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第20話 メイド喫茶(まとめて)
第20-1話 メイド喫茶1(ビギナギル編)
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これは、まだ、ビギナギルに住んでいる頃の話です。魔獣の襲撃が終わってまだキャロル達が家に居る頃の話です。
ビギナギルほどの街になりますと、収穫が終わって一段落すると、収穫祭を行っているそうです。
この街は、物流を主な産業としていますが、食糧自給率も高く、農耕牧畜も盛んなのです。
当然、秋になると今年の収穫を祝い、来年の豊作祈願のため収穫祭を行うそうです。まあ、冬ごもり前の重要なイベントですね。
そんな頃に領主様から直々のお呼び出しです。ええ、それも私ひとりで。いつもならそばにいるはずのモーラとアンジーは、ミカさんと共に、地域の子ども達と遊びに行ってしまいました。言い訳は、「ああ、地域の子どもからだって貴重な情報は手に入るものじゃ。」とか言っていましたが、多分ガチで遊んでいるはずです。
いつもの執務室?で待っていると、領主さんが部屋にうれしそうに入ってくる。
「実はお願いがあるのです。」
座って話し始めた領主様の隣には、いつの間にかメイド服を着たキャロルが座っています。ああ、可愛いですねえ。おっと見とれていてはいけません。
「どんなことでしょう。」と、私は真面目な顔に戻って言いました。
「近々収穫祭があるのですが、例年同じような中身でマンネリ化していたのです。それで、街の人達にどんな催しが良いかと聞いたのですが、あなたの家族に参加してもらったらどうかという意見がありまして。」
「はあ、どんなことをして欲しいか聞いたのでしょうか。」
「それがですね、誰が言い出したのかわかりませんが、ある王国では、お茶を飲む習慣があり、制服を統一して、お茶やお菓子を出している店があると言うんです。」
「はあ、それをやれと言うんですね。」
「ええ、まあ。気乗りしなければ断っていただいても良いのですが、何か噂が先行してしまいまして、すでに店の場所やら制服のイメージやらが出回ってしまって、私たちも後戻りできないところに来ています。できれば家族の方を説得していただいて、収穫祭に華を添えていただきたいと思いまして。」
そう言って領主様が私に頭を下げました、あわててキャロルも頭を下げました。なるほど、すでに周りから固められていましたか。
「とりあえず、家族のみんなに聞いてはみますが、人見知りもいますので、」
「こちらからお願いする前に噂が街に広がっていますので、お怒りになる方がいらっしゃるかも知れませんが、ひとつよろしくお願いします。」
「わかりました。」
そして、キャロルに手を振って領主の館を出ました。どう言って頼もうかと考えながら歩いていると。露天雑貨の並ぶ通りで、荷物を持ったメアさんとユーリに会い、その後広場の方に行くとモーラとアンジー、ミカさんがいました。ええ、子ども達と遊んでいます。
子ども達に領主様がくれたお菓子を配って、さよならの手を振り、酒場でエルフィを迎えに行き、みんなでそのまま家路につきました。
「何を悩んでいるのかしら。」
隣を歩いていて、のぞき込むように私を見て、意地悪そうな顔でアンジーが言いました。
「領主からの頼み事じゃろう。たいした話ではなかろう。」肩車してもらいながら言うセリフですか。
「とりあえず、帰ってヒメツキさんも交えて離しましょう。」
「先に話さんか。」
「ええ、すでに噂を聞いているのでしょう?」
「ああ、お店をやれと言われたそうだな。制服を統一して」
「はい、どう思いますか?」
「まあ、聞いてみれば良いであろう。恥ずかしがるのは2人くらいじゃないか」
「エルフィとああ、ユーリもそうですね。」
「わしはやるぞ。おもしろそうじゃ」
「まあ、やるのはかまいませんが、大変ですよ。」
「店の売り子や居酒屋の給仕などは、すでにやっているからな、むしろ得意じゃ」
「ああ、なるほど、でもお給料は出ませんよ。お祭りの出し物ですから。」
「まあ、日頃からここの者達には世話になっているからのう。」
「さいですか。」
「なんじゃ、そのやる気のなさは、」
「いや~な予感しかしませんよ。トラブル満載そうです」
「まあ、トラブルも楽しまんとな。」
そして、夕食になりました。食事中の話題としては、食が進まなくなるかもしれませんが、まあ仕方ありません。
「今日はそれぞれ自由行動で街に出ていましたから、たぶんいろいろ言われていると思いますが、その話です。」
「もしかして~、お店の話でしょうか~。」おっと語尾がトーンダウンしていますねえ。
エルフィがぐったりしている。食事前だというのにやっぱりお酒飲んできましたか?
「そのとおりです。」と私
「その話で居酒屋は持ちきりですよ~誰に給仕してもらう~とかその話ばかりです。そもそもそんな話は聞いていないのです~」
「そうでしょう。私も先ほど領主様から初めて聞かされましたから。ですから、もちろんお断りもできますよ。」
「断ったら~あとで何を言われるか~恨まれますよ~」
嫌なのは食事の方なのかそれとも話題なのか。ちゃんと食べてくださいね、作った人に悪いので。こんなおいしいものを残したら今度から禁酒ですよ。
「領主様は、これが狙いだったのでは?私たちに断れなくするには一番効果的かと思います。」
メアさんがみんなに食後のお茶を配りながら言った。
「そうよね、噂が早すぎるのよ。会う人ごとに当日は必ずお店に行きますね、とか言われているんですから。これは、どう考えたって確信犯よね。」
アンジーが出された食後のデザートのゼリーに強くフォークを突き刺す。表現がちょっとオーバーですよねえ
「ああ、はめられましたかねえ。」ヒメツキさんもそう思いますよねえ。
「私も皆様の服を見に古着屋に行ったのですが、全員のサイズを聞かれました。」メアが、そう言った。
「全員のサイズを憶えているのですか?」ユーリが聞いた。
「はい、だいたいですが。」
「そうなのそんなに変化するものなの?」
「実は、身長が伸びてきているのはユーリ様とキャロル様、胸が育っているのはエルフィさんです。」
「なるほど。他は動かないわよね。」
「ええ、ですが、ドラゴンの皆さんも少しずつですが大きくなっています。」
「そういうものなの?」
「そんなの知らんぞ。ヒメツキそういうものなのか。」
「私も初めて知ったわ。そんなことあるのかしら。」
「はい、0.1ミリほどですが。」
「そりゃあ誤差の範囲じゃろう。」
「そういえば、家族と言っていましたが、私たちも入っているのかしら。」
「ヒメツキ様、サイズはすべての方のを聞かれました。」
「キャロルやミカもですか?」
「はい聞かれました。」
「教えたの?」
「いえ、まだです。」
「そう、よかった。」なぜそこで安心しますか。体型変わらないですよねえ。
そこで、玄関の扉をけたたましく殴る音が聞こえます。
「おや、来客です。無事結界を通れたということは・・・」言い終わる前に扉が開き、人が入ってきました。
「どういうことよ!!」その声はエリス様ですね
「何がどういうことなのじゃ、話が見えんぞ」
モーラがニヤニヤしながら対応する。
「あなた、今度の収穫祭に喫茶店を出すそうじゃないの」
私を指さして言わないでください。そんなの知りませんよ。
「喫茶店ってなんじゃ」モーラがわざと首をかしげる。
「ああ、怒りについ、でてしまったわ。お茶を出すお店を出すそうじゃない」
「先ほど、領主様からお願いされましたけど。」
「先ほどって、今日聞かされたの?事前に話を聞いていたわけではないの?」
「はい、今日、突然言われました。」
「なるほど、で、誰が給仕をすることになっているのかしら。」
そこでエリスさんは、少し冷静になったようだ。
「私の家族、あと同居している3人と思っていますが。」
私は両手の指を折りながらそう言いました。ああ、もう少しで両手が埋まりますねえ。
「なるほど、噂なのね。」
少し安心したようです。かぶっていたフードと外套を脱いで、横のコートかけにかけて、空いている椅子に座りました。そこにメアがお茶を持ってくる。
「お主も街で言われたのか。」
「ええ、元締めさんが私に「収穫祭に参加するなんて初めてじゃないか?」と言ったので何のことか聞いてみたら、あなたの出す店で給仕をすることになっていると言っていたわよ。」
「街ぐるみで私たちをはめましたねえ。」私は深くため息をついた
「そうなるな。」モーラは笑っている。
「まあ、はめられたのはしゃくですが、すねて参加しないというのも大人げないと思います。それに、エリスさんに期待する街の人の気持ちもわかりますからねえ。」
「どうわかるのよ。」そこで睨まないでください。綺麗な顔が台無しですよ。
「まず、あの魔獣使いの襲撃を撃退したときに一番活躍した魔法使いさんに興味を持つのは当たり前ではないでしょうか。特にその美貌は、これまで表に出していなかったでしょ。」
「確かにこれまでは、顔は隠していましたわね。」
そこで美貌とか褒められて少しうれしそうですねえ。褒められ慣れていないのでしょうか。
「陰気くさい裏路地の隅の薬屋でばばあしゃべりしていた人が、実は美人で大活躍したといえば、当然興味もわくでしょう。」
「そんなものかしらねえ。」いや、顔を赤くしてますねえ。褒められ慣れていないのでしょうか。
「あと、ヒメツキさんもミカさんもたまに街に顔を出す程度ですが、皆さん気になっていると思いますし。キャロルが家族として紹介している人ですから、どんな人か気にっていると思うのですよ。どうですか?」
「確かにそうじゃのう。」そう言ってニヤニヤしているモーラ
「その立ち居振る舞いが見られ、給仕をしている姿やお客様との会話を通して、おのずと心根も見えるというものですよ。」
「そういうことですか。」なんか私の言葉にヒメツキさんが納得しています。騙されやすいですねえ。
「さて、私の手札はすべてさらしました。レイズするもベットするも降りるも自由ですよ。」
「おやおや、異世界の言葉が出てきましたね。」エリスさんが面白がっている。
「最近、ポーカーやらなんやらトランプをやり始めてなあ。夜も結構盛り上がっているのじゃ。」
「野中の一軒家だからいいけど、見つからないでね。」
「はいはい。まず、今回の話から降りる人いますか?」
アンジーがみんなに声をかける。ミカさんさえも手を上げない。
「おや、誰もいませんか。ユーリやエルフィは恥ずかしくて断りそうですけど。」
「もうさんざんいじられたから大丈夫~」
「僕は、恥ずかしいのですけど、いろいろ相談に乗ってもらっている女の子達から嘆願書をもらってしまって。やらざるをえなくなっています。」
「なるほど、女の子の友達ができて、その子達からお願いされたのですね。」
「ええ、男装してくれと。」そこで一同椅子からずり落ちかける。
「そういうことですか。でも、時間をずらして女性の服を着ても良いのですよ。」
「それはもちろん着たいのですが、すでに用意されていて。」そう言って自分の部屋から服を持ってくる。おお、タキシードですねえ。仕立ても良さそうです。
「なんですかそれ。」ミカさんが不思議そうに見る。
「洋服の相談をしたときにサイズを測られて、可愛いの作ってあげるとか言われていたら実際にはこれを作ってくれました。」そう言って燕尾服を広げてみせる。
「へえ、センス良いわね、ちょっと着てみなさいよ」
「あとで、着てみます。」
「なるほど、そういうニーズもあるのですねえ。」
「モーラやアンジーはどうなのですか。」
「私らはねえ、いつも居酒屋手伝っているし、新鮮味は制服くらいかしらねえ。」
「そうじゃなあ。まあやっても良いなあ。」
「おや、いつもの切れがないですね。もしかして、裏取引しましたか。」
「ふ、ここでばれるとはなあ。」
「あんた演技下手すぎよ。ちゃんと演技しなさい。」あなたのオーバーアクションも大概でしたがねえ。アンジーさん。
「こんなもの後になればなるだけ後ろめたくなるじゃろう。このぐらいが潮時じゃ」
「なるほど、そういうことなのね」ヒメツキさんの後ろに炎が見えます。
「まあなあ、こういう形でもないとお主らもこの街になじまんじゃろう。確かにヒメツキとミカは、もう少しでいなくなるじゃろうから良いかもしれんが、キャロルには、おぬし達との思い出が、この街でのみんなとの思い出くらいあっても良いかなとか思ったのじゃ。」
「そう言えば、私が断れないと思ってですか。まったく。この男やアンジーと一緒に暮らすようになってさらに口が達者になったわね。」ヒメツキさんがあきれている。
「まあ、こやつの頭の中におぬしらに思い出を作ってあげたいと、少しだけそういう考えがあってな、それを拝借しただけじゃ。悪く思うな」
「あなたのせいとは知りませんでしたよ。」あきれたような目で私を見ないでください。
「私は考えていただけで、それを頼んだわけではありませんよ。」
「でも、気持ちはありがたいわ。ありがとう。」
「他には、何か言っておきたいことはありませんか。」
まあ、ここまできてやっぱりやめるような人はいませんね。
「では、今度はせっかくやるのですから、こうしたいという案はありますか。」
「はい、」
「メアさんどうぞ。」
「やるからには、制服はメイド服でお願いします。」
「なるほど、メイド服ですか、今着ているのでいいですか?」
「実は、メイド服については、前のご主人とは、私が生まれてから、すでに様々な試行錯誤をしておりまして、結局おとなしめの現在のこのタイプに落ち着いたのですが、前の主人は、最初、超フリフリのメイド服をデザインしまして、それを着ていた時期があります。」
「ああ、そうそう、そうなのよ、あの人はフリフリのついた可愛いものが好きでしたからねえ。」
「はい、家においてフリフリは作業の邪魔ですし、汚れもつきやすいので嫌だったのですが、デザインは気に入っていました。」
「なるほど、今のヴィクトリアンメイドではなくてフレンチメイド風だったと」
「ご主人様、さすが造詣が深いですね。そのとおりです。」
「あんた本当にくだらない知識ばかり持っているわねえ。フリフリなんて実際に見てみないと着られるかどうかわからないでしょう?」アンジーが私の頭の中のイメージを見てあきれている。
「今、私の所に一着だけあります。こんな事もあろうかと一着だけ残してありました。」
「話が先に進まんが、わしらには、メイド服のイメージがメアの着ているものしかないからのう、とりあえずサイズの合いそうな人だけ着てみてくれんか。」
「では、私が着て参ります。」メアはそう言ってひらりと自分の部屋に戻った。そうしてしばらくして、居間に入ってきて一度くるりと回り、まるでバレリーナのように右足を少し前に出して止まり、少し広がったスカートの裾をつまみ軽くお辞儀をする。
「おお、これは、ひらひらで確かに少し足の露出が高いなあ。確かに仕事着とは、いえんしろものじゃ」
「でも、サイズもぴったりだし似合いますねえ。特に脚の線とか綺麗ですねえ。」
私はついついその美脚に見惚れてしまう。そこにいるほぼ全員が私を冷たい目で見ています。
「確かにそうじゃなあ。」おや、さすが年寄り、思考が合いますねえ。
「違うわ、美しいと言っただけじゃ。おぬしのは思考にも嫌らしさが出ておる。さて、次、エリスどうじゃ着てみないか。」そう言うとエリスさんが嫌がらずにメアと一緒に着替えに行きます。やはり着てみたかったのでしょうか。
少ししてメアと一緒に居間に入ってくる。
「胸がねえちょっと苦しいけどどう」
しきりに胸元のはち切れんばかりの服の状態を気にしている。
「いやあ、大丈夫ですよ。それにしても、綺麗です。さすがにサイズが違いますからちょっとつらそうですけど、ジャストサイズの服を仕立てたら、きっともっといいですねえ。」
「ああ、あの胸のあたりがはち切れんばかりなのがいいのう。」
「モーラ、いったいどこ見てんのよ。」
「これは、少しエロい~」
エルフィのその言葉に胸を隠して、恥ずかしそうに、メアの部屋に戻って行った。
「まあ、ヒメツキも着てみないか。いつもパンツ姿だからなあ。見てみたいぞ。」
そう言われて、キャロルとミカを見るヒメツキさん。キャロルのキラキラした瞳に負けて、立ち上がり、メアの部屋に向かった。いやあ、キャロルがいなければ着てくれなかったでしょうねえ。
「さて、ヒメツキの番か。ほほう。これは、これは、」
入ってきたヒメツキさんは、まあ、メイド服が負けています。ちょっとくるりと回ってみても、メイド服と言うよりはアイドルですねえ。
「そうですねえ、映えますねえ。」
ユーリもエルフィも口を開けて見ています。まあ、あまりこういうヒラヒラな服を普段着ていませんからギャップもあるのでしょうが、特にそう見えますね。
「ヒメ様お綺麗です」キャロルの瞳がキラキラしています。
「ヒメツキ様これはお似合いです。」なぜかミカがうっとりしています。
そうなの?程度の表情ですが、さすがにうれしそうです。そして、モーラがユーリに目で合図をして嫌そうに立ち上がります。そして、ヒメツキさんと一緒に居間を出て行く。
「次はユーリか・・・まあ、体格とサイズが違うから仕方がないが、きっと似合うぞ。」
そうして入ってきたユーリは、サイズを少し手直ししてありますが、それでもお人形さんのようです。ああ、ショートカットなのも一段とメイドさんらしいですねえ。
「ええ、右足を軸にしてくるりと一回転してみてください。」
私はついお願いしてしまいます。
「こうですか?」そう言って私の前でくるりと回ります。
「サイズの合う服を着ればこれもいいですね。若いメイドさんな初々しさがありますね。」
「わーい、あるじ様に言われるとうれしいです。」
そこでうつむいて耳まで真っ赤にしているユーリは、確かに可愛いですからねえ。
「私も着た~い」
そう言って手を上げながらアピールするエルフィ。
「無理じゃ、」
「え~」
「乳がはいらんじゃろう。」
「ダメですか~」エルフィが、がっつり肩を落としてテーブルに突っ伏しますが、胸が邪魔で顔がテーブルに着きません。ええ、乳の上に頭が乗っています。いや、そのボリュームでは、まじで破けますよ。
「あたりまえじゃ。無理して着たら破くであろう。」
「ちぇ~」
「どうしますか。この線で行きますか。」
「お主らに不満がなければこの制服で行くぞ。」
「キャロルに言われてはねえ」
「わ~い。ヒメ様ありがと~」
「あとですね、あるじ様にもお願いがありまして。」ユーリがうれしそうにそう言った。
「まさか私にメイド服を着ろとか言わないですよね。」
それでは、さすがに変態ですよ。
「いいえ、僕とお揃いになってしまいますが、この給仕服を着て欲しいのですが。」
「やるなら全員でということですね。わかりました。そのくらいは協力しましょう。」
「あるじ様ありがとうございます。楽しみです。」
「では、次は、メニューですね。軽食としましょう、回転率高くなりますし。」
「これは、醤油じゃろう」
「そうね、それしかないわ、品目は、やはり肉よねえ。」
「少し重いなあ、」
「パンに肉挟みましょう。」
「スイーツはどうしますか。」
「プリンとゼリーが簡単ですね。」
「生クリーム添えますか。」
「でも、大量に作れますか?」
「2日くらいしか無いのなら、冷凍してストックして、その場で作って冷やせばできますよ。」
「さて、さっそく明日この話を領主様に伝えてきますね。」
「はい」
翌日、私は、キャロルと一緒に領主様のところに行って、具体的な話を詰めてきました。食材は収穫祭のまとめ役の方から資金が出るそうで相談して欲しいと言われて、経費の見積りを出して了承を得ました。というか、制服代まで経費で出してくれることに。仕立ても別発注してくれることになりました。まあ、メアさんが直接行って布地の選定、型紙おこしまでやるでしょうけど。
その日から始まったメアによる給仕のレッスンは、過酷を極めました。
「き、筋肉痛が・・・」全員床に突っ伏して倒れています。
「いつも使わない筋肉を使って筋が痛いです。」
「どうして、光なのにこういうとこだけ人間らしいのかしら。」アンジーがふくらはぎを揉んでいる。
「確かに、わしらは、擬態しているだけじゃというのに。」そこで腰をさすりますか、老人は。
「エルフィ、胸にお盆を載せないでください。」エルフィは、両手にお盆を持って、さらに胸にお盆を乗せている。
「え~この方が食器の片付け楽なんですけど~」
「そんなわけあるか。」とアンジーが突っ込んでいます。
数日後、家の中で、仮縫いの終わったメイド服の試着です。ひらひらですよ、フリフリですよ。
「みなさんあまりくるくる回らないように。修正の必要なところのピンが落ちます。」
そう言われても、ミカ、キャロル、ユーリ、エルフィは、黙っていられない。鏡の前とそれぞれの姿を見比べたりして、きゃいきゃい騒いでいる。キャロルは、下着姿のまま走り回っていて、それを追いかけているメア。なんか親子を見ているようで微笑ましいです。
「あと、ドロワースは基本下着と同様とお考えください。確かにターンする時など、見えてしかたがないものではありますが、頻繁に見せていい物ではありません。ご注意ください。」
「見せパンですか。そう言われると、ちらっと見えるとエロいですねえ」
「変態~」
「あるじ様変態です」
「ドロワーズとか変態ね」とアンジー
「おぬし、さすがにきもいぞ」
「でも私はOKです」とメア
メアさんがくるりと一回転しました。見えていないのですが、この見えそうで見えない絶妙な感じがたまりません。
「僕も」くるりとユーリが回る。さすがにスカート丈に個人差がつけてあって、ユーリのは、おとなしめに作ってあるだけにそんなに広がりませんね。とても清楚な感じで可愛いです。
しかし、スカートの丈が長いのは、ユーリの動きが大きいので同じ長さにすると本当に見えてしまうからなんだそうです。さすがメアさん。
「あ、私も~」
エルフィがぶんぶんとダンサーのように片足をあげて回っています。ドロワーズが丸見えです、だからそういう節度をわきまえない行動は萎えるだけです、やめてください。
「おぬし心の中で何を叫んでいるのじゃ」
「ああ、嘆かわしい」私は頭を抱えました。
メアさん曰く、エルフィは、ボディスタイルからエロいのでドロワーズが見えたところでほとんど変わらないから、むしろ広げたそうです。そうですかだからよけいヒラヒラするのですね。それならむしろドロワーズではなく、パン・・・
「旦那様のエッチ」エルフィの一言に再び家族の白い目が突き刺さります。とほほ
メイド服が完成してからは、実際に着て給仕の練習です。すでに、露天の横の広場にかなり大きな店が作ってあります。一応、喫茶店風になるよう私が監修しました。えへん。
「けっこう大きいのう。屋内も客席の間を広く取っているのか」
「メイド服がぶつからないでひらひら動くよう通路を広めにしてみました。」
「なるほど、お主の好きなチラリズムじゃな」
「別に好きではありませんが、客商売とはそういうものです。」
私は言い訳を堂々としてみました。皆さんの冷たい目は、もう慣れました。
「男目線じゃのう。」そこで、おっさんみたいな事を言わないでください。
「さて、練習しましょうか。」メアが、パンパンと手を叩いて自分に目を向けさせる。まるで、バレーの先生かメイド長のようですねえ。
視線を感じるので周りを見ると、すでに窓には暇な男連中がべったりと張り付いています。いや、そういうのは、当日までの楽しみにしておいてください。
「窓は黒くしておきましょう。」
エリス様が一瞬で窓を黒くしました。魔法ですよねえ。どういう仕組みですか?
「そんなことはどうでもいいことよ。」とスルーしました。
「はい、では、料理をすでに作ってありますからそれを運んでください。」
一応、本物の料理とコップなどが用意されていて、壊さないように運びます。ミカとキャロルの分のメイド服も用意されていたので、運ばせてはいませんが、障害物代わりにちょこちょこ店内を歩いてもらっているようです。これがなかなか難しい、彼女たちが視界から消えるので確認しないとなりません。メアさんこれが目的だったのですね、さすがです。
「はい、そこ、メイド同士でぶつからないように。お互いの位置関係をちゃんと把握して、あと笑顔も忘れずに。」メアさんからの厳しい指導が入る。
「顔の筋肉が引きつりそうだわ。」
休憩の合間にアンジーが顔の筋肉のマッサージをしている。
「まったくじゃ。」モーラさん椅子に座って、大股開きで、スカートをめくって手で仰ぐのはやめてください。はしたないです。いや、下品ですから。
「無駄話は必要ありません、口を開くならその言葉はお客様のために使ってください。」
休憩中も厳しいメアさんです。
「お帰りの時の挨拶は丁寧に」
「ありがとうございました~」
戸口にお見送りして、最後の礼の仕方を修正したりして、一連の行動のおさらいをして今日は終了です。
「疲れた~」全員が並べられた椅子に座ってげんなりしています。
でも、途中、交代で休憩していましたが、メアさんは、ずっと指導し続けています。さすが本職は違いますね。
「残念ながら私は給仕ではなくメイドです。それに私はホムンクルスですから。」
「あ、そうでしたねえ。」
その特訓の数日間には、無理矢理入ってくる男達とか試食をせがむ女の子達などの対応が、無理客の対応の勉強になりました。さすがに前日から屋根に登って覗こうとする男については、当日も出入り禁止としました。たかだかお祭りの出し物にそこまで気合い入れないでください。
そしてついに当日を迎えました。私達は、朝早くに着替えを持って街に入っていきます。すると広場のあの店の前にかなりの人数がすでに並んでいました。
「この行列は、いったいなんじゃーーー」モーラが頭をかきむしります。せっかくメアがセットした髪が台無しです。
「開店前から行列ですか。これは想定しませんでしたねえ。整理券を配りましょうか。」
私は、すでにこの情景から現実逃避して打開策の検討を始めました。
「この勢いですと、予約が一杯になって、さらにキャンセル待ちの行列ができそうですので、早めに開店してお客様を入れて、さらに回転率をあげたほうがよろしいかと思います。」
メアさんも冷静に状況を分析しています。
「飲み物も食べ物も今日は、飲み物とお菓子だけにして、明日の分のストックもだしましょう。あとは、なるようになれですね。さあ、急ぎましょう。」私は、この人数を見てげんなりしている全員を店の裏に誘導していきます。
「大盛況になりそうですな。」裏口にて打ち合わせをしていると、わらいながらキャロルを連れて領主様がお見えになりました。キャロルもお揃いのメイド服を着ています。
「まだ開店前なのですが、この様子では、かなり忙しい一日になりそうです。」
「お手伝いは必要ですか?」領主さんがにこりと笑った。
「キャロルですか?それは大歓迎ですが。」戦力にはなりませんけれど、店内の癒やしになりそうですから。
「裏方に必要だと思いまして、うちのメイド達を連れて参りました。お好きにお使いください。」後ろに付いてきたメイドさん達は、護衛を兼ねたお付きの人かと思ったら、そうでしたか。事前に予想していたなら言ってくれれば良いのにとちょっと思いましたよ。
「助かります。」
「それでは、私は他の店も見て参りますので。」
「お待ちください。せっかくですので、領主様が一番目のお客さんとしてお茶していきませんか。」
「いいのですか?」なんかうれしそうですね。
「ここまでしてもらっていますので、開店時間前の最後の予行演習という事でよければ。」
「それは、ありがたいです。」そうしてみんなで裏口から入り、厨房の後ろの事務室で皆さんが着替えている間に、私が、領主さんとキャロルを窓側の一番良い席に案内する。
「どうもうちのキャロルがお世話になっております。」着替えを終えたヒメツキさんが挨拶をする。
「お目にかかるのはお久しぶりですね。キャロルは元気なよい子で本当に私の子どもに欲しいくらいですよ。まあ、本人に断られましたが。」あはははと笑っている。
領主様には、ひとりずつ対応しています。出迎えの挨拶をミカ、水出しをエルフィ、オーダーをユーリ、注文のお茶をアンジー、お菓子をモーラ、精算(真似だけ)をメアが順にしていったのですが、
「ミカさんたまに私の家に遊びに来てください」
「エルフィさん、居酒屋では大人気ですねえ。」
「ユーリさん、うちの冒険者をしごいてくれてありがとうございます。」
「アンジーさん、孤児院の方は、どうですか。教会作りましょうか?」
「モーラさん、いつも子ども達がお世話になっています。また遊んであげてください。」
「メアさん、女の子達に裁縫を教えてもらってありがとうございます。」
そして、領主様が伝票を持って立ち上がったところで私が近づき、
「さすがに全員の名前を詰まらずに言えるとはすごいですねえ。」
「これくらいは、街の中に不審者が入って来たときにこまりますからなあ。では、私はこれで。裏口からこっそり帰りますので。皆様のご健闘をお祈りいたします。」
全員にお辞儀とキャロルに手を振って領主さんが出て行った。
「それでは、開店します」
私は、扉に掛けていた閉店の札を裏返して、開店にする。最初に入ってきた人は、昨日の夜から並んでいたらしい。
「いらっしゃいませ」メアさんが最初に席へと案内をしていった。そこからは、怒濤のように客が押し寄せてくる。しかし、満員になったところで、キャロルが扉の前で通せんぼをして入らせないようにしてくれた。さすがに子どもを押しのけてまで入っては来ない。
お水をお出しして、オーダーを取る際にお席の時間は、最後のオーダーが届いてから5分になることを説明しています。
「3人様ですねこちらのお席へどうぞ。」
「ご注文は」
「は~い、5番テーブル、オレンジジュースとサンドイッチで~す」
「おまたせしました」
「きゃー、やっぱりかっこいいわ~」
「ねえ、想像していたとおりでしょ~」
「いいえ、想像以上に似合っているわ~かっこい~」
あちらこちらで歓声やら嬌声が聞こえる。ああ、叫声というのもあるのか。まあ、静かな客も多いが、おっさん達のダミ声も響きますねえ。
「あんたも給仕するのかい、けっこう似合ってるねえ」と、居酒屋の女将さんが声をかけてきた。
「ありがとうございます。」
「まあ、みんなの目当ては他だろうねえ」と少し意地悪そうな言い方をしてくる。まあ、いつものいじりですけどね。
「でも街のみなさん楽しそうでよかったです。」
「みんな昨日までここの噂でもちきりだったからねえ。」
「いらっしゃいませ~」
「わしはモーラとキャロルを見に来たのじゃ」
と、高齢の男性が入ってきたりする。本当に年齢性別問わず皆さん人気がありますねえ。
「いらっしゃいませ~ご注文は」
「キャロルをもらおうかい」
「申し訳ありません。キャロルは、商品ではございません。キャロルのサービスが商品です。何になさいますか?」
「ほほほほ、では、このプリンとお茶をもらおうか。」
「ご注文ありがとうございます。オプションで何かお書きしますか」
「名前を書いてもらおうかねえ」
「はい、ではお待ちください。」
「お待たせしました。何と書きますか?」
「そうだね私の名前をかいておくれ」
「はい」
「ありがとう、」
「ごゆっくり」
というオプションサービスを誰かがやっていたようです。誰ですか、私の頭の中にあったメイド喫茶のイメージを勝手に実行しているのは。
だが、まれに勘違いした客も入ってくる。
「いらっしゃいませ~」エルフィが何かに気付いて、さっと、その客の相手を始める。
「おう、ビールくれビール」
「うちは、お酒おいてないんです~」
「じゃああるものをくれ」
「お水ですね~」
「いやいや水はもうあるだろう」
「では、お茶を一杯ですね~他に何か注文しますか~」
「じゃあおめえのミルクでも」
「そういうのは、お酒を飲んでるときにしてくださいね~」
「ふん、ミルク無いのかでそうな乳しているのなあ」
「子どもいませんから~出ませんよ~」
「じゃあ・・・」
「これ以上何か言うと~たたき出されますよ~」
「じゃあこのゼリーをくれ・・いや、ください」
「ご注文は以上ですか~。それではお待ちください~」
「なんだ周囲のこの殺気は」
まあ、客の方からのプレッシャーの方が強かったみたいですけど。
そうして、昼前には、客足も落ち着いてきたので、お客さんを少し制限して、交代で休憩することにしました。本来の喫茶店なら昼の方が稼ぎ時なのでしょうが、うちは、スイーツのみなので、昼からは、予約のお客様だけにして、軽食もだしました。交代でお休みと収穫祭を見に行ってもらっています。ええ、それまでは、戦場のような感じで、さすがに体力がもちませんでした。
そのせいで、目当ての子が休憩に入っているので、文句を言うお客まで出てきました、普通のお店でも休憩時間には、誰かいないのはあたり前です。
開店時に行列を解消するために整理券を配ったため、夕方までずっとお客さんがお見えになります。なので、ほぼ最後まで全員で働きました。もっとも、せっかくの収穫祭なのでキャロルとミカを連れて交代で外出してもらったので、少しは楽しんでもらえているのでしょうか。
予約をしながら、キャンセル待ちの列に並ぶ強者がいらっしゃって、夕方の予約のお客さんはまばらとなってきて、みんな少し寂しそうです。頑張った分の反動ですかねえ。
「あと何組でしょうか。」
「一応配ったチケットでは、あと8人ほどです。」メアさんがそう言いました。
「こんにちは。」そう言って入ってきたのは領主様と商人さんと団長さんです。
「いらっしゃいませ~」そう言って駆け寄ったのは、キャロルとミカとユーリだった。
「お席は空いていますのでお好きなところへどうぞ~」とアンジー
全員カウンターに並んで座った。
「カウンターでよろしいですか?」
「ここでかまいません」ニコニコ顔の領主様と、あまり笑っていない商人さんと団長さんです。何かありましたか?
「お水をどうぞ。」私は、3人に水を出しました。カウンターでの接客は、私かメアさんなのです。
「あの、ご注文はどうされますか。」
「では、お菓子の付いたティーセットを3つお願いします。」
「それでよろしいですか?」念のため2人にも聞く。うなずいているので、
「では、オーダー入ります。キャン(ディ)ティーセット3つ」
私は伝票に書いて、写しを後ろにいたメアに渡す。
「は~い」厨房から声がした。
「今回はありがとうございました。」領主様が少しだけ頭を下げました。同じようにお二人も頭を下げます。
「いえ、まだ明日もありますし。こういう催しは終わるまでが遠・・もとい終わるまではなにが起きるかわかりませんから。ちゃんと頑張らないといけませんから。」
「今回のこの喫茶店というのは、彼らの発案だったのですよ。」
「そうですか、他の国で見てきたとおっしゃっていましたが、素敵な提案でしたね。」
「ですが、ここまであなたとその家族にここまでご迷惑をかけることになるとは、思いもしませんでした。それをお詫び申し上げます。」
「謝られても困ります。こちらとしては、この街にはかなりお世話になっていますから恩返しのつもりでしたし、出店するまでにみんな楽しく・・・まあ、苦しいこともありましたが、今日はみんなうれしそうに接客していましたよ。どうしてお詫びなんか。」
「今日のこの異様な数のお客についてなのです。」
「はあ、」
「この2人がよかれと思って事前に手を回したそうなのです。」
「ええ、繁盛したのは良いことですよね。それが何か?」
「実は・・」そう言って話し始めたのは商人さんでした。
「魔獣襲撃の時の撃退の話は、かなりの町や集落に衝撃と困惑を呼びました。ただ、災害ではなく人災だと、誰かが起こしたものなので仕方ないことだと他の集落の人々も納得しました。それを救った救世主がいると噂になりまして、その人たちが今回の収穫祭に出店すると周りに言ってしまったのです。」
「ああ、それで、妙にエリスさんに会って感謝している人がいたのですね。」
「はい。そして、この街の人たちも当然知っているわけで、かなりの人が殺到するのは間違いないとは思っていたのですが、せっかく皆様が出店してくれるのに客が来なかったらどうしようと不安になりまして、ついつい、話す範囲を広げてしまったのです。今日来てみたら、どうも数を読み違えていまして、本当にすみませんでした。」商人さんと団長さんがテーブルに頭をぶつけそうなほどに頭を下げる。
「謝らないでください。私達がそんなに人に知られているわけないと思っていましたから、みんなメイド喫茶を知らないから興味本位でもこんなに来てくれたんだと思っていました。そうやって客を呼び込んでくれたならむしろ良かったです。何より収穫祭にたくさんの人が来てくれて良かったじゃないですか。ご協力に感謝します。」
「しかしですねえ、結果的に変な噂も立つかもしれないじゃないですか。」
「まあ、たかだか2日だけの催しなのですから大丈夫でしょう?」
「そう言っていただけるとありがたいです。」2人とも平身低頭です。
「さすがに奴隷商人と言われても気にせず普通にされていた方は違いますね。」
「やはり噂されていますか。」
「ええ、されていた、ですがね。色眼鏡で見られていようと、気にせず堂々となにも変わらないところは、後々、街の人の心が好意的になっていくのを見ていると。改めてこの人は、すごい人なんだなあと思っています。」
「領主様、恥ずかしいこと言わないでください。私は、以前も今も変わらない・・・とは、言えませんね。これだけの人と家族として一緒に暮らせているのです。前よりももっと幸せになっていますし、街の皆さんにも受け入れられましたからねえ。あと、人の心はそう変わりませんし、面と向かって言う人はいませんから。まだ思っている人がいるとは思いますよ。」
「お待たせしました。」
そう言ってメアが、ティーセット3つを持ってくる。さすがメアさんですタイミングを計っていましたね。
「あなたにそう言っていただいて安心しました。」
そう言って領主さんは、紅茶を飲む。あわてて2人も紅茶とお菓子に手をつける。
「おやこの茶葉は。」
「メアさ~ん」私はなにも知らないのでメアさんに振った。
「領主様のお宅でお飲みになっている茶葉です。来賓用にと特別に少しお分けいただきました。」
「そうでしたか。それにしても家で飲むよりおいしく感じましたが、」
「この店の雰囲気でしょうねえ。」
「でも、」
「それ以上はお話になりませんように。」
「そうですか。そうします。さて、この後は、予約者が5組ほど入っていると思いますが、来られなくなりましたので、店じまいができますよ。」
「まさか無理にお断りさせたわけではありませんよね。」
「私の使用人達にお願いして最後の時間を取ってもらいました。その人達は、すでに予約して、このお店を堪能したそうですので、無理に断らせたりしていませんよ。安心してください。」
「そうでしたか。ご配慮ありがとうございます。」
「実はこの後、広場の中心で踊りがあります。後片付けで参加できないとつまらないですからねえ。」
「そうでしたか、この店のことで頭がいっぱいでお祭りでなにが行われているのかわかっていませんでした。お誘い感謝します。」
「それでは、また夜に。その後には、居酒屋にも来てくださいね。」そう言って領主様が出て行かれた。2人は残された。
「本当にすいませんでした。こんなに人が来るとは思っていなくて。」と商人さんが言った。
「もう、謝らないでください。よかれと思ってしてくれたのでしょう?気にしないでお祭りを楽しんでくださいね。」
「ありがとうございます。では、一つだけご忠告を。この後の踊りについては、昔から、こう言われています。独身の男女は、最後の曲が終わった時に手をつないでいた相手と、結婚もしくは、生涯の伴侶となると言われていまして、今のところほぼ完璧に達成されているようなのですよ。なので当然それを狙って画策する輩が出ますので注意してください。」商人さんはそう言いました。
「ほぼ、なのですね。」
「結婚後別れる夫婦や死別もありますから。」
「なるほど、その後、居酒屋で祭りのご苦労さん会ですねえ。」
「そうなのです。ですから皆様に気をつけるように言ってください。」
「わかりました。そうします。」
「まあ、噂の類いですからねえ。」と団長さんは言った。
「子どもも踊るのですよねえ。」
「ええ、子ども達は親と一緒に踊って、早い時間に家に帰ります。」
「ああ、そうなのですか。」
「くれぐれもお気をつけください。では失礼します。」そう言って2人は帰って行った。
「ありがとうございました。」エルフィが扉まで見送り、店の扉につってある「開店」の札を「閉店」に裏返した。
「さて、明日もありますので、片付けますか。」
「ご主人様、すでに厨房は終わっております。店内の掃除をすれば本日は終わりです。」
「みなさん大体聞いていたと思いますが、夜の踊りとその後の打ち上げがありますので、十分注意してください。あと、ヒメツキさんは、子ども達の踊りが終わったら、キャロルとミカさんを連れて一度家に戻りませんか?」
「ええ、お酒には、ちょっと惹かれるけど、キャロルが寂しがったら行かないわ。」
「ミカさんは未成年ですから今回はやめておいた方が・・・」
「わしがついておる大丈夫じゃ」
「その保護者が一番不安なのですよねえ。酔っ払わないでくださいね。」
「まあ、善処する。」
「これで終わりですね。」ユーリが玄関前の掃除を終えて入ってきた。私は先に着替えをして、外に出て行く。
「皆さん着替えてくださいね。戸締まりよろしくお願いします。」
「は~い」
夕日の当たる場所にもたれかかって、ぼーっとしている。すでに楽しそうなリズミカルな音楽が聞こえてきている。この広場の反対側なのだろうか。区画を分けているので見えてはいない。
「どうしたんじゃ黄昏れておるようじゃなあ。」
着替え終わって最初に出てきたのはモーラだった。いつもの髪型に戻っている。
「髪の毛も元に戻したのですか?」
「ああ、ポニーテールは、髪の毛が根元から引っ張られるのでなあ、いつもと違う感覚で嫌だったのじゃ。」
「そうでしたた。けっこう似合っていましたよ。まあ、美少女なのでどんな髪型でも似合いそうですけどねえ。」
「相変わらず恥ずかしいことをヌケヌケと言いおるのう。」モーラは顔が少し赤い。
「恥ずかしくないですよ。だって似合うものは似合いますから。」
「あーもうやめんか。」そう言ってポカポカ殴るのはやめてください。それだって萌え死にしそうですよ私は。
「おや、相変わらず仲が良いわねえ。」そう言ってエリスさんと皆さんが出てきます。キャロルは少し怒っています。
「モーラ様ずるい、鍵の確認を一緒にしないで逃げた。仕事しないで逃げたそれが一番ずるい。」おお、キャロルの激おこぷんぷん丸ですねえ。こちらも可愛いです。
「なにバカなことしてるのよ。ごめんねうちのダメ人間が。怒らないでね。さあ一緒に行こうね。」アンジーがキャロルのそばに行って頭を撫でながら声を掛ける。渋々歩き出すキャロル。ミカさんは、先に少し走って行って、こちらを振り返り、
「キャロルおいで、あそこまで競争だー」そう言って走る真似をする。キャロルは急に走り出し、
「私が一番~」と言ってダッシュしている。ミカさんを通り過ぎたところでミカさんがその後を追う。結構良いスピードで走ってましたが、子どもって意外に足が速いんですねえ。
「転ばないでよー」と言ってヒメツキさんが小走りで追いかける。ああ、その姿はお母さんですねえ。
「そうですね。」歩き出した私の横にユーリが並ぶ。モーラが軽くジャンプして私の肩に乗る。スカートを頭にかぶせないで欲しいのですが。
「あまり派手なジャンプはダメですよ、皆さんに見られては誤解を招きます」そう言ってメアが私の隣に並びました。ユーリとメアに手を差し出すとどちらも腕を組んできました。
「あ~ずるい~」エルフィが私の背中にぶつかります。
「倒れるまでぶつかってはいけません。」メアさんが先生口調で言った。
「は~い」エルフィは、そう言いながらも私の胸に両手を回してグイグイと押しつけてくる。
「幸せそうねえ」と横からのぞき込むアンジー
「私に力が合ったら両肩にアンジーとモーラを乗せられたのですがねえ。今回は、メアさんが一番頑張ってくれましたので許してあげてくださいね。」
「私が一番サボってたみたいじゃない。」
「たまにつまみ食いをしているのを見てましたからねえ。」
「あんたよく見ているわねえ。ま、しかたない今回は譲るわ。」そう言って、エリスさんと並んで先を歩く。
「本当ならモーラなんでしょうけどねえ。」
「なにを言っておる、わしは、つまみ食いはしておらんぞ、お客からア~ンっていってお裾分けをいただいただけじゃ。」
「客商売でそれは行けないんですよ。まあ、本当のお店じゃないですからいいんですけどね。」
そうして、踊りの場所に着く。すでに中心に火の櫓が作られ、その周りを回っている。2重の輪が作られていて、仲の輪は子ども達のようだ。手をつないでステップを踏んだり手を交差させたりしている。
「意外に簡単なステップねえ。」そう言ってその場でステップを踏むアンジー。炎を背景に綺麗なシルエットが浮かび上がる。
「綺麗に踊るのう。」モーラはそう言って、私の頭をペシペシと叩く。下ろせの合図だ。私は、モーラの体を抱いて下ろす。すかさず走って行ってアンジーの隣でステップを踏んでみる。
中にいた子ども達がそれを見て、モーラとアンジーを引っ張って中の輪に連れて来て一緒に踊り出す。私達も外の輪の人達から手を引っ張られ、踊りの輪に連れ込まれる。それぞれ、見よう見まねでステップを踏む。ヒメツキさんは、キャロルと一緒なのが見えた。
違う曲に変わり、2人一組で踊り出す。曲の途中で前の人と交代して、次々と相手が変わっていく。
「そうですか。この曲が最後にかかるんですね。」そう独り言を言うと、手をつないで踊っていた相手の方がうなずいている。そして、また違う曲になり、今度は4人組で踊りながら、2人だけ次の組へと移っていくダンス。これもリズムに乗ってステップを踏むのでなかなか難しい。
そうして、リ~ンゴ~ンと鐘が鳴らされて、内側の踊りの輪が切れて周囲へと帰って行く。
「ヒメツキさん」私達は外側の輪を抜けて、全員で声を掛ける。すでにキャロルは、おねむのようだ。
「これでは、あとで合流は無理そうね。」
キャロルをおぶって、ミカの手を引いて帰って行った。なぜか後ろ姿が育児に疲れた母親のように見えてしまった。しかし、みんなも限界そうです。
「残念ですが、帰りましょうか。」
「そうねえ、明日もあるしねえ」アンジーの声を聞いて、私に強烈な疲労が襲ってきました。ああ、緊張の糸が切れましたねえ。
「私が村長に挨拶してきます。先に歩いていてください。」
みんなの様子を察してメアさんがすでにその場からいなくなった。
「よろしくお願いします。」
私は、すでにいないメアさんに聞こえるはずもないのに言っていました。
「あんた、肩車して。」アンジーが当たり前のように要求する。そう言いながら手を差し伸べてくるところを見ると手をつなぎたかったのでしょう。
「ええーーーっ、これから家までですか。」
「負ぶっても良いわよ。」しかし、皆さんの目がお怒りモードです。
「私も負ぶって欲しい~」
「僕もできれば」
街から出たところでみんながぐずるので、私は
「じゃあじゃんけんで勝った人だけ3分だけおぶってあげます。その後またじゃんけんで決めましょう。それで勘弁してください。」
「よ~し、ジャンケン」
「はいそこまで、ストップ」メアさんが追いついてきました。
「ご主人様も疲れておいでです。ご主人様を私が背負います。他の人は歩いてください。」
「ええーーーっ」
「皆さんの健康状態を観察しまして、今一番問題なのはご主人様であると判断しました。」
とメアさんが私の手を取り簡単に背負いました。でも、少し恥ずかしいですねえ。
皆さんは、不平を言うわけでもなく歩き出します。
「そういえば、準備期間中ずーっと、色々やっていたものねえ。」とアンジー
「まあなあ、ここ一週間くらいは、睡眠時間削っていたからのう。」とモーラ
「最初は、スイーツ用の皿や、コップを作って、食材の搬入手順や搬入量の調整、メニューの作成など、店で使うメニューなどを作って、昼間は、給仕の特訓につきあって、最後にはデザートの仕込みも朝まで掛かってやっていましたので、」メアが言った。
「あるじ様は、やるとなったらとことん頑張りますから。」
「そうなんですよね~その頑張りを私に向けてくれても良いと思うですよね~」
しかし、私は反応できませんでした。すでに眠っていましたから。
「やはり寝おったか。まあ、仕方ない。明日倒れられても困るからなあ。」
「ですが、明日の食材の仕込みをしませんとなりません。」
「そういえばそうよね。明日の分のスイーツを出したはずだから。」
「はい、昼からは軽食も出しましたので、少なくとも明日の朝一番用のスイーツがひつ王になります。」
「どのくらいの時間がかかるのじゃ。」
「ご主人様が起きていれば数時間ですが。」
「今日は早めに寝て、朝早く起きようではないか。」
「その方が良いわね。」
「急ぐぞ」
そうして、メアさんが走っている心地よい振動で気持ちよく眠りました。
翌日
今度は、みんながヘトヘトのようです。
「起こしてくださいよ」
「おぬしばかりに何でもやらせてはなあ。」
「そうよ、私達も頑張れるというところを見せないとねえ。」
「あるじ様、シャワー浴びてきてください。」
「皆さんも一度浴びた方が良いですよ。」
「そうねそうするわ」
朝のシャワーはすっきりします。そして、食材を家から店に搬入しました。さすがに昨日ほどではありませんが、列が出来ています。昨日、予約券を配ったので、ここにいる人達はキャンセル待ちの券が欲しい人達です。
「券の発行は私達がやります。」と。領主様のところのメイドさん達がやってくれることになったので、行列はすぐ解消となりました。しかし、また並んでいる人がいます。キャンセル待ちの券を追加で発行して欲しいということなのですが、すでに予約席と同数のキャンセル待ちの券を発行しているので諦めてもらいました。
「さて、では開店です。」手順がわかっている分昨日よりもスムーズです。午前中から軽食もオーダーできるようにしました。今日は軽食が飛ぶように売れています。
「これおいし~かかっている調味料何かしら。ソースじゃないみたい。」
「不思議な味~癖になるわねえ」
「本当にそうね」
やはり醤油の威力は絶大です。メイド服に見とれる人ははかなりいなくなり、食事の方に集中しています。はい、男の人は特にガツガツと皆さん食べています。
「ごちそうさま。おいしかった。また食べたいね」
思わず「またのご来店をお待ちしています」と言いそうになりました。
その噂が広まったのか、軽食を頼む人が増えて、予定していたスイーツがあまりオーダーされなくなりました。フードロスはいけませんね。
「ご主人様、大丈夫です、昨日多めに出したので、今日は昨日ほど在庫はありません。」
そうでした、今日の分も昨日店に出したので、今朝作ってくれた分しかないのでした。
「まあ、最終的には皆に配れば良いであろう。問題なかろう。」
「そうですけど、」
「いらっしゃいませ~」
その時入ってきたのは、領主様でした。
「カウンターに座ります。」そう言って、カウンターに領主様は座った。
「いらっしゃいませ、何にしますか?」
私は、水を出しながら、カウンターに置いてあるメニューを見せる。
「今夜の皆さんの予定がいただきたい。」
「はあ?」
「いやまず、プリン付きの紅茶セットをお願いします。」
「わかりました、オーダー入ります。プリティーセットひとつ」
「わかりました。」厨房からの声と同時に伝票の控えをメアさんに渡す。
「さて、今夜の予定ですか。」
「はい、昨日の踊りの輪のあと居酒屋にと話していましたが来られなくなりましたよね。」
「すいませんでした。私が倒れてしまって。みんなが一緒に帰って、今日の準備をしてくれました。」
「そうでしたか。それはすいませんでした。理由がわからなかったので、皆さんどうしてこないんだと私に文句をつけて来られまして。今日は絶対連れてこいと私に言ってきたのですよ。」汗を拭きながら領主様が言いました。珍しいですねえ。
「こちらプリンと紅茶のセットになります。」そう言ってメアさんがテーブルに紅茶とプリンを置いた。
「メアさん、そうならそうと言ってくれれば良かったのに。」
「倒れたと言っても眠ってしまっただけなのです。ですから、そのまま話すことも出来ず、急遽用事が出来たことにしました。実は、最近の睡眠不足がたたって、そのまま朝まで寝ていましたのです。過労ですね。」
「今は大丈夫なのですか」
「ええ、睡眠さえ取れればなんとかなりますよ。病気ではありませんから。」
「今夜も大丈夫でしょうか。その、皆さんも。」
「たぶん、大丈夫じゃないでしょうか。ひとりずつ聞いてみますか?」
「楽しみ~」とエルフィ
「大丈夫です。」とユーリ
「もちろん行くわよ」とアンジー
「わしも行く」とモーラ
「キャロル次第ねえ」とヒメツキさん
「モーラ様が行くなら」とミカさん
「仕方ないわね」とエリスさん
「とこんなどころですねえ。ああ、メアさん」
「ご主人様が行かれるのであれば。」
「だそうです。大丈夫そうですね。」
「それとですね、言いづらいのですが、その、衣装はですね」
「ああ、このメイド服を着ろと」
「皆さん収穫祭の準備と出店で見ていないものですから是非にと。」
「なるほど。これも聞いてみないことには。なんとも」
「あー仕方ないわね来られなかった人達なんでしょ。」
「主催者側はいつも割を食うからのう。仕方なかろう」
「僕はどちらを来た方が良いですかね。」ユーリは、今着ているタキシードを見ながら言った。
「私としては、ユーリに可愛い方を着て欲しいのでメイド服ですね。まあ、他の人に見せるのはとはもったいないと思いますが、一方で見せびらかしたいとも思っていますので。」と私が言った。
「じゃあ、メイド服で行きます。」
「キャロルは、どう思う?うれしいの?なら着ようかしら。」とヒメツキさん
「ヒメ様が着るのなら合わせます。」
「居酒屋ってここより広いんでしたっけ。お祭りの片付けもあるから、それが終わるまでにここを少し広げてここでやったらいいじゃない。」とエリスさんが大胆な発言。
「なるほど、そう言う手がありましたね。できますかねえ。」と領主様がうれしそうです。
「そうですねえ、そこの扉だけ外せばかなり広くなりますし、あとは椅子とテーブルが欲しいですかねえ。」
「とりあえず女将さんと相談してきます。」
「あまり服を汚したくないのですが。」ああ、メアさん
「確かに作る側としては汚れるのは嫌ですよねえ。」
「はい、居酒屋の方が汚れる率が高くなるのですよ、酔っ払いが出るので。」
「確かに。」
そうして、夕方になり、店を閉める時に色々な資材が運び込まれてきました。
「さて、閉店の札を下げるのではなくて、壁を壊しますよ。」
「ラジャー」そう言っていきなり作業に入ろうとするエルフィ。しかし、
「エルフィさん、着替えなさい。メイド服でやる作業ではありません。」
「ちぇーーー。」そう言って着替えてくる。
ここの壁は、取り壊しが簡単にできるように作ってあります。軒下に壁を外すように作っているのでそこの留め具を外すと扉を挟んで壁が倒れる。
「簡単に外れるのう。ここでご苦労さん会をやることまで考えていたのか。」
「いいえ、解体するのが簡単なようにしていただけですよ。ですから、要所要所の柱は残さなければなりません。」
「楽に壊せるか、それを考えているところがもう日常生活系魔法使いたる証左であるなあ」
「扉側の壁と扉は外して裏手に置き、壁のあったところの柱に筋交いを少しだけつける。」
さらに露天のテーブルと椅子が運び込まれて、玄関前だったところに並べていく。
「おう、待たせたねえ。では、こっちに酒を運んでおいで。」そうして、何樽かの大きい樽を人夫を使って運び込まれる。さらにコップや皿までが持ってこられた。
「宴会が始まったらわるいけど、食べ物だけ持って行ってくれないか。」
「酒はどうするんですか。」
「ここに来て自分で注いでもらうことにするよ。腰を痛めてねあまり動きたくないんだよ。」
そうして準備が進んでいくと次々にお客がやってくる。
「いらっしゃいませ~」キャロルが見よう見まねで玄関のあったあたりでお辞儀をした。
「おう、挨拶できて偉いねえ。」そう言ってその男は頭を撫でておくのテーブルを目指して座る。
「すいません、女将さん腰痛めたらしくて自分で酒を注いで欲しいそうでカウンターへお越しください。」
「なんだまたやったのか。どれ、あ、つまみは肉の串焼きを頼むテーブルに置いてくれ。」
そう言って男は、カウンターに行く。
「なんだばばあ。またやったのか。しょうがねえなあ。ほれ、」そう言って硬貨をカウンターに投げ、そこに置いてある樽からカップに泡麦酒を注ぐ。最初なので泡ばかりだ。
「これはひでえ」
「おかわりはただにしてやるよ。ありがたく思え」
「いや、あわだけだぜこれ。これに金払えってか。」
「お前の入れ方が下手なだけだろうが」
「そうかいそうかい」そう言ってそこで泡を飲み干し、自分で再びカップに注ぐ。
「今度も泡多いだろう。」
「だから下手なんだって。次は入れてやるよ」
「ああそうしてくれ。」そう言ってそのカップを持って席に戻る。店の露天をやっている人達がどんどん入ってくる。そして、次々と自分で酒を注いで、席に持って行く。席に着いたところにメイド服の誰かが席に行って、食べ物を注文を聞いている。手慣れたものだ。
カウンターに一人酒を持ってきた。そして私に
「昨日倒れたんだってなあ。」
「ええ、まあ。」
「そりゃあすまなかった。俺ら楽しみにしてた分落胆も大きくてなああんたのことを恨んでたのよ。でも、この店のために睡眠時間削ってたんだってなあ。すまなかった。」
「別に謝られても。」
「でも、今日は祭りも終わったし倒れるまで飲んでくれよ。」
「ありがとうございます。」
多分商人さんと露天の元締めさんが現れて、撤収が完了したのでしょう。領主様も到着して、ようやく乾杯です。まあ、すでに皆さんほろ酔いでしたけど。
「収穫祭お疲れ様乾杯~」全員の杯が掲げられ一気に騒がしくなる。
それでも私達に気を遣って、食べ物も飲み物も自分で取りに来ている。メイド服姿が妙に際立っているが、みんな楽しそうに話している。ヒメツキさんやミカさんキャロルは、たぶん露天の人の奥さん達なのだろう。子ども連れも多くそちらに引っ張り込まれていた。
『モーラ少し席を外しますね。飲み過ぎ注意ですよ。』
『どこに行くんじゃ』
『秘密です』
私はそう言って、露天の並ぶ通りを抜けて、商店のある方に向かった。そこに一件だけほの明るい店があり、そこの扉を開ける。
ドアベルがカランカランと静かに音を立てる。
「いらっしゃい。ああ、そうか。」
「こんにちは。来ました。」そう言ってカウンターに座る。
「今日は何にする。」コップを磨いている手を休めずにマスターは言った。
「もちろんコーヒーです。」
「うちは、バーなんだがねえ」
うれしそうに笑いながらそう言った。すでにアルコールランプには火が入っている。
「アルコール弱いので。」
「そうだったな。」棚にある瓶を出して、そこから豆をスプーンですくい、手回しのコーヒーミルでゴリゴリとその豆を挽いた。挽いた粉をサイフォンの上に入れて、水の入ったサイフォンに乗せる。もちろん中の布は装着済みだ。しばらく待つと、沸騰して泡と共にコーヒー豆の入っているところに駆け上がっていく。丁寧にお湯と粉とを混ぜて、下に下がるのを待っている。ほどなく下にコーヒーが落ち着き、カップに入れて、私の方に出されてくる。
「どうだ収穫祭は楽しかったかい」
「ええ、本当にいい人対ばかりで。」
「そうだな、まだここには居るのかい?」
「どうでしょう。多分もう少ししたら旅立つことになりそうです。」
「時間が出来たらまた来ると良い。」
「たまにしかやっていませんよね。」
「そうではないんだがなあ。」
「さて、そろそろ戻りますね。また、機会があったらここに顔出します。」
「久しぶりに会えて良かったよ。」
「私もです。」
「気をつけてな。」
「では」
そう言ってドアベルの音と共に私はその店を出た。店の明かりは消えてしまった。
『おや、聞こえているか』
『ええ、聞こえましたよ』
『気配がなくなったからびっくりしたぞ。何かあったのか?』
『なにもありませんよ。』
『そろそろ帰るぞ。キャロルが寝てしまったのでなあ。わしらも潮時じゃろう。』
『すぐ戻ります。』
私は足早に通りを抜けて宴会場に戻った。
店の奥にエルフィとメアさんが寝ていました。
「メサさんがですか。」
「おう、さすがにみんなの手前わしが抱えるわけにもいかんのでなあ。」
「エルフィは起きますね。私はメアさんを背負います。」
「さて、エルフィ起きろ。わしだモーラだ起きないとー」
「目が覚めました~おはようございます~」
「さあ帰りますよ。」
「メアさんがそうですか。じゃあ帰りましょう。」そう言ってエルフィは、ぴょんと飛び起きました。
「ではまたね。」エリスさんが着替えてメイド服を抱えたまま戻って行った。
「明日は店の解体ですねえ。」
「それがねえ、なぜか孤児院の維持費のために経営してくれることになったのよ。なので、これを違う場所に移すらしくて、私達に解体しなくて良いと言ってくれたのよ。」
「そうでしたか。使ってくれるならうれしいです。けっこう気合い入れて作りましたから。」
まだ残って飲んでいる人達に挨拶をして私達は帰ります。ミカさんも疲れたようでユーリの背中で寝ています。
「ミカも酒に弱い方じゃったなあ」
「年齢的にまだ無理でしょう?」
「好きな奴は生まれてすぐに飲み始めるわ」
「そういえばモーラもそうだったわねえ。」
「そうよ、じじいどもが面白がって飲ませよって。おかげでしばらく飲み癖がついたわ。」
「なるほどね」
そうして家に戻り、お風呂に入っている。メアさんは眠ったままだ。
「大丈夫でしょうか」ユーリが気にしている。
「わしらじゃメアのことはよくわからん。」
「そうよねえ、人間の英知の結晶だから」
「ブクブクブク。」エルフィが半分寝ていて、口がすでに水没しています。
「さすがに上がろうか」
「そうですねえ。」
次の日にはメアさんはすっかり元気になっていました。
「実は、昨日飲み過ぎまして。もう大丈夫です。」
そうして、メイド喫茶は終了したのです。
それから私は、ひとりになるとついついその時の皆さんの様子を思い出して楽しんでいます。エロい見方が出来ない自分が変なのかもしれませんが、みんながフリルフリフリのメイド服でフリルを振りまきながら給仕をしている姿がなぜか楽しいのです。なぜか幸せなのですよ。
「この変態!!」あ、アンジーさんに罵倒されました。
「おぬしの性癖がよくわかったわ」とモーラ
「それは~ちょっと~ドン引きなのです~」ドン引きはちょっとではありませんねエルフィ
「さすがの僕もちょっと引いています。」とユーリ
「そうですね。確かに」とメアがくそデカため息をついて私を見下しています。
それは仕方ないですね。だってみんな一生懸命で楽しそうに笑っていて、とても素敵だったんです。
「だからそう言うことを平気で思うなー」アンジーさんそれはないでしょう。勝手に私の頭覗いているのですから。
ビギナギルほどの街になりますと、収穫が終わって一段落すると、収穫祭を行っているそうです。
この街は、物流を主な産業としていますが、食糧自給率も高く、農耕牧畜も盛んなのです。
当然、秋になると今年の収穫を祝い、来年の豊作祈願のため収穫祭を行うそうです。まあ、冬ごもり前の重要なイベントですね。
そんな頃に領主様から直々のお呼び出しです。ええ、それも私ひとりで。いつもならそばにいるはずのモーラとアンジーは、ミカさんと共に、地域の子ども達と遊びに行ってしまいました。言い訳は、「ああ、地域の子どもからだって貴重な情報は手に入るものじゃ。」とか言っていましたが、多分ガチで遊んでいるはずです。
いつもの執務室?で待っていると、領主さんが部屋にうれしそうに入ってくる。
「実はお願いがあるのです。」
座って話し始めた領主様の隣には、いつの間にかメイド服を着たキャロルが座っています。ああ、可愛いですねえ。おっと見とれていてはいけません。
「どんなことでしょう。」と、私は真面目な顔に戻って言いました。
「近々収穫祭があるのですが、例年同じような中身でマンネリ化していたのです。それで、街の人達にどんな催しが良いかと聞いたのですが、あなたの家族に参加してもらったらどうかという意見がありまして。」
「はあ、どんなことをして欲しいか聞いたのでしょうか。」
「それがですね、誰が言い出したのかわかりませんが、ある王国では、お茶を飲む習慣があり、制服を統一して、お茶やお菓子を出している店があると言うんです。」
「はあ、それをやれと言うんですね。」
「ええ、まあ。気乗りしなければ断っていただいても良いのですが、何か噂が先行してしまいまして、すでに店の場所やら制服のイメージやらが出回ってしまって、私たちも後戻りできないところに来ています。できれば家族の方を説得していただいて、収穫祭に華を添えていただきたいと思いまして。」
そう言って領主様が私に頭を下げました、あわててキャロルも頭を下げました。なるほど、すでに周りから固められていましたか。
「とりあえず、家族のみんなに聞いてはみますが、人見知りもいますので、」
「こちらからお願いする前に噂が街に広がっていますので、お怒りになる方がいらっしゃるかも知れませんが、ひとつよろしくお願いします。」
「わかりました。」
そして、キャロルに手を振って領主の館を出ました。どう言って頼もうかと考えながら歩いていると。露天雑貨の並ぶ通りで、荷物を持ったメアさんとユーリに会い、その後広場の方に行くとモーラとアンジー、ミカさんがいました。ええ、子ども達と遊んでいます。
子ども達に領主様がくれたお菓子を配って、さよならの手を振り、酒場でエルフィを迎えに行き、みんなでそのまま家路につきました。
「何を悩んでいるのかしら。」
隣を歩いていて、のぞき込むように私を見て、意地悪そうな顔でアンジーが言いました。
「領主からの頼み事じゃろう。たいした話ではなかろう。」肩車してもらいながら言うセリフですか。
「とりあえず、帰ってヒメツキさんも交えて離しましょう。」
「先に話さんか。」
「ええ、すでに噂を聞いているのでしょう?」
「ああ、お店をやれと言われたそうだな。制服を統一して」
「はい、どう思いますか?」
「まあ、聞いてみれば良いであろう。恥ずかしがるのは2人くらいじゃないか」
「エルフィとああ、ユーリもそうですね。」
「わしはやるぞ。おもしろそうじゃ」
「まあ、やるのはかまいませんが、大変ですよ。」
「店の売り子や居酒屋の給仕などは、すでにやっているからな、むしろ得意じゃ」
「ああ、なるほど、でもお給料は出ませんよ。お祭りの出し物ですから。」
「まあ、日頃からここの者達には世話になっているからのう。」
「さいですか。」
「なんじゃ、そのやる気のなさは、」
「いや~な予感しかしませんよ。トラブル満載そうです」
「まあ、トラブルも楽しまんとな。」
そして、夕食になりました。食事中の話題としては、食が進まなくなるかもしれませんが、まあ仕方ありません。
「今日はそれぞれ自由行動で街に出ていましたから、たぶんいろいろ言われていると思いますが、その話です。」
「もしかして~、お店の話でしょうか~。」おっと語尾がトーンダウンしていますねえ。
エルフィがぐったりしている。食事前だというのにやっぱりお酒飲んできましたか?
「そのとおりです。」と私
「その話で居酒屋は持ちきりですよ~誰に給仕してもらう~とかその話ばかりです。そもそもそんな話は聞いていないのです~」
「そうでしょう。私も先ほど領主様から初めて聞かされましたから。ですから、もちろんお断りもできますよ。」
「断ったら~あとで何を言われるか~恨まれますよ~」
嫌なのは食事の方なのかそれとも話題なのか。ちゃんと食べてくださいね、作った人に悪いので。こんなおいしいものを残したら今度から禁酒ですよ。
「領主様は、これが狙いだったのでは?私たちに断れなくするには一番効果的かと思います。」
メアさんがみんなに食後のお茶を配りながら言った。
「そうよね、噂が早すぎるのよ。会う人ごとに当日は必ずお店に行きますね、とか言われているんですから。これは、どう考えたって確信犯よね。」
アンジーが出された食後のデザートのゼリーに強くフォークを突き刺す。表現がちょっとオーバーですよねえ
「ああ、はめられましたかねえ。」ヒメツキさんもそう思いますよねえ。
「私も皆様の服を見に古着屋に行ったのですが、全員のサイズを聞かれました。」メアが、そう言った。
「全員のサイズを憶えているのですか?」ユーリが聞いた。
「はい、だいたいですが。」
「そうなのそんなに変化するものなの?」
「実は、身長が伸びてきているのはユーリ様とキャロル様、胸が育っているのはエルフィさんです。」
「なるほど。他は動かないわよね。」
「ええ、ですが、ドラゴンの皆さんも少しずつですが大きくなっています。」
「そういうものなの?」
「そんなの知らんぞ。ヒメツキそういうものなのか。」
「私も初めて知ったわ。そんなことあるのかしら。」
「はい、0.1ミリほどですが。」
「そりゃあ誤差の範囲じゃろう。」
「そういえば、家族と言っていましたが、私たちも入っているのかしら。」
「ヒメツキ様、サイズはすべての方のを聞かれました。」
「キャロルやミカもですか?」
「はい聞かれました。」
「教えたの?」
「いえ、まだです。」
「そう、よかった。」なぜそこで安心しますか。体型変わらないですよねえ。
そこで、玄関の扉をけたたましく殴る音が聞こえます。
「おや、来客です。無事結界を通れたということは・・・」言い終わる前に扉が開き、人が入ってきました。
「どういうことよ!!」その声はエリス様ですね
「何がどういうことなのじゃ、話が見えんぞ」
モーラがニヤニヤしながら対応する。
「あなた、今度の収穫祭に喫茶店を出すそうじゃないの」
私を指さして言わないでください。そんなの知りませんよ。
「喫茶店ってなんじゃ」モーラがわざと首をかしげる。
「ああ、怒りについ、でてしまったわ。お茶を出すお店を出すそうじゃない」
「先ほど、領主様からお願いされましたけど。」
「先ほどって、今日聞かされたの?事前に話を聞いていたわけではないの?」
「はい、今日、突然言われました。」
「なるほど、で、誰が給仕をすることになっているのかしら。」
そこでエリスさんは、少し冷静になったようだ。
「私の家族、あと同居している3人と思っていますが。」
私は両手の指を折りながらそう言いました。ああ、もう少しで両手が埋まりますねえ。
「なるほど、噂なのね。」
少し安心したようです。かぶっていたフードと外套を脱いで、横のコートかけにかけて、空いている椅子に座りました。そこにメアがお茶を持ってくる。
「お主も街で言われたのか。」
「ええ、元締めさんが私に「収穫祭に参加するなんて初めてじゃないか?」と言ったので何のことか聞いてみたら、あなたの出す店で給仕をすることになっていると言っていたわよ。」
「街ぐるみで私たちをはめましたねえ。」私は深くため息をついた
「そうなるな。」モーラは笑っている。
「まあ、はめられたのはしゃくですが、すねて参加しないというのも大人げないと思います。それに、エリスさんに期待する街の人の気持ちもわかりますからねえ。」
「どうわかるのよ。」そこで睨まないでください。綺麗な顔が台無しですよ。
「まず、あの魔獣使いの襲撃を撃退したときに一番活躍した魔法使いさんに興味を持つのは当たり前ではないでしょうか。特にその美貌は、これまで表に出していなかったでしょ。」
「確かにこれまでは、顔は隠していましたわね。」
そこで美貌とか褒められて少しうれしそうですねえ。褒められ慣れていないのでしょうか。
「陰気くさい裏路地の隅の薬屋でばばあしゃべりしていた人が、実は美人で大活躍したといえば、当然興味もわくでしょう。」
「そんなものかしらねえ。」いや、顔を赤くしてますねえ。褒められ慣れていないのでしょうか。
「あと、ヒメツキさんもミカさんもたまに街に顔を出す程度ですが、皆さん気になっていると思いますし。キャロルが家族として紹介している人ですから、どんな人か気にっていると思うのですよ。どうですか?」
「確かにそうじゃのう。」そう言ってニヤニヤしているモーラ
「その立ち居振る舞いが見られ、給仕をしている姿やお客様との会話を通して、おのずと心根も見えるというものですよ。」
「そういうことですか。」なんか私の言葉にヒメツキさんが納得しています。騙されやすいですねえ。
「さて、私の手札はすべてさらしました。レイズするもベットするも降りるも自由ですよ。」
「おやおや、異世界の言葉が出てきましたね。」エリスさんが面白がっている。
「最近、ポーカーやらなんやらトランプをやり始めてなあ。夜も結構盛り上がっているのじゃ。」
「野中の一軒家だからいいけど、見つからないでね。」
「はいはい。まず、今回の話から降りる人いますか?」
アンジーがみんなに声をかける。ミカさんさえも手を上げない。
「おや、誰もいませんか。ユーリやエルフィは恥ずかしくて断りそうですけど。」
「もうさんざんいじられたから大丈夫~」
「僕は、恥ずかしいのですけど、いろいろ相談に乗ってもらっている女の子達から嘆願書をもらってしまって。やらざるをえなくなっています。」
「なるほど、女の子の友達ができて、その子達からお願いされたのですね。」
「ええ、男装してくれと。」そこで一同椅子からずり落ちかける。
「そういうことですか。でも、時間をずらして女性の服を着ても良いのですよ。」
「それはもちろん着たいのですが、すでに用意されていて。」そう言って自分の部屋から服を持ってくる。おお、タキシードですねえ。仕立ても良さそうです。
「なんですかそれ。」ミカさんが不思議そうに見る。
「洋服の相談をしたときにサイズを測られて、可愛いの作ってあげるとか言われていたら実際にはこれを作ってくれました。」そう言って燕尾服を広げてみせる。
「へえ、センス良いわね、ちょっと着てみなさいよ」
「あとで、着てみます。」
「なるほど、そういうニーズもあるのですねえ。」
「モーラやアンジーはどうなのですか。」
「私らはねえ、いつも居酒屋手伝っているし、新鮮味は制服くらいかしらねえ。」
「そうじゃなあ。まあやっても良いなあ。」
「おや、いつもの切れがないですね。もしかして、裏取引しましたか。」
「ふ、ここでばれるとはなあ。」
「あんた演技下手すぎよ。ちゃんと演技しなさい。」あなたのオーバーアクションも大概でしたがねえ。アンジーさん。
「こんなもの後になればなるだけ後ろめたくなるじゃろう。このぐらいが潮時じゃ」
「なるほど、そういうことなのね」ヒメツキさんの後ろに炎が見えます。
「まあなあ、こういう形でもないとお主らもこの街になじまんじゃろう。確かにヒメツキとミカは、もう少しでいなくなるじゃろうから良いかもしれんが、キャロルには、おぬし達との思い出が、この街でのみんなとの思い出くらいあっても良いかなとか思ったのじゃ。」
「そう言えば、私が断れないと思ってですか。まったく。この男やアンジーと一緒に暮らすようになってさらに口が達者になったわね。」ヒメツキさんがあきれている。
「まあ、こやつの頭の中におぬしらに思い出を作ってあげたいと、少しだけそういう考えがあってな、それを拝借しただけじゃ。悪く思うな」
「あなたのせいとは知りませんでしたよ。」あきれたような目で私を見ないでください。
「私は考えていただけで、それを頼んだわけではありませんよ。」
「でも、気持ちはありがたいわ。ありがとう。」
「他には、何か言っておきたいことはありませんか。」
まあ、ここまできてやっぱりやめるような人はいませんね。
「では、今度はせっかくやるのですから、こうしたいという案はありますか。」
「はい、」
「メアさんどうぞ。」
「やるからには、制服はメイド服でお願いします。」
「なるほど、メイド服ですか、今着ているのでいいですか?」
「実は、メイド服については、前のご主人とは、私が生まれてから、すでに様々な試行錯誤をしておりまして、結局おとなしめの現在のこのタイプに落ち着いたのですが、前の主人は、最初、超フリフリのメイド服をデザインしまして、それを着ていた時期があります。」
「ああ、そうそう、そうなのよ、あの人はフリフリのついた可愛いものが好きでしたからねえ。」
「はい、家においてフリフリは作業の邪魔ですし、汚れもつきやすいので嫌だったのですが、デザインは気に入っていました。」
「なるほど、今のヴィクトリアンメイドではなくてフレンチメイド風だったと」
「ご主人様、さすが造詣が深いですね。そのとおりです。」
「あんた本当にくだらない知識ばかり持っているわねえ。フリフリなんて実際に見てみないと着られるかどうかわからないでしょう?」アンジーが私の頭の中のイメージを見てあきれている。
「今、私の所に一着だけあります。こんな事もあろうかと一着だけ残してありました。」
「話が先に進まんが、わしらには、メイド服のイメージがメアの着ているものしかないからのう、とりあえずサイズの合いそうな人だけ着てみてくれんか。」
「では、私が着て参ります。」メアはそう言ってひらりと自分の部屋に戻った。そうしてしばらくして、居間に入ってきて一度くるりと回り、まるでバレリーナのように右足を少し前に出して止まり、少し広がったスカートの裾をつまみ軽くお辞儀をする。
「おお、これは、ひらひらで確かに少し足の露出が高いなあ。確かに仕事着とは、いえんしろものじゃ」
「でも、サイズもぴったりだし似合いますねえ。特に脚の線とか綺麗ですねえ。」
私はついついその美脚に見惚れてしまう。そこにいるほぼ全員が私を冷たい目で見ています。
「確かにそうじゃなあ。」おや、さすが年寄り、思考が合いますねえ。
「違うわ、美しいと言っただけじゃ。おぬしのは思考にも嫌らしさが出ておる。さて、次、エリスどうじゃ着てみないか。」そう言うとエリスさんが嫌がらずにメアと一緒に着替えに行きます。やはり着てみたかったのでしょうか。
少ししてメアと一緒に居間に入ってくる。
「胸がねえちょっと苦しいけどどう」
しきりに胸元のはち切れんばかりの服の状態を気にしている。
「いやあ、大丈夫ですよ。それにしても、綺麗です。さすがにサイズが違いますからちょっとつらそうですけど、ジャストサイズの服を仕立てたら、きっともっといいですねえ。」
「ああ、あの胸のあたりがはち切れんばかりなのがいいのう。」
「モーラ、いったいどこ見てんのよ。」
「これは、少しエロい~」
エルフィのその言葉に胸を隠して、恥ずかしそうに、メアの部屋に戻って行った。
「まあ、ヒメツキも着てみないか。いつもパンツ姿だからなあ。見てみたいぞ。」
そう言われて、キャロルとミカを見るヒメツキさん。キャロルのキラキラした瞳に負けて、立ち上がり、メアの部屋に向かった。いやあ、キャロルがいなければ着てくれなかったでしょうねえ。
「さて、ヒメツキの番か。ほほう。これは、これは、」
入ってきたヒメツキさんは、まあ、メイド服が負けています。ちょっとくるりと回ってみても、メイド服と言うよりはアイドルですねえ。
「そうですねえ、映えますねえ。」
ユーリもエルフィも口を開けて見ています。まあ、あまりこういうヒラヒラな服を普段着ていませんからギャップもあるのでしょうが、特にそう見えますね。
「ヒメ様お綺麗です」キャロルの瞳がキラキラしています。
「ヒメツキ様これはお似合いです。」なぜかミカがうっとりしています。
そうなの?程度の表情ですが、さすがにうれしそうです。そして、モーラがユーリに目で合図をして嫌そうに立ち上がります。そして、ヒメツキさんと一緒に居間を出て行く。
「次はユーリか・・・まあ、体格とサイズが違うから仕方がないが、きっと似合うぞ。」
そうして入ってきたユーリは、サイズを少し手直ししてありますが、それでもお人形さんのようです。ああ、ショートカットなのも一段とメイドさんらしいですねえ。
「ええ、右足を軸にしてくるりと一回転してみてください。」
私はついお願いしてしまいます。
「こうですか?」そう言って私の前でくるりと回ります。
「サイズの合う服を着ればこれもいいですね。若いメイドさんな初々しさがありますね。」
「わーい、あるじ様に言われるとうれしいです。」
そこでうつむいて耳まで真っ赤にしているユーリは、確かに可愛いですからねえ。
「私も着た~い」
そう言って手を上げながらアピールするエルフィ。
「無理じゃ、」
「え~」
「乳がはいらんじゃろう。」
「ダメですか~」エルフィが、がっつり肩を落としてテーブルに突っ伏しますが、胸が邪魔で顔がテーブルに着きません。ええ、乳の上に頭が乗っています。いや、そのボリュームでは、まじで破けますよ。
「あたりまえじゃ。無理して着たら破くであろう。」
「ちぇ~」
「どうしますか。この線で行きますか。」
「お主らに不満がなければこの制服で行くぞ。」
「キャロルに言われてはねえ」
「わ~い。ヒメ様ありがと~」
「あとですね、あるじ様にもお願いがありまして。」ユーリがうれしそうにそう言った。
「まさか私にメイド服を着ろとか言わないですよね。」
それでは、さすがに変態ですよ。
「いいえ、僕とお揃いになってしまいますが、この給仕服を着て欲しいのですが。」
「やるなら全員でということですね。わかりました。そのくらいは協力しましょう。」
「あるじ様ありがとうございます。楽しみです。」
「では、次は、メニューですね。軽食としましょう、回転率高くなりますし。」
「これは、醤油じゃろう」
「そうね、それしかないわ、品目は、やはり肉よねえ。」
「少し重いなあ、」
「パンに肉挟みましょう。」
「スイーツはどうしますか。」
「プリンとゼリーが簡単ですね。」
「生クリーム添えますか。」
「でも、大量に作れますか?」
「2日くらいしか無いのなら、冷凍してストックして、その場で作って冷やせばできますよ。」
「さて、さっそく明日この話を領主様に伝えてきますね。」
「はい」
翌日、私は、キャロルと一緒に領主様のところに行って、具体的な話を詰めてきました。食材は収穫祭のまとめ役の方から資金が出るそうで相談して欲しいと言われて、経費の見積りを出して了承を得ました。というか、制服代まで経費で出してくれることに。仕立ても別発注してくれることになりました。まあ、メアさんが直接行って布地の選定、型紙おこしまでやるでしょうけど。
その日から始まったメアによる給仕のレッスンは、過酷を極めました。
「き、筋肉痛が・・・」全員床に突っ伏して倒れています。
「いつも使わない筋肉を使って筋が痛いです。」
「どうして、光なのにこういうとこだけ人間らしいのかしら。」アンジーがふくらはぎを揉んでいる。
「確かに、わしらは、擬態しているだけじゃというのに。」そこで腰をさすりますか、老人は。
「エルフィ、胸にお盆を載せないでください。」エルフィは、両手にお盆を持って、さらに胸にお盆を乗せている。
「え~この方が食器の片付け楽なんですけど~」
「そんなわけあるか。」とアンジーが突っ込んでいます。
数日後、家の中で、仮縫いの終わったメイド服の試着です。ひらひらですよ、フリフリですよ。
「みなさんあまりくるくる回らないように。修正の必要なところのピンが落ちます。」
そう言われても、ミカ、キャロル、ユーリ、エルフィは、黙っていられない。鏡の前とそれぞれの姿を見比べたりして、きゃいきゃい騒いでいる。キャロルは、下着姿のまま走り回っていて、それを追いかけているメア。なんか親子を見ているようで微笑ましいです。
「あと、ドロワースは基本下着と同様とお考えください。確かにターンする時など、見えてしかたがないものではありますが、頻繁に見せていい物ではありません。ご注意ください。」
「見せパンですか。そう言われると、ちらっと見えるとエロいですねえ」
「変態~」
「あるじ様変態です」
「ドロワーズとか変態ね」とアンジー
「おぬし、さすがにきもいぞ」
「でも私はOKです」とメア
メアさんがくるりと一回転しました。見えていないのですが、この見えそうで見えない絶妙な感じがたまりません。
「僕も」くるりとユーリが回る。さすがにスカート丈に個人差がつけてあって、ユーリのは、おとなしめに作ってあるだけにそんなに広がりませんね。とても清楚な感じで可愛いです。
しかし、スカートの丈が長いのは、ユーリの動きが大きいので同じ長さにすると本当に見えてしまうからなんだそうです。さすがメアさん。
「あ、私も~」
エルフィがぶんぶんとダンサーのように片足をあげて回っています。ドロワーズが丸見えです、だからそういう節度をわきまえない行動は萎えるだけです、やめてください。
「おぬし心の中で何を叫んでいるのじゃ」
「ああ、嘆かわしい」私は頭を抱えました。
メアさん曰く、エルフィは、ボディスタイルからエロいのでドロワーズが見えたところでほとんど変わらないから、むしろ広げたそうです。そうですかだからよけいヒラヒラするのですね。それならむしろドロワーズではなく、パン・・・
「旦那様のエッチ」エルフィの一言に再び家族の白い目が突き刺さります。とほほ
メイド服が完成してからは、実際に着て給仕の練習です。すでに、露天の横の広場にかなり大きな店が作ってあります。一応、喫茶店風になるよう私が監修しました。えへん。
「けっこう大きいのう。屋内も客席の間を広く取っているのか」
「メイド服がぶつからないでひらひら動くよう通路を広めにしてみました。」
「なるほど、お主の好きなチラリズムじゃな」
「別に好きではありませんが、客商売とはそういうものです。」
私は言い訳を堂々としてみました。皆さんの冷たい目は、もう慣れました。
「男目線じゃのう。」そこで、おっさんみたいな事を言わないでください。
「さて、練習しましょうか。」メアが、パンパンと手を叩いて自分に目を向けさせる。まるで、バレーの先生かメイド長のようですねえ。
視線を感じるので周りを見ると、すでに窓には暇な男連中がべったりと張り付いています。いや、そういうのは、当日までの楽しみにしておいてください。
「窓は黒くしておきましょう。」
エリス様が一瞬で窓を黒くしました。魔法ですよねえ。どういう仕組みですか?
「そんなことはどうでもいいことよ。」とスルーしました。
「はい、では、料理をすでに作ってありますからそれを運んでください。」
一応、本物の料理とコップなどが用意されていて、壊さないように運びます。ミカとキャロルの分のメイド服も用意されていたので、運ばせてはいませんが、障害物代わりにちょこちょこ店内を歩いてもらっているようです。これがなかなか難しい、彼女たちが視界から消えるので確認しないとなりません。メアさんこれが目的だったのですね、さすがです。
「はい、そこ、メイド同士でぶつからないように。お互いの位置関係をちゃんと把握して、あと笑顔も忘れずに。」メアさんからの厳しい指導が入る。
「顔の筋肉が引きつりそうだわ。」
休憩の合間にアンジーが顔の筋肉のマッサージをしている。
「まったくじゃ。」モーラさん椅子に座って、大股開きで、スカートをめくって手で仰ぐのはやめてください。はしたないです。いや、下品ですから。
「無駄話は必要ありません、口を開くならその言葉はお客様のために使ってください。」
休憩中も厳しいメアさんです。
「お帰りの時の挨拶は丁寧に」
「ありがとうございました~」
戸口にお見送りして、最後の礼の仕方を修正したりして、一連の行動のおさらいをして今日は終了です。
「疲れた~」全員が並べられた椅子に座ってげんなりしています。
でも、途中、交代で休憩していましたが、メアさんは、ずっと指導し続けています。さすが本職は違いますね。
「残念ながら私は給仕ではなくメイドです。それに私はホムンクルスですから。」
「あ、そうでしたねえ。」
その特訓の数日間には、無理矢理入ってくる男達とか試食をせがむ女の子達などの対応が、無理客の対応の勉強になりました。さすがに前日から屋根に登って覗こうとする男については、当日も出入り禁止としました。たかだかお祭りの出し物にそこまで気合い入れないでください。
そしてついに当日を迎えました。私達は、朝早くに着替えを持って街に入っていきます。すると広場のあの店の前にかなりの人数がすでに並んでいました。
「この行列は、いったいなんじゃーーー」モーラが頭をかきむしります。せっかくメアがセットした髪が台無しです。
「開店前から行列ですか。これは想定しませんでしたねえ。整理券を配りましょうか。」
私は、すでにこの情景から現実逃避して打開策の検討を始めました。
「この勢いですと、予約が一杯になって、さらにキャンセル待ちの行列ができそうですので、早めに開店してお客様を入れて、さらに回転率をあげたほうがよろしいかと思います。」
メアさんも冷静に状況を分析しています。
「飲み物も食べ物も今日は、飲み物とお菓子だけにして、明日の分のストックもだしましょう。あとは、なるようになれですね。さあ、急ぎましょう。」私は、この人数を見てげんなりしている全員を店の裏に誘導していきます。
「大盛況になりそうですな。」裏口にて打ち合わせをしていると、わらいながらキャロルを連れて領主様がお見えになりました。キャロルもお揃いのメイド服を着ています。
「まだ開店前なのですが、この様子では、かなり忙しい一日になりそうです。」
「お手伝いは必要ですか?」領主さんがにこりと笑った。
「キャロルですか?それは大歓迎ですが。」戦力にはなりませんけれど、店内の癒やしになりそうですから。
「裏方に必要だと思いまして、うちのメイド達を連れて参りました。お好きにお使いください。」後ろに付いてきたメイドさん達は、護衛を兼ねたお付きの人かと思ったら、そうでしたか。事前に予想していたなら言ってくれれば良いのにとちょっと思いましたよ。
「助かります。」
「それでは、私は他の店も見て参りますので。」
「お待ちください。せっかくですので、領主様が一番目のお客さんとしてお茶していきませんか。」
「いいのですか?」なんかうれしそうですね。
「ここまでしてもらっていますので、開店時間前の最後の予行演習という事でよければ。」
「それは、ありがたいです。」そうしてみんなで裏口から入り、厨房の後ろの事務室で皆さんが着替えている間に、私が、領主さんとキャロルを窓側の一番良い席に案内する。
「どうもうちのキャロルがお世話になっております。」着替えを終えたヒメツキさんが挨拶をする。
「お目にかかるのはお久しぶりですね。キャロルは元気なよい子で本当に私の子どもに欲しいくらいですよ。まあ、本人に断られましたが。」あはははと笑っている。
領主様には、ひとりずつ対応しています。出迎えの挨拶をミカ、水出しをエルフィ、オーダーをユーリ、注文のお茶をアンジー、お菓子をモーラ、精算(真似だけ)をメアが順にしていったのですが、
「ミカさんたまに私の家に遊びに来てください」
「エルフィさん、居酒屋では大人気ですねえ。」
「ユーリさん、うちの冒険者をしごいてくれてありがとうございます。」
「アンジーさん、孤児院の方は、どうですか。教会作りましょうか?」
「モーラさん、いつも子ども達がお世話になっています。また遊んであげてください。」
「メアさん、女の子達に裁縫を教えてもらってありがとうございます。」
そして、領主様が伝票を持って立ち上がったところで私が近づき、
「さすがに全員の名前を詰まらずに言えるとはすごいですねえ。」
「これくらいは、街の中に不審者が入って来たときにこまりますからなあ。では、私はこれで。裏口からこっそり帰りますので。皆様のご健闘をお祈りいたします。」
全員にお辞儀とキャロルに手を振って領主さんが出て行った。
「それでは、開店します」
私は、扉に掛けていた閉店の札を裏返して、開店にする。最初に入ってきた人は、昨日の夜から並んでいたらしい。
「いらっしゃいませ」メアさんが最初に席へと案内をしていった。そこからは、怒濤のように客が押し寄せてくる。しかし、満員になったところで、キャロルが扉の前で通せんぼをして入らせないようにしてくれた。さすがに子どもを押しのけてまで入っては来ない。
お水をお出しして、オーダーを取る際にお席の時間は、最後のオーダーが届いてから5分になることを説明しています。
「3人様ですねこちらのお席へどうぞ。」
「ご注文は」
「は~い、5番テーブル、オレンジジュースとサンドイッチで~す」
「おまたせしました」
「きゃー、やっぱりかっこいいわ~」
「ねえ、想像していたとおりでしょ~」
「いいえ、想像以上に似合っているわ~かっこい~」
あちらこちらで歓声やら嬌声が聞こえる。ああ、叫声というのもあるのか。まあ、静かな客も多いが、おっさん達のダミ声も響きますねえ。
「あんたも給仕するのかい、けっこう似合ってるねえ」と、居酒屋の女将さんが声をかけてきた。
「ありがとうございます。」
「まあ、みんなの目当ては他だろうねえ」と少し意地悪そうな言い方をしてくる。まあ、いつものいじりですけどね。
「でも街のみなさん楽しそうでよかったです。」
「みんな昨日までここの噂でもちきりだったからねえ。」
「いらっしゃいませ~」
「わしはモーラとキャロルを見に来たのじゃ」
と、高齢の男性が入ってきたりする。本当に年齢性別問わず皆さん人気がありますねえ。
「いらっしゃいませ~ご注文は」
「キャロルをもらおうかい」
「申し訳ありません。キャロルは、商品ではございません。キャロルのサービスが商品です。何になさいますか?」
「ほほほほ、では、このプリンとお茶をもらおうか。」
「ご注文ありがとうございます。オプションで何かお書きしますか」
「名前を書いてもらおうかねえ」
「はい、ではお待ちください。」
「お待たせしました。何と書きますか?」
「そうだね私の名前をかいておくれ」
「はい」
「ありがとう、」
「ごゆっくり」
というオプションサービスを誰かがやっていたようです。誰ですか、私の頭の中にあったメイド喫茶のイメージを勝手に実行しているのは。
だが、まれに勘違いした客も入ってくる。
「いらっしゃいませ~」エルフィが何かに気付いて、さっと、その客の相手を始める。
「おう、ビールくれビール」
「うちは、お酒おいてないんです~」
「じゃああるものをくれ」
「お水ですね~」
「いやいや水はもうあるだろう」
「では、お茶を一杯ですね~他に何か注文しますか~」
「じゃあおめえのミルクでも」
「そういうのは、お酒を飲んでるときにしてくださいね~」
「ふん、ミルク無いのかでそうな乳しているのなあ」
「子どもいませんから~出ませんよ~」
「じゃあ・・・」
「これ以上何か言うと~たたき出されますよ~」
「じゃあこのゼリーをくれ・・いや、ください」
「ご注文は以上ですか~。それではお待ちください~」
「なんだ周囲のこの殺気は」
まあ、客の方からのプレッシャーの方が強かったみたいですけど。
そうして、昼前には、客足も落ち着いてきたので、お客さんを少し制限して、交代で休憩することにしました。本来の喫茶店なら昼の方が稼ぎ時なのでしょうが、うちは、スイーツのみなので、昼からは、予約のお客様だけにして、軽食もだしました。交代でお休みと収穫祭を見に行ってもらっています。ええ、それまでは、戦場のような感じで、さすがに体力がもちませんでした。
そのせいで、目当ての子が休憩に入っているので、文句を言うお客まで出てきました、普通のお店でも休憩時間には、誰かいないのはあたり前です。
開店時に行列を解消するために整理券を配ったため、夕方までずっとお客さんがお見えになります。なので、ほぼ最後まで全員で働きました。もっとも、せっかくの収穫祭なのでキャロルとミカを連れて交代で外出してもらったので、少しは楽しんでもらえているのでしょうか。
予約をしながら、キャンセル待ちの列に並ぶ強者がいらっしゃって、夕方の予約のお客さんはまばらとなってきて、みんな少し寂しそうです。頑張った分の反動ですかねえ。
「あと何組でしょうか。」
「一応配ったチケットでは、あと8人ほどです。」メアさんがそう言いました。
「こんにちは。」そう言って入ってきたのは領主様と商人さんと団長さんです。
「いらっしゃいませ~」そう言って駆け寄ったのは、キャロルとミカとユーリだった。
「お席は空いていますのでお好きなところへどうぞ~」とアンジー
全員カウンターに並んで座った。
「カウンターでよろしいですか?」
「ここでかまいません」ニコニコ顔の領主様と、あまり笑っていない商人さんと団長さんです。何かありましたか?
「お水をどうぞ。」私は、3人に水を出しました。カウンターでの接客は、私かメアさんなのです。
「あの、ご注文はどうされますか。」
「では、お菓子の付いたティーセットを3つお願いします。」
「それでよろしいですか?」念のため2人にも聞く。うなずいているので、
「では、オーダー入ります。キャン(ディ)ティーセット3つ」
私は伝票に書いて、写しを後ろにいたメアに渡す。
「は~い」厨房から声がした。
「今回はありがとうございました。」領主様が少しだけ頭を下げました。同じようにお二人も頭を下げます。
「いえ、まだ明日もありますし。こういう催しは終わるまでが遠・・もとい終わるまではなにが起きるかわかりませんから。ちゃんと頑張らないといけませんから。」
「今回のこの喫茶店というのは、彼らの発案だったのですよ。」
「そうですか、他の国で見てきたとおっしゃっていましたが、素敵な提案でしたね。」
「ですが、ここまであなたとその家族にここまでご迷惑をかけることになるとは、思いもしませんでした。それをお詫び申し上げます。」
「謝られても困ります。こちらとしては、この街にはかなりお世話になっていますから恩返しのつもりでしたし、出店するまでにみんな楽しく・・・まあ、苦しいこともありましたが、今日はみんなうれしそうに接客していましたよ。どうしてお詫びなんか。」
「今日のこの異様な数のお客についてなのです。」
「はあ、」
「この2人がよかれと思って事前に手を回したそうなのです。」
「ええ、繁盛したのは良いことですよね。それが何か?」
「実は・・」そう言って話し始めたのは商人さんでした。
「魔獣襲撃の時の撃退の話は、かなりの町や集落に衝撃と困惑を呼びました。ただ、災害ではなく人災だと、誰かが起こしたものなので仕方ないことだと他の集落の人々も納得しました。それを救った救世主がいると噂になりまして、その人たちが今回の収穫祭に出店すると周りに言ってしまったのです。」
「ああ、それで、妙にエリスさんに会って感謝している人がいたのですね。」
「はい。そして、この街の人たちも当然知っているわけで、かなりの人が殺到するのは間違いないとは思っていたのですが、せっかく皆様が出店してくれるのに客が来なかったらどうしようと不安になりまして、ついつい、話す範囲を広げてしまったのです。今日来てみたら、どうも数を読み違えていまして、本当にすみませんでした。」商人さんと団長さんがテーブルに頭をぶつけそうなほどに頭を下げる。
「謝らないでください。私達がそんなに人に知られているわけないと思っていましたから、みんなメイド喫茶を知らないから興味本位でもこんなに来てくれたんだと思っていました。そうやって客を呼び込んでくれたならむしろ良かったです。何より収穫祭にたくさんの人が来てくれて良かったじゃないですか。ご協力に感謝します。」
「しかしですねえ、結果的に変な噂も立つかもしれないじゃないですか。」
「まあ、たかだか2日だけの催しなのですから大丈夫でしょう?」
「そう言っていただけるとありがたいです。」2人とも平身低頭です。
「さすがに奴隷商人と言われても気にせず普通にされていた方は違いますね。」
「やはり噂されていますか。」
「ええ、されていた、ですがね。色眼鏡で見られていようと、気にせず堂々となにも変わらないところは、後々、街の人の心が好意的になっていくのを見ていると。改めてこの人は、すごい人なんだなあと思っています。」
「領主様、恥ずかしいこと言わないでください。私は、以前も今も変わらない・・・とは、言えませんね。これだけの人と家族として一緒に暮らせているのです。前よりももっと幸せになっていますし、街の皆さんにも受け入れられましたからねえ。あと、人の心はそう変わりませんし、面と向かって言う人はいませんから。まだ思っている人がいるとは思いますよ。」
「お待たせしました。」
そう言ってメアが、ティーセット3つを持ってくる。さすがメアさんですタイミングを計っていましたね。
「あなたにそう言っていただいて安心しました。」
そう言って領主さんは、紅茶を飲む。あわてて2人も紅茶とお菓子に手をつける。
「おやこの茶葉は。」
「メアさ~ん」私はなにも知らないのでメアさんに振った。
「領主様のお宅でお飲みになっている茶葉です。来賓用にと特別に少しお分けいただきました。」
「そうでしたか。それにしても家で飲むよりおいしく感じましたが、」
「この店の雰囲気でしょうねえ。」
「でも、」
「それ以上はお話になりませんように。」
「そうですか。そうします。さて、この後は、予約者が5組ほど入っていると思いますが、来られなくなりましたので、店じまいができますよ。」
「まさか無理にお断りさせたわけではありませんよね。」
「私の使用人達にお願いして最後の時間を取ってもらいました。その人達は、すでに予約して、このお店を堪能したそうですので、無理に断らせたりしていませんよ。安心してください。」
「そうでしたか。ご配慮ありがとうございます。」
「実はこの後、広場の中心で踊りがあります。後片付けで参加できないとつまらないですからねえ。」
「そうでしたか、この店のことで頭がいっぱいでお祭りでなにが行われているのかわかっていませんでした。お誘い感謝します。」
「それでは、また夜に。その後には、居酒屋にも来てくださいね。」そう言って領主様が出て行かれた。2人は残された。
「本当にすいませんでした。こんなに人が来るとは思っていなくて。」と商人さんが言った。
「もう、謝らないでください。よかれと思ってしてくれたのでしょう?気にしないでお祭りを楽しんでくださいね。」
「ありがとうございます。では、一つだけご忠告を。この後の踊りについては、昔から、こう言われています。独身の男女は、最後の曲が終わった時に手をつないでいた相手と、結婚もしくは、生涯の伴侶となると言われていまして、今のところほぼ完璧に達成されているようなのですよ。なので当然それを狙って画策する輩が出ますので注意してください。」商人さんはそう言いました。
「ほぼ、なのですね。」
「結婚後別れる夫婦や死別もありますから。」
「なるほど、その後、居酒屋で祭りのご苦労さん会ですねえ。」
「そうなのです。ですから皆様に気をつけるように言ってください。」
「わかりました。そうします。」
「まあ、噂の類いですからねえ。」と団長さんは言った。
「子どもも踊るのですよねえ。」
「ええ、子ども達は親と一緒に踊って、早い時間に家に帰ります。」
「ああ、そうなのですか。」
「くれぐれもお気をつけください。では失礼します。」そう言って2人は帰って行った。
「ありがとうございました。」エルフィが扉まで見送り、店の扉につってある「開店」の札を「閉店」に裏返した。
「さて、明日もありますので、片付けますか。」
「ご主人様、すでに厨房は終わっております。店内の掃除をすれば本日は終わりです。」
「みなさん大体聞いていたと思いますが、夜の踊りとその後の打ち上げがありますので、十分注意してください。あと、ヒメツキさんは、子ども達の踊りが終わったら、キャロルとミカさんを連れて一度家に戻りませんか?」
「ええ、お酒には、ちょっと惹かれるけど、キャロルが寂しがったら行かないわ。」
「ミカさんは未成年ですから今回はやめておいた方が・・・」
「わしがついておる大丈夫じゃ」
「その保護者が一番不安なのですよねえ。酔っ払わないでくださいね。」
「まあ、善処する。」
「これで終わりですね。」ユーリが玄関前の掃除を終えて入ってきた。私は先に着替えをして、外に出て行く。
「皆さん着替えてくださいね。戸締まりよろしくお願いします。」
「は~い」
夕日の当たる場所にもたれかかって、ぼーっとしている。すでに楽しそうなリズミカルな音楽が聞こえてきている。この広場の反対側なのだろうか。区画を分けているので見えてはいない。
「どうしたんじゃ黄昏れておるようじゃなあ。」
着替え終わって最初に出てきたのはモーラだった。いつもの髪型に戻っている。
「髪の毛も元に戻したのですか?」
「ああ、ポニーテールは、髪の毛が根元から引っ張られるのでなあ、いつもと違う感覚で嫌だったのじゃ。」
「そうでしたた。けっこう似合っていましたよ。まあ、美少女なのでどんな髪型でも似合いそうですけどねえ。」
「相変わらず恥ずかしいことをヌケヌケと言いおるのう。」モーラは顔が少し赤い。
「恥ずかしくないですよ。だって似合うものは似合いますから。」
「あーもうやめんか。」そう言ってポカポカ殴るのはやめてください。それだって萌え死にしそうですよ私は。
「おや、相変わらず仲が良いわねえ。」そう言ってエリスさんと皆さんが出てきます。キャロルは少し怒っています。
「モーラ様ずるい、鍵の確認を一緒にしないで逃げた。仕事しないで逃げたそれが一番ずるい。」おお、キャロルの激おこぷんぷん丸ですねえ。こちらも可愛いです。
「なにバカなことしてるのよ。ごめんねうちのダメ人間が。怒らないでね。さあ一緒に行こうね。」アンジーがキャロルのそばに行って頭を撫でながら声を掛ける。渋々歩き出すキャロル。ミカさんは、先に少し走って行って、こちらを振り返り、
「キャロルおいで、あそこまで競争だー」そう言って走る真似をする。キャロルは急に走り出し、
「私が一番~」と言ってダッシュしている。ミカさんを通り過ぎたところでミカさんがその後を追う。結構良いスピードで走ってましたが、子どもって意外に足が速いんですねえ。
「転ばないでよー」と言ってヒメツキさんが小走りで追いかける。ああ、その姿はお母さんですねえ。
「そうですね。」歩き出した私の横にユーリが並ぶ。モーラが軽くジャンプして私の肩に乗る。スカートを頭にかぶせないで欲しいのですが。
「あまり派手なジャンプはダメですよ、皆さんに見られては誤解を招きます」そう言ってメアが私の隣に並びました。ユーリとメアに手を差し出すとどちらも腕を組んできました。
「あ~ずるい~」エルフィが私の背中にぶつかります。
「倒れるまでぶつかってはいけません。」メアさんが先生口調で言った。
「は~い」エルフィは、そう言いながらも私の胸に両手を回してグイグイと押しつけてくる。
「幸せそうねえ」と横からのぞき込むアンジー
「私に力が合ったら両肩にアンジーとモーラを乗せられたのですがねえ。今回は、メアさんが一番頑張ってくれましたので許してあげてくださいね。」
「私が一番サボってたみたいじゃない。」
「たまにつまみ食いをしているのを見てましたからねえ。」
「あんたよく見ているわねえ。ま、しかたない今回は譲るわ。」そう言って、エリスさんと並んで先を歩く。
「本当ならモーラなんでしょうけどねえ。」
「なにを言っておる、わしは、つまみ食いはしておらんぞ、お客からア~ンっていってお裾分けをいただいただけじゃ。」
「客商売でそれは行けないんですよ。まあ、本当のお店じゃないですからいいんですけどね。」
そうして、踊りの場所に着く。すでに中心に火の櫓が作られ、その周りを回っている。2重の輪が作られていて、仲の輪は子ども達のようだ。手をつないでステップを踏んだり手を交差させたりしている。
「意外に簡単なステップねえ。」そう言ってその場でステップを踏むアンジー。炎を背景に綺麗なシルエットが浮かび上がる。
「綺麗に踊るのう。」モーラはそう言って、私の頭をペシペシと叩く。下ろせの合図だ。私は、モーラの体を抱いて下ろす。すかさず走って行ってアンジーの隣でステップを踏んでみる。
中にいた子ども達がそれを見て、モーラとアンジーを引っ張って中の輪に連れて来て一緒に踊り出す。私達も外の輪の人達から手を引っ張られ、踊りの輪に連れ込まれる。それぞれ、見よう見まねでステップを踏む。ヒメツキさんは、キャロルと一緒なのが見えた。
違う曲に変わり、2人一組で踊り出す。曲の途中で前の人と交代して、次々と相手が変わっていく。
「そうですか。この曲が最後にかかるんですね。」そう独り言を言うと、手をつないで踊っていた相手の方がうなずいている。そして、また違う曲になり、今度は4人組で踊りながら、2人だけ次の組へと移っていくダンス。これもリズムに乗ってステップを踏むのでなかなか難しい。
そうして、リ~ンゴ~ンと鐘が鳴らされて、内側の踊りの輪が切れて周囲へと帰って行く。
「ヒメツキさん」私達は外側の輪を抜けて、全員で声を掛ける。すでにキャロルは、おねむのようだ。
「これでは、あとで合流は無理そうね。」
キャロルをおぶって、ミカの手を引いて帰って行った。なぜか後ろ姿が育児に疲れた母親のように見えてしまった。しかし、みんなも限界そうです。
「残念ですが、帰りましょうか。」
「そうねえ、明日もあるしねえ」アンジーの声を聞いて、私に強烈な疲労が襲ってきました。ああ、緊張の糸が切れましたねえ。
「私が村長に挨拶してきます。先に歩いていてください。」
みんなの様子を察してメアさんがすでにその場からいなくなった。
「よろしくお願いします。」
私は、すでにいないメアさんに聞こえるはずもないのに言っていました。
「あんた、肩車して。」アンジーが当たり前のように要求する。そう言いながら手を差し伸べてくるところを見ると手をつなぎたかったのでしょう。
「ええーーーっ、これから家までですか。」
「負ぶっても良いわよ。」しかし、皆さんの目がお怒りモードです。
「私も負ぶって欲しい~」
「僕もできれば」
街から出たところでみんながぐずるので、私は
「じゃあじゃんけんで勝った人だけ3分だけおぶってあげます。その後またじゃんけんで決めましょう。それで勘弁してください。」
「よ~し、ジャンケン」
「はいそこまで、ストップ」メアさんが追いついてきました。
「ご主人様も疲れておいでです。ご主人様を私が背負います。他の人は歩いてください。」
「ええーーーっ」
「皆さんの健康状態を観察しまして、今一番問題なのはご主人様であると判断しました。」
とメアさんが私の手を取り簡単に背負いました。でも、少し恥ずかしいですねえ。
皆さんは、不平を言うわけでもなく歩き出します。
「そういえば、準備期間中ずーっと、色々やっていたものねえ。」とアンジー
「まあなあ、ここ一週間くらいは、睡眠時間削っていたからのう。」とモーラ
「最初は、スイーツ用の皿や、コップを作って、食材の搬入手順や搬入量の調整、メニューの作成など、店で使うメニューなどを作って、昼間は、給仕の特訓につきあって、最後にはデザートの仕込みも朝まで掛かってやっていましたので、」メアが言った。
「あるじ様は、やるとなったらとことん頑張りますから。」
「そうなんですよね~その頑張りを私に向けてくれても良いと思うですよね~」
しかし、私は反応できませんでした。すでに眠っていましたから。
「やはり寝おったか。まあ、仕方ない。明日倒れられても困るからなあ。」
「ですが、明日の食材の仕込みをしませんとなりません。」
「そういえばそうよね。明日の分のスイーツを出したはずだから。」
「はい、昼からは軽食も出しましたので、少なくとも明日の朝一番用のスイーツがひつ王になります。」
「どのくらいの時間がかかるのじゃ。」
「ご主人様が起きていれば数時間ですが。」
「今日は早めに寝て、朝早く起きようではないか。」
「その方が良いわね。」
「急ぐぞ」
そうして、メアさんが走っている心地よい振動で気持ちよく眠りました。
翌日
今度は、みんながヘトヘトのようです。
「起こしてくださいよ」
「おぬしばかりに何でもやらせてはなあ。」
「そうよ、私達も頑張れるというところを見せないとねえ。」
「あるじ様、シャワー浴びてきてください。」
「皆さんも一度浴びた方が良いですよ。」
「そうねそうするわ」
朝のシャワーはすっきりします。そして、食材を家から店に搬入しました。さすがに昨日ほどではありませんが、列が出来ています。昨日、予約券を配ったので、ここにいる人達はキャンセル待ちの券が欲しい人達です。
「券の発行は私達がやります。」と。領主様のところのメイドさん達がやってくれることになったので、行列はすぐ解消となりました。しかし、また並んでいる人がいます。キャンセル待ちの券を追加で発行して欲しいということなのですが、すでに予約席と同数のキャンセル待ちの券を発行しているので諦めてもらいました。
「さて、では開店です。」手順がわかっている分昨日よりもスムーズです。午前中から軽食もオーダーできるようにしました。今日は軽食が飛ぶように売れています。
「これおいし~かかっている調味料何かしら。ソースじゃないみたい。」
「不思議な味~癖になるわねえ」
「本当にそうね」
やはり醤油の威力は絶大です。メイド服に見とれる人ははかなりいなくなり、食事の方に集中しています。はい、男の人は特にガツガツと皆さん食べています。
「ごちそうさま。おいしかった。また食べたいね」
思わず「またのご来店をお待ちしています」と言いそうになりました。
その噂が広まったのか、軽食を頼む人が増えて、予定していたスイーツがあまりオーダーされなくなりました。フードロスはいけませんね。
「ご主人様、大丈夫です、昨日多めに出したので、今日は昨日ほど在庫はありません。」
そうでした、今日の分も昨日店に出したので、今朝作ってくれた分しかないのでした。
「まあ、最終的には皆に配れば良いであろう。問題なかろう。」
「そうですけど、」
「いらっしゃいませ~」
その時入ってきたのは、領主様でした。
「カウンターに座ります。」そう言って、カウンターに領主様は座った。
「いらっしゃいませ、何にしますか?」
私は、水を出しながら、カウンターに置いてあるメニューを見せる。
「今夜の皆さんの予定がいただきたい。」
「はあ?」
「いやまず、プリン付きの紅茶セットをお願いします。」
「わかりました、オーダー入ります。プリティーセットひとつ」
「わかりました。」厨房からの声と同時に伝票の控えをメアさんに渡す。
「さて、今夜の予定ですか。」
「はい、昨日の踊りの輪のあと居酒屋にと話していましたが来られなくなりましたよね。」
「すいませんでした。私が倒れてしまって。みんなが一緒に帰って、今日の準備をしてくれました。」
「そうでしたか。それはすいませんでした。理由がわからなかったので、皆さんどうしてこないんだと私に文句をつけて来られまして。今日は絶対連れてこいと私に言ってきたのですよ。」汗を拭きながら領主様が言いました。珍しいですねえ。
「こちらプリンと紅茶のセットになります。」そう言ってメアさんがテーブルに紅茶とプリンを置いた。
「メアさん、そうならそうと言ってくれれば良かったのに。」
「倒れたと言っても眠ってしまっただけなのです。ですから、そのまま話すことも出来ず、急遽用事が出来たことにしました。実は、最近の睡眠不足がたたって、そのまま朝まで寝ていましたのです。過労ですね。」
「今は大丈夫なのですか」
「ええ、睡眠さえ取れればなんとかなりますよ。病気ではありませんから。」
「今夜も大丈夫でしょうか。その、皆さんも。」
「たぶん、大丈夫じゃないでしょうか。ひとりずつ聞いてみますか?」
「楽しみ~」とエルフィ
「大丈夫です。」とユーリ
「もちろん行くわよ」とアンジー
「わしも行く」とモーラ
「キャロル次第ねえ」とヒメツキさん
「モーラ様が行くなら」とミカさん
「仕方ないわね」とエリスさん
「とこんなどころですねえ。ああ、メアさん」
「ご主人様が行かれるのであれば。」
「だそうです。大丈夫そうですね。」
「それとですね、言いづらいのですが、その、衣装はですね」
「ああ、このメイド服を着ろと」
「皆さん収穫祭の準備と出店で見ていないものですから是非にと。」
「なるほど。これも聞いてみないことには。なんとも」
「あー仕方ないわね来られなかった人達なんでしょ。」
「主催者側はいつも割を食うからのう。仕方なかろう」
「僕はどちらを来た方が良いですかね。」ユーリは、今着ているタキシードを見ながら言った。
「私としては、ユーリに可愛い方を着て欲しいのでメイド服ですね。まあ、他の人に見せるのはとはもったいないと思いますが、一方で見せびらかしたいとも思っていますので。」と私が言った。
「じゃあ、メイド服で行きます。」
「キャロルは、どう思う?うれしいの?なら着ようかしら。」とヒメツキさん
「ヒメ様が着るのなら合わせます。」
「居酒屋ってここより広いんでしたっけ。お祭りの片付けもあるから、それが終わるまでにここを少し広げてここでやったらいいじゃない。」とエリスさんが大胆な発言。
「なるほど、そう言う手がありましたね。できますかねえ。」と領主様がうれしそうです。
「そうですねえ、そこの扉だけ外せばかなり広くなりますし、あとは椅子とテーブルが欲しいですかねえ。」
「とりあえず女将さんと相談してきます。」
「あまり服を汚したくないのですが。」ああ、メアさん
「確かに作る側としては汚れるのは嫌ですよねえ。」
「はい、居酒屋の方が汚れる率が高くなるのですよ、酔っ払いが出るので。」
「確かに。」
そうして、夕方になり、店を閉める時に色々な資材が運び込まれてきました。
「さて、閉店の札を下げるのではなくて、壁を壊しますよ。」
「ラジャー」そう言っていきなり作業に入ろうとするエルフィ。しかし、
「エルフィさん、着替えなさい。メイド服でやる作業ではありません。」
「ちぇーーー。」そう言って着替えてくる。
ここの壁は、取り壊しが簡単にできるように作ってあります。軒下に壁を外すように作っているのでそこの留め具を外すと扉を挟んで壁が倒れる。
「簡単に外れるのう。ここでご苦労さん会をやることまで考えていたのか。」
「いいえ、解体するのが簡単なようにしていただけですよ。ですから、要所要所の柱は残さなければなりません。」
「楽に壊せるか、それを考えているところがもう日常生活系魔法使いたる証左であるなあ」
「扉側の壁と扉は外して裏手に置き、壁のあったところの柱に筋交いを少しだけつける。」
さらに露天のテーブルと椅子が運び込まれて、玄関前だったところに並べていく。
「おう、待たせたねえ。では、こっちに酒を運んでおいで。」そうして、何樽かの大きい樽を人夫を使って運び込まれる。さらにコップや皿までが持ってこられた。
「宴会が始まったらわるいけど、食べ物だけ持って行ってくれないか。」
「酒はどうするんですか。」
「ここに来て自分で注いでもらうことにするよ。腰を痛めてねあまり動きたくないんだよ。」
そうして準備が進んでいくと次々にお客がやってくる。
「いらっしゃいませ~」キャロルが見よう見まねで玄関のあったあたりでお辞儀をした。
「おう、挨拶できて偉いねえ。」そう言ってその男は頭を撫でておくのテーブルを目指して座る。
「すいません、女将さん腰痛めたらしくて自分で酒を注いで欲しいそうでカウンターへお越しください。」
「なんだまたやったのか。どれ、あ、つまみは肉の串焼きを頼むテーブルに置いてくれ。」
そう言って男は、カウンターに行く。
「なんだばばあ。またやったのか。しょうがねえなあ。ほれ、」そう言って硬貨をカウンターに投げ、そこに置いてある樽からカップに泡麦酒を注ぐ。最初なので泡ばかりだ。
「これはひでえ」
「おかわりはただにしてやるよ。ありがたく思え」
「いや、あわだけだぜこれ。これに金払えってか。」
「お前の入れ方が下手なだけだろうが」
「そうかいそうかい」そう言ってそこで泡を飲み干し、自分で再びカップに注ぐ。
「今度も泡多いだろう。」
「だから下手なんだって。次は入れてやるよ」
「ああそうしてくれ。」そう言ってそのカップを持って席に戻る。店の露天をやっている人達がどんどん入ってくる。そして、次々と自分で酒を注いで、席に持って行く。席に着いたところにメイド服の誰かが席に行って、食べ物を注文を聞いている。手慣れたものだ。
カウンターに一人酒を持ってきた。そして私に
「昨日倒れたんだってなあ。」
「ええ、まあ。」
「そりゃあすまなかった。俺ら楽しみにしてた分落胆も大きくてなああんたのことを恨んでたのよ。でも、この店のために睡眠時間削ってたんだってなあ。すまなかった。」
「別に謝られても。」
「でも、今日は祭りも終わったし倒れるまで飲んでくれよ。」
「ありがとうございます。」
多分商人さんと露天の元締めさんが現れて、撤収が完了したのでしょう。領主様も到着して、ようやく乾杯です。まあ、すでに皆さんほろ酔いでしたけど。
「収穫祭お疲れ様乾杯~」全員の杯が掲げられ一気に騒がしくなる。
それでも私達に気を遣って、食べ物も飲み物も自分で取りに来ている。メイド服姿が妙に際立っているが、みんな楽しそうに話している。ヒメツキさんやミカさんキャロルは、たぶん露天の人の奥さん達なのだろう。子ども連れも多くそちらに引っ張り込まれていた。
『モーラ少し席を外しますね。飲み過ぎ注意ですよ。』
『どこに行くんじゃ』
『秘密です』
私はそう言って、露天の並ぶ通りを抜けて、商店のある方に向かった。そこに一件だけほの明るい店があり、そこの扉を開ける。
ドアベルがカランカランと静かに音を立てる。
「いらっしゃい。ああ、そうか。」
「こんにちは。来ました。」そう言ってカウンターに座る。
「今日は何にする。」コップを磨いている手を休めずにマスターは言った。
「もちろんコーヒーです。」
「うちは、バーなんだがねえ」
うれしそうに笑いながらそう言った。すでにアルコールランプには火が入っている。
「アルコール弱いので。」
「そうだったな。」棚にある瓶を出して、そこから豆をスプーンですくい、手回しのコーヒーミルでゴリゴリとその豆を挽いた。挽いた粉をサイフォンの上に入れて、水の入ったサイフォンに乗せる。もちろん中の布は装着済みだ。しばらく待つと、沸騰して泡と共にコーヒー豆の入っているところに駆け上がっていく。丁寧にお湯と粉とを混ぜて、下に下がるのを待っている。ほどなく下にコーヒーが落ち着き、カップに入れて、私の方に出されてくる。
「どうだ収穫祭は楽しかったかい」
「ええ、本当にいい人対ばかりで。」
「そうだな、まだここには居るのかい?」
「どうでしょう。多分もう少ししたら旅立つことになりそうです。」
「時間が出来たらまた来ると良い。」
「たまにしかやっていませんよね。」
「そうではないんだがなあ。」
「さて、そろそろ戻りますね。また、機会があったらここに顔出します。」
「久しぶりに会えて良かったよ。」
「私もです。」
「気をつけてな。」
「では」
そう言ってドアベルの音と共に私はその店を出た。店の明かりは消えてしまった。
『おや、聞こえているか』
『ええ、聞こえましたよ』
『気配がなくなったからびっくりしたぞ。何かあったのか?』
『なにもありませんよ。』
『そろそろ帰るぞ。キャロルが寝てしまったのでなあ。わしらも潮時じゃろう。』
『すぐ戻ります。』
私は足早に通りを抜けて宴会場に戻った。
店の奥にエルフィとメアさんが寝ていました。
「メサさんがですか。」
「おう、さすがにみんなの手前わしが抱えるわけにもいかんのでなあ。」
「エルフィは起きますね。私はメアさんを背負います。」
「さて、エルフィ起きろ。わしだモーラだ起きないとー」
「目が覚めました~おはようございます~」
「さあ帰りますよ。」
「メアさんがそうですか。じゃあ帰りましょう。」そう言ってエルフィは、ぴょんと飛び起きました。
「ではまたね。」エリスさんが着替えてメイド服を抱えたまま戻って行った。
「明日は店の解体ですねえ。」
「それがねえ、なぜか孤児院の維持費のために経営してくれることになったのよ。なので、これを違う場所に移すらしくて、私達に解体しなくて良いと言ってくれたのよ。」
「そうでしたか。使ってくれるならうれしいです。けっこう気合い入れて作りましたから。」
まだ残って飲んでいる人達に挨拶をして私達は帰ります。ミカさんも疲れたようでユーリの背中で寝ています。
「ミカも酒に弱い方じゃったなあ」
「年齢的にまだ無理でしょう?」
「好きな奴は生まれてすぐに飲み始めるわ」
「そういえばモーラもそうだったわねえ。」
「そうよ、じじいどもが面白がって飲ませよって。おかげでしばらく飲み癖がついたわ。」
「なるほどね」
そうして家に戻り、お風呂に入っている。メアさんは眠ったままだ。
「大丈夫でしょうか」ユーリが気にしている。
「わしらじゃメアのことはよくわからん。」
「そうよねえ、人間の英知の結晶だから」
「ブクブクブク。」エルフィが半分寝ていて、口がすでに水没しています。
「さすがに上がろうか」
「そうですねえ。」
次の日にはメアさんはすっかり元気になっていました。
「実は、昨日飲み過ぎまして。もう大丈夫です。」
そうして、メイド喫茶は終了したのです。
それから私は、ひとりになるとついついその時の皆さんの様子を思い出して楽しんでいます。エロい見方が出来ない自分が変なのかもしれませんが、みんながフリルフリフリのメイド服でフリルを振りまきながら給仕をしている姿がなぜか楽しいのです。なぜか幸せなのですよ。
「この変態!!」あ、アンジーさんに罵倒されました。
「おぬしの性癖がよくわかったわ」とモーラ
「それは~ちょっと~ドン引きなのです~」ドン引きはちょっとではありませんねエルフィ
「さすがの僕もちょっと引いています。」とユーリ
「そうですね。確かに」とメアがくそデカため息をついて私を見下しています。
それは仕方ないですね。だってみんな一生懸命で楽しそうに笑っていて、とても素敵だったんです。
「だからそう言うことを平気で思うなー」アンジーさんそれはないでしょう。勝手に私の頭覗いているのですから。
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