巻き込まれ体質な私、転生させられ、記憶も封印され、それでも魔法使い(異種族ハーレム付き)として辺境で生きてます。

秋.水

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第19話 初めてのお使い

第19-7話 族長会議

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 族長会議

 光の柱ができるほんの少し前
 親書には、最後の親書が開封後、その翌々日の昼に族長会議を開催しますと書かれていて、親書を携えて座っているようにと書いてあった。
 親書の封蝋が青に変わり、最後の親書が開封されたことを知らせる。
 その二日後、太陽が中天にかかるころ、親書が展開され、霧が発生して、その霧が晴れた時、そこには、あたかも全員が顔を合わせているような情景が現れる。ガブリエル、ルシフェル、エルフの族長、魔法使いの里の魔女は、椅子に座っていて、ドラゴンの宗主やドワーフの族長、孤狼族の族長は、あぐらをかいて座っているので、まるで宙に浮いているように見える。
「皆さん初めまして。天使長代理から天使長にされてしまったガブリエルです。よろしくお願いします。さて、急な会議に参加いただきありがとうございます。」
「族長会議など百年単位ぶりではないか。そうそう、ドワーフの族長が交代した折が最後ではなかったか。」
「そうなりますねえ、ああ、そういえば、魔王の交代の時にも開いていませんしねえ。」
「そういえばそうでしたね。初めまして。私が現魔王ルシフェルです。よろしくお願いします。隣に同席している者は、今回の関係者です。発言はしません。」隣にアンジーが立っている。
「ドラゴンの始祖です。名前は言いません。よろしく。同席の者は、今回の関係者で参考人です。」モーラが正座している。
「エルフ族族長です。お久しぶりです。」
「獣人族代表孤狼族の長です。お久しぶりです。」
「ドワーフの族長は、体調不良ですので、受け答えは、族長代理のわたしがうけたまわります。よろしくお願いします。」
「元魔王です。どうして呼ばれたのかわかりませんが。よろしくお願いします。」
「魔法使いの里の代表ですよろしく。皆さんとお会いできてうれしく思います。」
「今回お呼びだてしたのは、他でもありません。それぞれの元に親書を届けた者達のことです。」
「ああ、ちまたでマジシャンズセブンとか言われている集団のことか。」エルフ族の族長が笑いながら言った。
「本人達は家族と言っていますが。」孤狼族の族長が何か含みのある発言をする。
「そうでしたねえ。さっそくですが、今回の親書を配ってもらうにあたって、それぞれの部族には、事前に知らせておきましたが、親書を持参した者に部族最強の者による襲撃や集団で危害を加えようとしたという報告が入っています。まあ、届けた側も防ごうとした側もお互い無事で、ちゃんと親書が届いているという事は、なんの障害にもならなかったという事ですねえ。ああ、敗れたわけではなく、彼らは退けただけで、倒したとは思っていないでしょうけど。」
「・・・・」先ほど笑っていた、エルフ族の族長の表情が急にかたくなる。
「ですから、彼らは、それぞれの一族の最強と言って過言ではない。もっとも、追放されている身ですからそもそも一族から見れば部外者なので元となるのでしょうけれど。」
「一体何が話したいのかしらねえ」
「そして、その全員を隷属させている異世界から来た魔法使い。その実力については、皆さんどう思っていらっしゃいますか。私は興味津々です。」
「わしも同じじゃ。」
「そうねえ、興味はあるわね」
「たしかにのう」
「そう思われると思いまして、今回はこのような座興を用意しました。ご覧ください」
 そう言うと座っている全員の中心に明るく大きな画面が現れる。
 そこには、森に隠れた家が映されている。上からや正面から、俯瞰した遠景など4分割された画面が映っている。
「ここは?」
「ここは、噂の魔法使いが家族と共同生活している家です。結界が張られ野生動物や魔獣は入り込めません。」
「何が起きるのでしょうか」
「では、いきますよ。はい」
 ドンという衝撃音と共に白い光の柱がその家を直撃して光の中に家が包まれる。
「天使長さん何をしているのですか」
「彼の魔法使いの住む家を攻撃してみました。」
「いいのかそんなことをして、やつら神であっても反撃してくるぞ。」
「大丈夫みたいですよ。ほら」
 光が収まってくると、光の柱がその家を攻撃し続けていて、撥ね返しているのが映される。
「撥ね返しているのか、光の槍を」
「ええ、攻撃の一部を吸収してシールドに回して再利用しています。すごいですね」
「エネルギーを吸収して変換する魔法ですって?」
「そうです、どこでそんな魔法を憶えたのですかねえ」
「だれもそんなこと教えられませんよ、私たちは、そもそも知らないんですから。きっと彼が自分で編み出したんでしょうね。それはそれで末恐ろしいですけど。」
「これはすごい結界じゃな。こんな魔法使いを相手にしていては、命がいくつあっても足りないと思いますね。」ドワーフの族長代理が言った。
「はい、願わくば私達に牙を向けないことを願います。」孤狼族の族長が言った。
「おぬしらは、一度関わっておるじゃろう。味方ではないのか」とドラゴンの長。
「ええ、その時は、力になってくれました。しかし、最初にお会いした時に礼儀を失して対応してしまい、大変なことになりかけました。その時の印象では、たぶん一度敵に回ると手ひどいことに。いや、手ひどいどころか、一族全て殺されるでしょう。それだけの激情をあの方は持っております。」
「魔法使い達はどうなのじゃ、こんな者を放置しておいては、危険であろう」
「殺せないわけではないわね。でも、手を出せばこちらも大半の者は死ぬでしょう。それは、魔法使いの里やこの世界の維持のことを考えたらこちらから仕掛けたくはないわね。こんな人とは争わないのが一番のようだわ。無益ですもの。」
「他の部族はどうですか。手を出そうとする部族はありますか。」
「魔族はどうなんですか。前に迷いの森で多数殺されたと聞きましたが、恨みはないのでしょうか。」エルフ族の族長が水を向ける。
「あれは、こちらから仕掛けていますからねえ。しかも殺されたのは低級魔族で、低級魔族達の恨みは、あんな化け物を襲えと戦いを指示した指揮官に向かっているようですから、今のところ復讐することなど考えられませんね。」とルシフェルが言った。
「ふむ、結論は出たようですね。」とドラゴンの族長が言った。それに対して全員が頷いた。
「ふむ、わしが仕切ろうか。皆のうなずきによって意見の一致を見たとする。最果ての賢者である土のドラゴンの縄張りに住む、別の世界から来た魔法使いについては、こちらからは、手を出さないものとする。ただし、我々やこの世界に対して動き出したならば、われらが一丸となってこれを排除することにする。もっとも族長会議に参加しておらん種族や人族については、そやつと小競り合いしようが、戦争を仕掛けようが静観するということでよいであろうか。異議ある者は、発言してくれ。」
「ないようじゃな。改めて、土のドラゴンの縄張りは、不可侵とする。以上。」
 そうして、族長会議は終了した。

 その少し前、ドラゴンの里でのこと。
 モーラとしては、すでに10日を経過していたので、早く帰りたくてイライラしていた。族長会議までここにいろと言われてはいるが、いつ開催されるのかもわからない。
 そんな時にモーラは、始祖に呼ばれた。
「なんでしょうか。」
「これから、族長会議が始まる。一緒に参加するように。」
「しかし・・・」
「ああ、お前を次の族長に据えるつもりはない。安心しろ。お前の家族のことだから一緒に見ろと言っているのだ。わしの隣に来い。」
「はい」
「さて会議が始まるぞ。」
 そして、光の柱を見る。
「これは、わしの憩いの場をなにしてくれやがる。くそ天使があああ」
「おや、住んでいる魔法使いは心配しなくていいのか?」
「いや、あやつはこんなことでは、死なんわ」
「どうせそこにいないのであろう。」
「ばれていましたか、そうなんじゃが、それにしてもやってくれる。」
「見ててわからんか」
「なん・・・だと。破壊されていない?」
「おまえのところの魔法使いは、ほんとうにすごい魔法使いなのですねえ。」
「いや、これはまずいだろう。この世界一丸となって、抹殺しに来るぞ。」
「まあ、会議の行く末を見ていなさい。」
 そう言って始祖様は、会議に参加し続けている。

 族長会議の少し前、魔王城
「アンジー仕事はもういいから。隣に来なさい。」
「なんでしょうか。」
「これから族長会議でおもしろいものが見られますよ。」
「興味ありません。」
「いや、あなたの家族のことなんですけど。」
「何しようとしているんですか。」
「見ていればわかりますよ」
「では見ます。」
 そうして、光の柱が家に打ち込まれる。
「えええええええ、私の私たちの家が・・・・ガブリエル様一体何をやらかしますか。」
「へえ、そこに残してきた魔法使いのことは心配しなくていいのかい?」
「べ、べつにあいつのことなんか気にしてないわよ。死んだって別に」
「やはり他の場所に居るのですね。」
「まあ、そうなんですけど、家壊してくれやがりますか。あのばか天使長は。いて。何か落ちてきましたよ。」
「まあ、見てご覧なさい。果たしてそうかな?」
「ええ?家だけ壊れていない。」
「そうみたいだねえ」
「あのばか、こんな防壁やり過ぎよ。世界すべてを敵に回すつもりなのかしら。」
 そして族長会議は続けられた。
「結果を聞いて安心しましたか?」
「はぁ」とため息をつくアンジー
「どうしましたか?」
「おおかた、始祖ドラゴンとルシフェル様とガブリエル様がこの小芝居を演出したのでしょうねえ、性格の悪さが出ていますよ。」
「ええ、そこまでわかるのかい?」
「まあ、一瞬、ルシフェル様の顔色が変わりましたから、ここまでするとは思っていなかったのでしょうけど、事前に我々の処遇について、打ち合わせしてあったというところですね。それについては、ありがとうございます。」アンジーは、一礼した。
「アンジーさすがだねえ。あのガブリエルが欲しがるわけだよ。」
「そんな能力いりませんし、欲しがられてもあげませんよ。」
「そうなのかい?」
「でも、これで私たちは晴れて静かに暮らせる・・・わけでもありませんね、人の方が面倒ですねえ。」
「まあいいじゃないですか。それ以外は別に静かに暮らせるんだし。」
「逆に私たちが関わっていれば、人族との諍いに不干渉になるわけでしょう?」
「確かにそうですねえ」
「そういうことなんですよ。はあ」
「まあ、問題は少ない方がいいでしょ?」
「さて帰りますね。」
「そうか、名残惜しいけど、おい」
「はい」例の暗殺者さんがさっと現れてアンジーにマントを覆い被せる。
「少しは丁寧にって、もう抱え上げなくても」
「我慢してください。単なる荷物を持ち出す感じにしないと怪しまれます。」
 彼は、ちょっと笑いながらわざとぞんざいに扱っている。なぜかルシフェル様も楽しそうだ。
「楽しんでいるのが伝わってきてますよ!!もごもご」
「はい、部屋から出ますから静かにしてくださいね」
「丁重に扱ってあげてね。よろしくお願いします。」
「わかりました。」
「・・・・!!!!」
 そうして、アンジーは、魔王城から持ち出された。


そしてドラゴンの里
「結果は満足ですか」
「ああ、わしの縄張りが不干渉地帯になったのは喜ばしいがな。縄張りに入ってきた者に対してわしが何をしても問題ないのじゃろう?」
「そう解釈しますか、都合が良い耳ですねえ。むしろ、問題が起こってもわたしたちを頼らず穏便に解決してくれと言っているのですが。」
「どうせ、ていよくわしの縄張りに問題を持ち込んで、知らぬ存んぜぬをきめこむのであれば、今とそう変わりは無いではないですか。」
「まあ、そう考えますか。確かにそういう使い方もできるなあ。」
「使う気満々じゃないですか」
「まあ、急いで帰りなさい。家族が心配しているだろうから。」
「そうさせてもらうわ。まあ、今回の事、感謝はしていますよ。どちらの方々か知りませんが、ちょっとお遊びしようとしたのが見え見えですけどね。しかし、大げさすぎはしませんか?」
「それはわたしも思ったけどね。」
「では、失礼します。」
 モーラはそう言って、その屋敷を辞し空中にふわりと浮かんでドラゴンに変化する前に不可視化の魔法を使い、飛び去った。
「おやおや不可視化の魔法を憶えたのか。まったく、勉強熱心なことで。」
 屋敷の中で始祖龍は、にやりと笑いながら独り言をつぶやいた。
 モーラは、飛びながら
「そういえば、アンジーを連れて帰るか。どうせ魔王城に監禁されていて、今頃放り出されているだろうから」
『アンジー聞こえるか?』
『ああ、いたいた。聞こえているわよ。戻るところなの?』
『ああ、ついでだ、一緒に帰るか?』
『お願いするわ、降ろしてもらった場所にいるからお願いね。』
『わかった』
 その街に到着して、滞空しているとアンジーが天使の姿で空に昇ってくる。
「わしのいる場所がわかるのか」
「まあ、多少はね。モーラは、以前と違って存在感があるのよねえ。」
「それは、不可視化の魔法の改善が必要じゃな」
 そう言ってモーラは不可視化のままアンジーの足元に手を差し出す。
「まったくあいつに感化されすぎよ。」
 アンジーは、ゆっくりと降下してその手の上に降りる。するとアンジーも見えなくなった。
「これからさらに必要になりそうじゃからな」
「そうね、面倒ごとが増えそうだものねえ。やっかいだわ。この力を捨てた方が良かったかしら」
「わしはもったいないと思っているぞ、力が無いと後悔しそうな事も起きそうじゃからなあ。」
「確かにねえ。」
「おう、もう到着じゃ・・・画像で見るよりもひどい。これはまずいなあ。」
「ええ、ここまでひどいとは思いませんでしたねえ。」

 そこには、焼け野原ができ、さらに家は無事だが、家を中心にして大規模な窪地ができている。窪地の周辺の森は焼き尽くされ、野原の一軒家ならぬ焼け野原の一軒家になっていた。
 そして、そこに呆然と立ち尽くす家族がいた。
「おお、みんな無事だな。」
「そうみたいね」
『みんな大丈夫か』
『モーラ様。どうしましょう。』
『どうしようかしらね』アンジーが思案している。
『アンジー様も一緒ですか』
 アンジーがモーラの手を離れたところで、モーラも人型になり2人で揃って地上に降り立った。そこには、エルフィ、ユーリ、レイ、メアの4人しかいなかった。パムはまだ到着していないらしい。
「みんな無事か。」モーラの問いに全員がうなずく。
「パムはまだもどっていないのね」
「はい、一番遠いので戻っている途中かと。」
「わしがちょっと見てくる。」
「ついでに、あいつがどこにいるか探してきて。」
「ああ、そうじゃな。まずはパムを連れてくることにしよう。あやつを探すのは、少しかかりそうじゃしなあ。」
「その間にここを何とかしないとね。」
「なにか方法があるのか?」
「モーラが戻ってくるまでに段取りはしておくわ」
「確かにわしの領分だからのう」
「できるだけここをいじらないようにしたいのよ」
「わかった。まかせる。ではいってくる」
「お願いね」
「お願いします」
「頼みました~」

「さて、アンジー様どうなされますか。このままにするとはどういうことですか。」とメア
「前にあいつが言っていたわよね、家はまるごと移動できるって。」
「はい~束石の上に上がっているだけだって言っていましたよ~」とエルフィ
「なるほど、そのまま移動させるのですね」とメア
「それがいいんじゃないかしら。さすがにあの場所に土を盛ったりしてもすぐに木が生えるわけでもないから。」
「でも、地下室がありますよ。そして、あるじ様の研究室も」ユーリが言った。
「ああ、それはねえ、家と切り離せるようになっているのよ。」
「そうなんですか。」
「なので、場所を確保して、地下室を掘って、上物を移動させつつ、地下室を掘って移動して埋設して、その上に家を置く形になるわねえ。」
「まずは、移動させる場所の確保ですね。」メア
「かしこまり~」とエルフィ
「馬小屋とサイロと倉庫は、解体した方が早いわねえ」
「そっか~しょうがないね~」エルフィが馬たちを集めて話をしている。
「どう?説得できた?」アンジーがエルフィに尋ねる。
「条件があるそうです~」
「どんな条件なのかしら。」
「もう少し広くして、もう何頭か入れるようにして欲しいそうです。あとね~」
「まだあるの」
「シャワールーム欲しいって。」
「まったくうちの馬たちは。まあいいけど。広さは何とかなるけど、シャワーはどうなるかわからないわ、なので、少し待ってもらっていいかしら。あいつが戻ってから検討させるわ。もっとも、あいつならうれしそうに作ると思うけどね」
「ラジャー」そう言って馬たちに話しかけるエルフィ。馬たちは納得したようだ。とりあえず、残っていた馬小屋に馬たちは、入っていく。
「私とエルフィで森の中に適当な場所を探してきます。」メアが言った。
「ああ、全員で行きましょう。」

『パムは見つかったので一度戻る、あやつは、たぶん不可視化の魔法で見えなくしているのじゃろう。南へ行って声を掛けねば、ようとして知れんな』
『はいはい、たぶんモーラが大声で高笑いすれば一発だけど、私たちの頭にも響くからここからかなり離れてからやってね。』
『わかっておるわ。他の奴らにも聞こえてしまうわ。おう、到着じゃ。』
『やっぱり不可視化の魔法でモーラに送ってもらった方が早かったかしらねえ。』
『この魔法を使えることを知られるわけにはいかないからなあ。それは無理じゃ』
『確かに公には使えないことにしておいた方がいいわよね』
『そうじゃな』
 パムがいきなり家の真上に出現してそこから飛び降りた。
『モーラ様ありがとうございました。助かりました。』
『引き続きあやつを探してくる。』
『全員戻っているんですね。無事で良かったです。』と私が声を掛ける。
『おぬし、今どこじゃ』
『家に何かあったようで心配で帰ってきました。もう少しで着きますよ』
『そうか、では迎えに行かずにまっとるぞ。』
『そうしてください。』
 まもなく砂煙とともにポンチョをかぶった人が走ってきてみんなの前でとまった。
「おや、ひどい有様ですねえ」私は、ポンチョを脱ぎ、後ろに背負った子どもを地面に寝かせる。
 その子は、見た目から人ではない。どちらかというとパムに近い姿をしている。頭髪はなく、着ているものもふんどしみたいなもので下半身を覆っているだけだし、裸足であった。
「エルフィ、申し訳ありませんがこの子の様子を見てもらえませんか。」
「ラジャー( ̄^ ̄)ゞ」敬礼をして、すぐさま様子を見る。
「その子どうしたの。」
「帰る途中に倒れているのを発見しまして、傷もひどかったのですが、私も急いでいたので、手当もせずにここまで連れてきてしまいました。」
「ケガの方はもう大丈夫ですよ~、あとは、脱水と飢えですね~」
「では、まずこれを」そう言ってエルフィに水の入った袋を渡す。
「人肌になっていますから冷やさずそのまま少しずつ与えてください。」
「わかりみ~。少しだけ飲んでね~」
 その子は、口の中に水が入った途端、目を開いて体を起こして、慌てて飲もうとしている。
「だめだよ~お腹壊しちゃう。口を湿らせて少しずつね~」
 水の袋を無理矢理持ち上げようとするその子の手をエルフィは、やさしく押さえてゆっくり飲ませる。落ち着いたのか、飲むのをやめ、周りにいる私たちを見上げる。
「すりつぶした芋の粉です。水に溶いて食べさせてください。」
 私は、胸に掛けていたリュックから出した粉を携帯用のお椀に入れてその上から水を入れて少し温め、スプーンとともにエルフィに渡した。
 エルフィがスプーンでその子の口に入れると、スプーンを奪い、ガツガツとすすった。まあ、当然だけどむせるんだよね。むせながらも食べ尽くしたその子は、悲しげに私を見る。
「少しずつ食べないとお腹に悪いのよ~だから落ち着いてね~」
 エルフィはそう言って、私から受け取った追加の芋の粉を水で溶いている。その子は、まちきれなさそうにその様子を見ている。
「さて、その子はどこで拾ってきたのかしら。」
「たぶん砂漠の途中だったと思いますが、正確な場所はわかりません。」
「戻してこないとまずいのではないですか。」
「おえ、」その子が胃の中のものを吐きそうになる。しかし、その子は口を押さえ胃に戻したようだ。
「吐かずに無理矢理飲み込むとか、この子はこんなことを何度か経験しているのですかねえ」
 胃の痙攣が治まったのか。再び周囲にいる私たちを見回す。パムが近づき、その子の正面に座って何かの言葉を話した。不思議そうに首をかしげる。するとパムは、違う言葉を話し出す。3回目に違う言葉で話し出すと、言葉がわかったのか会話を始めた。
「パムは何でもできますねえ。」
「そうですね、私たちにはありがたいですが、もったいない気もします。」
 その子は、泣きながら、パムにすがりつく。パムはやさしく抱きしめる。
 その子が泣き止むまで皆が見守っている。落ち着いたと判断したのかパムがその子から離れようとする。しかしその子は眠っていてパムの手を離そうとしない。
「何があったのですか」
「私もこの子も言葉が片言なのです。その子が言いたかったのは、夜に何かに襲われて逃げた。みんな殺された。くらいしか私にはわかりませんでした。」
「この子は、どうしますか。ご主人様。」
「これは仕方がありません・・・」
「この子は、私が今、町に作っている孤児院で面倒を見るわ。」
 アンジーがきっぱりと言った。
「ええっそうなるの?」私は、アンジーを見た。
「この家のありさまを見て、この家に預かることができると思うの?」
「それは、まあそうですね」
「わかったかしら。でも、孤児院に住まわせるにしても、言葉もわからないまま置いておけないから。パムが日中は面倒を見てもらわなければいけなさそうね。孤児院には、お世話係の人がいるから。パムは、その人に言葉を教えて欲しい、そして、その子にはここの言葉を教えて欲しいの。」
「私たちはどうしますか。」私は不満そうに言う。
「この家は、これから森の中に移動しないとまずいでしょう。」
「ならば・・」
「だから一緒には暮らさせないわ。見たところ種族は違うけど普通の子どもよ。私たちのゆがんだ日常生活になじませたくはないの。」
「拾った私としては・・・」
「あんたのことはどうでもいいの。私にとって、この子は都合がいいの。これからは、この子のように、種族も違い、言葉もわからず、この町に流れてくる子がたくさん出るかもしれない。なので、私の作ろうとしている孤児院の最初の子として預かります。まあ、一番難易度の高いこの子で練習すれば、孤児院のスタッフも成長するというものでしょう。」
「練習って、アンジーさん、この子は、」
「おぬし、もうやめておけ、わかっているじゃろう。悪役を買って出ているのを」
「あんたねえ。自分の手が触れたものをすべてを守ろうとしてもだめなの。少なくともこの子はこの町で守るの。わかった。あなたが守ろうとしているこの町のひとりとしてね。」
「はい、そうします。」
「とりあえず、元気になるまでは、ここに居てもいいけど、夜には町の孤児院で寝てもらうからね。」
「そのためには、私達の住まいを移動させないとなりません。まずは場所を探しに行きましょう。」とメアが言った。


 続く


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