う場所に連れて行ってもらったと話してきて。あと、エルフィは、アとウンに町に非難したいか確認して。どうせ行きたがらないでしょうけど。あとメアは、籠城用に食料の買い出しをお願い。」アンジーがテキパキと指示を出す。
「では、結界の強化の後一緒に買い出しに行きますか。」
「そうですね。」
そうして、外に出て結界の状態を確認に家の周囲を回る。
「おや、結界がめちゃくちゃになっていますね。これは、解除するのにかなり苦労したようです。エリスさん、いいでしょう。そのプライドさらにへし折れるよう結界を強化しましょう。」そうつぶやいていると、馬小屋にいたエルフィがこちらに来た。
「エルフィ、アとウンはどうでしたか。」
「ここから逃げる時に俺らが必要だろうと言って動きませんでした~」
「あの二頭だったらそう言うでしょうねえ。あと、エルフィはモーラと一緒に上空から結界の様子を確認してください。」
「ラジャー」
「モーラお願いします。」
「うむ、家が無くなっては困るからな。」
「はい、お願いします。」
そう言って空に上がった2人ですが連絡がありません。
「おかしいですねえ。上空から連絡してもいいのに」そうして空を見上げているとモーラが降りてくる。エルフィは途中で飛び降りる。
「戻りました~」飛び降りた反動で私に抱きついてそのまま抱っこされている。
「おかえり、上空から連絡くれても良かったのですが。」
「それが~通じなかったので~す」そう言って足を地面につけて離れた。
「ありゃあ」私がエルフィを見ていると、モーラも空から降りてくる。
「やりすぎじゃ、わしらの連絡まで遮断したら本末転倒じゃろう。」
「やりすぎましたか。ちょっと調整しますね」
「急げよ、町までいくのじゃろう。」
もう一度調整をする。まあ、何枚かの結界を解除するだけなんですが。
「これでどうですかねえ」
「うむ、行ってみようかのう」
「ラジャー」そうしてモーラに連れられて再度上空に向かっていくので、私は
『ずーっと話しながら上昇してください。』
『大丈夫そうですねえ。』
『聞こえますね』
『先ほどは全く聞こえませんでしたがこれなら大丈夫ですねえ。』
『ちょっと上空まで行くぞ』
『あ、ああああああああああああ』
『エルフィ大丈夫ですかー』
『ああ、シールドなしじゃったな。すまん。って落ちたか?』
『だ、大丈夫ですう。かろうじてうろこに掴まっています。』
『十分聞こえますよ。』
『おう、じゃあ戻るか』
『ゆっくりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ』
『すまん、しばらくぶりでうれしくてなあ。』
『ひ、ひど・・・い』エルフィがヨレヨレになって戻ってくる。
『とほほ、結界の影響で景色が少しゆがんで見えますよ~』あの状態でちゃんと確認しているあたりはエルフィさすがです。
『直しますか』
『さすがに明日でいいじゃろう。わしが、そんなに頻繁に飛んでいたら何かあったと疑われるからなあ。』
『しかも不動のドラゴンですからねえ』
『あ、一応それが通り名のはずだったんじゃが、変えられたようじゃのう』
『最近、活発に動いていますからねえ』
そうして、メアさんと一緒にアとウンの馬車で町に行きました。エルフィは、お酒の誘惑に勝てそうにないようですし、酔っ払うと何言い出すかわかりませんので家の柱に縛り付けて買い物に行きました。だいぶ暴れましたが、お酒を少しだけ買って帰るという約束でおとなしくなりました。家では原則禁酒なんですけど
干し草が心許なかったのもあり、ちょっと多めに買いました。
あの子達はだんだん贅沢になってきて困りものです。量も3頭分になりましたし。
帰り際に町の代表と話してきました。
「というわけで、あの子はさる人に連れて行ってもらいました。ですからご迷惑はおかけしないと思います。皆さんにそうお伝えください。」
「ほっほっほ、そういうことにしておくわい。皆には聞かれたら答えることにして、わしからはあえて言わんでおく。皆もわざわざ聞かんと思うからの」
「あと、今後何か問題が起きたら私たちはここから離れます。」
「問題がおきたからといってすぐ離れるというのはどうかね。その時に町のみんなから意見を聞いて答えが出てからの方がいいんじゃないか。勝手に出て行かれると、わしが追い出したんじゃ無いかと言われるかもしれんし。わしらはあなた達には助けられていて感謝していることの方が多いから、問題があっても残って欲しいとみんなは思っているんじゃないか。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
「ひとつ忠告しておこうかの。こういうことは、自分ひとりで抱えないことじゃ。町に何か迷惑がかかるとか考えないで、何かあったら相談してくれ。」
「ありがとうございます。」
「」
大量の食料を抱えて家に戻りました。アとウンは、その後、走りに行きました。元気が有り余っていますからねえ。え?リハビリですか。
夕食の用意をメアさんが始めました。なんとその子は手伝うと言って台所に行ってしまいました。
「気を使っているのよ、切ないわね」
「今更ですけど、あの子はどこまで知っていたのですか」
「全部よ。自分が元魔王の子であること。それを両親が黙っていたので知らないふりをしていたこと。教えたのは、元魔王派の者だったこと、とかかしら。」
「あまりにも良い子すぎますねえ。親の教えもあるのでしょうけど、本人の心根の問題ですかねえ。」
「その子を見て両親が共存派に宗旨替えしたという噂もあるくらいなのよ。」
「いい子過ぎて魔族の中では扱いが難しそうですね」
「わたしも聞いたのは又聞きで、それもあくまで噂なので、信憑性はわかりませんけどね。」
翌朝から、私たちはいつもどおりの生活をすることとしました。
十数日は、何事も無くまるでこれが日常かというように過ぎていきました。
その日は、モーラが自分の洞窟を確認に行き、ユーリは、その子と一緒にすごし、我々は薬草の栽培園に品質チェックをしに行くことにしていました。アンジーだけは町に定時連絡に行ったあと薬草の栽培園に合流するそうです。
少し離れた森の中にテスト株をいくつかと、それ以外の栽培用株の畑が作ってあります。
「どうですかねえ。」エルフィが葉をひとつまみして目視したのち、匂いを嗅ぎ、ぱくりと口に入れる。
「大丈夫そうです~今のところ順調ですね~」
「雑草を少し残したのが良かったですかねえ」
「わたしの回復魔法と親和性が高くなっていますから~効能はちょっと落ちますね~」
「親和性が高くなると効能がおちるのですねえ。」
「わたしの回復魔法の補助薬としてはいいのですが~単独使用では、ちょっと落ちるかも知れませんね~でも~前の時より効果は出ているみたいですよ~」
「わかりました。このまま育てましょう。なかなか量産体制が整いませんでしたから、効果としてはこのくらいで良いのでしょう。即効性はわかりますか?」
「わかりませんけど、同じくらいじゃないですか~」
「即効性を売りにしているので向上して欲しいのですけどねえ。」
『雲行きが怪しくなってきたわよ。』アンジーが脳内会話をしてくる。
『どうしましたか』
『ここにあの子がいることがばれている可能性があるわ』
『こんなに早くですか?』
『ええ、なので私たちも家の中で静かにしていないとまずいかも。すぐ戻るわ』
『はい』
今日の収穫分を馬車に詰め込みエルフィとメアさんに段取りを話し、馬車で家まで戻った。
エルフィが馬を厩舎に戻しに行き、私とメアさんが納屋に薬草を運び込んでから家の玄関まで来たところ、パムとレイとエリスさんが倒れている。
『エルフィけが人です、至急治療を』
『どこですか~』
『玄関前です』
『あれ?本当だ、3人いますね~監視していたのにレーダーに引っかかりませんでしたよ。』
『その辺は後で教えます。とりあえず急いで。』
『はいい』
『アンジー今どこですか。』
『馬が・・・馬が~~~~』
『アンジーさんどうしましたかアンジー』
『大丈夫よ。馬がね、野生の馬が私を乗せて、走っているのよ。』
『言っている意味がわかりません。野生の馬が、ですか』
『そうよ、どうして道を知っているのかわからないけど、家に向かってまっしぐらよ。』
『わかりました。この状態で話せますか』
『内容も内容だから。あと、この振動の中話すのはちょっと。』
『到着を待ちます。』
『わしもこれから戻るわ』
『洞窟の方は大丈夫ですか?』
『ああ、なんともなかったわ』
○閑話 馬の会話
今より少し前、アとウンの2頭は今日も朝から勝手に外に出て走り回っている。二頭が一息ついた時に知らない馬が近づいてきた。
「お二人さん、はじめまして。」
「なんや野良の馬かいな、どないしたんや」
「はい、実は飼い主とケンカしまして、餌ももらえず飛び出してきました。」
「なにがあったんや」
「うちの飼い主、乗馬が下手なくせに馬のせいにしよりますねん。干し草もまずいですし、文句ゆうたら今度はどつかれまして、お前みたいな奴いらんゆうて、森に放り出されてしまったんですわ。」
「まあ、そりがあわんちゅやつやな。」
「それで森の中をうろうろしていたらあんさん方をお見かけしまして、なんやら自由そうでええなあと、何日か眺めておりました。」
「何日もか、お前暇やな」
「最初に馬小屋までこっそりついていったんですが、さすがにドラゴンの匂いやらで近づけませんでした。どやったらドラゴンなんかと一緒に暮らせるのか気になって声かけさしてもらいましたんですわ。」
「ああ、そうやな最初はわしもビビっておったからな。わしよりこの方が先輩やわしの前からドラゴンと一緒に暮らしておるから聞かせてもらえ」
「よろしゅうお願いします。」
「なんじゃ、うちに来たいんか。」
「まあ、それもあります。」
「うちは過酷やぞ。正直しんどいことも多い。」
「はあ、そうは見えまへんけど。」
「今は静かな時期やねん。これまでは、いろいろあってな。うちの連中が魔獣と渡り合うところにだまーって馬車引いたまま我慢して動かずいたりするんやで。」
「そうそう、魔族の大群をうちの人達が倒すのを横で待っていたり」
「そうや、かなりしんどいんや。それでもうちにきたいか」
「おもしろそうですなあ。」
「おもしろい言うんか。死の瀬戸際におるんやぞ。逃げるわけにもいかんのや。戦っているそばで、ただ待っているだけなんや。自分たちに魔獣が襲ってきてもな。」
「どうして一緒におるんですか。」
「拾ってもらった恩やな。わしはな、とんでもない性悪でな、この町にもらわれてきた時には、手がつけられんかったんや。でもな、あのドラゴンさんのご主人にもらわれてな、最初はドラゴンの匂いにビビったものよ。でもな、その主人の人は優しい人でな。わしに馬具をつける時にも痛くないように気を使ってくれて、調子を聞いてちゃんと調整してくれるのや。それも何回も何回も調整してくれて、すごいええ人やで、今でもブラッシングしながらやさしゅう声かけてくれてな、今では、一緒におるエルフの人をつてにわしらの要求をちゃんと聞いてくれるんや。」
「へえ、わしらの言葉わかるんですか」
「そうや、ほれお前も話してやれ」
「わしは、その次の街におってな。わしもいわゆるワルやったんや。捕まえられて売られた先は金持ちやったからまあそこそこの暮らしやった、でもな、わしの背中には誰も乗せないみたいな変なプライドがあってなあ。手余しされていたのよ。そんな時にドラゴンを連れた今のご主人が馬を見に来てなあ。さすがにブルっておったら。わしが余されていると聞いて引き取るいいよったんや。走りが綺麗やからとまで言ってくれてな。最初はビビっておったけど、この先輩もおるし、同じように馬具を痛くないように毎回調整してくれてな、最初は頑張りすぎたりしたけど、先輩のおかげもあって何とかなっとる。しかも、干し草も良いのを要求したらな、ちゃんと用意してくれるねん。わしらも家族だからとな。これにはわしも泣いたわ。」
「そうですか。でもこうやって自由にさせてもらってますなあ。」
「そうや、でもな、わしらわかるねん。この人達は、何かあったら借り出されるんや。せやからいつでも出られるようにわしらも訓練しておかにゃならんねん。遊んでるわけやない。」
「そうやで、それかて厩舎に鍵つけないでくれ言うたら鍵をつけないんやで、わしらいつでも逃げられるんや。でもな、その心意気もすごいやろ。その心意気に打たれてなあ、だから何かあった時には、全力出せるよう自主練しておるんや。まあ、半分気晴らしも入っているけどな。」
「最近、獣人も入ったから、わしらの立場も危ういねん。」
「それは、いいところにいらっしゃいますねえ。」
「推薦してやってもええで。」
「ほんまですか」
「最近、家族が増え出してなあ。馬車が手狭やねん。馬車を大きくするか、馬車を増やすかすることになる。せやからもう一頭か二頭欲しがるはずや。ただな、わしらかて、誰でもいいわけやない。当然わしらについてこられることが条件になる。わしらと勝負してそこそこやったら推薦してもええで。」
「なるほど、前に見た時も朝からずーっとお二人で走っておられましたねえ」
「たまにやっておかんと調子が狂うねん。やる気があったら一度走ってみよか」
「お願いします。」
「その前に飯やな、うちに来い」
「いいんでっか?」
「うちのご主人様はそういうことにはこだわらん。なんせ、全然知らん獣人達とも飯食うようなお人や大丈夫や」
「そうなんでっか」
「あんときも驚いたなあ、ちょっと前まで戦おうとしていたんやで、それなのに和気藹々と飯食いだしたからなあ。」
「はあ、どんな人でっか」
「不思議な人としか言い様がないな。そういえば、女たらしならぬ人たらしとか言われておったな。」
「まあ、たらしとるんは、人や無くて他種族ばかりやがなあ」
「ちげえねえ」
「最近干し草の減りがはやいですねえ。」
「はい、実は、もう一頭食べに来ている馬がいます。」
「そうですか、アとウンは、それを知っているのですか?」
「というより、分け与えているようです。」
「友達できましたか。」
「なにか、テストしているみたいですよ」
「テストですか」
「気になって朝の散歩の様子を見てきたのですが、3頭で全力疾走でかなり長時間走っていました。」
「なるほど、確かに家族全員で移動するとなると今の馬車だけではちょっと手狭ですねえ。」
「はい、もう一つ馬車を増やすか、一回り大きいのを用意した方が良いかと思います。」
「アとウンも考えているんですかねえ」
「たぶん、ついて来られるようならご主人様の前に連れてくるような気がします。」
「その日は近そうですねえ。」
閑話終わり
モーラが洞窟から戻り、ほどなく馬に乗ったアンジーが到着した。馬から下りて、近づいてくると、その馬が後ろについてきた。
「なーんか町に行く時につけられているような視線を感じていたのよ」
「はあ」
「町から出て家に向かって走り出したら、併走する馬が現れて、乗れと合図するのよ。得体が知れないからそのまま走っていたら服の首をくわえられて、あきらめて乗ったわ。あー馬酔いかも」
「それは大変でしたねえ。」
「で、この馬なに」
「たぶんアとウンの友達の野良馬です。」メアさんがさらっと言った。
「こんなに毛並みが良いのに野良なの」馬が顔を近づけたので、思わず顎をなでているアンジー。
「そうらしいです。」
「どこからか逃げ出してきたんじゃないの。もめ事は嫌なんですけど」
「まあまあ、今はとりあえず、厩舎に入ってもらいましょう。エルフィ」
「はいはい、おいで~」素直に従い厩舎に入っていく。まるでいつもそうしているように。
「メアさん、この馬が例の馬ですか。」メアにそれとなく尋ねる。
「たぶん、私が見たのも灰色でしたから」
「アとウンが漆黒と純白、そして灰色ですか。次は栗毛でしょうねえ。」
「次がありますか?ということは家族も増えますか?」メアさんが微笑みながら言った。
「それは、まあ、成り行きですね」
そして家に入り、エルフィが戻るのを待って話を始める。ユーリとその子には客室に入ってもらった。
「アンジー、遠隔では話せない内容なのでしょう。あの子に聞かせられない内容ですか?」
「先にそっちの話を聞いてもらったほうが良いと思う。その後にするわ」
「わかりました。ユーリには付き添ってもらっていますので、全員というわけにはいきませんが」
「お茶が入りました。」
「そっちは傷だらけね。それにしてもいつ戻ってきたの」
「さきほど、玄関に到着しました。」
「座標精度に不安があったので、外にしておきましたからね。でも、ほとんど正確な位置に着いていますね。」
「空間転移の魔法でしょう。」
「はい、その通りです。本来使わないことにしていた魔法です。」
「まったく、あなたは。でも助かったから文句も言えないわね。」
「パムには最終手段と言ってありましたから。」
「はい、捕まる程度なら使用するつもりもなかったのですが、追い詰められ問答無用で消されるところでしたから。」
「魔法を見られましたか。」
「一応、崖から落ちて落下地点ギリギリだったので、見られてはいないと思います。」
「あそこに死体がないことは、不思議に思うでしょうね。」
「ごまかせそうですね。さっそくですが、ここ数日間の話を聞かせてください。」
「エリス様、」
「ああ、あなたが話して。ほとんどあなたが情報収集したものじゃない。見聞きした人が話したほうが良いでしょ。私は、その情報が正しいかどうか検証しただけだし。」
「わかりました。ぬし様。今回の事件は、最初から仕組まれていたものです。」
「背景からお願いします。」
「はい、まず、魔族の領主の元、魔族と獣人、人族の里があったのは事実です。そして、そこにあの子のご両親ももちろんいました。しかし、ここ最近里の者達が不審な動きを始めたのです。」
「頻繁に出入りをするようになり、何かと外と接触しているようだったのです。」
「その原因は、領主が交代して、その里への待遇を変えたようです。もとい、冷遇するようになったようです。」
「里の者としては、これまでと同じ待遇を求めているだけなのに認められないことから不信感が募り、里を放棄して外に出るつもりになったようです。」
「なるほど、今回里に出ることを決意したわけですね。」
「はい、そして、里の住人の中に間者がいることもわかったようです。これは推測ですが、」
「死んでいたのは間者だったのですね。」
「はい、あくまでも、そう推測できるだけですが、たぶん。」
「どうしてそう思えるのですか、」
「はい、まず手引きした者が獣人でその者も殺されています。あと、又聞きになりますが、殺された者達はみんな眠っていたのです。」
「眠っている者を殺したということですか。」
「そうみたいです。」
「間者は、どの種族の者だったんですか。」
「魔族、獣人、人族すべてです。」
「おや、まあ」
「魔族側としては、その領地にいくつか里があるのですが、その里は、ほとんど元魔王のために特例的に作った里でした。それでもそれなりに農作物や木工品を製作して人族などに売っていたようで、収益もそれなりにあり、暮らすには問題なかったようです。しかし、領主の交代により法外な年貢を求められたようです」
「なるほど、」
「これでは生活ができなくなると思い、里を抜け出すことにしたようです。」
「間者を殺す必要はないのではないですか。それが外からでわかりますか」
「それですが、実は、実際の里を見せてもらったのです。」
「魔族の領地に入ったのですか」
「ええ、その時に獣人と人族の者が立ち会いでその領地に入っていました。もちろん、里の場所までは目隠しをされていましたが。その調査団のなかに滑り込みました。」
「なるほど。領主との盟約に基づく立ち入りですかねえ」
「かなりの規模の里でした。2~3百人は、いるという印象でした。」
「幸いなことに死体は片付けられておらず、ほとんどすべてがテーブルで眠った状態で殺されていました。」
「やはり人族に殺されていたのですか。」
「そう説明されましたが、傷がどうにも人間の力とは思えない傷でした。」
「ほう」
「じゃあ誰がやったのか」
「たぶん魔族ではないかと。」
「獣人の線はないのですか。」
「かなり上の方から振り下ろしています。少なくとも人間ではありません。魔族は獣人が獣人は魔族が人族は、どちらかもしくは人族が殺したのではないでしょうか。」
「獣人や魔族は、人が殺してはいないと」
「あの傷の具合を見ればですが、たぶん。」
「さて、時系列に沿って話をしましょう。まず、少し前に元魔王は、年貢の話について、これまでの約束が違うことを領主に抗議しています。しかし、新しい領主に却下されました。そして、今回、急に人族が領地の中の里に入ってきます。」
「魔族の許可を取らないと中には入れないんですよね、それはどうなったのですか。」
「領主の許可は必要ですが、結界の解除は魔族か獣人がやっていたらしく、里に入るのはわりと簡単にできるそうです。ただし、その時作業をしたのは、誰か不明です。領主からの許可を受けた魔族と獣人は、現在行方不明です。誰が入ったのかわかりません。」
「つまり、人族が侵入したかどうかは不明なのですか。」
「それぞれの種族が何人かずつ入ったことはわかっていますが、誰かまでは特定できていません。そもそも確認しませんので」
「穴だらけの管理ですねえ。」
「まあ、最初から元領主と元魔王との信頼関係でできた里のようですからセキュリティもそんなものだったらしいのです。」
「それでは、元魔王が殺されることにはならないですよねえ」
「里の者は新領主が自分たちへの対応がひどくなったため、生活基盤を変えようと思ったようです。同時に里に間者がいることを知ってそれを切り捨てて新天地に新しい里を作り、そこに向かうつもりでいたみたいです。でも、里を作ったときには、必要だった元魔王の家族がネックになってきたようです。ならば、間者と元魔王の家族には死んでもらって後腐れを残さないようにしようとなったのではないでしょうか」
「そんな理由で殺しますか。それならその人達に黙ってそこを去ればいいだけではないですか。」
「そうですね。ですので、違う仮説が必要になります。はい、元魔王一家が死亡したという事実をでっちあげ、新天地で元魔王一家も一緒に生活してめでたし、めでたしと言うシナリオです。」
「それならしっくりきますね。でも死体が必要になりませんか。」
「はい、ひどい惨殺死体か、焼死体があれば、説得力も増すでしょう。たぶん、その方向で話は進んでいた。でも、何らかのトラブルがあって死体も残せずそこを去らなければならなくなったのではないかと。」
「なるほど。トラブルにより当初の計画通りに行かなくなったということですか。」
「そう考えるのが自然かと思います。」
「それは、間者が殺されていたこととは関係ありますか。」
「あくまで推測ですが、発案者は、間者を殺すつもりだったが、元魔王にはその事は、話していなかったのではないでしょうか。元魔王様には、家族で死んだふりをしてもらい、里は解散、それぞれが新天地まで逃げて行くということにしていたけれど、間者を殺すという、事実を知った元魔王が軌道修正をさせようとして何かが起きたのではないでしょうか。例えば、言い争って元魔王夫婦を殺したとか。」
「死体はなかったのに?」
「ええ、混乱させるには死体が無いのが一番ですから。たぶんどの種族も血眼になって探すでしょう。今のこの状況がまさにそれです。」
「行方不明で終わらせられないと。」
「はい、事実がはっきりするまでは」
「あの子のことはどう説明しますか。」
「たぶん、元魔王は、あの子にぬし様が渡してくれた物と同様のものを持たせていたのではないのでしょうか。もしくは、あの子には潜在的にその能力があり、何かの術式を組んでおいて、あの時に発動させたのかもしれません。あの時、町に入り露天で果物を手に取るなど、食事のマナーまでしつけされているその子は、自分の意志ではしないでしょう。たぶん催眠術に近い何かで操ったとしか思えません」
「後催眠ですかねえ。」
「元魔王様ですから、それなりの知見、見識があるとすれば様々な事を想定していると思われます。もっと何かありそうですが、凡人の私にはこれくらいしか思いつきません。」
「アンジーどうですか。」
「私が聞いた話より詳細に聞けているわね。補足する点は、何点かあるわ。その騒動は、初めから仕組まれてものであるけど、里の人達は自分で仕組んでいたつもりで、誰かわからないけど、別な人達にうまいこと乗せられたということかしらね。」
「そうなのですか。」
「最初動き出したのは、もちろん里の人達となるのでしょうけど、領主は共存派から絶対主義派に交代となったのが発端なのね」
「その時からこの騒動は仕組まれていたと」
「時限装置みたいな気長なものだったらしいけど、意外に早く動き出したのは、間者の存在が明らかになったせいらしいのよ。でも、これもリークされたものだとしたら、黒幕はけっこうなやり手ね、今でも手のひらの上で踊らされているとは里の者達は信じないでしょうね。」
「なるほど。」
「それと元魔王がその里にいることを現魔王であるルシフェル様はこの事件まで知らなかったそうよ。共存派だという事も子どもがいることもね。」
「現魔王は、今回の件は寝耳に水であると。」
「私が聞いたところそう話してくれたわ、それで、前回は連絡がつかなかったらしいのよ。」
「どちらかの派閥が今回の件を仕組んだと。」
「違うわ、たぶん元魔王派ね。とりあえず、今回の里の者の殺害を計画したのは元魔王派、それを逆手にとって里を離れることにしたのは里の者の判断。間者を殺害したのはどちらか不明、元魔王夫婦は、死んだふりするつもりが失敗して、失踪して行方不明。里の者もほとんど全員行方不明ということね」
「里の中に人族を手引きした者はどっちなんですか。」
「たぶん里の者ね。入ってきた人間は、荷物などを運び出す役目だったらしいから。でも何もできず帰ったと思うの、あと、里の間者は獣人か魔族が殺したと思うわ。」
「人間が運び屋ですか」
「たぶん新天地が人間の領地を通らざるを得ないんでしょ。」
「当日の時系列がよくわかりませんね」
「誰かが手引きして、里に人族が来る。しかし、荷物が運べず混乱する。間者が寝ている、しかたがないので人族が里を出る。間者殺される、元魔王夫婦死ぬ真似をする。何かトラブルで息子を転送した後逃げる。」
「人族が入ってきたときに元魔王夫婦は、死んでいないとまずくないですか。」
「それにそもそもそんなに荷物を搬出したら目立ちますよね。やはり人族は殺しに来たのではありませんか。全員殺すつもりがほとんどいなくなっていた。あーでも、間者の家族が殺されていないんですよね。」
「そろそろ他の証言も聞きましょうか。聞こえていましたでしょう。」
「はい」
「聞かせていたの?」
「気付いたのはさっきですけどねえ、両親が生きているという内容だったのでそのまま聞いてもらっていました。」
「両親は生きていますか。」
「たぶん。あの床の血では魔族は死にません。少なくともあの館の中では死んではいません。」パムはそう告げた。
「そうですか。よかった」
「もっとうれしそうにしなさいよ」
「はい」
「死んでいなくて残念だった?」
「そんなことはありません。うれしいですよ」
「というか知っていたのですか。」
「申し訳ありません。そこまで暗示をかけられていたようです。両親は死んでいません。」
「なるほど、催眠なり暗示ですねえ。どこまで真相を知っているのですか。」
「私の話は、父母から聞いたものです。父母が思い込まされていなければですが。」
「話してみませんか」
「はい、私の父母の話では、里を逃げ出す計画は、そもそもだれかがその里の者を元魔王家族ごと全員殺すつもりだったことが発端だそうです。」
「やはり、そうなんですか。」
「はい、人族を連れ込み、事前に眠らせていた里の者を全員殺す。ただし、間者はその事を事前に知っているので睡眠薬を飲まずに逃れるというシナリオだったらしいのです。」
「なるほど。」
「それが逆になったのは、殺される側である里の者が事前にその情報を手に入れたからです。そして、それを逆手にとって以前から考えていた里の脱出を計画し始めたのです。」
「逆ですか」
「はい、行く先もかなり強引ですが決めて、逃げ方もかなり強硬なものでしたが決まったそうです。でも、問題は私たち家族と間者の家族でした。」
「間者の世帯は9世帯いずれも夫婦もしくは子どものいる世帯でした。家族は間者であることを知らされないでここに来ています。その者達まで巻き込むのかと。」
「間者の子ども達は私とも懇意にしていました。ええ、かけがえのない友達でした。こんな私と一緒に遊んでくれてありがたかったのです。元魔王の子という事で敬遠する子達もいるなかで、親の言葉なのかも知れませんが分け隔て無く遊んでくれました。たぶん元魔王の子だからといって仲間はずれにしてはいけないとまで言われていたのでしょう。逆に親しくさせていただきました。」
「ですから、今回の件どうするのかが問題となりました。間者の家族に事情を話して間者に知られては元の木阿弥ですし、結局間者の家族には話さず黙って逃げることになりました。」
「当日の朝、父から逃げることを告げられ、用意をするようにと。友達はあきらめろと」
「私は、怒り父母を殺そうとしました。どうしたらいいかわからず、食卓にあったナイフで父の腹をさしてしまいました。ナイフを抜くと血が噴き出し床一面に血が飛び散りました。」
「しかし、そんなことでは、魔族は死なないのです。私が刺したのに生きているんですよ。ナイフをそっと抜き取り、手を拭いてくれました。」
「これからは誰であろうと殺してはいけない、誓いなさい。たとえ自分が殺されることになっても魔族も人族もすべて、誰も殺さないことを誓いなさいと言われました。」
「この後、死体が3体運ばれ、この館は燃え落ち、私たちは死んだことになる。お前にはわかるだろう、元魔王一族の存在がどれだけ世間に影響を与えるのか。魔王として生きてきた私としてはどうにもならないことではある。だが、越えなければならないことなのだと。なので、すまないがお前も死んだことにしてこの地を離れることになる。そう言って自分の部屋で待機するように言われました。しかし、人が入ってくる気配がして、母が私の部屋に来てこれをわたし、スイッチを入れたのです。」
「あとは、皆さんの知ってのとおり、町に現れて、意識が無いのに果物を盗みました。その後目が覚めたのです。さらにさきほど、パム様が話の順を追って聞いていると記憶が戻ってきました」
「じゃあ、記憶が戻った今でも両親のことは知らないのですね。」
「はい、私も刺してしまいましたし、両親は死んだことにするとは言っていましたので。ただ、死体がなかったと聞いてどうなったのか不安でした。」
「たぶん記憶のすり替えですねえ、自分でやったのか他からの影響なのか。」
「床にあった血の量は多くないにしても死体も身代わりの死体もありませんでした。」
「焼かれる前に何者かが死体を運び出したという事はありますか?」
「そもそも、焼けた後は、ありませんでした。」
「思い込まされているとか?」
「夫婦で逃げ出したというところですかねえ。」
「子どもを連れずにですか?」
「そうだよなあ。」
「ニセの死体が発見されるところがそうならなかったのでしょうか」
「いや、ニセの死体が届かなかったとかはないか?」
「どちらにしろ、この子がなあ双方から狙われるのじゃろう」
「死体が届き、火をつけ、家族3人でどこかに転移するつもりが、死体が届かなかったのか、だれかの邪魔が入ったのか、何かトラブルが発生した。でも、家族三人でその装置を使って転移するつもりだったが、できなくなったため、子どもだけ暗示を掛けて転移させた。というところですか。」
「そうですね、まず元魔王夫婦を探しましょう。といってもどこから探せば良いのか。なかなか無理そうですねえ」
「一応、魔法使いのネットワークで各街に手配をかけたのだけれど、里の者のうち特徴的な獣人や魔族は、何カ所かで見かけられているようなのよ。でもね、バラバラな方向に逃げているのよ。そんなわけで新しい里の特定ができていないわ。たぶん何ヶ月かいろいろなところで潜伏してからその場所へ集合するつもりじゃないのかしら。」
「急にできたプランなのに緻密ですね。」
「たぶんそうしないと場所が特定されかねないのでしょう。」
「一度潜伏されるとなあ、見つけるのがやっかいじゃなあ。」
「用意したはずの死体がないし、家も焼けていない。何か焼くための準備はありましたか?」「いえ、ありませんでした。」
「まあ、魔族なら魔法で燃やせばすぐでしょう?」
「このタイミングで、自殺で焼死は少し無理がありますねえ。苦しみそうですし」
「確かに」
「ところで、殺された間者の家族はどうなっていましたか。」
「とりあえず里に残っています。」
続く
「心配性の過保護の父親じゃな」
「まったく。そのくらい信用しなさい。いや信頼か」
「そうなんですけどねえ。一緒にいると安心なんですが、別に動くとなると不安で不安で」
「親馬鹿じゃな」
「さて、やることはいっぱいあるわよ。まずあなたには魔族の匂いや気配が漏れないように結界を修正してほしいのだけれど。それと町長にしばらく預かるつもりだったが、さる人に違う場所に連れて行ってもらったと話してきて。あと、エルフィは、アとウンに町に非難したいか確認して。どうせ行きたがらないでしょうけど。あとメアは、籠城用に食料の買い出しをお願い。」アンジーがテキパキと指示を出す。
「では、結界の強化の後一緒に買い出しに行きますか。」
「そうですね。」
そうして、外に出て結界の状態を確認に家の周囲を回る。
「おや、結界がめちゃくちゃになっていますね。これは、解除するのにかなり苦労したようです。エリスさん、いいでしょう。そのプライドさらにへし折れるよう結界を強化しましょう。」そうつぶやいていると、馬小屋にいたエルフィがこちらに来た。
「エルフィ、アとウンはどうでしたか。」
「ここから逃げる時に俺らが必要だろうと言って動きませんでした~」
「あの二頭だったらそう言うでしょうねえ。あと、エルフィはモーラと一緒に上空から結界の様子を確認してください。」
「ラジャー」
「モーラお願いします。」
「うむ、家が無くなっては困るからな。」
「はい、お願いします。」
そう言って空に上がった2人ですが連絡がありません。
「おかしいですねえ。上空から連絡してもいいのに」そうして空を見上げているとモーラが降りてくる。エルフィは途中で飛び降りる。
「戻りました~」飛び降りた反動で私に抱きついてそのまま抱っこされている。
「おかえり、上空から連絡くれても良かったのですが。」
「それが~通じなかったので~す」そう言って足を地面につけて離れた。
「ありゃあ」私がエルフィを見ていると、モーラも空から降りてくる。
「やりすぎじゃ、わしらの連絡まで遮断したら本末転倒じゃろう。」
「やりすぎましたか。ちょっと調整しますね」
「急げよ、町までいくのじゃろう。」
もう一度調整をする。まあ、何枚かの結界を解除するだけなんですが。
「これでどうですかねえ」
「うむ、行ってみようかのう」
「ラジャー」そうしてモーラに連れられて再度上空に向かっていくので、私は
『ずーっと話しながら上昇してください。』
『大丈夫そうですねえ。』
『聞こえますね』
『先ほどは全く聞こえませんでしたがこれなら大丈夫ですねえ。』
『ちょっと上空まで行くぞ』
『あ、ああああああああああああ』
『エルフィ大丈夫ですかー』
『ああ、シールドなしじゃったな。すまん。って落ちたか?』
『だ、大丈夫ですう。かろうじてうろこに掴まっています。』
『十分聞こえますよ。』
『おう、じゃあ戻るか』
『ゆっくりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ』
『すまん、しばらくぶりでうれしくてなあ。』
『ひ、ひど・・・い』エルフィがヨレヨレになって戻ってくる。
『とほほ、結界の影響で景色が少しゆがんで見えますよ~』あの状態でちゃんと確認しているあたりはエルフィさすがです。
『直しますか』
『さすがに明日でいいじゃろう。わしが、そんなに頻繁に飛んでいたら何かあったと疑われるからなあ。』
『しかも不動のドラゴンですからねえ』
『あ、一応それが通り名のはずだったんじゃが、変えられたようじゃのう』
『最近、活発に動いていますからねえ』
そうして、メアさんと一緒にアとウンの馬車で町に行きました。エルフィは、お酒の誘惑に勝てそうにないようですし、酔っ払うと何言い出すかわかりませんので家の柱に縛り付けて買い物に行きました。だいぶ暴れましたが、お酒を少しだけ買って帰るという約束でおとなしくなりました。家では原則禁酒なんですけど
干し草が心許なかったのもあり、ちょっと多めに買いました。
あの子達はだんだん贅沢になってきて困りものです。量も3頭分になりましたし。
帰り際に町の代表と話してきました。
「というわけで、あの子はさる人に連れて行ってもらいました。ですからご迷惑はおかけしないと思います。皆さんにそうお伝えください。」
「ほっほっほ、そういうことにしておくわい。皆には聞かれたら答えることにして、わしからはあえて言わんでおく。皆もわざわざ聞かんと思うからの」
「あと、今後何か問題が起きたら私たちはここから離れます。」
「問題がおきたからといってすぐ離れるというのはどうかね。その時に町のみんなから意見を聞いて答えが出てからの方がいいんじゃないか。勝手に出て行かれると、わしが追い出したんじゃ無いかと言われるかもしれんし。わしらはあなた達には助けられていて感謝していることの方が多いから、問題があっても残って欲しいとみんなは思っているんじゃないか。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
「ひとつ忠告しておこうかの。こういうことは、自分ひとりで抱えないことじゃ。町に何か迷惑がかかるとか考えないで、何かあったら相談してくれ。」
「ありがとうございます。」
「」
大量の食料を抱えて家に戻りました。アとウンは、その後、走りに行きました。元気が有り余っていますからねえ。え?リハビリですか。
夕食の用意をメアさんが始めました。なんとその子は手伝うと言って台所に行ってしまいました。
「気を使っているのよ、切ないわね」
「今更ですけど、あの子はどこまで知っていたのですか」
「全部よ。自分が元魔王の子であること。それを両親が黙っていたので知らないふりをしていたこと。教えたのは、元魔王派の者だったこと、とかかしら。」
「あまりにも良い子すぎますねえ。親の教えもあるのでしょうけど、本人の心根の問題ですかねえ。」
「その子を見て両親が共存派に宗旨替えしたという噂もあるくらいなのよ。」
「いい子過ぎて魔族の中では扱いが難しそうですね」
「わたしも聞いたのは又聞きで、それもあくまで噂なので、信憑性はわかりませんけどね。」
翌朝から、私たちはいつもどおりの生活をすることとしました。
十数日は、何事も無くまるでこれが日常かというように過ぎていきました。
その日は、モーラが自分の洞窟を確認に行き、ユーリは、その子と一緒にすごし、我々は薬草の栽培園に品質チェックをしに行くことにしていました。アンジーだけは町に定時連絡に行ったあと薬草の栽培園に合流するそうです。
少し離れた森の中にテスト株をいくつかと、それ以外の栽培用株の畑が作ってあります。
「どうですかねえ。」エルフィが葉をひとつまみして目視したのち、匂いを嗅ぎ、ぱくりと口に入れる。
「大丈夫そうです~今のところ順調ですね~」
「雑草を少し残したのが良かったですかねえ」
「わたしの回復魔法と親和性が高くなっていますから~効能はちょっと落ちますね~」
「親和性が高くなると効能がおちるのですねえ。」
「わたしの回復魔法の補助薬としてはいいのですが~単独使用では、ちょっと落ちるかも知れませんね~でも~前の時より効果は出ているみたいですよ~」
「わかりました。このまま育てましょう。なかなか量産体制が整いませんでしたから、効果としてはこのくらいで良いのでしょう。即効性はわかりますか?」
「わかりませんけど、同じくらいじゃないですか~」
「即効性を売りにしているので向上して欲しいのですけどねえ。」
『雲行きが怪しくなってきたわよ。』アンジーが脳内会話をしてくる。
『どうしましたか』
『ここにあの子がいることがばれている可能性があるわ』
『こんなに早くですか?』
『ええ、なので私たちも家の中で静かにしていないとまずいかも。すぐ戻るわ』
『はい』
今日の収穫分を馬車に詰め込みエルフィとメアさんに段取りを話し、馬車で家まで戻った。
エルフィが馬を厩舎に戻しに行き、私とメアさんが納屋に薬草を運び込んでから家の玄関まで来たところ、パムとレイとエリスさんが倒れている。
『エルフィけが人です、至急治療を』
『どこですか~』
『玄関前です』
『あれ?本当だ、3人いますね~監視していたのにレーダーに引っかかりませんでしたよ。』
『その辺は後で教えます。とりあえず急いで。』
『はいい』
『アンジー今どこですか。』
『馬が・・・馬が~~~~』
『アンジーさんどうしましたかアンジー』
『大丈夫よ。馬がね、野生の馬が私を乗せて、走っているのよ。』
『言っている意味がわかりません。野生の馬が、ですか』
『そうよ、どうして道を知っているのかわからないけど、家に向かってまっしぐらよ。』
『わかりました。この状態で話せますか』
『内容も内容だから。あと、この振動の中話すのはちょっと。』
『到着を待ちます。』
『わしもこれから戻るわ』
『洞窟の方は大丈夫ですか?』
『ああ、なんともなかったわ』
○閑話 馬の会話
今より少し前、アとウンの2頭は今日も朝から勝手に外に出て走り回っている。二頭が一息ついた時に知らない馬が近づいてきた。
「お二人さん、はじめまして。」
「なんや野良の馬かいな、どないしたんや」
「はい、実は飼い主とケンカしまして、餌ももらえず飛び出してきました。」
「なにがあったんや」
「うちの飼い主、乗馬が下手なくせに馬のせいにしよりますねん。干し草もまずいですし、文句ゆうたら今度はどつかれまして、お前みたいな奴いらんゆうて、森に放り出されてしまったんですわ。」
「まあ、そりがあわんちゅやつやな。」
「それで森の中をうろうろしていたらあんさん方をお見かけしまして、なんやら自由そうでええなあと、何日か眺めておりました。」
「何日もか、お前暇やな」
「最初に馬小屋までこっそりついていったんですが、さすがにドラゴンの匂いやらで近づけませんでした。どやったらドラゴンなんかと一緒に暮らせるのか気になって声かけさしてもらいましたんですわ。」
「ああ、そうやな最初はわしもビビっておったからな。わしよりこの方が先輩やわしの前からドラゴンと一緒に暮らしておるから聞かせてもらえ」
「よろしゅうお願いします。」
「なんじゃ、うちに来たいんか。」
「まあ、それもあります。」
「うちは過酷やぞ。正直しんどいことも多い。」
「はあ、そうは見えまへんけど。」
「今は静かな時期やねん。これまでは、いろいろあってな。うちの連中が魔獣と渡り合うところにだまーって馬車引いたまま我慢して動かずいたりするんやで。」
「そうそう、魔族の大群をうちの人達が倒すのを横で待っていたり」
「そうや、かなりしんどいんや。それでもうちにきたいか」
「おもしろそうですなあ。」
「おもしろい言うんか。死の瀬戸際におるんやぞ。逃げるわけにもいかんのや。戦っているそばで、ただ待っているだけなんや。自分たちに魔獣が襲ってきてもな。」
「どうして一緒におるんですか。」
「拾ってもらった恩やな。わしはな、とんでもない性悪でな、この町にもらわれてきた時には、手がつけられんかったんや。でもな、あのドラゴンさんのご主人にもらわれてな、最初はドラゴンの匂いにビビったものよ。でもな、その主人の人は優しい人でな。わしに馬具をつける時にも痛くないように気を使ってくれて、調子を聞いてちゃんと調整してくれるのや。それも何回も何回も調整してくれて、すごいええ人やで、今でもブラッシングしながらやさしゅう声かけてくれてな、今では、一緒におるエルフの人をつてにわしらの要求をちゃんと聞いてくれるんや。」
「へえ、わしらの言葉わかるんですか」
「そうや、ほれお前も話してやれ」
「わしは、その次の街におってな。わしもいわゆるワルやったんや。捕まえられて売られた先は金持ちやったからまあそこそこの暮らしやった、でもな、わしの背中には誰も乗せないみたいな変なプライドがあってなあ。手余しされていたのよ。そんな時にドラゴンを連れた今のご主人が馬を見に来てなあ。さすがにブルっておったら。わしが余されていると聞いて引き取るいいよったんや。走りが綺麗やからとまで言ってくれてな。最初はビビっておったけど、この先輩もおるし、同じように馬具を痛くないように毎回調整してくれてな、最初は頑張りすぎたりしたけど、先輩のおかげもあって何とかなっとる。しかも、干し草も良いのを要求したらな、ちゃんと用意してくれるねん。わしらも家族だからとな。これにはわしも泣いたわ。」
「そうですか。でもこうやって自由にさせてもらってますなあ。」
「そうや、でもな、わしらわかるねん。この人達は、何かあったら借り出されるんや。せやからいつでも出られるようにわしらも訓練しておかにゃならんねん。遊んでるわけやない。」
「そうやで、それかて厩舎に鍵つけないでくれ言うたら鍵をつけないんやで、わしらいつでも逃げられるんや。でもな、その心意気もすごいやろ。その心意気に打たれてなあ、だから何かあった時には、全力出せるよう自主練しておるんや。まあ、半分気晴らしも入っているけどな。」
「最近、獣人も入ったから、わしらの立場も危ういねん。」
「それは、いいところにいらっしゃいますねえ。」
「推薦してやってもええで。」
「ほんまですか」
「最近、家族が増え出してなあ。馬車が手狭やねん。馬車を大きくするか、馬車を増やすかすることになる。せやからもう一頭か二頭欲しがるはずや。ただな、わしらかて、誰でもいいわけやない。当然わしらについてこられることが条件になる。わしらと勝負してそこそこやったら推薦してもええで。」
「なるほど、前に見た時も朝からずーっとお二人で走っておられましたねえ」
「たまにやっておかんと調子が狂うねん。やる気があったら一度走ってみよか」
「お願いします。」
「その前に飯やな、うちに来い」
「いいんでっか?」
「うちのご主人様はそういうことにはこだわらん。なんせ、全然知らん獣人達とも飯食うようなお人や大丈夫や」
「そうなんでっか」
「あんときも驚いたなあ、ちょっと前まで戦おうとしていたんやで、それなのに和気藹々と飯食いだしたからなあ。」
「はあ、どんな人でっか」
「不思議な人としか言い様がないな。そういえば、女たらしならぬ人たらしとか言われておったな。」
「まあ、たらしとるんは、人や無くて他種族ばかりやがなあ」
「ちげえねえ」
「最近干し草の減りがはやいですねえ。」
「はい、実は、もう一頭食べに来ている馬がいます。」
「そうですか、アとウンは、それを知っているのですか?」
「というより、分け与えているようです。」
「友達できましたか。」
「なにか、テストしているみたいですよ」
「テストですか」
「気になって朝の散歩の様子を見てきたのですが、3頭で全力疾走でかなり長時間走っていました。」
「なるほど、確かに家族全員で移動するとなると今の馬車だけではちょっと手狭ですねえ。」
「はい、もう一つ馬車を増やすか、一回り大きいのを用意した方が良いかと思います。」
「アとウンも考えているんですかねえ」
「たぶん、ついて来られるようならご主人様の前に連れてくるような気がします。」
「その日は近そうですねえ。」
閑話終わり
モーラが洞窟から戻り、ほどなく馬に乗ったアンジーが到着した。馬から下りて、近づいてくると、その馬が後ろについてきた。
「なーんか町に行く時につけられているような視線を感じていたのよ」
「はあ」
「町から出て家に向かって走り出したら、併走する馬が現れて、乗れと合図するのよ。得体が知れないからそのまま走っていたら服の首をくわえられて、あきらめて乗ったわ。あー馬酔いかも」
「それは大変でしたねえ。」
「で、この馬なに」
「たぶんアとウンの友達の野良馬です。」メアさんがさらっと言った。
「こんなに毛並みが良いのに野良なの」馬が顔を近づけたので、思わず顎をなでているアンジー。
「そうらしいです。」
「どこからか逃げ出してきたんじゃないの。もめ事は嫌なんですけど」
「まあまあ、今はとりあえず、厩舎に入ってもらいましょう。エルフィ」
「はいはい、おいで~」素直に従い厩舎に入っていく。まるでいつもそうしているように。
「メアさん、この馬が例の馬ですか。」メアにそれとなく尋ねる。
「たぶん、私が見たのも灰色でしたから」
「アとウンが漆黒と純白、そして灰色ですか。次は栗毛でしょうねえ。」
「次がありますか?ということは家族も増えますか?」メアさんが微笑みながら言った。
「それは、まあ、成り行きですね」
そして家に入り、エルフィが戻るのを待って話を始める。ユーリとその子には客室に入ってもらった。
「アンジー、遠隔では話せない内容なのでしょう。あの子に聞かせられない内容ですか?」
「先にそっちの話を聞いてもらったほうが良いと思う。その後にするわ」
「わかりました。ユーリには付き添ってもらっていますので、全員というわけにはいきませんが」
「お茶が入りました。」
「そっちは傷だらけね。それにしてもいつ戻ってきたの」
「さきほど、玄関に到着しました。」
「座標精度に不安があったので、外にしておきましたからね。でも、ほとんど正確な位置に着いていますね。」
「空間転移の魔法でしょう。」
「はい、その通りです。本来使わないことにしていた魔法です。」
「まったく、あなたは。でも助かったから文句も言えないわね。」
「パムには最終手段と言ってありましたから。」
「はい、捕まる程度なら使用するつもりもなかったのですが、追い詰められ問答無用で消されるところでしたから。」
「魔法を見られましたか。」
「一応、崖から落ちて落下地点ギリギリだったので、見られてはいないと思います。」
「あそこに死体がないことは、不思議に思うでしょうね。」
「ごまかせそうですね。さっそくですが、ここ数日間の話を聞かせてください。」
「エリス様、」
「ああ、あなたが話して。ほとんどあなたが情報収集したものじゃない。見聞きした人が話したほうが良いでしょ。私は、その情報が正しいかどうか検証しただけだし。」
「わかりました。ぬし様。今回の事件は、最初から仕組まれていたものです。」
「背景からお願いします。」
「はい、まず、魔族の領主の元、魔族と獣人、人族の里があったのは事実です。そして、そこにあの子のご両親ももちろんいました。しかし、ここ最近里の者達が不審な動きを始めたのです。」
「頻繁に出入りをするようになり、何かと外と接触しているようだったのです。」
「その原因は、領主が交代して、その里への待遇を変えたようです。もとい、冷遇するようになったようです。」
「里の者としては、これまでと同じ待遇を求めているだけなのに認められないことから不信感が募り、里を放棄して外に出るつもりになったようです。」
「なるほど、今回里に出ることを決意したわけですね。」
「はい、そして、里の住人の中に間者がいることもわかったようです。これは推測ですが、」
「死んでいたのは間者だったのですね。」
「はい、あくまでも、そう推測できるだけですが、たぶん。」
「どうしてそう思えるのですか、」
「はい、まず手引きした者が獣人でその者も殺されています。あと、又聞きになりますが、殺された者達はみんな眠っていたのです。」
「眠っている者を殺したということですか。」
「そうみたいです。」
「間者は、どの種族の者だったんですか。」
「魔族、獣人、人族すべてです。」
「おや、まあ」
「魔族側としては、その領地にいくつか里があるのですが、その里は、ほとんど元魔王のために特例的に作った里でした。それでもそれなりに農作物や木工品を製作して人族などに売っていたようで、収益もそれなりにあり、暮らすには問題なかったようです。しかし、領主の交代により法外な年貢を求められたようです」
「なるほど、」
「これでは生活ができなくなると思い、里を抜け出すことにしたようです。」
「間者を殺す必要はないのではないですか。それが外からでわかりますか」
「それですが、実は、実際の里を見せてもらったのです。」
「魔族の領地に入ったのですか」
「ええ、その時に獣人と人族の者が立ち会いでその領地に入っていました。もちろん、里の場所までは目隠しをされていましたが。その調査団のなかに滑り込みました。」
「なるほど。領主との盟約に基づく立ち入りですかねえ」
「かなりの規模の里でした。2~3百人は、いるという印象でした。」
「幸いなことに死体は片付けられておらず、ほとんどすべてがテーブルで眠った状態で殺されていました。」
「やはり人族に殺されていたのですか。」
「そう説明されましたが、傷がどうにも人間の力とは思えない傷でした。」
「ほう」
「じゃあ誰がやったのか」
「たぶん魔族ではないかと。」
「獣人の線はないのですか。」
「かなり上の方から振り下ろしています。少なくとも人間ではありません。魔族は獣人が獣人は魔族が人族は、どちらかもしくは人族が殺したのではないでしょうか。」
「獣人や魔族は、人が殺してはいないと」
「あの傷の具合を見ればですが、たぶん。」
「さて、時系列に沿って話をしましょう。まず、少し前に元魔王は、年貢の話について、これまでの約束が違うことを領主に抗議しています。しかし、新しい領主に却下されました。そして、今回、急に人族が領地の中の里に入ってきます。」
「魔族の許可を取らないと中には入れないんですよね、それはどうなったのですか。」
「領主の許可は必要ですが、結界の解除は魔族か獣人がやっていたらしく、里に入るのはわりと簡単にできるそうです。ただし、その時作業をしたのは、誰か不明です。領主からの許可を受けた魔族と獣人は、現在行方不明です。誰が入ったのかわかりません。」
「つまり、人族が侵入したかどうかは不明なのですか。」
「それぞれの種族が何人かずつ入ったことはわかっていますが、誰かまでは特定できていません。そもそも確認しませんので」
「穴だらけの管理ですねえ。」
「まあ、最初から元領主と元魔王との信頼関係でできた里のようですからセキュリティもそんなものだったらしいのです。」
「それでは、元魔王が殺されることにはならないですよねえ」
「里の者は新領主が自分たちへの対応がひどくなったため、生活基盤を変えようと思ったようです。同時に里に間者がいることを知ってそれを切り捨てて新天地に新しい里を作り、そこに向かうつもりでいたみたいです。でも、里を作ったときには、必要だった元魔王の家族がネックになってきたようです。ならば、間者と元魔王の家族には死んでもらって後腐れを残さないようにしようとなったのではないでしょうか」
「そんな理由で殺しますか。それならその人達に黙ってそこを去ればいいだけではないですか。」
「そうですね。ですので、違う仮説が必要になります。はい、元魔王一家が死亡したという事実をでっちあげ、新天地で元魔王一家も一緒に生活してめでたし、めでたしと言うシナリオです。」
「それならしっくりきますね。でも死体が必要になりませんか。」
「はい、ひどい惨殺死体か、焼死体があれば、説得力も増すでしょう。たぶん、その方向で話は進んでいた。でも、何らかのトラブルがあって死体も残せずそこを去らなければならなくなったのではないかと。」
「なるほど。トラブルにより当初の計画通りに行かなくなったということですか。」
「そう考えるのが自然かと思います。」
「それは、間者が殺されていたこととは関係ありますか。」
「あくまで推測ですが、発案者は、間者を殺すつもりだったが、元魔王にはその事は、話していなかったのではないでしょうか。元魔王様には、家族で死んだふりをしてもらい、里は解散、それぞれが新天地まで逃げて行くということにしていたけれど、間者を殺すという、事実を知った元魔王が軌道修正をさせようとして何かが起きたのではないでしょうか。例えば、言い争って元魔王夫婦を殺したとか。」
「死体はなかったのに?」
「ええ、混乱させるには死体が無いのが一番ですから。たぶんどの種族も血眼になって探すでしょう。今のこの状況がまさにそれです。」
「行方不明で終わらせられないと。」
「はい、事実がはっきりするまでは」
「あの子のことはどう説明しますか。」
「たぶん、元魔王は、あの子にぬし様が渡してくれた物と同様のものを持たせていたのではないのでしょうか。もしくは、あの子には潜在的にその能力があり、何かの術式を組んでおいて、あの時に発動させたのかもしれません。あの時、町に入り露天で果物を手に取るなど、食事のマナーまでしつけされているその子は、自分の意志ではしないでしょう。たぶん催眠術に近い何かで操ったとしか思えません」
「後催眠ですかねえ。」
「元魔王様ですから、それなりの知見、見識があるとすれば様々な事を想定していると思われます。もっと何かありそうですが、凡人の私にはこれくらいしか思いつきません。」
「アンジーどうですか。」
「私が聞いた話より詳細に聞けているわね。補足する点は、何点かあるわ。その騒動は、初めから仕組まれてものであるけど、里の人達は自分で仕組んでいたつもりで、誰かわからないけど、別な人達にうまいこと乗せられたということかしらね。」
「そうなのですか。」
「最初動き出したのは、もちろん里の人達となるのでしょうけど、領主は共存派から絶対主義派に交代となったのが発端なのね」
「その時からこの騒動は仕組まれていたと」
「時限装置みたいな気長なものだったらしいけど、意外に早く動き出したのは、間者の存在が明らかになったせいらしいのよ。でも、これもリークされたものだとしたら、黒幕はけっこうなやり手ね、今でも手のひらの上で踊らされているとは里の者達は信じないでしょうね。」
「なるほど。」
「それと元魔王がその里にいることを現魔王であるルシフェル様はこの事件まで知らなかったそうよ。共存派だという事も子どもがいることもね。」
「現魔王は、今回の件は寝耳に水であると。」
「私が聞いたところそう話してくれたわ、それで、前回は連絡がつかなかったらしいのよ。」
「どちらかの派閥が今回の件を仕組んだと。」
「違うわ、たぶん元魔王派ね。とりあえず、今回の里の者の殺害を計画したのは元魔王派、それを逆手にとって里を離れることにしたのは里の者の判断。間者を殺害したのはどちらか不明、元魔王夫婦は、死んだふりするつもりが失敗して、失踪して行方不明。里の者もほとんど全員行方不明ということね」
「里の中に人族を手引きした者はどっちなんですか。」
「たぶん里の者ね。入ってきた人間は、荷物などを運び出す役目だったらしいから。でも何もできず帰ったと思うの、あと、里の間者は獣人か魔族が殺したと思うわ。」
「人間が運び屋ですか」
「たぶん新天地が人間の領地を通らざるを得ないんでしょ。」
「当日の時系列がよくわかりませんね」
「誰かが手引きして、里に人族が来る。しかし、荷物が運べず混乱する。間者が寝ている、しかたがないので人族が里を出る。間者殺される、元魔王夫婦死ぬ真似をする。何かトラブルで息子を転送した後逃げる。」
「人族が入ってきたときに元魔王夫婦は、死んでいないとまずくないですか。」
「それにそもそもそんなに荷物を搬出したら目立ちますよね。やはり人族は殺しに来たのではありませんか。全員殺すつもりがほとんどいなくなっていた。あーでも、間者の家族が殺されていないんですよね。」
「そろそろ他の証言も聞きましょうか。聞こえていましたでしょう。」
「はい」
「聞かせていたの?」
「気付いたのはさっきですけどねえ、両親が生きているという内容だったのでそのまま聞いてもらっていました。」
「両親は生きていますか。」
「たぶん。あの床の血では魔族は死にません。少なくともあの館の中では死んではいません。」パムはそう告げた。
「そうですか。よかった」
「もっとうれしそうにしなさいよ」
「はい」
「死んでいなくて残念だった?」
「そんなことはありません。うれしいですよ」
「というか知っていたのですか。」
「申し訳ありません。そこまで暗示をかけられていたようです。両親は死んでいません。」
「なるほど、催眠なり暗示ですねえ。どこまで真相を知っているのですか。」
「私の話は、父母から聞いたものです。父母が思い込まされていなければですが。」
「話してみませんか」
「はい、私の父母の話では、里を逃げ出す計画は、そもそもだれかがその里の者を元魔王家族ごと全員殺すつもりだったことが発端だそうです。」
「やはり、そうなんですか。」
「はい、人族を連れ込み、事前に眠らせていた里の者を全員殺す。ただし、間者はその事を事前に知っているので睡眠薬を飲まずに逃れるというシナリオだったらしいのです。」
「なるほど。」
「それが逆になったのは、殺される側である里の者が事前にその情報を手に入れたからです。そして、それを逆手にとって以前から考えていた里の脱出を計画し始めたのです。」
「逆ですか」
「はい、行く先もかなり強引ですが決めて、逃げ方もかなり強硬なものでしたが決まったそうです。でも、問題は私たち家族と間者の家族でした。」
「間者の世帯は9世帯いずれも夫婦もしくは子どものいる世帯でした。家族は間者であることを知らされないでここに来ています。その者達まで巻き込むのかと。」
「間者の子ども達は私とも懇意にしていました。ええ、かけがえのない友達でした。こんな私と一緒に遊んでくれてありがたかったのです。元魔王の子という事で敬遠する子達もいるなかで、親の言葉なのかも知れませんが分け隔て無く遊んでくれました。たぶん元魔王の子だからといって仲間はずれにしてはいけないとまで言われていたのでしょう。逆に親しくさせていただきました。」
「ですから、今回の件どうするのかが問題となりました。間者の家族に事情を話して間者に知られては元の木阿弥ですし、結局間者の家族には話さず黙って逃げることになりました。」
「当日の朝、父から逃げることを告げられ、用意をするようにと。友達はあきらめろと」
「私は、怒り父母を殺そうとしました。どうしたらいいかわからず、食卓にあったナイフで父の腹をさしてしまいました。ナイフを抜くと血が噴き出し床一面に血が飛び散りました。」
「しかし、そんなことでは、魔族は死なないのです。私が刺したのに生きているんですよ。ナイフをそっと抜き取り、手を拭いてくれました。」
「これからは誰であろうと殺してはいけない、誓いなさい。たとえ自分が殺されることになっても魔族も人族もすべて、誰も殺さないことを誓いなさいと言われました。」
「この後、死体が3体運ばれ、この館は燃え落ち、私たちは死んだことになる。お前にはわかるだろう、元魔王一族の存在がどれだけ世間に影響を与えるのか。魔王として生きてきた私としてはどうにもならないことではある。だが、越えなければならないことなのだと。なので、すまないがお前も死んだことにしてこの地を離れることになる。そう言って自分の部屋で待機するように言われました。しかし、人が入ってくる気配がして、母が私の部屋に来てこれをわたし、スイッチを入れたのです。」
「あとは、皆さんの知ってのとおり、町に現れて、意識が無いのに果物を盗みました。その後目が覚めたのです。さらにさきほど、パム様が話の順を追って聞いていると記憶が戻ってきました」
「じゃあ、記憶が戻った今でも両親のことは知らないのですね。」
「はい、私も刺してしまいましたし、両親は死んだことにするとは言っていましたので。ただ、死体がなかったと聞いてどうなったのか不安でした。」
「たぶん記憶のすり替えですねえ、自分でやったのか他からの影響なのか。」
「床にあった血の量は多くないにしても死体も身代わりの死体もありませんでした。」
「焼かれる前に何者かが死体を運び出したという事はありますか?」
「そもそも、焼けた後は、ありませんでした。」
「思い込まされているとか?」
「夫婦で逃げ出したというところですかねえ。」
「子どもを連れずにですか?」
「そうだよなあ。」
「ニセの死体が発見されるところがそうならなかったのでしょうか」
「いや、ニセの死体が届かなかったとかはないか?」
「どちらにしろ、この子がなあ双方から狙われるのじゃろう」
「死体が届き、火をつけ、家族3人でどこかに転移するつもりが、死体が届かなかったのか、だれかの邪魔が入ったのか、何かトラブルが発生した。でも、家族三人でその装置を使って転移するつもりだったが、できなくなったため、子どもだけ暗示を掛けて転移させた。というところですか。」
「そうですね、まず元魔王夫婦を探しましょう。といってもどこから探せば良いのか。なかなか無理そうですねえ」
「一応、魔法使いのネットワークで各街に手配をかけたのだけれど、里の者のうち特徴的な獣人や魔族は、何カ所かで見かけられているようなのよ。でもね、バラバラな方向に逃げているのよ。そんなわけで新しい里の特定ができていないわ。たぶん何ヶ月かいろいろなところで潜伏してからその場所へ集合するつもりじゃないのかしら。」
「急にできたプランなのに緻密ですね。」
「たぶんそうしないと場所が特定されかねないのでしょう。」
「一度潜伏されるとなあ、見つけるのがやっかいじゃなあ。」
「用意したはずの死体がないし、家も焼けていない。何か焼くための準備はありましたか?」「いえ、ありませんでした。」
「まあ、魔族なら魔法で燃やせばすぐでしょう?」
「このタイミングで、自殺で焼死は少し無理がありますねえ。苦しみそうですし」
「確かに」
「ところで、殺された間者の家族はどうなっていましたか。」
「とりあえず里に残っています。」
続く
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