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第19話 初めてのお使い
第19-6話 それぞれの旅 4
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パム 続き
「さて、行こうか。」
「ヒン」
野宿の後を片付け、ウンの手綱を手にゆっくりと歩いて里に向かう。砂の固いところ確認しながら歩いていたが、固かったはずの地面が急に柔らかく沈み始める。とっさにパムは、馬の鞍をつかんで、その砂の外に向かってちゃんと立てるように放り投げた。倒れず立っているのを確認してから、自分の状況を確認する。ウンがその砂のギリギリの所まで顔を見せる。
「どうやら罠だったみたいですね。」
動こうにも動けず、考えてもしようが無いと思い始めた時、一本のロープが投げ込まれた。
「ウン?」
「ヒン」
さすがにロープの束を蹴り飛ばすだけで精一杯だったのだろう、たぶん鞍を自分で外してロープをくわえて端まで持ってきて、そこから蹴り飛ばしたようだ。
パムは、ロープの端を自分にくくりつけて反対側に持っていたナイフをくくりつけて上空に放り投げる。
「クウ悪いけど刺さったら土に刺して。」
パムはロープに手応えを感じたので、ロープに体重をかけ、自分のそばの砂をかき、固い岩の部分を見つけてそこにナイフを打ち込む。そこに足を掛けて蟻地獄から飛び出す。脱出した時に蟻地獄は動きを止めた。
「魔法なのか?」
そう思いながらもナイフとロープを回収しようとしたところ、ナイフはクウが踏みつけ、ロープはクウの足に絡みついていて、絡みついた部分は、傷になって血が出ていた。
「クウお前。」クウは褒めて欲しそうだ。
「本当に良い馬だなお前は、」なでて、なでて、なで回した後、薬草を取り出し、傷の場所に当てる。
「痛かったろう。ありがとう。」
そうして、パムは、息を吸い。叫んだ。
「私の家族が傷つくような罠を設置した者に告げる。制裁を加える。」
同時に体の筋量を最大にして、パムは、その蟻地獄の手前の地面に向かって拳をたたきつける。
ドッゴウ
という鈍い音と共にその砂が空中に飛び散る。砂の中には人が潜んでいて、砂と共に空中に飛び出した。
パムは、高く飛び上がり、その男を捕まえて、空中で何かを蹴って飛び出した場所に戻る。
「おまえがやったんだな。」
その男は震えて、ただ頷くだけだった。パムはその男の矮小さに冷静になり、ひとつ質問をした。
「お前、もしかして、ファウデの壺を盗んだ時に地震を起こした者か。」
その男は今度は、青ざめている。どうやらそうだったらしい。
「そうか、どうやらそうなのですね。」
「何個か質問する。答えて欲しいがどうだろうか。」
「今回の事、誰から命令されたのでしょうか。」
首を縦に振る
「じゃあファウデの壺の時は誰に頼まれましたか」
「はい、あの国の政務官です。」
「まあ、やっぱりそうなのですね。再度お尋ねしますが、今回の件は、誰から命令されたのですか。」
「言えないのではなく知らないのです。ファウデの壺の件をばらすと脅されてここに来ました。誰か知らないのです。」
「わかりました。信じましょう。ただ、ファウデの壺の件については、水神様には報告します。だからといって、あなたは何もされないと思います。すべて終わったことだと聞いておりますので。」
「はい」
「もし、危機が迫ったら辺境の町に逃げなさい。それが良いと思います。」
「どうしてそこまで親切にしてくれるのですか?」
「私のぬし様はそういう人ですので、それに習っているだけです。さあ、早くここから逃げなさい。」
「本当にありがとうございます。」そう言ってその場所から逃げ去った。
「さて、ウン、これでよかったかい?」
「ヒン」ウンは、誇らしげに頭を上げた。
「さて、あともう少しです。」
扉の所には、数人立っている。その中には、支えられて長老の姿もあった。
そこにウンを連れて近づいていく。
「お久しぶりですね、長老。」
パムのその声を聞いて怯えて訳もわからない叫び声を上げる長老。それを両隣にいた者がそれを抑える。
「お前のせいでこうなったんだが。」
「そうされるようなことをその人がしたせいです。自業自得と思いますが。」
「だとしても、ここまでするか、」
「殺すよりはましだと思いますが。」
「これはさすがにひどいだろう。」
「そうですか?私は何もしていませんよ。何かしようとしただけでその様子なのですから。」
「そうなのか?」
「ええ、あなた達から教えてもらった尋問方法を使いますと言っただけでその状態ですので。ただ、その後に両手両足を傷つけましたが。」
もちろん傷がつかないように責めることはできます。骨をきしませるとか、頭蓋骨をきしませるとか、心理的な圧迫はかけようと思えばかけられるのですよね。
「そうなのか。」
「心が弱いからですね。さて、これがその親書です。その方の指でこの封蝋に触れてもらえますか。」
「あ、ああ」
パムは、親書を差し出しながら長老に近づき、嫌がる長老の腕をつかみ、指を開かせ、親書の封蝋にあてる。封蝋は赤から白に変わった。
「これで私の仕事は終わりました。失礼します。」
「そうか。」
「一族の皆様にはご壮健であらせられますように御祈念いたします。では、失礼します。」
パムは一礼して、後ろをくるりと向き、馬に戻ろうとする。
「貴様のような奴は、もう二度と、も、戻ってくるなあぁぁぁぁ」
それまでろれつの回っていなかった長老が突然叫んだ。
パムは振り返りもせずこう言った。
「もちろんそのつもりです。あなたが死ぬまではこのような用事でもなければ来たくありませんから。」
そしてウンに近づき、手綱を取りそこから歩いて砂漠を渡り始める。
「ごめんね、ウン、水とか干し草とか、本当ならもらってから出たかったのだけれど。」
ウンは、パムの頬を伝う2つの水をぺろりとなめて
「ヒン」と啼いた。
「ありがとうウン。さあ帰ろう。私の家族の元へ」
砂漠をわたるまでは、しばらく歩いていた。砂漠の端の草原に近づいた時、そこに人影があった。どうやら先ほどの魔法使いのようだ。
「逃げないと本当に殺されるかもしれませんよ」
「お願いがあります。近くの街までで良いです。同行してもらえませんか。」
「私も帰りを急ぐ身ですが、ついてこられますか?」
「それは、」
「そういう意地悪は、言っても後ろめたくなるようになりましたね。わかりました、ただし、馬に乗って移動していただきます。」
「え?」
「ウン、私のわがままを聞いてもらえますか?」
「ヒン」ウンの啼き方がどうも何かを企んでいるようです。
「では失礼して。」彼は、馬に乗りました。
「とりあえず振り落とされないように。」
「はい」
そうして、パムは、少しだけ体型を変化させた。もちろんスピードに特化した体型だ。
「ウン、行きますよ。」
「ヒン」そうして、そこから森の中に入って行く。
「うわわわわわわ」
その魔法使いは振り落とされそうになる。しかしかろうじて掴まっている。ウンはさらに動きを変化させて走っている。どうやら遊んでいるようだ。その男が落ちそうになると落ちないようにうまく調整している。
併走しているパムは、その辺のところがわかったのか、笑いを抑えながら走っている。
休憩を挟みながら、しばらく走った。
「馬が必要ないのでありませんか?」お尻をさすりながら、その魔法使いは言った。
「いえ、さすがに長時間走り続けることはできません。いつかは限界が来ます。その点ウンは、スタミナは無いですが、私が走るよりもさらに速く走れますので。」
「そうなんですか。」
「あの、聞いても良いですか?」
「なんでしょうか。話せないこともありますが。」
「賢王をご存じですか?」
「ええ、知っております。」
「そこの王女様が勇者として扱われていることも知っていますか。」
「はい、知っておりますが、それが、どうしたのですか?」
「私はあの国の国家魔法使いとして国のために働いていましたが、壺の件で国外追放となりました。」
「ああ、そういうことだったんですね。」
「はい、それからは、冒険者と一緒に仕事をしたりしていました。」
「そうですかそれは大変でしたね。」
「噂で、あのマジシャンズセブンの一翼と言われている方なんですよね」
「マジシャンズセブン?なんですかそれは、」
「はい、優れた魔法使いと7人の女性達がいると、それぞれ特殊な技能を持ち、世界で並ぶ者がない集団だと」
「詳しく聞かせてください。」
「はい、その1人の男性魔法使いと7人の女性は、7人全員その男性に隷属していて、その男は、全員が逃げられないくらいの高位の魔法使いらしいと。」
「そうなのですか。」
「その7人の女性は、土のドラゴンの末裔、天使の末裔、女魔法剣士、ハーフエルフ、ホムンクルス、獣人の娘、そして女ドワーフと聞いております。」
「なるほど、それがどうしたというのですか。」
「あなたは、その一人とお見受けしました。」
「違うとも違わないとも言えません。噂は所詮噂なのですよ。そして、違うことの証明は難しいですよね。」
「違うのですか。」
「たぶん、そうではないのでしょう。8人組という事は、集団で移動しているのでしょうね。もし、その人達の一員であるならば、私は、なぜ独りで私は動いているのでしょうか。」
「確かに。でも、私は、土の中から見ていました。あなたの戦い方を見てそう思ったのです。」
「まあ、だからどうだというところですが。その集団だからすごいという事はありませんか」
「私は、だまされました。しかし、あの王女様にはついて行けると思いました。なので、あの勇者のメンバーに戻りたいと思っています。」
「そうでしたか。なかなか難しいとは思いますね。違う勇者ではダメなのですか。」
「他の勇者も知っているのですか。」
「はい、今はどこを回っているかわかりませんが、定期的に連絡がありますから。真面目にしていれば会えると思います。」
「ありがとうございます。生きる希望がわいてきました。」
「もちろん紹介するだけで相手が了承するとは限りませんよ。」
「待ちます。」
「私がこの先、旅先で死んで連絡が取れなくなったとしてもですか。」
「待ちます。それが運命なら」
「わかりました。さて、それでは、急いで次の町に行って、連絡先を作りましょう。でも、修練して自分の能力をさらに磨いていかないと、入れてもらえないかもしれませんよ。」
「はい」
そうして、一番近い町まで到着した時に、他の町にいる薬屋や魔法使いに連絡を取るよう話をして、彼とは別れた。しかし、周囲の影はついてくる。
「やはり彼にではなく、私に向けられた刺客という事ですか。」
周囲に感じる気配が彼の方に移動しなかったことで、彼らの目標は私という事がわかった。
「ウン、町の近くでは危険なので少し離れましょうか。」
ウンに乗り、森の中を目指す。途中でウンから降りて独りで森の中を動き回る。
「こんなものか」
そうつぶやくと少しだけ木の少ない場所に中腰で構える。
「さて、私に用事のようですが、早く用件を終わらせたいので、出てきてくれませんか。」
そう声を掛けると、パムに向けてナイフが数本、違う方向から飛んできた。
「そうですか、姿を現せないのであれば、こちらから行きますね。」
パムはそう言うと、近くの木の枝に飛びつき、姿を消した。風がそよいでる。時おりガサガサと草の音が聞こえドサリと土のうえになにかが倒れる音がした。数回同じ事が起き多時にふいに声が聞こえる。
「ああ、もういいわ。こんな面倒なことはやめよう。」
そう言って出てきたのは、魔族だった。その巨大な体躯をどうやって草むらに隠していたのか不思議なくらいだ。
「そうだな、そうしよう」
そして、その魔族の隣に象に似た同じくらいの獣人が現れる。
「どうせ、周りにいたドワーフ族の奴らを倒したのだろう?だったら、問題ない。あいつらが待てというから待っていたが、そいつらもいないんだったら。出てきてやろうぜ。」
「わかりました。」
パムはそう言って2人の立っている後ろに姿を現す。
「そっちにいたのか。気配どころか匂いまでしないなんてなあ。」
「それはお互い様です。大柄な、おふたりがどこにいらっしゃったのかわかりませんでした。」
「大柄な2人ねえ、まあいいさ。とりあえずやろうぜ殺し合いを。」
「こちらには、理由がありませんが。」
「こっちにはあるのさ、なあ、ドワーフ一の凄腕さん。あんたを倒しただけで名声が入ってくるって寸法さ」
「残念ですが、私は一族と袂をわかっております。今の凄腕は違う人だと思いますよ。」
「だからさ、ドワーフ族に気兼ねなく潰せるってことだろう。」
「そうさ、ドワーフは、他の種族とは争わないからなあ。」
「なるほど実力を測りたいと。」
「それもあるけど、たぶんあんたを壊すことになりそうだな。」
「壊すように依頼されているのですね。」
「それは、言えないねえ」
「わかりました。それでは、お相手します。」
パムはそう言って体に巻き付けていた鉄のベルトを外す。そしてそれがひとつにつながり大剣になる。
「すごい仕掛けだな」
「はい、私のぬし様が、素手でも暗器でも戦うだろうからと体にまとう形で剣を持てるようにしてくれました。」
「うれしそうだな。」
「はい、私のために特別に作っていただいた剣ですので」
パムは何回か片手で剣を振ると最初は細かった剣が、少しだけ太くなり、接合した部分が消えていく。
「つなぎ目が消えた?」
「はい、大きな力がかかった時に折れてしまわないように接合部を強化しているようです。私にはうまく説明できませんが、多少の魔力を加えるだけでできるそうです。さあ、よろしいです。どちらから来ますか。私は、お二人一緒でもよろしいですよ。」
「なめられたものだな」
「いえ、こちらは急いでいますので、早めに終わらせて旅を続けたいのです。」
「本当になめてやがる。」
「ああ、本当だ。なめられて黙ってはいられねえ。」
獣人の方が先に動いた。鈍い金属の音と共に一合目が終わる。速い剣だがそうでもない。
「なるほど、俺の速さに追いつけるか。」
「獣人の速さは獣化してからでしょう。」
「なるほどな」
そう言って後ろに飛びさると剣をすて獣化を始める。
パムは剣を構え直す。獣人は膝をかがめたが、次の瞬間には姿が消えている。そして金属の鈍い音と共にガチガチと刃を噛む音が聞こえる。パムがその獣人の口の中に剣を入れ、獣人は、剣の刃を歯で噛んですんでの所で止めていた。獣人は歯でそれをくわえてぶら下がっている。パムはゆっくりと下に降ろし、足が着いたところで、剣を抜いた。
「おやおやお優しいこって。」魔族の方はニヤニヤ見ている。
「さて、次に参りましょうか。」
パムは、剣を魔族の方に向ける。
「おいおい、そっちはまだ終わってないぜ。」
「別にいつ襲ってきてもかまいません。さあやりましょう。」
「はいはい」
魔族の方は、そう言ってやる気の無い振りをしていたが、いきなり下に降ろしていた剣を振り上げる。しかし、パムは紙一重でそれをかわす。
「ちぇ、おもしろくねえ。こんな誘いにも乗らねえか。」
そう言うと魔族は、剣を青眼に構え、剣に魔力を込め始める。
「いつでもどうぞ」
獣人に背中を向け、魔族と同じように青眼に構えて呼吸を整える。
「なめやがって」
獣人は、いつの間にか獣人化していて、叫びながら置いていた剣をつかみ、パムに迫る。
パムは、その言葉に動じることもなく、横に薙いできた剣を腹で受ける。
「切れないだと。」
「硬質化か?」
「いいえ違います。特殊繊維で編まれていてこの体型の時には、固くなるようになっています。ご覧ください。服は破けていないでしょう」
「なるほど、なら、服ごと切るか、できなくても頭や手足は切れるわけだ。」
「そうなりますね。では、服のハンデを解消しましょう。」
パムは、筋力を増大させ通常より大きい体になる。
「なるほど、伸びる服か。そうなると効果が無くなると。」
「そうですね。ですから」
獣人が再び背中から切りつけてくる。それを紙一重によける。
「服が破かれないように避けなければなりません。」
「わかった、さて、お前は騒ぐな。まず俺と一対一でやらせろ。」
「わかった」獣人は横によけてパムの視界に入る位置に移動した。
「いくぞ」
「どうぞ」
魔族は、片手で剣を振り回す。パムはかわしながら後ろに下がっている。しかし、後ろの木に阻まれ下がれなくなる。
「行くぞ。」
右斜め上からパムに切りつける。パムは、くるりと木の後ろに消える。その木は、あっけなく切り倒された。
その様子を見てパムはぽつりと
「ユーリの真似をしてみましたがやはりうまくいきませんね。」と言いました。
「何を言っている?」
「では、本来の私のやり方に戻しましょう。」
そうして、パムは、大上段に振りかぶり、ゆっくりとそのまま魔族に向かっていく。急な方針変更に戸惑いながらも魔族は、剣を両手に持ちかえて応戦をしようとする。
「このまま行くと剣が折れて私の剣があなたの頭にあたって死んでしまいますよ」
「それは、しかたないな。」
そう言って振り下ろすパムの件をかわして、間合いを取る。しかし、かわしきれずに腕に傷がついている。もちろんすぐ回復して跡形も無くなる。
「さて、仕切り直しましょう。たぶんお二人は、連携技が得意なのでしょう。ですから2人で私とやりませんか。」
「なめられてるが、やるしかないな。」
「ああ、まったくだ」
お互いに頷きあうと一斉にパムに斬りかかる。両側からお互いに相手が剣を振り下ろして作った隙に剣を打ち込んでくる。
「なるほど、さっきより思い切りもいいですし早いですね。」そう言いながらも防御に徹するパム。
「これだけの手数を受けきるのはすごいが、このままいけそうだ。」
「ああ、いける。防戦で手一杯のようだからな。」
「そう見えますか、それなら良かった。では、続きを」
「どういう意味だ」
「では、いきますよ。」
パムはそう言って、剣速を上げ、相手の剣を受けるのではなく撥ね返し、のけぞった相手にさらに剣をよこなぎにする。その隙にもうひとりが横から切りつけるが、一瞥してその剣を受け、はじき、また横なぎにする。
「なんて力だ。俺の剣をはじき返すとは」
「ああ、こんなにドワーフって力があるのか。」
2人は、一度間合いを取ってパムに対峙する。
「でも、今のを決められないならまだやれるな。」
「ああ、いくぞ」
「ここで、やめないようでは、死にますよ」
パムは冷静だ。
「はあ、さっきの攻撃を決めきれなかったくせに。」
「しゃべりすぎました。」そう言って、パムは動いた。2人には一瞬消えたように見えたが、一瞬にして気配が間近に迫ったことを感知してそこから離れようとする。しかし、
「遅いですよ」
避けようとした方向にすでに剣がある。ひやりとした剣の冷たさが魔族の首に感じられる。切られたと思ったが痛みはない。一瞬、ほんの一瞬だった。気配はすでに獣人の方に移動してやはり首に剣を当てている。
「さて、あなた達はすでに死にましたよ。」
一瞬だけ獣人の首に剣を当てていたが、今は、2人から離れた場所にいる。
「ああ、そうだな、おまえ遊んでいたのか。」
「いいえ、実力を測っていただけです。もしかしたら、フェイクで、こちらの実力を測っていたのかと疑っていました。私を油断させているのかと」
「用心深いんだな」
「それで死んだ人達をたくさん知っていましたから。」
「ならば殺してもよかったんじゃないか」
「いいえ、今は、ぬし様のお気持ちに従い、殺さないことを是としています。」
「ああ、そうかそうなのか。それでお前が死んだらどうするんだ。」
「いいえ、死にません。というか死ねません。もちろん窮地に立ったら殺してもいいとは言われていますから生き残ります。それは、ぬし様と約束しましたから。お互いに絶対死なないと。」
「そうなのか。」
「では、もう私を追わないでくださいね。」
「ああ、実力が違いすぎる。どうしてそんなに強くなれたんだい?」
「井の中の蛙ではいけないと言われました。それと私は、良い家族に恵まれました。ともに技術を高め合う人達と暮らし、とても充実しています。それが強さの原因ですね。守るための強さです。ああ、しゃべり過ぎましたね。どうも会話すること自体がうれしくなってきています。自重しないと。」
「もうおまえの旅の邪魔はしない。すまなかったな。」
「あなた達は、まだ成長できます。強くなれますよ。」
「ありがとうよ」
そうして魔族と獣人と別れたパムは、ウンに乗るとその場を去った。
「もしかしたら、ぬし様も危ない目に遭っているかもしれない。急ぎましょう。ウン」
「ヒン」
そしてスピードを上げるウンであった。
ウンの休憩とパムの休憩をあわせて、時間を短縮しながら走って行く。ウンのまぐさだけが問題だったが、途中の町で買いながら走って行く。
それでも、絶対的に距離があり、焦燥感がパムを襲っていた。
『おお、いたいた。パムわしじゃ』
『モーラ様迎えに来てくださったのですか。』
『ああ、家がちょっと大変なことになっているのでな。ほれ、わしの手に乗るが良い』
不可視化の魔法を解いた手だけが見えている。ウンに乗ったまま手の上に乗る。乗った後ウンから降りた。
『家はともかく、ぬし様は大丈夫なのでしょうか。』
『まあ、あやつは大丈夫じゃろう。とりあえず家まで連れて行きその後あやつを探しに行こうと思う』
『わかりました。』
『ほら見てみい、あれが我らが家じゃ。』
「え?家が・・・そんな」
そこには巨大なクレーターとその中心に家と馬小屋と倉庫だけがある。そして、他の家族はすでに到着していた。ぬし様を除いて。
続く
「さて、行こうか。」
「ヒン」
野宿の後を片付け、ウンの手綱を手にゆっくりと歩いて里に向かう。砂の固いところ確認しながら歩いていたが、固かったはずの地面が急に柔らかく沈み始める。とっさにパムは、馬の鞍をつかんで、その砂の外に向かってちゃんと立てるように放り投げた。倒れず立っているのを確認してから、自分の状況を確認する。ウンがその砂のギリギリの所まで顔を見せる。
「どうやら罠だったみたいですね。」
動こうにも動けず、考えてもしようが無いと思い始めた時、一本のロープが投げ込まれた。
「ウン?」
「ヒン」
さすがにロープの束を蹴り飛ばすだけで精一杯だったのだろう、たぶん鞍を自分で外してロープをくわえて端まで持ってきて、そこから蹴り飛ばしたようだ。
パムは、ロープの端を自分にくくりつけて反対側に持っていたナイフをくくりつけて上空に放り投げる。
「クウ悪いけど刺さったら土に刺して。」
パムはロープに手応えを感じたので、ロープに体重をかけ、自分のそばの砂をかき、固い岩の部分を見つけてそこにナイフを打ち込む。そこに足を掛けて蟻地獄から飛び出す。脱出した時に蟻地獄は動きを止めた。
「魔法なのか?」
そう思いながらもナイフとロープを回収しようとしたところ、ナイフはクウが踏みつけ、ロープはクウの足に絡みついていて、絡みついた部分は、傷になって血が出ていた。
「クウお前。」クウは褒めて欲しそうだ。
「本当に良い馬だなお前は、」なでて、なでて、なで回した後、薬草を取り出し、傷の場所に当てる。
「痛かったろう。ありがとう。」
そうして、パムは、息を吸い。叫んだ。
「私の家族が傷つくような罠を設置した者に告げる。制裁を加える。」
同時に体の筋量を最大にして、パムは、その蟻地獄の手前の地面に向かって拳をたたきつける。
ドッゴウ
という鈍い音と共にその砂が空中に飛び散る。砂の中には人が潜んでいて、砂と共に空中に飛び出した。
パムは、高く飛び上がり、その男を捕まえて、空中で何かを蹴って飛び出した場所に戻る。
「おまえがやったんだな。」
その男は震えて、ただ頷くだけだった。パムはその男の矮小さに冷静になり、ひとつ質問をした。
「お前、もしかして、ファウデの壺を盗んだ時に地震を起こした者か。」
その男は今度は、青ざめている。どうやらそうだったらしい。
「そうか、どうやらそうなのですね。」
「何個か質問する。答えて欲しいがどうだろうか。」
「今回の事、誰から命令されたのでしょうか。」
首を縦に振る
「じゃあファウデの壺の時は誰に頼まれましたか」
「はい、あの国の政務官です。」
「まあ、やっぱりそうなのですね。再度お尋ねしますが、今回の件は、誰から命令されたのですか。」
「言えないのではなく知らないのです。ファウデの壺の件をばらすと脅されてここに来ました。誰か知らないのです。」
「わかりました。信じましょう。ただ、ファウデの壺の件については、水神様には報告します。だからといって、あなたは何もされないと思います。すべて終わったことだと聞いておりますので。」
「はい」
「もし、危機が迫ったら辺境の町に逃げなさい。それが良いと思います。」
「どうしてそこまで親切にしてくれるのですか?」
「私のぬし様はそういう人ですので、それに習っているだけです。さあ、早くここから逃げなさい。」
「本当にありがとうございます。」そう言ってその場所から逃げ去った。
「さて、ウン、これでよかったかい?」
「ヒン」ウンは、誇らしげに頭を上げた。
「さて、あともう少しです。」
扉の所には、数人立っている。その中には、支えられて長老の姿もあった。
そこにウンを連れて近づいていく。
「お久しぶりですね、長老。」
パムのその声を聞いて怯えて訳もわからない叫び声を上げる長老。それを両隣にいた者がそれを抑える。
「お前のせいでこうなったんだが。」
「そうされるようなことをその人がしたせいです。自業自得と思いますが。」
「だとしても、ここまでするか、」
「殺すよりはましだと思いますが。」
「これはさすがにひどいだろう。」
「そうですか?私は何もしていませんよ。何かしようとしただけでその様子なのですから。」
「そうなのか?」
「ええ、あなた達から教えてもらった尋問方法を使いますと言っただけでその状態ですので。ただ、その後に両手両足を傷つけましたが。」
もちろん傷がつかないように責めることはできます。骨をきしませるとか、頭蓋骨をきしませるとか、心理的な圧迫はかけようと思えばかけられるのですよね。
「そうなのか。」
「心が弱いからですね。さて、これがその親書です。その方の指でこの封蝋に触れてもらえますか。」
「あ、ああ」
パムは、親書を差し出しながら長老に近づき、嫌がる長老の腕をつかみ、指を開かせ、親書の封蝋にあてる。封蝋は赤から白に変わった。
「これで私の仕事は終わりました。失礼します。」
「そうか。」
「一族の皆様にはご壮健であらせられますように御祈念いたします。では、失礼します。」
パムは一礼して、後ろをくるりと向き、馬に戻ろうとする。
「貴様のような奴は、もう二度と、も、戻ってくるなあぁぁぁぁ」
それまでろれつの回っていなかった長老が突然叫んだ。
パムは振り返りもせずこう言った。
「もちろんそのつもりです。あなたが死ぬまではこのような用事でもなければ来たくありませんから。」
そしてウンに近づき、手綱を取りそこから歩いて砂漠を渡り始める。
「ごめんね、ウン、水とか干し草とか、本当ならもらってから出たかったのだけれど。」
ウンは、パムの頬を伝う2つの水をぺろりとなめて
「ヒン」と啼いた。
「ありがとうウン。さあ帰ろう。私の家族の元へ」
砂漠をわたるまでは、しばらく歩いていた。砂漠の端の草原に近づいた時、そこに人影があった。どうやら先ほどの魔法使いのようだ。
「逃げないと本当に殺されるかもしれませんよ」
「お願いがあります。近くの街までで良いです。同行してもらえませんか。」
「私も帰りを急ぐ身ですが、ついてこられますか?」
「それは、」
「そういう意地悪は、言っても後ろめたくなるようになりましたね。わかりました、ただし、馬に乗って移動していただきます。」
「え?」
「ウン、私のわがままを聞いてもらえますか?」
「ヒン」ウンの啼き方がどうも何かを企んでいるようです。
「では失礼して。」彼は、馬に乗りました。
「とりあえず振り落とされないように。」
「はい」
そうして、パムは、少しだけ体型を変化させた。もちろんスピードに特化した体型だ。
「ウン、行きますよ。」
「ヒン」そうして、そこから森の中に入って行く。
「うわわわわわわ」
その魔法使いは振り落とされそうになる。しかしかろうじて掴まっている。ウンはさらに動きを変化させて走っている。どうやら遊んでいるようだ。その男が落ちそうになると落ちないようにうまく調整している。
併走しているパムは、その辺のところがわかったのか、笑いを抑えながら走っている。
休憩を挟みながら、しばらく走った。
「馬が必要ないのでありませんか?」お尻をさすりながら、その魔法使いは言った。
「いえ、さすがに長時間走り続けることはできません。いつかは限界が来ます。その点ウンは、スタミナは無いですが、私が走るよりもさらに速く走れますので。」
「そうなんですか。」
「あの、聞いても良いですか?」
「なんでしょうか。話せないこともありますが。」
「賢王をご存じですか?」
「ええ、知っております。」
「そこの王女様が勇者として扱われていることも知っていますか。」
「はい、知っておりますが、それが、どうしたのですか?」
「私はあの国の国家魔法使いとして国のために働いていましたが、壺の件で国外追放となりました。」
「ああ、そういうことだったんですね。」
「はい、それからは、冒険者と一緒に仕事をしたりしていました。」
「そうですかそれは大変でしたね。」
「噂で、あのマジシャンズセブンの一翼と言われている方なんですよね」
「マジシャンズセブン?なんですかそれは、」
「はい、優れた魔法使いと7人の女性達がいると、それぞれ特殊な技能を持ち、世界で並ぶ者がない集団だと」
「詳しく聞かせてください。」
「はい、その1人の男性魔法使いと7人の女性は、7人全員その男性に隷属していて、その男は、全員が逃げられないくらいの高位の魔法使いらしいと。」
「そうなのですか。」
「その7人の女性は、土のドラゴンの末裔、天使の末裔、女魔法剣士、ハーフエルフ、ホムンクルス、獣人の娘、そして女ドワーフと聞いております。」
「なるほど、それがどうしたというのですか。」
「あなたは、その一人とお見受けしました。」
「違うとも違わないとも言えません。噂は所詮噂なのですよ。そして、違うことの証明は難しいですよね。」
「違うのですか。」
「たぶん、そうではないのでしょう。8人組という事は、集団で移動しているのでしょうね。もし、その人達の一員であるならば、私は、なぜ独りで私は動いているのでしょうか。」
「確かに。でも、私は、土の中から見ていました。あなたの戦い方を見てそう思ったのです。」
「まあ、だからどうだというところですが。その集団だからすごいという事はありませんか」
「私は、だまされました。しかし、あの王女様にはついて行けると思いました。なので、あの勇者のメンバーに戻りたいと思っています。」
「そうでしたか。なかなか難しいとは思いますね。違う勇者ではダメなのですか。」
「他の勇者も知っているのですか。」
「はい、今はどこを回っているかわかりませんが、定期的に連絡がありますから。真面目にしていれば会えると思います。」
「ありがとうございます。生きる希望がわいてきました。」
「もちろん紹介するだけで相手が了承するとは限りませんよ。」
「待ちます。」
「私がこの先、旅先で死んで連絡が取れなくなったとしてもですか。」
「待ちます。それが運命なら」
「わかりました。さて、それでは、急いで次の町に行って、連絡先を作りましょう。でも、修練して自分の能力をさらに磨いていかないと、入れてもらえないかもしれませんよ。」
「はい」
そうして、一番近い町まで到着した時に、他の町にいる薬屋や魔法使いに連絡を取るよう話をして、彼とは別れた。しかし、周囲の影はついてくる。
「やはり彼にではなく、私に向けられた刺客という事ですか。」
周囲に感じる気配が彼の方に移動しなかったことで、彼らの目標は私という事がわかった。
「ウン、町の近くでは危険なので少し離れましょうか。」
ウンに乗り、森の中を目指す。途中でウンから降りて独りで森の中を動き回る。
「こんなものか」
そうつぶやくと少しだけ木の少ない場所に中腰で構える。
「さて、私に用事のようですが、早く用件を終わらせたいので、出てきてくれませんか。」
そう声を掛けると、パムに向けてナイフが数本、違う方向から飛んできた。
「そうですか、姿を現せないのであれば、こちらから行きますね。」
パムはそう言うと、近くの木の枝に飛びつき、姿を消した。風がそよいでる。時おりガサガサと草の音が聞こえドサリと土のうえになにかが倒れる音がした。数回同じ事が起き多時にふいに声が聞こえる。
「ああ、もういいわ。こんな面倒なことはやめよう。」
そう言って出てきたのは、魔族だった。その巨大な体躯をどうやって草むらに隠していたのか不思議なくらいだ。
「そうだな、そうしよう」
そして、その魔族の隣に象に似た同じくらいの獣人が現れる。
「どうせ、周りにいたドワーフ族の奴らを倒したのだろう?だったら、問題ない。あいつらが待てというから待っていたが、そいつらもいないんだったら。出てきてやろうぜ。」
「わかりました。」
パムはそう言って2人の立っている後ろに姿を現す。
「そっちにいたのか。気配どころか匂いまでしないなんてなあ。」
「それはお互い様です。大柄な、おふたりがどこにいらっしゃったのかわかりませんでした。」
「大柄な2人ねえ、まあいいさ。とりあえずやろうぜ殺し合いを。」
「こちらには、理由がありませんが。」
「こっちにはあるのさ、なあ、ドワーフ一の凄腕さん。あんたを倒しただけで名声が入ってくるって寸法さ」
「残念ですが、私は一族と袂をわかっております。今の凄腕は違う人だと思いますよ。」
「だからさ、ドワーフ族に気兼ねなく潰せるってことだろう。」
「そうさ、ドワーフは、他の種族とは争わないからなあ。」
「なるほど実力を測りたいと。」
「それもあるけど、たぶんあんたを壊すことになりそうだな。」
「壊すように依頼されているのですね。」
「それは、言えないねえ」
「わかりました。それでは、お相手します。」
パムはそう言って体に巻き付けていた鉄のベルトを外す。そしてそれがひとつにつながり大剣になる。
「すごい仕掛けだな」
「はい、私のぬし様が、素手でも暗器でも戦うだろうからと体にまとう形で剣を持てるようにしてくれました。」
「うれしそうだな。」
「はい、私のために特別に作っていただいた剣ですので」
パムは何回か片手で剣を振ると最初は細かった剣が、少しだけ太くなり、接合した部分が消えていく。
「つなぎ目が消えた?」
「はい、大きな力がかかった時に折れてしまわないように接合部を強化しているようです。私にはうまく説明できませんが、多少の魔力を加えるだけでできるそうです。さあ、よろしいです。どちらから来ますか。私は、お二人一緒でもよろしいですよ。」
「なめられたものだな」
「いえ、こちらは急いでいますので、早めに終わらせて旅を続けたいのです。」
「本当になめてやがる。」
「ああ、本当だ。なめられて黙ってはいられねえ。」
獣人の方が先に動いた。鈍い金属の音と共に一合目が終わる。速い剣だがそうでもない。
「なるほど、俺の速さに追いつけるか。」
「獣人の速さは獣化してからでしょう。」
「なるほどな」
そう言って後ろに飛びさると剣をすて獣化を始める。
パムは剣を構え直す。獣人は膝をかがめたが、次の瞬間には姿が消えている。そして金属の鈍い音と共にガチガチと刃を噛む音が聞こえる。パムがその獣人の口の中に剣を入れ、獣人は、剣の刃を歯で噛んですんでの所で止めていた。獣人は歯でそれをくわえてぶら下がっている。パムはゆっくりと下に降ろし、足が着いたところで、剣を抜いた。
「おやおやお優しいこって。」魔族の方はニヤニヤ見ている。
「さて、次に参りましょうか。」
パムは、剣を魔族の方に向ける。
「おいおい、そっちはまだ終わってないぜ。」
「別にいつ襲ってきてもかまいません。さあやりましょう。」
「はいはい」
魔族の方は、そう言ってやる気の無い振りをしていたが、いきなり下に降ろしていた剣を振り上げる。しかし、パムは紙一重でそれをかわす。
「ちぇ、おもしろくねえ。こんな誘いにも乗らねえか。」
そう言うと魔族は、剣を青眼に構え、剣に魔力を込め始める。
「いつでもどうぞ」
獣人に背中を向け、魔族と同じように青眼に構えて呼吸を整える。
「なめやがって」
獣人は、いつの間にか獣人化していて、叫びながら置いていた剣をつかみ、パムに迫る。
パムは、その言葉に動じることもなく、横に薙いできた剣を腹で受ける。
「切れないだと。」
「硬質化か?」
「いいえ違います。特殊繊維で編まれていてこの体型の時には、固くなるようになっています。ご覧ください。服は破けていないでしょう」
「なるほど、なら、服ごと切るか、できなくても頭や手足は切れるわけだ。」
「そうなりますね。では、服のハンデを解消しましょう。」
パムは、筋力を増大させ通常より大きい体になる。
「なるほど、伸びる服か。そうなると効果が無くなると。」
「そうですね。ですから」
獣人が再び背中から切りつけてくる。それを紙一重によける。
「服が破かれないように避けなければなりません。」
「わかった、さて、お前は騒ぐな。まず俺と一対一でやらせろ。」
「わかった」獣人は横によけてパムの視界に入る位置に移動した。
「いくぞ」
「どうぞ」
魔族は、片手で剣を振り回す。パムはかわしながら後ろに下がっている。しかし、後ろの木に阻まれ下がれなくなる。
「行くぞ。」
右斜め上からパムに切りつける。パムは、くるりと木の後ろに消える。その木は、あっけなく切り倒された。
その様子を見てパムはぽつりと
「ユーリの真似をしてみましたがやはりうまくいきませんね。」と言いました。
「何を言っている?」
「では、本来の私のやり方に戻しましょう。」
そうして、パムは、大上段に振りかぶり、ゆっくりとそのまま魔族に向かっていく。急な方針変更に戸惑いながらも魔族は、剣を両手に持ちかえて応戦をしようとする。
「このまま行くと剣が折れて私の剣があなたの頭にあたって死んでしまいますよ」
「それは、しかたないな。」
そう言って振り下ろすパムの件をかわして、間合いを取る。しかし、かわしきれずに腕に傷がついている。もちろんすぐ回復して跡形も無くなる。
「さて、仕切り直しましょう。たぶんお二人は、連携技が得意なのでしょう。ですから2人で私とやりませんか。」
「なめられてるが、やるしかないな。」
「ああ、まったくだ」
お互いに頷きあうと一斉にパムに斬りかかる。両側からお互いに相手が剣を振り下ろして作った隙に剣を打ち込んでくる。
「なるほど、さっきより思い切りもいいですし早いですね。」そう言いながらも防御に徹するパム。
「これだけの手数を受けきるのはすごいが、このままいけそうだ。」
「ああ、いける。防戦で手一杯のようだからな。」
「そう見えますか、それなら良かった。では、続きを」
「どういう意味だ」
「では、いきますよ。」
パムはそう言って、剣速を上げ、相手の剣を受けるのではなく撥ね返し、のけぞった相手にさらに剣をよこなぎにする。その隙にもうひとりが横から切りつけるが、一瞥してその剣を受け、はじき、また横なぎにする。
「なんて力だ。俺の剣をはじき返すとは」
「ああ、こんなにドワーフって力があるのか。」
2人は、一度間合いを取ってパムに対峙する。
「でも、今のを決められないならまだやれるな。」
「ああ、いくぞ」
「ここで、やめないようでは、死にますよ」
パムは冷静だ。
「はあ、さっきの攻撃を決めきれなかったくせに。」
「しゃべりすぎました。」そう言って、パムは動いた。2人には一瞬消えたように見えたが、一瞬にして気配が間近に迫ったことを感知してそこから離れようとする。しかし、
「遅いですよ」
避けようとした方向にすでに剣がある。ひやりとした剣の冷たさが魔族の首に感じられる。切られたと思ったが痛みはない。一瞬、ほんの一瞬だった。気配はすでに獣人の方に移動してやはり首に剣を当てている。
「さて、あなた達はすでに死にましたよ。」
一瞬だけ獣人の首に剣を当てていたが、今は、2人から離れた場所にいる。
「ああ、そうだな、おまえ遊んでいたのか。」
「いいえ、実力を測っていただけです。もしかしたら、フェイクで、こちらの実力を測っていたのかと疑っていました。私を油断させているのかと」
「用心深いんだな」
「それで死んだ人達をたくさん知っていましたから。」
「ならば殺してもよかったんじゃないか」
「いいえ、今は、ぬし様のお気持ちに従い、殺さないことを是としています。」
「ああ、そうかそうなのか。それでお前が死んだらどうするんだ。」
「いいえ、死にません。というか死ねません。もちろん窮地に立ったら殺してもいいとは言われていますから生き残ります。それは、ぬし様と約束しましたから。お互いに絶対死なないと。」
「そうなのか。」
「では、もう私を追わないでくださいね。」
「ああ、実力が違いすぎる。どうしてそんなに強くなれたんだい?」
「井の中の蛙ではいけないと言われました。それと私は、良い家族に恵まれました。ともに技術を高め合う人達と暮らし、とても充実しています。それが強さの原因ですね。守るための強さです。ああ、しゃべり過ぎましたね。どうも会話すること自体がうれしくなってきています。自重しないと。」
「もうおまえの旅の邪魔はしない。すまなかったな。」
「あなた達は、まだ成長できます。強くなれますよ。」
「ありがとうよ」
そうして魔族と獣人と別れたパムは、ウンに乗るとその場を去った。
「もしかしたら、ぬし様も危ない目に遭っているかもしれない。急ぎましょう。ウン」
「ヒン」
そしてスピードを上げるウンであった。
ウンの休憩とパムの休憩をあわせて、時間を短縮しながら走って行く。ウンのまぐさだけが問題だったが、途中の町で買いながら走って行く。
それでも、絶対的に距離があり、焦燥感がパムを襲っていた。
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『モーラ様迎えに来てくださったのですか。』
『ああ、家がちょっと大変なことになっているのでな。ほれ、わしの手に乗るが良い』
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『家はともかく、ぬし様は大丈夫なのでしょうか。』
『まあ、あやつは大丈夫じゃろう。とりあえず家まで連れて行きその後あやつを探しに行こうと思う』
『わかりました。』
『ほら見てみい、あれが我らが家じゃ。』
「え?家が・・・そんな」
そこには巨大なクレーターとその中心に家と馬小屋と倉庫だけがある。そして、他の家族はすでに到着していた。ぬし様を除いて。
続く
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