巻き込まれ体質な私、転生させられ、記憶も封印され、それでも魔法使い(異種族ハーレム付き)として辺境で生きてます。

秋.水

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第20話 メイド喫茶(まとめて)

第20-2話 メイド喫茶2(ファーン編)

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この話は、13話弧狼族のレイが合流したあとしばらくしてからの話です。


○メイド喫茶再び
 そうして、元の家に戻って落ち着いてきたところで、嘆願書が届きました。どうやら、あの街の真似をしてこの町でも収穫祭をやることになったようです。何でも真似をしているようで、当然のように私たちにはメイド喫茶をやって欲しいという嘆願書です。
 エルフィとレイが馬の世話というか、馬を散歩から連れ帰るのが遅れていますが、先に話を進めましょう。
「えー、言わずもがなですが、あの街のイベントを模倣し始めていて、収穫祭にはメイド喫茶をやって欲しいと嘆願書が届いています。」
「私も入っているのは勘弁して欲しいのだけれど。」私に呼び出されたエリスさんが言った。
「あの時は、ヒメツキさんと双璧をなす美貌と評判でしたからねえ。その噂がすでに届いていますので、断るのは難しいかもしれません。」
「ぐっ」ちょっとうれしそうなのが見て取れます。
「まあエリスさんには無理強いはできませんよ。こちらの町では研究の傍ら薬屋をやっているわけですから。」
「うっ。わかったわ、そのかわりあなたも前回のように執事をやってもらうわよ。」
 そんな取引にもならない条件でいいのですか。私は最初からやるつもりでしたよ。
「あまり受けなかったんですがねえ、男前ならよかったのですが。」
「実は、あるじ様に隠していたことがあります。」
「ユーリなんですか。」
「結構人気になっていまして、その、水面下であるじ様の拉致計画が進んでいました。」
「おや、そんなことが。まあ、その言い方だと阻止してくれたのでしょう?」
「はい、説得しました。」
「さすがに一般の女性に乱暴できませんからねえ。拉致られれば、なすがままになりそうですよ。」
「それが予想できましたので。事実を話しておきました。」
「それって」
「はい、あるじ様は、鬼畜幼女趣味です、とだけ言っておきました。」
「あれから街で冷たい視線で見られたのはそういう事だったんですね。」
「僕はー、あるじ様がー毎晩のようにー幼女とー一緒にー寝ているというー事実だけー言ったのですがー、どうやらー誤解されてーしまったーみたいですー。」はいはい、棒読みですね。
「ユーリ、わざとやりましたね」
「あるじ様を守るためならどんなことでもします。」
「それを守っているというのですか。」
「はい」言い切りましたよこの子は、
「しかも誰かの入れ知恵ですね。」
「まあ、そうじゃろう。守ると言うよりは、害虫が寄ってこないように排除しただけじゃなあ」
「そのような言葉で、あるじ様を見る目が変わるようでは、それまでかと。」
「なんか良いこと言っているようですが、被害甚大です。」
「ごほん、前回と同じデザインの服でよろしいですか。」
 メアさんが話の軌道修正をしてくれました。
「でも、馬車が燃えてしまって・・・」
「はい、残念ながら燃えてしまいましたので、新しいのを作る必要があります。」
「まあいろいろと成長しているしね。でもできるのかしら。」
「あと、パムさんやってもいいですかねえ。」
「私ですか、この体格ではさすがにメイド服は似合わないと思いますので、小さくなりましょう。ちょっと動きがぎこちなくなりますけど。」
「ほう、その姿だけがすべてではないとな」
「皆さんは、町中で、すでに見かけていると思いますが。気付いていませんでしたか。」
「そうなの?見たことないわよ。」
「では、服がダボダボになりますが、実際見てもらいましょう。はー」パムが息を吐きながら目をつぶる。徐々に体が小さくなって一回り小さくなった。そこには、精悍な顔つきの美少女が立っていました。少しふくよかなのは、そこまで筋量を落とせないからなのでしょうねえ。
「馬車の下に隠れていたときの大きさですね」メアさんが気配でそれを感じたようです。
「はい、あと、町に独りで行くときには、普段の姿だと怖がらせてしまうので、この姿です。」
「み、見かけたわよ、可愛い子がいるなあと思って見ていたわ。確かに噂になっていたわよ。たまに見かけるあの子は誰だろうって」
「そうですか。それはうれしいです。」
 ダボダボの服の方が気になるのか、言葉に感情がこもってない
「せっかくですので、正体を隠してその姿で参加しますか」
「この場にエルフィがいなくて良かったですね。あの子が知ったら、酔っ払ってべらべらとしゃべり回ります。」メアが言った。確かにそうですねえ。
「諜報活動用なのであまり人目につきたくないので、やはりやめておきましょう。」
「ですよねえ。でも、あれだけの可愛い子が歩いていたら誰でも注目して、隠密行動にならないのではないですか?」とメア。
「あれは、人にものを尋ねる時の姿なのです。まあ、たいていの人は、若い女の子に尋ねられて嫌な気持ちにはならないと思いますので。」そこで今度は、目を閉じて息を吸う。ダボダボの服が体に合わせて元に戻っていきます。これでは、変装ではなくて変身ですね。
「私としては、ぬし様と同じく執事姿にしたいと思いますが、いかがですか」
「そうですか、でも、せっかくですからあの姿でメイド服を着てみませんか。」
「それは、かまいません。」
「僕も執事服を着ることになりました。」
「ユーリは着る必要はないでしょう。今回は嘆願書もないので・・・」
「いえ、すでに嘆願書を渡されています。」
「ええっそんなところまであの街の真似しているのですか。
「どうやら、あの街とこの町の女の子達が連絡を取り合っているようです。」
「そんなネットワークができていましたか。でも、ちゃんとメイド服も着てくださいね。可愛いんですから。」
「ありがとうございます。僕はあるじ様の前だけで着たいのですが。」
「もったいないです。というか私だけ見ていたと知れたら町の人達に恨まれてしまいますよ。」
「あとはエルフィとレイじゃが、まだもどらんのか。」
「ただいま帰りました~」
「うむ、空気を読んだ帰宅じゃな。」
「なんのことですか~」体についた草とかを払ってから中に入ってくる。レイは、獣化していて体を思いっきり左右に震わせて草を落としている。まあ獣ですねえ。
「収穫祭じゃ、メイド服じゃ、わかるな」
「はい~、居酒屋でもう聞いていますよ~やります~」
「レイは何のことかわからないわよね。」
「メイド服ってなんですか?」
「お店で給仕をするのじゃ、この服を着て。」メアの服を指さす。
「あの~こういう服は似合わないと思うのです。というか、自分で着られるとは思いません複雑すぎて。あと、暑そうです。」レイは露骨に嫌そうな顔をしています。
「なるほど、確かにお盆にお水を載せてお客に持って行くのは厳しそうだ」
「そうね、まだ難しいかも。」
「ご主人様提案があります。」
「予想はついていますが、なんでしょうか」
「はい、マスコットとして、いてもらうのはどうでしょうか。」
「まあ、獣人ですからかまわないと思いますが、屋内で獣化したら可愛すぎてそのまま連れ去られそうですねえ。」
「とりあえず、衣装は作りますので、給仕はさせない方向ではどうでしょう。」
「そうですね。看板を持って外で客引きをしてもらいますか。」
「では、その方向で進めます。では、食事の用意がありますので、」メアさんが厨房に移動する。
「また、なのね」エリスさんはため息をつく。
「エリスさん、これが本当の地域になじむということですよ」
「あのね、それは違うと思うわ」あきれた顔でエリスさんはそう言った。
 食事の用意ができたので、食べながらいろいろと案を出し合った。
「当日は、アンジーじゃなくて成人した天使様になったらどうですか。」とユーリが言った。確かにあの姿ならとてもうれしいですけどね。ユーリもきっと見たいのでしょう。
「そんなことをしたらアンジー教の人達がどう反応するのか不安ですねえ。狂喜乱舞か、落胆するか。でもどっちにころぶか見てみたい気もしますね。」パムが言った。
アンジーは、
「そうね、羽根はさすがに偽物を使うけど、孤児院のデモンストレーションになるならやろうかしら。それから、喫茶店のスペースは、収穫祭の後そのまま孤児の子達に喫茶店としてやってもらってもいいわねえ。でも、さすがに私が天使に変わっていたらまずいから、別人を連れてきたと言うことにしないとねえ。いろいろ問題起きそうじゃない?」
「それは良いかもしれませんね。そうですねえ子ども達の喫茶店には用心棒が必要ですが。」
「冒険者組合もできるのでしょう?そこに作れば良いのよ。」エリスさんそう言った。
「普通は居酒屋でしょう?」とパム
「酔っ払いの扱いは面倒なのよ。」とエリスさん
「確かに。」
「ご主人様、デザインはどうなさいますか。」
「私に聞きますか。」
「はい、男性の意見を聞きたいのですが。」
「確かにあんたメイド服への造詣が深かったわねえ。」
「前回と同じで良いのではありませんか。私としてはもう数ミリですけどスカートの丈を上げて皆さんの美脚を見てみたいところですが。」
「ほう、おぬし足フェチか。」
「また私の頭から変な語彙を覚えましたね。別にそういうのではないんですが、スカートの丈に合わせたソックスと言うのが考えにありまして、例えば、ヴィクトリア調であれば、スカートの丈が長くてスカートの裾にすぐくるぶしがあるので、ソックスは三つ折りになるのですが、前回は、丈を少しあげたために、ソックスが短くてアンバランスだったのですよ。そこだけですねえ。」
「ああ、なるほど、絶対領域という奴か。」
「違うんですよ、それは、ニーハイというやつで・・・」
「はいそこまで、あなたにこだわりがあるのね。」
「こういうのは、メイド服の作られてからの歴史を・・・」
「だからこういうこだわりのある奴は嫌いなのよ。結論を言いなさい。」
エリスさんが怒っています。昔何かあったのでしょうか。
「スカート丈に合わせたソックスを希望します。」
「わかりました。検討します。」
 食事は終わり、エリスさんは、帰って行きその日の入浴タイムです。
「蒸し返すわけではないが、おぬしメイド服にこだわりすぎではないか。メアのメイド服には全然注文つけておらんじゃろうが。」
「まあ、ほとんど完璧ですので。」
「メア、そうなの?」アンジーがメアに振る。
「はい、ご主人様と何度かこのメイド服について話し合いをしたのですが、変更はいらないと。むしろ動きづらくないかとかそちらを気にされています。」
「へえ、どうして?さっきはあれほど講釈をたれていたじゃない。」
「簡単に言うと働く場所の違いですね。」
「あるじ様どういうことですか?」
「家でメイドをするのと店で給仕だけするのではその機能性への考え方に大きな違いがあるからです。」
「なるほどなあ。」
「つまり、家庭のメイドは、機能的でなければならず、店員としてのメイドは機能性一辺倒ではダメだと。」パムが言った。
「ですから、多少はメイドであることをアピールしなければなりません。」
「なるほどな、客商売だからと言うことか。」
「ですが、メイドとしてあまり大きく露出してはいけないのです。」私は拳を握りしめてきっぱりと言った。その横を犬かきして獣化したレイが通る。
「そこで、少しだけ肌が見えるというのがいいわけね。」
「そうなりますねえ。まあ、皆さんの美脚を人に見せたくないというのが本音ですけどね。」
「まあ、前回と同じならそれに靴下の長さが長くなって肌の露出が抑えらて、着る方もそんなに抵抗感がなくなるのかな。」
「でも~店の入りは悪くなるかもしれませんよ~。それと、前回を知っている人なら~それを期待して~期待外れだとブーイングがでるかもしれませんよ~。」
「まあ、それはそれで諦めてもらおうじゃないか。」とモーラ
 レイは、楽しそうに犬かきで風呂を堪能している。

 翌日、渡されていた嘆願書を持って、ユーリとメアとアンジーと共に村長のところに伺う。
「助かったよ。受けてくれて、受けてもらえないとなったら、暴動が起きたかもしれんのでなあ。」
「そうでしたか、それは大変でしたねえ。とりあえず、日程と時間帯を教えてください。あと、その後その建物の再利用するのかどうかとか色々聞きたいことがありまして。」
「服の作成とかは、以前古着屋で今は仕立屋になったところに行ってくれ、食材の調達は、居酒屋の女将さんに、建物の場所は、再利用をしたいのであろう?その位置を含めて、商店街をまとめる人のところに行ってくれ、建築設計は、あんたとエルフィが段取りをするとビギナギルの領主様から聞いている。全ての費用は収穫祭の寄付でまかなうつもりじゃ。ビギナギルでは、店が繁盛しすぎて大変だったと聞いておる。今回は無理なことにはならないようにしたいので、準備は入念にしてほしい。」
「わかりました。再利用の件ですが。」
「それは私から。お話ししたいわ。」
「ああ、アンジー様、やはり孤児院がらみですかねえ。」
「そうなのよ、孤児院の建築費用についても考えなければならないし、建設しても運営経費の捻出も考えたいのです。できれば、建物をそのまま孤児院の建築のためお貸しいただけないかしら。」
「もとよりそう言う考えで今回の喫茶店のお話も提案させていただいております。ビギナギルで、有志の方達が孤児院を運営していて、その経費のためにその喫茶店を運営しているのは、すでにあちらの街から聞いております。こちらも同様に考えております。」
「そうだったのね。わかりました。それでは、こちらも最大限の努力をして、今回の祭りの経費を維持できるほどに稼いで見せましょう。」
「そこまで言い切りますか。」
「そのくらいのことをしませんと、この恩は返せそうにありませんから。」
「これは恩ではありませんよ。チャリティイベントです。恩を感じる必要はございません。いなくなられてからも戻られてからも、アンジー様の恩恵のおかげでこの町があると、皆、申しております。」
「おかしいわね、私はここでは厄介者だったはずでしょ。」
「私も最初に孤児院に来られた時、そう思っておりましたが、去られた後、ビギナギルとの流通が盛んになり、団長さんから流通が安定したのは、アンジー様のおかげと聞きまして、その時のことを皆、悔やんでいたのであります。」
「あれは、モーラのおかげのはずだけどね・・・」とアンジーが聞こえないようにつぶやいている。
「そして流れてくる噂は全てアンジー様の事ばかり。盗賊を改心させ孤児院を作り、各地を回って善行を為しているとお聞きしております。」
「それも手伝っているだけで・・・」
「こうしてお戻りになられてからも、あの街と同様に孤児のために何かを為そうとされております。是非お力になりたいと皆思っております。」
「いいですか、まず考え違いをしないでいただきたいのですが、私ひとりの力ではここまで来られなかったでしょう。ひとりでは獣の一匹も倒せない非力な少女です。ここまで生きてこられたのは、こいつと家族のおかげなのです。私の加護などありませんよ。町の人達それぞれが頑張っているからなのですよ。そこを考え違いしないでいただきたいのです。ですから、孤児院の件についても、この町に必要だと思ったなら協力していただきたいし、私の加護をあてにしているのなら、そもそもそんなものはないと先にお断りしておきます。」
「それでかまいません。是非協力させてください。」
「ありがとうございます。それでは、失礼します。あんた行くわよ、他になにかある?」
「いいえ、それでは村長さん、また打ち合わせにお伺いします。」
「はい、」
 そうして嘆願書の山を預けて、村長の家を出る。出ると、町の人がみんなアンジーを見ている。
「アンジー様ありがとうございます。また相談にのってください。」
「またお話を聞かせてください。」
「アンジー様だー、また遊んでねー」
 そうやってひとりひとりがアンジーに声を掛けていく。
「すごい人気ですね。」
「失敗したわ、メアが一緒だとこんなに近づいてこないのよ。」
「本当にアンジー教になりつつありますね。」
「そこが一番問題よ。」
 そうして、古着屋さんに行くと店が移転したそうで、新しい店の方に行ってみる。ああ、大きくなっていますねえ。
「いらっしゃいませ~、あ、店長~、お見えになりましたよ~天使様が~」
「やっぱり来た~」
 そう叫んで裏から出てきたのは、確かにあの時に古着を見繕ってくれた人でした。
「あ~お久しぶり~元気してた~」
 そう言って彼女は、アンジーに近づき、両肩をつかんで揺さぶった。ああ、アンジーの嫌そうなオーラが伝わってきます。
「そうそう、こっちに戻って来たって聞いたから、アンジーのために新作を作っておいたんだけど着てくれないかなあ」
 相変わらずマイペースです。ええ、本当に。
「構いませんよ。」おお、塩対応ですねえ。
「じゃあ持ってくるから試着室の方に行っててねー」そう言って再び裏手に回る。
「いいんですか。」
「あの時もこんな感じで、私は救われていたのよね。羽を見ても気にしない人なんていなかったから。」
「そういえば、そうでしたねえ。」
「ああ、そういえば羽が小さく生えていましたねえ。」ユーリが思い出したように言った。
「本当にあんた達は、いい加減というかこだわらないというか。当たり前にしているけど、本当は、差別されても仕方がないのよ。」
「可愛いいんですよねえ。」
「はい、僕も欲しいなあと思ったくらいで。まあ、自分では見えないので、意味ないなあと思ってあきらめましたけど」
「どんなあきらめ方よ」
「私としては、ユーリに羽が生えた姿も見てみたいですけどね。」
「えっ」ユーリの顔が真っ赤になった。下を向いて両手の指をつけてクルクル動かしている。
「あんた、それは裸が見たいと行っているのと同じよ。このスケベ」
 ユーリが顔を赤らめている間に店長さんが試着室に服を持ってきた。
「はいこれ」
 そう言って、少しだけ光を反射しているのかキラキラしているヒラヒラなフリルが、これでもかと付いたドレスを広げて見せる。一目見てアンジーはゲーっという顔をする。
「着て、着て、早く着て、はやく~」
 店長は、アンジーに無理矢理服を押しつけ、試着室に突っ込み、カーテンを閉める。
「早く見たいな~まだかな~」
 ウキウキしながら店長は試着室の前でうろうろしている。
 ため息と共に衣擦れの音がして、静かになったと思ったら中から盛大なため息が聞こえる。そして息を吸ってカーテンが開けられた。
「おおっ」私は声を上げた。
「やっぱり!イメージ通りだわ~」
 そう言って小躍りしている店長。仕方なさそうに靴を履いて、そこでクルリと回ってみせるアンジー。デザインセンスが良いのか、フリフリがいっぱいついていているのに、しつこくない。背中はたぶん意識的に開けていて、小さな羽がちゃんと見えて、しかもそれをうまく衣装の中に溶け込ませるようにデザインされている。まさにアンジーのための一点物の服だ。
「すごく似合ってます。素敵です。」ユーリがなぜかうっとりとみている。
「そうでしょうそうでしょう。いやーこれが見たかった。ねえ、あなたもそう思うでしょ。」
 店長は、私に向かってそう言った。
「すいません、言葉で表現できません。素敵です。」
「そ、そうなの。自分ではよくわからないから。ありがと。」
「かーっ。作った甲斐があったわー。これは肖像画として残すレベルだわー」
「でもこれどうするんですか?」ユーリが店長に尋ねる。
「え?それはアンジーに着てもらえれば満足よ。うん」そう言って満足げに頷く店長
「それだけのために作ったのですか」私が驚く。
「だってねえ、これだけの逸材よ。あと何着だって作れるわ。」
「申し訳ありませんが、買い取りさせてもらえませんか。」
 うちで着てもらってみんなで鑑賞会ですよ。
「ダメよ。売りません。」
「はあ?」
「だって、これを持ち帰られたら、着ているところを私が見られなくなるじゃない。だから、この店に来た時だけ着てもらうの。どう、頭良いでしょ。」
「天才肌の人ってどうしてこうなるのかしら。」頭を抱えるアンジー
「わかりました。買い取りはああきらめます。でも、この服で満足したのですか?」
「え?ああ、何着でも作れるけど、今のアンジーのイメージならこの一着ね。」
「待って、ねえ店長さん。この服欲しいのだけれど、私が言ってもダメ?」
「ダーメ、だってこの店に来た着た時にこれを着て訪ねてはくれないでしょ。せっかく作ったのにみんなそうなんだもん。ガッカリよ」
「なるほどね。」
「では、新たなイメージを見せたらそれに合わせて服を作るのかしら。」
「だって、今のアンジーのイメージからどう変わるって言うのよ。」
「じゃあこれを見せてあげるわ。」
「なに、なに、なにを見せてくれるの。」わくわくしながらアンジーを見つめる店長。
 アンジーは、祈り始め、淡い光に包まれる。体はそのままに小さかった羽がしだいに大きくなってくる。舞い落ちる羽と共に。
「ええええええ。」店長の叫び声が落ち着くと共に光が収まる。アンジーは、普段の姿のまま大きな羽を生やした。
「これは、これは、あーーーーイメージがわいたーーー」そう言ってその場から走り去る店長。いつの間にかアンジーは、羽を元に戻している。というか最近、背中に羽の跡がありませんよね。
「まあ、これでこの服は私のものね」うれしそうにアンジーが笑っている。
「そんなに欲しかったんですか。」
「そうね、あんたが言葉に出来ないくらいって言ってたのが決めてよ。だって・・・あーーーーもう。」
 そう言ってアンジーは、試着室のカーテンの中に消えた。そして服を着替えて、店番をしている店員の元にその服を持って行く。
「それは店長が売らないと言っていましたけど。」
「大丈夫よ、事情が変わったから。聞いてもらえばわかるわ。」
「はあ、そうですか。値段については何か言っていましたか?」
「たぶん次の製作に入ってしまったから勝手に決めてって言うわねえ。」
「やっぱりそうですか。この布地とか高い奴なんですよ、特別に発注して納期が3ヶ月くらいかかる奴なんですよね。いくらになるのか。」
「あの~収穫祭のメイド服の件なんですが。」
「それは私の方でお伺いしますね。」
「よろしくお願いします。お名前をお伺いしても」
「ええとナナミ・カントゥークと言います。ナナとお呼びください。」
「私は・・・」
「DT様ですよね。お噂はよく耳にしますので。」
「まあ、あまり良くない噂じゃのう。」そう言って店の中にモーラが入ってくる。メアも一緒だ。
「そ、そんなことはありませんよ。」
 そう言いながらも引きつった笑いしてますよねえ。ねえどんな噂か聞かせてくださいよ。ねえ。
「あ、そうだ。店長ー、モーラちゃんもお見えになりましたよー」
 その声に反応して店長が飛び出してくる。
「モーラちゃん!!よく来てくれたわ。着て欲しい服があるのこちらに来てくれるかな」
そう言って店長に引きずられいくモーラ
『もしかしてこやつ面倒な類いの人間が』
『そうよ悪意なき天才服飾デザイナーってやつね。』
『面倒じゃなあ。』
『でも腕は超一流だわ。私のための一着を何とか手に入れたけど。大満足よ。』
『なるほどな。まあ付き合ってみるか。』
 そうして先ほどのアンジーと同じように試着させられる。
「いやーすごいですね。モーラの腹黒さを隠してなお純粋に可愛いといえる衣装ですね。確かに可愛い」
「そうでしょう?ちょっとエンジがかったこの髪に合うのは、この服の色なのよ。そう言ってやや青色がかったシンプルなデザインのワンピースドレスだ。しかし、要所、要所には、アクセントとしてフリルをあしらっていて、その可愛らしさを強調するようになっているのよ。どう?」
「おう、どうだ」
「いや、本当に一流デザイナーですねえ。確か一度しか会っていませんよねえ。それでこのぴったりなサイズ感、恐れ入りました。似合っているんですよ本当に」その腹黒さが見え隠れしなければねえ。と思ったらスネを蹴られました。だから腹黒いって言ったのに。
「この服は・・・」
「だめよ売らない。ここに来て・・・以下略」
「まあしかたないのう。」
「あ、あきらめちゃうんだ。」とアンジー。
「しかたなかろう。似合うと言われても着ていく機会もないじゃろうしなあ。」
「あ・・・確かに」
「おぬし無理矢理手に入れたのか。」
「ええまあ」
 そう言う話をしている間に、店員さんとメアさんは細かい打ち合わせをしています。
「では、そう言う段取りで。」
「はい、同士!!」店員さんが親指を立てて挨拶しています。2人が意気投合しているのは果たして良いことなのでしょうか。ちょっと不安です。
 建築のところには、すでにエルフィが行っていました。
「エルフィ」あたしは声を掛ける。
「あ、旦那様~」遠くから見えるくらい大きく手を振っています。ついでに胸も揺れています。隣の男の人は目のやり場に困っています。
「場所は決まっているのですか?」
「いえ、今回は、広場に作って、それを移す感じですね。もちろん打ち上げの時にそれを使う予定で作ります。」
「あまり大きいと、経営できなくなりそうですよね。」
「ですから移転の際は、少し小さくしなければと思っています。」
「とりあえず、厨房と事務室はこのぐらいの大きさにしないとまずいのです。」
「設計できましたら絡します。」
「よろしくお願いします。」
 そうしてその日は、一日打ち合わせをして自宅に戻った。
 食事の後、みんなが見たいというのでアンジーが例の服を着てみせる。ついでに羽も広げた。
「これは本当に絵画として残したいくらいですねえ。」パムが感心しながら言った。
「私もこのようなデザインセンスと裁縫のスキルが欲しいと思いますねえ。」とメア。
「いや、これはすごいのう。あの店長すごいのだなあ。名をなんて言うのか。」
「ミケガミ・ダヴィと言う名前だと記憶しております。」メアが言った。
「もういいでしょう?けっこうきついのよ。おなかのあたりが。」羽をしまったアンジーが言った。
「確かにその手の服は、タイトに作りますからねえ。」
「ねえねえ、下着はなにをはいているの。」そう言ってレイは、スカートをまくった。
「レイあんたねえ。」
「あ、だめでした?」
「あたりまえでしょ。特にこの生地、下着のラインが出るんだから。はいてないわよ」
「ええーーーっ」全員驚きました。
「だって、鏡に映すとほんのり下着のラインが出るのよ。恥ずかしいでしょ」
「今度行った時に聞いてみます。この服用のインナーがあるのかどうか。」
「お願いそうして。」真っ赤な顔で座り込んだアンジーもめっちゃ可愛いですね。
「バカ!!」涙目で私をにらんだアンジーは、自分の部屋に戻った。
「おぬし、もう少し感情を見せぬ努力をせんか?な?」
「努力はしているんですが、素直な感情はなかなか制御できないのですよ。」
「他の魔法は何とでもできるくせになあ。」
「本当ですね。」とパム
「しようがないですよ~」
「あきらめています。でもうれしい時もありますから」とユーリ
「素直じゃダメなんですか?」とレイ
「これからいろいろ憶えていきましょうね。」とメアが言いました。
 まあ、大人になるってそういうことですね。

  制服完成
 仮縫いもすでに終わり、完成したメイド服を家に持ち帰り、最終調整です。服を渡してもらった時に店員さんとメアさんがお互いに親指を立てていたのは、どういう意味だったのでしょうか。ちょっと不安です。
 それぞれが、自分の部屋で着替えて居間に来ました。ただ、レイだけは、自分で着替えられずにメアがついて着替えさせています。
私も一応、執事スタイルというのでしょうか着替えました。ああ、エリスさんも私達の家に来て着替えています。

「どうかしら」アンジーが久しぶりにうれしそうにくるくる回っている。
「わしのはどうじゃ」モーラもくるくる回っている。こっちもやっぱりうれしそうだ。
「二人ともうれしそうね。」
「なんじゃ、エリスはうれしくないのか。」
「まあ、ひらひらもフリフリもすきですけど、他人のために給仕するっていうのがねえ。」
「それは仕方なかろう。それで本業の薬屋の方の売り上げが上がるのなら主にとっても儲けものじゃろう。」
「こっちの町では売り上げは、意識していないけどねえ」
「私は見ていたいですけどねえ、美しい人が綺麗な服を着ているだけでも十分価値がありますよ。」
「こんにちわー。エリス様いますか?呼ばれてきたんですけど。」と豪炎の魔女さんがお見えになりました。そうですか結界破ってきましたか。やはりすごい人なんですねえ。
「あら来たわね。あなたも参加よ。メア、悪いけど一着追加で。」
「え?何のことですか?」
「すでにお話しをいただいておりましたので、仮縫いまでできております。」
「さすがね、見てのとおりよ。メイド服着てもらうわ。」そう言って来ているメイド服を見せる。
「え?えええええええ。まあ、お姉様が着るなら・・・頑張ります。」
「よろしい。」どうしてエリスさんのメイド服姿を見て、赤くなるのかわかりませんねえ
「これは、ヒメツキさんにおいでいただいて、ぜひ着てもらいたいですねえ。」
 メアに連れられてレイが居間に入ってきました。やはりつらそうです。
「何の話かしら?」
 噂をすると影が差すと言いますが、さすがにこれは早すぎませんか。ヒメツキさん。
「本人登場じゃ。」
「あらそのかっこ。もしかして。」とヒメツキさん
「いいところに来た。手伝いに来たのであろう?メアできそうか」
「はい、こんなこともあろうかとご用意してあります。ミカさんとキャロルの分も」
「用意周到じゃのう」
「ミカは呼べるけどキャロルは無理よ。領主様のところでメイドしているんですから。」
 ヒメツキさんは、手伝わされることには抵抗しないのですねえ。
「ヒメ様~」その噂をすれば影がさすが続きますが都合良すぎますよ。
「どうしてここへ」
「領主様が一緒に行こうって」
「領主様は?」
「こんにちは、ここが魔法使いさんの家だと聞いてきたのですが。」
「領主様、商人さんも」
「実はお願いに上がりました。」
「なんですか。わざわざここまでお見えになるなんて、」
「うちの街の収穫祭へのお誘いです。というか、前回のように喫茶店をやって欲しいのです。」
「いや、それはちょっと。距離的に難しいですよ」
「実は、街の人から嘆願書が届きまして、旅費接待費込みで是非来てもう一度というか毎年やって欲しいと。」
「それこそマンネリになりそうですが。」
「出された料理やジュースなどがことのほか好評で、この日のために頑張っているとか言われましてねえ。こうしてお願いに上がった次第です。」
「うちの町でも収穫祭がありまして、」
「それも承知しております。」
「移動も結構かかりますよね。」
「実のところ最近は魔獣の被害もほとんど無くなりまして、半分の日程で往復できています。ですから私の顔を立てると思って、ぜひ」
「ちょっと考えさせてください。とりあえずこの町の収穫祭の方を終わらせないとなりませんから。」
「是非ご検討よろしくお願いします。では失礼します。」
 キャロルをおいて領主と商人さんは宿に帰っていった。
「私たち目立っていたのねえ。」キャロルを膝に載せてヒメツキさんが言う。
「悪目立ちよ。まあ、しかたないけど。」とエリスさん
「皆さん綺麗で可愛いですから人目を引きますからねえ。あと大活躍でしたし」
「そうじゃのう。冒険者として登録してからは、活躍していたものなあ。」
「そうですね。共同で魔獣を狩ったりしていましたから」
「さすがに今は、まったりしすぎか、」
「モーラが脱皮したおかげで縄張りが広がって魔獣が襲って来ませんからねえ。」
「おかげで、畜産業が維持運営できるようになったので、むしろ喜ばしいのです。」
「なるほどね」
「さて皆さんのメイド姿は堪能させていただきました。私としては、一度限りであの街でメイド喫茶復活というところでどうでしょうか。」
「まあ、どうせなし崩し的に来年も再来年もお願いにくるであろうがな。」
「ええ、そういう未来が見えるわ」ため息をつくエリスさん。
「でも、一回だけにした方が良いと思うのです。何かがあって旅に出たりしていますから」
「確かにドタキャンは相手に対して失礼です。」とメア。
「ドタキャンって言わないで。突然中止っていいなさいね」
「うかれすぎですかねえ。あとマンネリになるので、何か趣向を変えなきゃとか言いそうですよねえ。」
「そうかもしれないなあ。」
「頼みに来る時に、キャロルを連れて来るとかあざといですよね。ヒメツキさんが居るかどうかもわからないのに。」
「まったくそのとおりだわ、まあ会えたから感謝はしているけど。」
「とりあえず、こっちの町の収穫祭を終わらせましょう。その後であちらの街の収穫祭を1回で終わらす方法を考えましょう。」

 今回は、メイドの研修はしませんでした。パムは、姿勢挙動共に問題ありませんでした。しかし、レイは、どうにもならないレベルでしたので、メアがあきらめました。
「この短期間では、とても無理です。今回は看板娘として活躍してもらいます。」
「無理に矯正して、さらに服を着るの嫌いになれられても困りますからねえ。」
 途中、ミカさんが合流しましたが、成長が早くて、みんな驚いています。
「しかたなかろう。獣人だってドワーフだってエルフだってみんな幼少から成人までは早いのだから。」
「キャロルより少し大きいくらいだったのにねえ。」
「ミカ様ずるいです。」キャロルが涙目でした。

 そして、当日を迎えます。食品類は、日持ちのする物を事前に作成して、ジュース類も新鮮な物を用意しました。しかし、案の定人の群れです。

「なんですかこの人数は、前回よりかなり多いですよ」
「あの街から馬車を連ねて観光ツアーで来たらしいぞ。」
「仕事があるでしょうに暇な人達ですねえ。」
「ここまでのルートが安全になったかららしいですね。」
「それはよかったのですが、レイは、最後尾の看板持ちですね。」
「いや、メイド服を暑がって獣化して看板を首に下げで最後尾にいます。」
「まあ、本人の今後を考えるとそれもちょっとどうなのでしょう。」
「大人気です。本人もなでられてまんざらでもない様子ですが」
「人見知りしない子ですねえ。というかみんなからちやほやされるのがうれしいのでしょうかねえ。」
「キャロルが看板を持ってそばに行きました。」窓から見えているようです。さすがキャロルやりますねえ。
「子犬と少女、セットで可愛いですねえ。」
「そんなことを言っている余裕はないぞ。とっとと働かんか」
「厨房はどうなっていますか。」
「メアの指示のもと、領主様の連れてきたメイド達が回しておる。」
「また同じパターンですか。冷蔵庫と冷凍庫ばれていませんか?」
「まあ、うまくごまかしているようですよ。忙しくてそんなことを考えている暇も無いくらいです。」
「少し冷えた倉庫みたいなものか」
「魔法で何とかしているということで納得できますよ。」
 そうして、今回は、時間制限もなく予約券も作らずに頑張っています。とりあえず午前中の客は、しのぎました。
 午後からは、落ち着いた時間が過ぎていきます。ええ、さすがにあの町とでは人の数が違います。最初の行列が長かっただけです。よかった。そうして、閉店時間を迎えました。
「ヘトヘトです。」ユーリが音を上げています。
「ああ、前回の店より狭いために、交差するときに体をひねるからなあ。」
「メイド服も少し丈が短くなって、足の運びは良くなったのですが、少し回転すると、すぐ舞い上がるので、気になってしまいますねえ。」
「着てみたた時にはクルクル回って良かったのじゃが実際に仕事をしてみるとなあ。」
「でも~皆さん喜んでいましたよ~」
「主に男がなあ」
「いえ、女の子達もなぜか喜んでいました。舞い上がったスカートを覗こうと必死でした。」
「いやな子達ねえ。」
「いっそ見えていた方がよかったかも~」
「嫌ですよそんなの。」とヒメツキさん
「キャロルはね~、してもいいかな~」
 そう言って椅子から飛び降りてくるりと回ってスカートの裾をつかんでお辞儀をする。さすが、領主様のところで修行しているだけありますねえ。様になっています。
「レイはどうでしたか?」メアが聞いた。
「撫でられてうれしかったけど、ひとりだったので寂しかったです。」椅子から飛び降りて私の膝に乗る。真似をしてキャロルがヒメツキさんの膝に乗る。いや、どっちも今回のアイドルですから。張り合っちゃダメですよ。けんかしないように。
「そういえば、入れ替わる話があったわよね。」
「ああ、アンジーが天使になったり、パムが小さくなったりというやつですね。」
「これでは到底無理よ。」
「そう思います。無理ですね、あきらめましょう。」
「さあ、後片付けはもう良いですから帰りますよ。明日もありますので。」メアさん相変わらずメイド長のようですね
「明日もですか」
「ええ、明日もです。」
「レイをしこまないか」
「ええ?」
「戦力は多い方が良かろう。」
「戦力と言うより足手まとい?」
「賭けじゃな。まあ、最初の水出しくらいはできそうじゃ。注文は別の者にして」
「今日でツアー客は終わりじゃろう?明日は楽に・・・」
「いや、ここには2泊するらしいです。移動の時は野宿ですからねえ。」
「なるほど、そうなるか。」

 掃除と並行して仕込みは終わっていたので、だらだらと歩いて家に帰る。さすがにレイとキャロルは元気だ。みんながだらだら歩いているのに行ったり来たり走り回っている。
 食事は、すでに店で食べたので、お風呂に入っている。ヒメツキさん達は、隣の家に泊まってもらっていたので、そちらの風呂を使ってもらっている。
 私達は全員で、風呂に入った。
「やはりこの入浴はいいのう。疲れが取れるわ」
「ですよね~これを考えた旦那様の世界の人はすごいですよ~」
「私の世界でも私の国くらいですからねえ。こんなに潤沢に水が使えるのは。」
「そうなのよねえ。私は見ているだけだったけど、幸せそうに入るのよねえ。」
「確かに苦労は忘れられるなあ。」
「確かにそうですね。」とパム
「さて、早めに寝ておこうか。あしたも厳しいぞ。」
 そうして、全員自分の部屋で寝ました。私を独りにしないで~寂しいです。

 翌日は、さすがにたいした行列でもなくゆったりとメイド喫茶しています。
「いらっしゃいませ~」
「お、エルフィ調子どうだい。」
「席どちらになさいますか~」
「ああ、この辺で良いよ」
「お水お持ちしますね~」そう言ってくるりと回ってカウンターに向かう。
「かーっわかってるねえ。」
「なにがわかっているんですか~」水を置いてエルフィが言った。
「いや、女の子のスカートの裾がふわりと回り、そこにレースの下地が見える。この絶妙さがこのメイド服を製作した人のうまいところだなあって」
「オーダー何にしますか~」
「紅茶とケーキセットを頼む」
「は~い、オーダー入りまーす。ティーケーキセット一つ~。それではしばらくお待ちください~」そう言って後ろを向いた後、振り向いて
「あんまり~変なこと言うと~女の子に嫌われますよ~」と、その客をにらんでエルフィは言い残してカウンターに戻って行った。

「いらっしゃいませ。」
「きゃ~パムさんよ~執事姿が素敵です~」
「ありがとうございます。席はこちらでよろしいですか?」
「・・・あ、いいです。」
「今水をお持ちします。」
「・・・・」
「オーダー何にしますか?」
「・・・」
「あのう、」そう言って客の目の前にメニューをひらひらさせる。
「あ、すいませんつい見とれていて。ケーキセットをオレンジジュースで」
「わかりました。オーダー入ります。オレケーキセットを一つお願いします。」
「俺ですか。」
「はい、オレンジジュースのケーキセットなので。」
「俺、素敵です。」
「はあ、では失礼します。」
 その客は最初から最後までパムを視線で追っていた。

「いらっしゃいませ。どちらにお座りになりますか」アンジーはお辞儀をした
「あのーここでいいです。あのですね、昨日やっていたぶっきらぼうな対応をして欲しいのですが。」
「ああ、あれね。変わった客ねえ。いいわよやってあげる。水持ってくるから待ってなさい。」
「ああ、良いです。それです。ご褒美です。」
 アンジーは持ってきた水をどんと置く。
「で、オーダーは、」
「えっとあのう」
「早く言いなさいよ。見てたんでしょメニュー」
「あのですね、紅茶とサンドイッチのセットを。」
「はあ、おすすめはここにあるブルーベリーのタルトよ。聞いてる。」
「これセットじゃないですよね。」
「私が勧めてるの。わかる。」
「じゃあそれも追加で。」
「まったくそれくらい察しなさいよ。あ、オーダーで~す。サンドティーセットひとつとブルーベリーのタルトひとつお願いしま~す。あ、じゃあ戻るから。」
「ご褒美ありがとうございました。」そう言いながら頭をテーブルに頭をこすりつけるようにお辞儀をしている。
「はあ、なにもしてないわよ。」そう言い捨ててアンジーはカウンターに戻って行った。

「いらっしゃいませ~」モーラがトコトコと扉に向かい、お辞儀をする。
「モーラちゃんが案内してくれるの?」
「はい、どこが良いですか~お好きなところへどうぞ~」
「じゃあ窓際に」モーラはその老婆の手を取って窓席に誘導する。
「ここで良い?」下から見上げるように老婆の顔を見る。
「ここでいいわモーラちゃん。」
「お水持ってくるね~」そう言ってトトとカウンタに走って行き、水をお盆に乗せて危なっかしく歩いてくる。
「はいどうぞ~」にっこり笑って水を置く
「ありがとうね~モーラちゃん。」
「ねえねえなにを頼むの~」
「じゃあこの紅茶とブルーベリーのタルトにしようかしら。」
「わかった~。お~だ~はいりまちた。紅茶とブルーベリーのたぅとお願いしま~ちゅ」
「じゃあ持ってくるね~また~」
「はいまたねモーラちゃん」
 そして、モーラはトトと走ってカウンターの方に戻った。
「あんたあざとすぎない?」とエリスさん
「まあ、老人へのサービスじゃよ」

「いらっしゃいませ。」執事服のユーリが対応している。
「きゃーやっぱりかっこいい~」
「そうねそうねかっこいいわ~」
「お二人様ですね、席はどちらがいいですか?」
「えー決められません~」
「私も~、えっと~決めてください~」
「では窓側の席へどうぞ。」
「は~い。」そう言ってひとりがテーブルにぶつかり倒れかける。すかさずユーリが抱きかかえる。
「大丈夫ですか?」
「はい・・好きです。」
「あーずるい抜け駆けしたー」
「いや何もいってないてば~」
「ではこちらの席へ。今お水をお持ちします。」
「はー、やったー抱かれちゃったー」
「もーずるいって」
「しかたないでしょ倒れそうだったんだから」
「わざとじゃないわよね。」
「あたりまえじゃない」
「お水お持ちしました。オーダーどうなされますか。」
「あーまだメニュー見ていない。」
「私もー」
「では後で伺いますね。」
「大丈夫―すぐ決めるから。」
「じゃあ、このアップルジュースと木苺のタルトで」
「私は、紅茶とブルーベリータルトを」
「わかりました。オーダー入ります。アップルジュースと木苺のタルトひとつと紅茶とブルーベリータルトをひとつお願いします。」
「やっぱり声も素敵~」
「そうそう素敵だわ~ね、もう一回言ってくださ~い」
「すでにオーダーしましたので申し訳ありません。」
「しかたないなあ。」
「つまんない~」
「では失礼します。」
「つれないところもまた素敵~」
 そうしてユーリはカウンターに戻ってくる。
「お客さんを見て対応する人変えるのやめませんか。順番でいいじゃないですか。」
「一応客商売だから。客を見極めるのも大事なのよ。それにせっかく来たのに目当ての子が対応しないとあからさまにいや~な顔するのよねえ。」
「とほほですよ。」

「困ったものね。」ヒメツキさんがため息をつく
「どうしました。」
「知らない顔の人を見るとすぐどこから来たとか彼氏はいるのかとか聞くのよ。まったく。」
「まあ、狭い田舎ですからねえほとんど全員見たことありますみたいなところですからねえ。ましてや美人がメイドをやっていれば、少しばかりの可能性でも聞いてみたくなりますからねえ。」
「あなたはどうなの。」
「私は、そうですね。ヒメツキさんほどの美人なら可能性はなくても声を掛けてお友達にはなりたいですね。きっと」
「まあ、こやつはそんな度胸はないであろうがなあ。」
「いやあ。まったくその通りですねえ。」
「あら、そうなの。意気地がないのね。王様とかには強いのにね。」
「あんたが弱いのは女性だけよねえ。」
「いや、家族にも弱いですよ。」
「ほとんどおんなじじゃない」

 そうして、閉店時間の少し前、食材もほぼなくなり、あとは閉店を待つだけの時にいままでひっきりなしだった客足が途絶えた。

「いらっしゃいませ~」そう言って豪炎の魔女さんが女性の対応をしている。何か話した後カウンターを指さしている。その女性はカウンターに来た。
「いらっしゃいませ。今お水をお持ちします。」
「あなたが店長さん?」
「ええ、名ばかりですが。何かありました?」
「これだけの美人をはべらしているからどんな人かと思ってね。品定めに来たの。」
「申し訳ありませんが、冷やかしならお帰りください。」私はそう言ってお水を出す。
「注文はするわよ。話がしたかっただけだから。」
「ではご注文を」
「あんたが欲しいわ」
「残念ながらメニューにありませんし、売り物ではありません。」
「あら残念だわ。では、この紅茶とサンドイッチをお願い」
「承知しました。オーダー入りま~す。サンティーセットひとつカウンターです。」
「オーダー了解しました。」私はメアさんに伝票の控えを渡す。
「先ほど、私の家族をはべらしているとおっしゃいましたが、それは、謝罪してもらえませんか。さすがに私の家族に対しての侮辱だと思いますので。」
「あら随分ね、私は客なのに。」
「いいえ、客が店を選べるように店も客を選べるのですよ。わかりますか。」
「わかったわ。その事については謝るわ、ごめんなさい。」そう言って頭を下げる。
「これでいいかしら。」
「ありがとうございます。さて、私の品定めと言われましても、このとおりですので、見定めるような品もありませんが、いかがでしょう。」
「そうね、私のことを知っていても知らなくても動じなさそうな人ね。」
「まあ、確かに動じないとは思います。直接お会いしてこの人はすごいなあと思わない限りは。」
「本当に正直ねえ。そう言う人好きよ。」
「どうせ正直の上にバカが付くのでしょうが、ありがとうございます。あなたのような美人に好きと言われて悪い気はしません。」
「そう言う言葉でごまかすのねえ。さすがだわ。これまでにいないタイプね。」
「確かに家族からも変人扱いですら。珍しいタイプなのでしょう。」
「ご主人様オーダー上がりました。」とメアがお盆に注文の品を載せて厨房から来た、
「この方に出してあげてください。」
「はい」
「あなたが出してはくれないの?」
「失礼しました。では、どうぞ。ご注文の紅茶とサンドイッチのセットでございます。」
 私はメアからお盆を受け取り、注文をカウンターのテーブルに並べる。
「ありがとう。」
 そう言って紅茶を一口飲んでからサンドイッチに口をつける。その食べ方は決して汚くはないのだが、獰猛さというか残忍さが現れる食べ方で、見ている方が圧倒された。
「あまりジロジロ見ないで欲しいのだけれど、恥ずかしいわ。」
「失礼しました。」しかし、つい見入ってしまた。彼女は、その食べ方で一気にサンドイッチを食べ尽くす。
「これはおいしいわね。誰が作っているのかしら。」
「私ですが。」とメアが少し前に出る。
「あら、そうなの。大変おいしかったわ。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
 そしてその女性は、紅茶をまた一口飲んで私を見てこう言った。
「あなたすごいわね。私の目を見ても全く動じないし、それに魅了にもかからない。本当にすごい人なのね。」
「なにかたくさん私にぶつかっているのは、あなたが出している魅了なのですね。」
「あきれた。魅了だとわからずに防いでいるの。面白いわ、あなた。でも、これで落ちないとなると本気で落としてみたくなるわねえ。」
「ご冗談を」
「今はまだ手を出せないからあきらめるけど。手を出せるようになったら真っ先に飛んでくるわね。」
「おやめください。私は家族みんなと田舎で静かに暮らしていたいのです。どうか勘弁してくださいませんか。」
「そうね、まだまだ先みたいだし。そんなことしたら怒られるから。」
 そこで残っていた紅茶を飲み干してその女性は言った。
「おいしかったわ。また来ても良いかしら。」
「残念ながら、この店は昨日今日限定の店ですから明日には店はありません。」
「店ではなくて、あなたに会いに来ても良いかと聞いているの。どう?」
「どうと聞かれましても、あなたなら来たかったらいつでも来られるのではありませんか。」
「そうね、たまたまこの店は入れたけど、あなたの家には、あなたの許しがないと入れないから聞いているの。」
「そういえば、その家の人の許可がないと家に入れない魔族がいますねえ。」
「すごいわね。そんな知識も持っているの。そうなのよ。そうね、だったら今度会う時は、きっと外になるわね、また会いましょう。では、」そう言ってその女性はドアをすり抜けて出て行った。カウンターにはちゃんと硬貨が置いてあった。いや、金額多すぎます。
「これは、今度来た時に差額を返金しなければなりませんねえ。」
「なにをとぼけたことを言っているのじゃ。わかっているのか。あれは、」
「魔族でしょ?それもかなり上級の。たぶん、バンパイアでしょうねえ。」
「そんなあっさりとその答えを言いますか。」ミカさんが震えています。あれ、ヒメツキさんとエリスさん、モーラ、アンジー、メア、キャロルを除いてみんな顔が青いですがどうしましたか。
「あるじ様大丈夫なんですか。」ユーリが私に尋ねる。
「ええまあ。」
「おぬし本当に高位の魔法使いなんじゃなあ。あれとちゃんと会話できるなんて」
「きっと私に知識がないからなんでしょうねえ。」
「そういうことではありません。私でさえ鳥肌が全身に出来るくらい怖気を振るう状態でしたよ。」とパムが両腕を抱えて寒そうにしている。レイは机の下で尻尾をお尻に入れて震えていて、キャロルが背中をさすっています。キャロルはなにもわからないから怖くないのでしょうねえ。しかし、レイさん、モーラの時は単なる強い人的な対応だったのに今回はそれですか。モーラの方が強いはずなのに。
「まあ、あれね、ルシフェル様が抑えてくれているからまだ大丈夫よね。」アンジーがビビっている。あなたの聖属性の魔法でやっつけられるのではありませんか?
「まあ、それについては、触れないでおくわ。あとが怖いから。」
「さあ、何か知りませんが暗くなってはいけませんよ。お客様の・・・って今の時間誰も入ってきませんでしたね。」
「人払いの結界じゃろうなあ。この広場でこの目立つ店に誰も入ることが出来ないようなすごい結界よ。」
 そして、そのまま閉店時間まで誰も来なかった。

 後片付けをしていると、村長がふらりと入ってきた。
「なんじゃここは、異様に寒いぞ。何かあったのか。」両腕をさすっています。
「さあどうしてなのでしょうか。不思議ですね。」
「宴会の準備に入りたいのじゃが大丈夫かのう。」
「ええ、片付けも終わりましたので大丈夫ですよ。」
「それでのう、宴会の時の衣装じゃが。」
「ええ、たぶんそうなるだろうとは思っていました。しかし、私達9人以外は、この町に直接関係ない方々なので勘弁してもらえませんか。」
「ああ、そうでしたか。それはご協力ありがとうございました。ゆっくり飲んでいってください。」
 そうして、宴会場の設営が始まる。エルフィが、バンダナを頭に巻いて鼻息が荒いです。
「みんな~時間がないからテキパキね~。手順は前に話したとおりだから~」
「おおーっ」と、野郎どもの野太い声が聞こえる。
 今回は、踊りがないので、露天が終了した後に続々と集合している。そして領主様とか商人さん達やツアーの人達も集まってきました。
「すまんなあ、手伝わせて。」女将さんから言われてしまいました。よく見ると、豪炎の魔女さんやヒメツキさんまで手伝ってくれています。いや、酔っ払いには注意して欲しいところですが、さっそくお盆がへこむくらい殴られた人がいました。まあ自業自得ですので、宴会場から放り出されました。ひとしきり酒が行き渡り、村長がお見えになったところで、全員が静かになりました。
「初めての収穫祭は、ビギナギルを真似て行いましたが、初めてにしても引けを取らない華やかな祭りになりました。おいでいただいたビギナギルの方々も楽しまれたかと思います。来年も収穫が良くなるようにそして楽しい収穫祭が出来ますように乾杯します。乾杯」
「かんぱ~い」そして拍手が湧き起こる。
 お酒が飲み干され、再び配られ話に花が咲いた頃、私はそっとその場を抜け出す。もしかしたらあるかもしれないと小路をさまよう。すると、ほの明るい店が一件見つかった。私は、中をのぞき込みグラスを磨く姿を見て、扉を開ける。いつものドアベルが鳴って私が入ってきたのをちらりと見て、マスターは無愛想に言った。
「いらっしゃい。」
「こんばんは。入っても良いですか。」
「もうすでに入ってきているだろう。」私がカウンターまですでに入ってきたのをそう指摘する。
「いつものでいいのか?」
「はいお願いします。」そう言った私を見もせずに、カウンターのコンロに火を入れて、湯を沸かしながら、コーヒーを入れる準備を始める。コーヒーカップには沸かしてあった別のお湯を入れて温めている。今回は、紙フィルターのドリップ式だ。紙フィルターを折ってこし器に入れて、戸棚からコーヒー豆を出してきて、豆を挽いた。粉を濾紙に入れてお湯の沸くのを待つ。
「ここに戻って来たんだな。感想は何かあるかい?」
「やはり自分の家は良いですねえ。」
「そうか、この町は嫌いか?」
「意地悪な質問ですね。好きですよ。まだ戻って来た実感がわいていませんけど。」
「そうか」
 そこでお湯が沸いたので、やかんの独特の長い口からドリッパーにやかんを揺らしながら注いでいく。しばらく蒸した後さらにお湯を追加していく。そして、コーヒーの落ちる勢いがすこし収まった頃、ドリッパーをシンクにおいて、お湯を捨てたカップにコーヒーを注いでいる。そして、私の前に出した。
「そういえば家族が増えたのだろう?良い子達か?」
「ええ、とっても」
「そうかそれは良かったな。家族が増えてさらに幸せだな。」
「幸せすぎて怖いくらいですねえ。」
「そうか」
 私は、コーヒーカップを鼻に近づけて香りを楽しんだあと、一口飲む。
「いつもの味ですねえ。」
「そう言われるほど飲みに来ていないだろう。」
「まあ、確かにそうですが。雰囲気も込みですからねえ。」 
「確かにな。」
「また会えますかね。」
「さあな。また機会があれば会えるだろう。」
「そうですね。今度はじっくり話したいところですが。」
「ああ、探し回っているみたいだから、早く戻ってやれ。」
「はいごちそうさまでした。」私は飲み干して、小銭を置きその店を出る。
「おお、いたいた。どこ行っておった。探したぞ。」
「そんなに時間経ってませんよねえ。」
「1時間くらいいなかったぞ。じゃから心配になってこっそり探しに来たのじゃ」
「そうでしたか。そろそろ帰る時間ですか?」
「またエルフィが寝てしまってなあ。例のガードを始めたのでなあ。今回はメアでもだめなのじゃ。」
「わかりました。急ぎますね。」
「いや、しばらく眠らせておくことにしたからまだ時間がある。」そう言ってモーラが立ち止まった。
「おや、どうして立ち止まりますか」
「おぬし、宴会とかがあるといなくなるよなあ。どこに行っているのじゃ」
「ああ、小さいお店でコーヒーを飲んでいました。」
「コーヒーだと。この世界で手に入らないと言っていたではないか。」
「まあ、私も入手方法は聞いていませんけど。飲ませてもらってます。」
「毎回そこに行っているというのか」
「けっこう色々なところにありましてねえ。」
「そこに行くとわしのレーダーからおぬしが消えるのじゃな」
「ああ、そんなこと言っていましたねえ。」
「頼むから消えないでくれ。」
「大丈夫ですよ、突然どこかに行ったりしませんから。安心してください。」
「なら良いが。さあ、戻ろうか」
「はい」
 宴会場の真ん中にエルフィの寝ているテーブルだけがぽつんと残されています。
「しようがないですね。よいしょ」
 私は、エルフィに近づき、腕を取って背負います。そこで、回りから。「おぉーっ」と声がかかり拍手までされました。そうして、宴会はつつがなく終了したようです。
「この店の解体移転は明日以降にやるから今日は帰りなさい。」と村長に言われて、家までの道を帰ります。もちろんエルフィを背負ったままです。
「エルフィ、そろそろ起きているんでしょう。降りてください。」
「嫌で~す。家までお願いしま~す。」そう言ってうれしそうに寝たふりをしています。
「さっき、色々言われていましたからねえ。仕事しないとか飲んべえだとか。色々と。」
「そうですか。エルフィは、すごい子なのですけどねえ。居酒屋で一番だらしないところを見られているからしょうがないのですけどね。」
「違うもん、旦那様が私のレーダーの引っかからないところに急にいなくなったから怖くなったんだもん。」エルフィがと急に子どもっぽい話し方で首に回した腕にきゅっと力を掛けた。息できなくなりますから少し緩めてください。
「ああ、いつも私のことを気に掛けてくれていたんですねえありがとうございます。」
「いないと不安なんです~。」声がかすれているああ、泣いていますか。
「あ~あ、泣かしよった。おぬしがいないと人の中が怖いのは変わっておらなかったのじゃな。」
「ごめんねエルフィ。気付いてあげられなくて。」
「いいの。出来るようになるの。でもいないと不安なの。」
「良かったわねえあんた。本当に惚れられているのねえ。」
「うれしいですけど複雑です。何か常に監視されているようで。怖いです」
「まあ、町の中だからじゃろう。それ以外はさすがにのう」
「・・・・」
「おや、反応がない。」
「ご主人様、エルフィは眠ったようです。泣き疲れたのか、安心したのか、多分両方なのかもしれませんね。」
「私もクタクタだわ。さすがに2日は長いわね。」そう言って延びをするアンジー。
「帰ったら寝かしつけて他の人だけでお風呂にしますか。」と私が言った。
「その時には、きっと起きてくるわよ。ず~る~い~とか言ってね」
「確かにそう言いそうですね。」とユーリ
 そして、家に戻り、メアさんに頼んでエルフィを着替えさせ、寝かしつけます。それぞれが部屋で着替えをして、下で待っていると誰も降りてきません。そーっとみんなの部屋を覗くとベッドに倒れ込むように寝ていました。毛布を掛けて静かに部屋を出ます。珍しいのはメアさんまでが眠っていたことです。
 私は、居間に戻って来て大きなテーブルにひとりで座ってみて、なぜか取り残されたような気持ちになりました。しかし、そんな気分を変えるためにお風呂に入ります。湯船につかると。少しは気持ちが良いのですが、広い湯船やがらんとした洗い場を見て、早く寝ることにしました。ベッドに入っても孤独感が消えずに目が冴えてしまいました。かすかなノックの音と共にモーラが眠そうに目をこすりながら入ってきます。手には毛布を持って。
「おう、起きておったか。ひとりは寂しいのじゃろう?わしがそばで寝てやるわ。」
 そう言って、毛布の中に入ってくる。私の腕を無理矢理上げさせてその腕を枕にした。私は思わずモーラを抱きしめてしまう。
「こらこら、ああ、エルフィの寂しさが伝染したな。しようがないのう。まあ、わしもそうじゃ。目が覚めて誰もいなかった。自分の部屋なのに、狭いはずの部屋が広く感じてなあ。心細くなったのじゃ。このわしが。この世界の生物の頂点であるはずのドラゴンがのう。」
「モーラ、そばにいてくれてありがとうございます。」私はその言葉を口にするのがやっとで、モーラをぎゅっと抱きしめ、それからは、ただ泣いていた。
「何じゃ泣いているのか。仕方ないのう。」
「こんな温かい感情を知ったドラゴンは、きっとわしだけなんじゃろうなあ。他のドラゴンにはけっして知り得ない感情じゃ。」
「まったく抜け駆けは無しよ。」と今度はアンジーが入ってくる。こっちも目をこすりながらだ。アンジーは、床に毛布を敷き、モーラが持ってきた毛布も同じように床に敷いた。
「アンジー、何をしているんじゃ」
「そりゃあ、みんなで寝るには、ベッドは狭すぎるでしょう。」
「みんなじゃと」
「そうよ、みんな部屋に入れなくて待っているわ、そこどいて、この狭い部屋で寝るにはベッドを起こして空いたスペースに一緒に寝るしかないでしょう」アンジーの言葉に私は涙を見られたくなくて目をこすった。
「メア、頼むわ」
「はい。」私はメアに抱きかかえられ、パムがベッドを壁に立てかける。ベッドの下は綺麗だった。そこにユーリが毛布を敷いてメアさんが私を真ん中に下ろす。レイが予備の毛布まで持ってきていた。
「さあ野宿開始よ。」そう言ってすでに私の横に来ていたモーラの反対にアンジーが滑り込もうとするが、メアさんが先に横に来ました。
「やられたか。しかたない」そう言ってアンジーがもたもたしている隙にメアさんが毛布を掛け、その上にモーラとメアの間に入るように私のおなかを枕にしてユーリとパムがちゃっかり入り込む。
「ああ、やられた。残るは、頭ね。」そう言ってアンジーは毛布を抱え私の肩に頭を乗せるように逆側を向きました。
「しかたないなー」エルフィは、私の反対の肩に頭を乗せてアンジーを抱きしめる。
「ちょっとエルフィ」
「あー暖かいー」
「だから胸を強く押しつけてこないで」
「え~ぎゅ~。えへへ~」
 レイは最後に私の胸の上に丸くなって寝ています。ええ、もちろん獣化してます。
 それでもひとりずつ寝息が聞こえ始めました。それでも少しだけぼーっと見えないはずの天井を見ていましたが、やがて眠ってしまいました。
 翌日の朝、メアさんが動いて目を覚ましました。
「さすがに起こしてしまいましたか。もう少し寝ていてください。」やっぱり私はメアさんの腕をつかんで離しません。
「わかりました。朝食はみんなで作りましょうね。」そう言って私の隣に寝直します。私は、またその体をぐっと私の方に引き寄せました。
「ご主人様は急に甘えん坊になりましたね。」メアが頭を撫でてくれました。
「しかし、みんなの見ている前でよくやるのう。」
「え?」全員体を起こして私を凝視しています。ええ、凝視です。
「メア、あんたも一緒に起きるわよ。」
「そうですね、非常に残念ですが。」
「あんたも起きるのよ。」
「いや、私はちょっと。」
「あーはいはい、自然現象ね。じゃあ後で降りてきなさいね。」
「レイ、それは、食べ物じゃないぞ。かじったらこいつが悲鳴を上げる。やめておけ」
「はーい」
 そして一人残されました。でも、寂しくありませんでした。


 メイド喫茶の話なのに全然メイド服の素晴らしさが伝わってきませんでした。



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農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

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