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第21話 三国騒(争)乱
第21-1話 始まりは死体から
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場所は土地のドラゴンであるモーラの領地。縄張りの端の境界線である。
「ハアハアハア。」
荒い息の2人連れが森の中を走っている。一人は、その体躯、堅く厚い皮膚、強く貼り出す角。どう見ても魔族である。もう一人は、獣人である。2人で森を抜けて草原に出る。
「やった逃げ切れた。ここは安全地帯だ。」
2人は息を切らしながらもそう叫んでさらに走り続ける。
「ちっそこから先には入ったらまずい。協定違反になるからな。」
後ろから追っていた影は、そこで足を止める。どうやら2人は追われていたようだ。
「本当に追ってこないんだな。もう大丈夫だ。」
後ろの気配が消えたのを感じて2人は速度を落とす。
「はあ?そんなわけないでしょ。ドラゴンが来る前に殺してしまえばいいのですから。」
先回りしていた魔獣が2人を一瞬にして殺した。
「さて、厄介なのが来るまでに逃げましょうか。」そう言って死体をそのままにその2つの影は消えた。
死体しか残っていないその場所に、モーラが空から到着する。そして、獣人や魔族の死体を見つける。
「厄介なことになったかのう。」
モーラはそうつぶやいてからその場所を去った。もちろん死体は、土の中に埋葬してから。
「帰ったぞ。」
子どもの姿に戻って扉を開けてモーラが家に入ってくる。
「最近は、随分と頻繁に外に出てきますねえ。」
「まあなあ、何かと縄張りを越えてくる者が多くてなあ。やはり面倒なことが増えたようじゃ。」
家に戻ってきたモーラがパムと小声で話している。パムは頷くと自分の部屋に戻り、しばらくして、旅支度で居間に入ってくる。
パムは、私の前にひざまずき、顔を上げる。私は思わず椅子から立ちあがって、その前に進み出る。
「どこかに行きますか?」
「はい、たぶんロスティア周辺で戦争が起きているようなので、その様子を見て参ります。」
「戦争ですか。私としては、危険ですので行かないで欲しいのですが。」
「こちらまで戦火が及ぶかどうか見極めて参ります。」
「戦争の起きているようなところには、私の大事な家族は、行かせたくないですねえ。」
「私の性分もありますのでお許しください。」
顔を上げたパムは、その決意を静かな面持ちに漂わせている。
「誰か一緒についていったらダメですか。」
「申し訳ありませんが、ユーリもレイもエルフィも問題に巻き込まれるほうですので、私ひとりの方が目立たないで動けると思います。」
確かに先日の旅では、いろいろと問題を・・・いえ、成果を上げてきたようですから、パムなりに思うところがあるのでしょう。
「なるほど」
「数日もあれば戻ってこられますので、ウンをお借りします。」
「ウンも了解してくれるでしょう。決して無理はしないでください。危険な時は、迷わずあのペンダントを使ってくださいね。」
「承知しました。私の命は、ぬし様のもの、必ず戻って参ります。」
「そうですか」私は顔を近づけて額にキスをする。
「ぬし様、何をなされますか。」
パム、びっくりして目を見開き、顔を赤く染めている。
「これは、私との約束ですよ。必ず無事に戻ってくださいね。」
「・・・・はい」
パムは、私の視線を避けるよう顔を伏せて立ち上がり、耳まで真っ赤にして出て行く。
「おぬし、あんなことをしてよいのか。」
「もうね、私には止められないんだなあと。自分自身、歯がゆいのですよ。何もしてあげられなくて。」
「それであれか。」
「ええ、本当にそれ位しかしてあげられないので。でも、パムが行くのは、モーラ、あなたの指示なのでしょう?」
「それは違うぞ。わしは、あやつに相談されてどうしたいのか聞いただけじゃ。おぬしとわしらの生活を出来るだけ長く幸せに暮らすために行きたいと言われてな。」
「それでも何か頼んだのでしょう?もう少し話してくださいよ。」
「発端は、最近わしの縄張りの境界あたりで、獣人やら魔族などが殺されているのが見つかったのじゃ。」
「それって。どういうことですか?」
「ああ、単に裏切り者が逃亡を図ったのか、何か悪事に荷担されそうになって逃げてきたのかわからないが、縄張りに入った付近で殺されているのじゃ。」
「ここに来れば不干渉だから逃げ切れると思ったのですかねえ。」
「不干渉なエリアだろうとルールは存在する。わしは、悪人をそのまま住まわせるなど考えてもおらぬ。むしろ害のある者は放逐するつもりでもいるのじゃが、なにぶん現場に到着したときにはすでに始末されておるので詳しいことはわからん。そもそもあの話は、族長達のみが知りうる話のはずなのに、一般の者達に知られているのが、それがわからんのでなあ。」
「それでパムに調べてくるよう言ったのですか。」
「いや、それはついでじゃ」
「本当の目的を教えてくださいよ。戦争はロスティアあたりと言っていましたが、どことどこがやっているのですか。」
「ロスティアが他の国から攻撃されているらしいのじゃよ。さすがにわしもよう知らん。」
「ロスティアが攻撃されているのですか。それと魔族や獣人が逃げ込んできていることとは、何か関係があるのですか」
「ああ、そのあたりに住んでいる獣人達が逃げてきて知ったのじゃが、戦争が始まっているのか始まりそうなのか、影響はどこまであるのかが不明でなあ。ついでにそれを探るようお願いしたのじゃよ。」
「なるほど、ここまでは、かなり距離があります。戦火が伸びるとは思いませんけれど、現地を探る必要まであるのですか。」
「いや、確かにここまで戦火が伸びるのは、かなり先のことになるじゃろう。しかしな、戦争の範囲が大きければ大きいほど、どこの国もおぬしの存在が気になってくるであろう。」
「私の存在が・・ですか。」
「わかっていてわしにあえて言わせるつもりか?おぬしという脅威は、各国に知れ渡っていて、戦争ともなれば、おぬしひとりを手に入れるだけで、すでに勝ったも同然じゃ。ともすれば、周辺国をすべて占領することも出来よう。ならば、戦争を起こしている国ならなおさらおぬしが欲しいであろうし、周辺国であれば、侵略されぬようおぬしを召し抱えて抑止力としたいと考えるであろう。さらに、戦争が終結してからも安心しているためには、なおさらな。各国が再びおぬしの獲得に動き出すのは間違いなかろう。」
「私は核兵器ですか」
「核兵器とは何じゃ。よくわからんが、おぬしの頭の中の大量殺戮兵器に近いであろう。手に入れた者が勝利するのであろう?その後も抑止力として働くしなあ。」
「はあ。いやな時代になりましたねえ。」
しばらく互いに何も話さず沈黙していると、買い物からもどったメアが荷物を台所に置いてから私の所に来る。
「ご主人様、お話しがあります。」と、メアが困った顔で言った。
「改まって何でしょう。」
「実は、村長様からこちらにお越しいただきたいとのことでございます。」
「そうですか。では、すぐに行ってきましょう」
「お待ちください。この話には続きがあります」
困った顔のメアが急に、にこりと笑う。
「また女装・・・でしょうか。」
「お察しのとおりでございます。」メアはそう言ってスカートの裾を持って少しだけたくし上げお辞儀をする。
「そうですか。」
「では、行こうかのう」モーラがうれしそうです。
「そうね行きましょう。」
なぜか、アンジーまで部屋から出てきて出かけようとする。
「確かにあの格好では、子ども達と一緒でないと、行けませんからねえ。」
そうして、前回と同じ服装をさせられました。そう、フードとスカートです。とほほ。またこんな格好をすることになるとは。だから、スカートは必要ないですよねえ。それに化粧も。
「まあ、さきほど話したであろう、わしは予想がついているがなあ」
「私もね。」
「そうなんですか?」
「最近、あんた馬小屋の整備やら結界の張り直しやらで、ほとんど家にいたじゃない?世情に疎くなっているのよ。」
「まあ、私自身、世情にはあまり関心はありませんねえ。おふたりとも何か知っているのですか。」
「とりあえず村長のところに行こうじゃないか。」
「はあ」
そうして、親書の件で家の周囲が壊されたあたりが、なぜか観光名所になっていて、それを見るために他の国からわざわざ見に来るようになりまして、そんな人通りの多くなった街道を町にむかって歩いています。やはり、観光客とも町の人とも思えない怪しい人々がうろついていて誰かを探しているようです。
私は、ため息をつきながら、町に入り、賑やかになった露天などを抜けて村長の家に到着します。いつにもまして村長の家にはたくさんの人がいて、前に来た時には何も乗っていなかった机の上には、書類がたくさん積み上げられています。私とモーラ、アンジーが中に入っていくと村長はそこにいた男達に目で合図して人払いをしました。
誰もいなくなった村長の部屋の中央には、場違いなほど綺麗なソファとテーブルが置いてあった。あれ、以前はシンプルな机と椅子でしたよね。儲かっているんですねえ。
「テーブルと椅子を替えたのですね。」
「ああ、ビギナギルの領主さんがこれを贈ってきたのだよ。使わないのももったいないので置いているのだ。ちょっと部屋に不相応だし、わしは邪魔なのだが、これもつきあいだと思ってあきらめている。」
「この町は栄えてきたのですねえ」
「ああ、あんた達のおかげでな」
「いや、この町の人達が頑張っているからでしょう。」
「確かにそうだな。ああ、すまんな、また女装させて。」そう言いながらもその声は楽しんでいますよね村長さん。
「私の事でまた何か起きていますか。」
「以前女装してここに来てもらった時には、魔法使いを探しにくる者がけっこういるという話をしたと思うが、あの後、しばらくは、なりを潜めていたのだが、この前、おぬしの家の周囲が焼け野原になってから、また人捜しの者達が増えてきたのでなあ。気をつけるようにと忠告しようと思ったのだ。あいにく引っ越し先も使いの者がどこかわからないと帰ってきたのでこうして呼び出したというわけだ。」
「それは知らせていただいてありがとうございます。その人達は、今も魔法使いを探しているのですか。」
「怪しい雰囲気の者達は、この町に泊まって、いろいろ周囲を調べているようだが、これまでの者達とは違う普通の格好をした者も訪ねてきてな。その者らは、魔王を探しているのだそうだ。どうにか戦争を止めて欲しいとな。」
「戦争ですか」
「なにやら遠くの国同士で戦争しているらしい。そんなもの魔王とはいえ止められるものではないと思うのだがなあ。」
「そうですよね」
「おぬしではないだろうが、へたに町中に出て来て、祭り上げられても困るだろう、静かにしていた方がよいのではないか。」
「わかりました。しばらく身を潜めます。」
そして村長のところを辞した。
「パムを行かせてよかったのかのう」
モーラは不意に心配顔になる。確かにモーラの助言で意外な方向に動いたりすることがありますからそれを気にしているのでしょうか。
「もともとパムは行きたいと言っていたのでしょう?それなら仕方が無いですよ。」
「やっぱりここも人ごとではなくなるかもしれないわねえ。」とアンジーが言った。
「アンジー、おぬし寄るところがあるのであろう。」
「ああ、そうね。ちょっと孤児院の様子を見てくるわ」
そうしてアンジーは、周囲の人達に挨拶しながら城壁の外に向かった。
「わしらは、あの薬屋じゃ」
「なるほどそういう事ですか。」
「まあ、呼ばれたわけではないがなあ。」
「面倒ごとですよねえ」
「そうじゃな」
2人で手をつないで薬屋まで来る。ノックをしようとすると、かちゃりと鍵が外れた音がしたので、扉をそっと押すと静かに扉が開いた。
「おじゃまします」
「ああ、おいでになりましたか魔王様。しかも女装して。そうそう家は落ち着いた?」
エリスさんに笑われてしまいました。
「さすがに早耳ですね。ですが、その話は勘弁してください。」
「まあ、ここにもいろいろ訪ねてくるからねえ。おや、モーラ、久しぶり。里帰りどうだった?楽しかった?」
「おぬしもすまなかったのう。親書の件、知っておったのじゃろう?」
「まあ、族長会議が行われるところまでは知っていたけど、あんなデモンストレーションが用意されているとはねえ。それにしてもあんたのあのシールドもすごかったわねえ。ぜひ作り方教えて欲しいのだけれど。」
「ああ、教えますよ。ここの町に張ってもらいたいので。」
「ああ、それはありがたいわ。さて、寄ってもらって悪いけどね、先に私からあなたにお願いがあるのよ。」
「なんでしょうか」
「実は、あなたへの依頼が山なのよ。」
「依頼というと仕事ですか。」
「ええ、あなたの本業の方のね。」
「本業・・・ああ、薬草ですね」
「面白いわね、あなた、別に本業があるの?」
「それは・・・ありません」
「もしかして、人助けが本業なの?」
「エリスいじめるな。確かにおぬしの、と言うか、わしらの本業がおろそかになっておるのは事実じゃな。」
「そうでしたねえ。薬草の畑を焼かれてから、しばらく心が折れていましたからねえ。」
「焼かれた後も多少は採取していたじゃない。あれから収穫量は増えていないの?」
「とりあえず、焼かれた所は、モーラのおかげで少しずつ元に戻ってきていますが、まだ無理ですね。エルフィがちょっと離れている所に何カ所かテスト栽培してくれていますが、焼かれたのが最適地だったこともあって、収穫量も不安定で、安定供給にはまだほど遠いでしょうね。」
「効果を落としてもだめなのかしら」
「どういうことですか。」
「戦争が起きているのよ。まあ小競り合いが続いているというのが正確なのだけれど、それで、薬が必要なのよ」
「戦争に加担するのはちょっと。」
「あなたのその考えは知っているわ。私が薬草を欲しい理由は、その戦争に巻き込まれている人や獣人達に使いたいからなのよ。」
「避難民ですか。でも、人だけではなくて獣人も被害を被っているのですか。」
「まあ、おとなしい獣人達が家を焼かれたりして逃げ出したりしているのよ。」
「なるほど。なぜ獣人なんかまで被害が及んでいるのですか。」
「噂では、魔族が絡んでいるかわからないけど、獣人を傭兵として雇っているらしいのよ。」
「なぜ獣人が」
「まあ、相手国に迫害された恨みを晴らすためということかしらねえ」
「それなら人全体を恨むべきでしょ。」
「人を、ではなくその国を恨んでいるのかもしれないわ。」
「なるほど。」
「そのおかげで何もしていない獣人達まで襲われて、住む場所を奪われているみたいなのよ。」
「それはひどいですねえ。負の連鎖です。」
「戦争をやめさせればいいのだけれど。私たちは基本的に介入しないし、たぶん介入できないわねえ。」
「あの国の時のようには出来ないのですか。」
「残念だけれど、今回争っている国双方にしがらみが多くてね。今後の付き合いもあるし。」
「確かに片方にだけ肩入れできませんよね。モーラ、ドラゴンは、今回のように獣人まで関わっても介入できないのですか?」
「わしか?わしの縄張りならできないわけでもないが、他人の縄張りでしかもほとんど放棄された縄張りではなあ」
「放棄された縄張りですか。」
「各王国の領土を縄張りにしていたドラゴンは、その地を自分の縄張りとすることをやめたと聞いている。いや、ドラゴンが愛想を尽かしたというところか。実際には、縄張りではあるが、たとえ魔法使いの里や獣人が絡んだ事件が起きても干渉しないことにしたというところらしい。」
「ちなみに今回戦争しているのは、どこなのですか」
「ロスティアが中心よ。ロスティアに対して、ハイランディスとマクレスタ・チェイス公国の2国が別々に戦争を起こしているわ。」
「そうですか。」
『まだ薬屋にいるのよねえ、これからそちらに合流するわ』
「アンジーがこちらに来たいそうですよ」
「かまわないわよ。まあそれで、あなたの薬草に対して需要が高まっている訳よ。」
「そうでしたか」
「ちなみに私たち魔法使いは、今回の戦争に介入はしないけれど、獣人を含め民間人を分け隔てなく治療することにしたわ。戦線から離脱した兵士も分け隔てなく。」
「また戦争に行くかも知れないのに治療するのですか」
「兵士については、戦地に戻れないくらい大けがした人だけよ。戦場から田舎に戻されるような人達ね。」
「ああ、そういうことですか。」
「あなたはどうするの?」
「私は魔法使いの里にも属していませんしねえ。手伝う義理もありません。」
「そう言うと思ったわ。でも、そんな理由だからあなたの薬草をなんとか確保して欲しいのよ。人でも獣人でも効果のあるあなたの薬草は、たとえ促成栽培で効果が落ちようと大量に必要なのよ。」
「こんにちは。」そう言ってアンジーが入ってくる。
「いらっしゃい。」
「ああ、先日は、親書を届けてもらってありがとうございました。対価は後日お渡しします。」
「ああ、あれね。対価は良いわ。」
「いえ、良くありませんよ。」
「わたし、魔法使いの里で族長会議の横にいて、あの光の柱を見たのよ。あれが見られただけで対価としては十分だわ。」
「ええ、それは・・・」
「親書を届けなければ見られなかったのよ。そう考えたらねえ。」
「ここにいても見られたのでは?」
「ここから見上げただけではたりないわよ。まあ、だから対価はいいわ。」
「事前に族長会議が開催されるのを知っていたのだから、見られたのではないのですか。」
「さすがねえ、あの時、わざと匂わせておいたのにあえて食いつかなかったのは、そういうことなの。以外にしたたかね。」
「それはお互い様です。では、対価はなしと言うことで。では、違うお願いをしますね。」
「何かしら。」
「戦争の情報が欲しいのだけれど。持っているのかしら」
「唐突ねえ。事情を話してもらわないと。」
「孤児院に子どもが増えてきてね。どうやら戦争のせいらしいのだけれど、親から離れて子どもだけここに流れてきているのよ。子ども達に話を聞いてみると、子どもだけを商隊の馬車に無理矢理乗せて、ここファーンを目指しなさいと言っているらしくて、もちろん親は無事に街でくらしているみたいなのよ。さすがに子どもに詳しく聞いてもらちが明かなくてね。子どものひとり旅なんて誘拐だって心配なのにどうしてそんなリスクの高いことをするのか知りたいのよ。そして、孤児院での食費も馬鹿にならないので、無責任な親に請求しようかと思ってね」
「なるほどねえ。でも、パムさんがその辺の情報を持って帰ってくるのじゃないかしら。」
「ほう、パムが出かけているのを知っていると。」
「ええ、出発する時にここに寄って、街の魔法使いに連絡を取って欲しいと言われたのよ。そちらの情報の方が正確だと思うわよ。」
「なるほどな。」
「エリスさん、あともう一つお願いがあるのよ。子どもの世話をする、人手が欲しいのよ。」
「唐突ねえ。それは村長の方がいいのではなくて?」
「うちの町は、町全体がどの産業も成長期でね、どこも人手が足りないのよ。だからどこか他の町から来てもらわないと人手がないのよ。」
「むずかしいわねえ。一応、隣のベリアルの魔法使いには聞いてみるけどすぐには無理よ。」
「それと、今回のお願いの対価はいくら払えば良いかしら。」
「ああ、薬草をできるだけ早くたくさん出荷してくれればそれでちゃらにするわ。」
「あんたどうなの?できるの」
「人の生死がかかっていますのでねえ、頑張ります。」
「だそうよ、なのでお願いします。」
「では、とりあえず、私の所にある薬草をお届けします。」
そうして、私は、アンジーとモーラと手をつなぎ、町を出た。街道には相変わらず人がうろうろしています。モーラに促されて以前作ったダミーの家、通称遊園地のある森の中に入っていきます。その家に入り、地下道を通って以前のモーラの洞窟に出ました。
洞窟には、何人かの獣人がいて、モーラに頭を下げていました。あら、モーラは、獣人をかくまっていたのですか。
「ほとぼりが冷めるまでだな。その約束はしている。」
モーラは、そこの代表らしき獣人に近づいて何かを話してから、私たちの所に戻ってきて、一緒に洞窟を出る。
「けっこうな人数でしたが。」
「だから、噂の出元が気になるのじゃ。あやつらは、酒場で話を又聞きしたり、露店で食事をした時に聞いたりしているだけで、誰から聞いたかわからないと言っている。それだけ広い範囲にこの話が流れていることが不安でなあ。」
そうして、家に戻り、獣人達の食料の手配などをメアと打ち合わせをする。
「そういえば、エルフィもレイもユーリもあまり家にはいませんねえ」
「レイは、わしの言いつけで毎日獣人達の様子を見に行ってもらっている。エルフィは、さて、どこにいるんじゃろうなあ。どうやら森の中らしいが。ユーリは、町に行っているみたいだ。」
さすがモーラ、自分の縄張り内の状況は大体わかるのですね。そう感心しながら思っていると。
「じゃがなあ、おぬしとアンジーは、わしの知覚範囲外なのじゃよ。だから気をつけてな。」
「そうなんですか?」
「まあ、大体の居場所はわかるのじゃが、二人とも魔力量を絞っていているから、正確な位置が見つけづらいのじゃ。」
「縄張り内に怪しい魔法使いが入ってきたとしてもわからないんですね。」
「異質で協力な魔力ならわかるが、そこまではさすがにわからんのでなあ。」
そうしてその日は、パムのいない夕食となり意外に静かな雰囲気になりました。あれ?いつもこんなに静かでしたっけ。パムはやっぱり気遣いさんだったんですねえ。
「エルフィ、明日の午前中に急いで薬草を収穫したいのですが。早めに収穫して薬効が少し落ちるだけと言っていましたけど、大丈夫なものなのですか?」
「ええと、それは大丈夫です。でも、急にどうしたのですか。いつもなら、薬効を優先して、収穫までの期間はできるだけ長く取っていたのに。しかも収穫時期は、まだ先ですよね。」
おやエルフィ、いつものゆったりした話し方ではなく、きちっとしていますねえ。慌てていますがどうしましたか?
「じつは、戦争が起きているらしく、巻き込まれている一般市民の治療に使いたいのだそうです。なので、薬効は多少落ちてもできるだけ大量に急いで欲しいそうなのです。とりあえず、在庫分は、収穫作業の後にエリスさんのところに持って行きたいのです。」
「わかりました。あと、町まで一緒に行って良いですか?」
「え、ええ、もちろんです。」
「皆さんにも明日の収穫は手伝ってもらいますが、用事がある人はいますか?」
いつもならありませんと答えが返ってくるところですが、みんな静かに首を振る。どうも雰囲気が暗いですねえ。皆さん何かありそうですねえ。もっとも、聞き出したりはしませんけどね。その時が来たら私に打ち明けてくれると信じていますよ。
そして入浴タイムです。みんなそれぞれ何かを考えているようで気もそぞろという雰囲気は変わらず、会話も無く風呂から上がりました。
「変ですねえ。パムがいないだけでこんなに静かなお風呂なんて。」とアンジー。
「ああ、変だろう。特にエルフィが静かじゃ。」とモーラが言った。何かあるのでしょうねえ。
「まあ、ユーリもエルフィも何か考えていることがあるんだと思います。」とメアが言った。
- 続く ー
「ハアハアハア。」
荒い息の2人連れが森の中を走っている。一人は、その体躯、堅く厚い皮膚、強く貼り出す角。どう見ても魔族である。もう一人は、獣人である。2人で森を抜けて草原に出る。
「やった逃げ切れた。ここは安全地帯だ。」
2人は息を切らしながらもそう叫んでさらに走り続ける。
「ちっそこから先には入ったらまずい。協定違反になるからな。」
後ろから追っていた影は、そこで足を止める。どうやら2人は追われていたようだ。
「本当に追ってこないんだな。もう大丈夫だ。」
後ろの気配が消えたのを感じて2人は速度を落とす。
「はあ?そんなわけないでしょ。ドラゴンが来る前に殺してしまえばいいのですから。」
先回りしていた魔獣が2人を一瞬にして殺した。
「さて、厄介なのが来るまでに逃げましょうか。」そう言って死体をそのままにその2つの影は消えた。
死体しか残っていないその場所に、モーラが空から到着する。そして、獣人や魔族の死体を見つける。
「厄介なことになったかのう。」
モーラはそうつぶやいてからその場所を去った。もちろん死体は、土の中に埋葬してから。
「帰ったぞ。」
子どもの姿に戻って扉を開けてモーラが家に入ってくる。
「最近は、随分と頻繁に外に出てきますねえ。」
「まあなあ、何かと縄張りを越えてくる者が多くてなあ。やはり面倒なことが増えたようじゃ。」
家に戻ってきたモーラがパムと小声で話している。パムは頷くと自分の部屋に戻り、しばらくして、旅支度で居間に入ってくる。
パムは、私の前にひざまずき、顔を上げる。私は思わず椅子から立ちあがって、その前に進み出る。
「どこかに行きますか?」
「はい、たぶんロスティア周辺で戦争が起きているようなので、その様子を見て参ります。」
「戦争ですか。私としては、危険ですので行かないで欲しいのですが。」
「こちらまで戦火が及ぶかどうか見極めて参ります。」
「戦争の起きているようなところには、私の大事な家族は、行かせたくないですねえ。」
「私の性分もありますのでお許しください。」
顔を上げたパムは、その決意を静かな面持ちに漂わせている。
「誰か一緒についていったらダメですか。」
「申し訳ありませんが、ユーリもレイもエルフィも問題に巻き込まれるほうですので、私ひとりの方が目立たないで動けると思います。」
確かに先日の旅では、いろいろと問題を・・・いえ、成果を上げてきたようですから、パムなりに思うところがあるのでしょう。
「なるほど」
「数日もあれば戻ってこられますので、ウンをお借りします。」
「ウンも了解してくれるでしょう。決して無理はしないでください。危険な時は、迷わずあのペンダントを使ってくださいね。」
「承知しました。私の命は、ぬし様のもの、必ず戻って参ります。」
「そうですか」私は顔を近づけて額にキスをする。
「ぬし様、何をなされますか。」
パム、びっくりして目を見開き、顔を赤く染めている。
「これは、私との約束ですよ。必ず無事に戻ってくださいね。」
「・・・・はい」
パムは、私の視線を避けるよう顔を伏せて立ち上がり、耳まで真っ赤にして出て行く。
「おぬし、あんなことをしてよいのか。」
「もうね、私には止められないんだなあと。自分自身、歯がゆいのですよ。何もしてあげられなくて。」
「それであれか。」
「ええ、本当にそれ位しかしてあげられないので。でも、パムが行くのは、モーラ、あなたの指示なのでしょう?」
「それは違うぞ。わしは、あやつに相談されてどうしたいのか聞いただけじゃ。おぬしとわしらの生活を出来るだけ長く幸せに暮らすために行きたいと言われてな。」
「それでも何か頼んだのでしょう?もう少し話してくださいよ。」
「発端は、最近わしの縄張りの境界あたりで、獣人やら魔族などが殺されているのが見つかったのじゃ。」
「それって。どういうことですか?」
「ああ、単に裏切り者が逃亡を図ったのか、何か悪事に荷担されそうになって逃げてきたのかわからないが、縄張りに入った付近で殺されているのじゃ。」
「ここに来れば不干渉だから逃げ切れると思ったのですかねえ。」
「不干渉なエリアだろうとルールは存在する。わしは、悪人をそのまま住まわせるなど考えてもおらぬ。むしろ害のある者は放逐するつもりでもいるのじゃが、なにぶん現場に到着したときにはすでに始末されておるので詳しいことはわからん。そもそもあの話は、族長達のみが知りうる話のはずなのに、一般の者達に知られているのが、それがわからんのでなあ。」
「それでパムに調べてくるよう言ったのですか。」
「いや、それはついでじゃ」
「本当の目的を教えてくださいよ。戦争はロスティアあたりと言っていましたが、どことどこがやっているのですか。」
「ロスティアが他の国から攻撃されているらしいのじゃよ。さすがにわしもよう知らん。」
「ロスティアが攻撃されているのですか。それと魔族や獣人が逃げ込んできていることとは、何か関係があるのですか」
「ああ、そのあたりに住んでいる獣人達が逃げてきて知ったのじゃが、戦争が始まっているのか始まりそうなのか、影響はどこまであるのかが不明でなあ。ついでにそれを探るようお願いしたのじゃよ。」
「なるほど、ここまでは、かなり距離があります。戦火が伸びるとは思いませんけれど、現地を探る必要まであるのですか。」
「いや、確かにここまで戦火が伸びるのは、かなり先のことになるじゃろう。しかしな、戦争の範囲が大きければ大きいほど、どこの国もおぬしの存在が気になってくるであろう。」
「私の存在が・・ですか。」
「わかっていてわしにあえて言わせるつもりか?おぬしという脅威は、各国に知れ渡っていて、戦争ともなれば、おぬしひとりを手に入れるだけで、すでに勝ったも同然じゃ。ともすれば、周辺国をすべて占領することも出来よう。ならば、戦争を起こしている国ならなおさらおぬしが欲しいであろうし、周辺国であれば、侵略されぬようおぬしを召し抱えて抑止力としたいと考えるであろう。さらに、戦争が終結してからも安心しているためには、なおさらな。各国が再びおぬしの獲得に動き出すのは間違いなかろう。」
「私は核兵器ですか」
「核兵器とは何じゃ。よくわからんが、おぬしの頭の中の大量殺戮兵器に近いであろう。手に入れた者が勝利するのであろう?その後も抑止力として働くしなあ。」
「はあ。いやな時代になりましたねえ。」
しばらく互いに何も話さず沈黙していると、買い物からもどったメアが荷物を台所に置いてから私の所に来る。
「ご主人様、お話しがあります。」と、メアが困った顔で言った。
「改まって何でしょう。」
「実は、村長様からこちらにお越しいただきたいとのことでございます。」
「そうですか。では、すぐに行ってきましょう」
「お待ちください。この話には続きがあります」
困った顔のメアが急に、にこりと笑う。
「また女装・・・でしょうか。」
「お察しのとおりでございます。」メアはそう言ってスカートの裾を持って少しだけたくし上げお辞儀をする。
「そうですか。」
「では、行こうかのう」モーラがうれしそうです。
「そうね行きましょう。」
なぜか、アンジーまで部屋から出てきて出かけようとする。
「確かにあの格好では、子ども達と一緒でないと、行けませんからねえ。」
そうして、前回と同じ服装をさせられました。そう、フードとスカートです。とほほ。またこんな格好をすることになるとは。だから、スカートは必要ないですよねえ。それに化粧も。
「まあ、さきほど話したであろう、わしは予想がついているがなあ」
「私もね。」
「そうなんですか?」
「最近、あんた馬小屋の整備やら結界の張り直しやらで、ほとんど家にいたじゃない?世情に疎くなっているのよ。」
「まあ、私自身、世情にはあまり関心はありませんねえ。おふたりとも何か知っているのですか。」
「とりあえず村長のところに行こうじゃないか。」
「はあ」
そうして、親書の件で家の周囲が壊されたあたりが、なぜか観光名所になっていて、それを見るために他の国からわざわざ見に来るようになりまして、そんな人通りの多くなった街道を町にむかって歩いています。やはり、観光客とも町の人とも思えない怪しい人々がうろついていて誰かを探しているようです。
私は、ため息をつきながら、町に入り、賑やかになった露天などを抜けて村長の家に到着します。いつにもまして村長の家にはたくさんの人がいて、前に来た時には何も乗っていなかった机の上には、書類がたくさん積み上げられています。私とモーラ、アンジーが中に入っていくと村長はそこにいた男達に目で合図して人払いをしました。
誰もいなくなった村長の部屋の中央には、場違いなほど綺麗なソファとテーブルが置いてあった。あれ、以前はシンプルな机と椅子でしたよね。儲かっているんですねえ。
「テーブルと椅子を替えたのですね。」
「ああ、ビギナギルの領主さんがこれを贈ってきたのだよ。使わないのももったいないので置いているのだ。ちょっと部屋に不相応だし、わしは邪魔なのだが、これもつきあいだと思ってあきらめている。」
「この町は栄えてきたのですねえ」
「ああ、あんた達のおかげでな」
「いや、この町の人達が頑張っているからでしょう。」
「確かにそうだな。ああ、すまんな、また女装させて。」そう言いながらもその声は楽しんでいますよね村長さん。
「私の事でまた何か起きていますか。」
「以前女装してここに来てもらった時には、魔法使いを探しにくる者がけっこういるという話をしたと思うが、あの後、しばらくは、なりを潜めていたのだが、この前、おぬしの家の周囲が焼け野原になってから、また人捜しの者達が増えてきたのでなあ。気をつけるようにと忠告しようと思ったのだ。あいにく引っ越し先も使いの者がどこかわからないと帰ってきたのでこうして呼び出したというわけだ。」
「それは知らせていただいてありがとうございます。その人達は、今も魔法使いを探しているのですか。」
「怪しい雰囲気の者達は、この町に泊まって、いろいろ周囲を調べているようだが、これまでの者達とは違う普通の格好をした者も訪ねてきてな。その者らは、魔王を探しているのだそうだ。どうにか戦争を止めて欲しいとな。」
「戦争ですか」
「なにやら遠くの国同士で戦争しているらしい。そんなもの魔王とはいえ止められるものではないと思うのだがなあ。」
「そうですよね」
「おぬしではないだろうが、へたに町中に出て来て、祭り上げられても困るだろう、静かにしていた方がよいのではないか。」
「わかりました。しばらく身を潜めます。」
そして村長のところを辞した。
「パムを行かせてよかったのかのう」
モーラは不意に心配顔になる。確かにモーラの助言で意外な方向に動いたりすることがありますからそれを気にしているのでしょうか。
「もともとパムは行きたいと言っていたのでしょう?それなら仕方が無いですよ。」
「やっぱりここも人ごとではなくなるかもしれないわねえ。」とアンジーが言った。
「アンジー、おぬし寄るところがあるのであろう。」
「ああ、そうね。ちょっと孤児院の様子を見てくるわ」
そうしてアンジーは、周囲の人達に挨拶しながら城壁の外に向かった。
「わしらは、あの薬屋じゃ」
「なるほどそういう事ですか。」
「まあ、呼ばれたわけではないがなあ。」
「面倒ごとですよねえ」
「そうじゃな」
2人で手をつないで薬屋まで来る。ノックをしようとすると、かちゃりと鍵が外れた音がしたので、扉をそっと押すと静かに扉が開いた。
「おじゃまします」
「ああ、おいでになりましたか魔王様。しかも女装して。そうそう家は落ち着いた?」
エリスさんに笑われてしまいました。
「さすがに早耳ですね。ですが、その話は勘弁してください。」
「まあ、ここにもいろいろ訪ねてくるからねえ。おや、モーラ、久しぶり。里帰りどうだった?楽しかった?」
「おぬしもすまなかったのう。親書の件、知っておったのじゃろう?」
「まあ、族長会議が行われるところまでは知っていたけど、あんなデモンストレーションが用意されているとはねえ。それにしてもあんたのあのシールドもすごかったわねえ。ぜひ作り方教えて欲しいのだけれど。」
「ああ、教えますよ。ここの町に張ってもらいたいので。」
「ああ、それはありがたいわ。さて、寄ってもらって悪いけどね、先に私からあなたにお願いがあるのよ。」
「なんでしょうか」
「実は、あなたへの依頼が山なのよ。」
「依頼というと仕事ですか。」
「ええ、あなたの本業の方のね。」
「本業・・・ああ、薬草ですね」
「面白いわね、あなた、別に本業があるの?」
「それは・・・ありません」
「もしかして、人助けが本業なの?」
「エリスいじめるな。確かにおぬしの、と言うか、わしらの本業がおろそかになっておるのは事実じゃな。」
「そうでしたねえ。薬草の畑を焼かれてから、しばらく心が折れていましたからねえ。」
「焼かれた後も多少は採取していたじゃない。あれから収穫量は増えていないの?」
「とりあえず、焼かれた所は、モーラのおかげで少しずつ元に戻ってきていますが、まだ無理ですね。エルフィがちょっと離れている所に何カ所かテスト栽培してくれていますが、焼かれたのが最適地だったこともあって、収穫量も不安定で、安定供給にはまだほど遠いでしょうね。」
「効果を落としてもだめなのかしら」
「どういうことですか。」
「戦争が起きているのよ。まあ小競り合いが続いているというのが正確なのだけれど、それで、薬が必要なのよ」
「戦争に加担するのはちょっと。」
「あなたのその考えは知っているわ。私が薬草を欲しい理由は、その戦争に巻き込まれている人や獣人達に使いたいからなのよ。」
「避難民ですか。でも、人だけではなくて獣人も被害を被っているのですか。」
「まあ、おとなしい獣人達が家を焼かれたりして逃げ出したりしているのよ。」
「なるほど。なぜ獣人なんかまで被害が及んでいるのですか。」
「噂では、魔族が絡んでいるかわからないけど、獣人を傭兵として雇っているらしいのよ。」
「なぜ獣人が」
「まあ、相手国に迫害された恨みを晴らすためということかしらねえ」
「それなら人全体を恨むべきでしょ。」
「人を、ではなくその国を恨んでいるのかもしれないわ。」
「なるほど。」
「そのおかげで何もしていない獣人達まで襲われて、住む場所を奪われているみたいなのよ。」
「それはひどいですねえ。負の連鎖です。」
「戦争をやめさせればいいのだけれど。私たちは基本的に介入しないし、たぶん介入できないわねえ。」
「あの国の時のようには出来ないのですか。」
「残念だけれど、今回争っている国双方にしがらみが多くてね。今後の付き合いもあるし。」
「確かに片方にだけ肩入れできませんよね。モーラ、ドラゴンは、今回のように獣人まで関わっても介入できないのですか?」
「わしか?わしの縄張りならできないわけでもないが、他人の縄張りでしかもほとんど放棄された縄張りではなあ」
「放棄された縄張りですか。」
「各王国の領土を縄張りにしていたドラゴンは、その地を自分の縄張りとすることをやめたと聞いている。いや、ドラゴンが愛想を尽かしたというところか。実際には、縄張りではあるが、たとえ魔法使いの里や獣人が絡んだ事件が起きても干渉しないことにしたというところらしい。」
「ちなみに今回戦争しているのは、どこなのですか」
「ロスティアが中心よ。ロスティアに対して、ハイランディスとマクレスタ・チェイス公国の2国が別々に戦争を起こしているわ。」
「そうですか。」
『まだ薬屋にいるのよねえ、これからそちらに合流するわ』
「アンジーがこちらに来たいそうですよ」
「かまわないわよ。まあそれで、あなたの薬草に対して需要が高まっている訳よ。」
「そうでしたか」
「ちなみに私たち魔法使いは、今回の戦争に介入はしないけれど、獣人を含め民間人を分け隔てなく治療することにしたわ。戦線から離脱した兵士も分け隔てなく。」
「また戦争に行くかも知れないのに治療するのですか」
「兵士については、戦地に戻れないくらい大けがした人だけよ。戦場から田舎に戻されるような人達ね。」
「ああ、そういうことですか。」
「あなたはどうするの?」
「私は魔法使いの里にも属していませんしねえ。手伝う義理もありません。」
「そう言うと思ったわ。でも、そんな理由だからあなたの薬草をなんとか確保して欲しいのよ。人でも獣人でも効果のあるあなたの薬草は、たとえ促成栽培で効果が落ちようと大量に必要なのよ。」
「こんにちは。」そう言ってアンジーが入ってくる。
「いらっしゃい。」
「ああ、先日は、親書を届けてもらってありがとうございました。対価は後日お渡しします。」
「ああ、あれね。対価は良いわ。」
「いえ、良くありませんよ。」
「わたし、魔法使いの里で族長会議の横にいて、あの光の柱を見たのよ。あれが見られただけで対価としては十分だわ。」
「ええ、それは・・・」
「親書を届けなければ見られなかったのよ。そう考えたらねえ。」
「ここにいても見られたのでは?」
「ここから見上げただけではたりないわよ。まあ、だから対価はいいわ。」
「事前に族長会議が開催されるのを知っていたのだから、見られたのではないのですか。」
「さすがねえ、あの時、わざと匂わせておいたのにあえて食いつかなかったのは、そういうことなの。以外にしたたかね。」
「それはお互い様です。では、対価はなしと言うことで。では、違うお願いをしますね。」
「何かしら。」
「戦争の情報が欲しいのだけれど。持っているのかしら」
「唐突ねえ。事情を話してもらわないと。」
「孤児院に子どもが増えてきてね。どうやら戦争のせいらしいのだけれど、親から離れて子どもだけここに流れてきているのよ。子ども達に話を聞いてみると、子どもだけを商隊の馬車に無理矢理乗せて、ここファーンを目指しなさいと言っているらしくて、もちろん親は無事に街でくらしているみたいなのよ。さすがに子どもに詳しく聞いてもらちが明かなくてね。子どものひとり旅なんて誘拐だって心配なのにどうしてそんなリスクの高いことをするのか知りたいのよ。そして、孤児院での食費も馬鹿にならないので、無責任な親に請求しようかと思ってね」
「なるほどねえ。でも、パムさんがその辺の情報を持って帰ってくるのじゃないかしら。」
「ほう、パムが出かけているのを知っていると。」
「ええ、出発する時にここに寄って、街の魔法使いに連絡を取って欲しいと言われたのよ。そちらの情報の方が正確だと思うわよ。」
「なるほどな。」
「エリスさん、あともう一つお願いがあるのよ。子どもの世話をする、人手が欲しいのよ。」
「唐突ねえ。それは村長の方がいいのではなくて?」
「うちの町は、町全体がどの産業も成長期でね、どこも人手が足りないのよ。だからどこか他の町から来てもらわないと人手がないのよ。」
「むずかしいわねえ。一応、隣のベリアルの魔法使いには聞いてみるけどすぐには無理よ。」
「それと、今回のお願いの対価はいくら払えば良いかしら。」
「ああ、薬草をできるだけ早くたくさん出荷してくれればそれでちゃらにするわ。」
「あんたどうなの?できるの」
「人の生死がかかっていますのでねえ、頑張ります。」
「だそうよ、なのでお願いします。」
「では、とりあえず、私の所にある薬草をお届けします。」
そうして、私は、アンジーとモーラと手をつなぎ、町を出た。街道には相変わらず人がうろうろしています。モーラに促されて以前作ったダミーの家、通称遊園地のある森の中に入っていきます。その家に入り、地下道を通って以前のモーラの洞窟に出ました。
洞窟には、何人かの獣人がいて、モーラに頭を下げていました。あら、モーラは、獣人をかくまっていたのですか。
「ほとぼりが冷めるまでだな。その約束はしている。」
モーラは、そこの代表らしき獣人に近づいて何かを話してから、私たちの所に戻ってきて、一緒に洞窟を出る。
「けっこうな人数でしたが。」
「だから、噂の出元が気になるのじゃ。あやつらは、酒場で話を又聞きしたり、露店で食事をした時に聞いたりしているだけで、誰から聞いたかわからないと言っている。それだけ広い範囲にこの話が流れていることが不安でなあ。」
そうして、家に戻り、獣人達の食料の手配などをメアと打ち合わせをする。
「そういえば、エルフィもレイもユーリもあまり家にはいませんねえ」
「レイは、わしの言いつけで毎日獣人達の様子を見に行ってもらっている。エルフィは、さて、どこにいるんじゃろうなあ。どうやら森の中らしいが。ユーリは、町に行っているみたいだ。」
さすがモーラ、自分の縄張り内の状況は大体わかるのですね。そう感心しながら思っていると。
「じゃがなあ、おぬしとアンジーは、わしの知覚範囲外なのじゃよ。だから気をつけてな。」
「そうなんですか?」
「まあ、大体の居場所はわかるのじゃが、二人とも魔力量を絞っていているから、正確な位置が見つけづらいのじゃ。」
「縄張り内に怪しい魔法使いが入ってきたとしてもわからないんですね。」
「異質で協力な魔力ならわかるが、そこまではさすがにわからんのでなあ。」
そうしてその日は、パムのいない夕食となり意外に静かな雰囲気になりました。あれ?いつもこんなに静かでしたっけ。パムはやっぱり気遣いさんだったんですねえ。
「エルフィ、明日の午前中に急いで薬草を収穫したいのですが。早めに収穫して薬効が少し落ちるだけと言っていましたけど、大丈夫なものなのですか?」
「ええと、それは大丈夫です。でも、急にどうしたのですか。いつもなら、薬効を優先して、収穫までの期間はできるだけ長く取っていたのに。しかも収穫時期は、まだ先ですよね。」
おやエルフィ、いつものゆったりした話し方ではなく、きちっとしていますねえ。慌てていますがどうしましたか?
「じつは、戦争が起きているらしく、巻き込まれている一般市民の治療に使いたいのだそうです。なので、薬効は多少落ちてもできるだけ大量に急いで欲しいそうなのです。とりあえず、在庫分は、収穫作業の後にエリスさんのところに持って行きたいのです。」
「わかりました。あと、町まで一緒に行って良いですか?」
「え、ええ、もちろんです。」
「皆さんにも明日の収穫は手伝ってもらいますが、用事がある人はいますか?」
いつもならありませんと答えが返ってくるところですが、みんな静かに首を振る。どうも雰囲気が暗いですねえ。皆さん何かありそうですねえ。もっとも、聞き出したりはしませんけどね。その時が来たら私に打ち明けてくれると信じていますよ。
そして入浴タイムです。みんなそれぞれ何かを考えているようで気もそぞろという雰囲気は変わらず、会話も無く風呂から上がりました。
「変ですねえ。パムがいないだけでこんなに静かなお風呂なんて。」とアンジー。
「ああ、変だろう。特にエルフィが静かじゃ。」とモーラが言った。何かあるのでしょうねえ。
「まあ、ユーリもエルフィも何か考えていることがあるんだと思います。」とメアが言った。
- 続く ー
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