巻き込まれ体質な私、転生させられ、記憶も封印され、それでも魔法使い(異種族ハーレム付き)として辺境で生きてます。

秋.水

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第21話 三国騒(争)乱

第21-7話 勇者覚醒 ついでに勇者会議開催決定

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 廃城のユーリとアンジー

「ユーリ、どうしたら良いと思う?」
「僕に聞かれても、直接会いに行って説明するとしか答えられませんよ。宣託の件だって、直接聞いた方が良いとしか言えません。」
「そうよね。誠意は大事だわ。」
 そうして悩んでいると、
「戻りました。」と言ってメアが戻って来た
「ありがとう、それでどこにいるのかしら。」
「意外と近くの川縁におりました。」
「ふ~ん。魚釣りでもしていたのかしら。」
「どうしてわかりましたか。」メアが意外な顔をする。
「あれだけ軽装で旅していると言うことはね、食料の備蓄がなくて、日々の食料にも事欠いているとみたわ。」
「アンジー様、さすがです。」
「では、こちらの誠意を見せましょう。」
「アンジー様、誠意とは何でしょうか。」
「ああ、まあ取引ね。それに際して必要なのは、荷馬車と馬と物資ね。」
「それは買収とは違うんですか。」ユーリが突っ込んだ。
「違うわよ、神の施しね。」
「なるほど。」
「問題なのは馬よ。さすがにうちの馬と荷馬車は、優秀すぎて渡せないわ」
「荷馬車も秘密だらけですからねえ。」
「荷馬車と馬ならなんとかしてもらえるかもしれません。あとからお返しすれば。」
「良いのかしら。ユーリが話すと何でもOKしそうよねえ。」
「確かに。まずお金を払いましょう。そして違う馬と馬車を保証するというのはどうですか。」
「そうするしかないようね。」
「あとですね、あのパーティーの忍者と知り合いになりまして。」
「そうなの?」
「はい、一応、探っていた時にこちらに気付いて戦いになり、その実力差に白旗を揚げましたので、色々話を聞いたら、結構、パーティーへの不満を爆発してくれました。」
「その子は来ているのでしょう?」
「ご賢察痛み入ります。」その忍者は、そう言って天井から降りてくる。
「皆さん私の気配は察していらっしゃいましたよね。」
「そりゃあまあ、ユーリを見たら、脇差しに手をかけていたし、私が攻撃されればユーリが動くと思っていたからスルーしていたわよ。」
「そんな忍者としても資質が・・・」
「言っておいたでしょう。皆さんただ者ではないと。」
「その少女にさえ気付かれていたとは。」
「自信を持ちなさい。あなたは大丈夫、これからその資質を磨けばきっと優秀な忍者になれるわよ。」
「ありがとうございます。」
「アンジー様。ここで信者を増やしてどうするんですか」とユーリが言った。
「ああ、そうだったわ。跪いている人を見るとつい優しく声をかけたくなるのよねえ、失敗だわ。」
「いいえ、その言葉心にしみました。精進します。」
「ひとつ教えて欲しいことがあるんだけど良いかしら。」おおっとモードチェンジですねアンジー
「は、何なりと。」
「あなたのところの勇者さんは、確か神から宣託を受けたと言っているけど本当なのかしら」
「本人が直接宣託を受けたわけではなく、ライオット・・・もうひとりの男の魔法使いが宣託を受けたと言っております。」
「そうなのね。で、それは本当なの?」
「確かにそれしか言いません。彼が勇者だと宣託を受けたとしか。」
「それで、その勇者様には本当に資質があるのかしら。先ほどこの女剣士さんから聞いたことを考えるとどうも勇者らしくないような気がするのだけれど、あなたはどう思うの?」
「確かに言動は粗野に見えますが、正義のためであるとか、倒す目的が決まると集中して成果を上げるのです。先ほどの件は、さすがに様子がおかしかったのですが、普段はもっと冷静でそれほどでもないのです。」
「やはりそうなんですか。」ユーリが考え込んでいる。
「それでね、忍者さん提案があるのだけれど。」
「先ほどの馬と馬車のことでしょうか。」
「そうよ。代わりにお願いがあるのよ。」
「一応お聞かせ願いますか。」
「この戦争を止めて欲しいのよ。」
「まだ無理です。私達には実績も名声もありません。」
「そうね、でも実績も名声も今回両方手に入るわよ。」
「そ、それは確かに。最近伸び悩んでいますし、そのマジシャンズセブンという方々の噂があまりにも桁が違いすぎて、行く先々で勇者を名乗るなら~とか言われています。」
「それはね、まあ仕方がないわ。それは置いておいて、まず資金の問題よねえ。」
「はい、活動資金が乏しいので、大きな依頼も受けられず、得た収入も食費にほとんど回ってしまうので、装備も更新できずにいます。」
「やはりそういうことだったのね。では、今回この廃城にあった昔の装備を使えるなら供出してもらって装備を一新し、馬と荷馬車と食料を用意しますので、それに乗ってハイランディスに乗り込んで欲しいのよ。悪い取引ではないと思うのだけれど。」
「でも、相手にしてくれませんよ。」
「そこは大丈夫だから安心しなさい。その宣託を受けた参謀に話して、この話に興味を持ったならあなたと2人で一度ここに来なさい。この話をその人に改めて話してあげるから。」
「どうしてそこまでしてくれるのですか。」
「それはね、私達が平和を望んでいるからよ。それは貴方たちにもわかるでしょう。私達には力はない。貴方たちには勇者の資質がある。どう、お互い得するでしょ?」
「平和ですか。そうですね。単なる小競り合いだったものがやはり戦争に発展していましたか。わかりました。説得してみます。」
「説得はしなくて良いのよ。この事実だけ伝えてちょうだい。いいわね」
「はい」そう言って一瞬で消えた。さすが忍者。
「よかったのですか?あんな嘘を言って。」
「私天使だから嘘は言っていないわよ、言わないだけで。」
「え、でも嘘を言っていませんでしたか?」
「だから私は嘘をついていませんよ。」
「だってこの廃城にある昔の装備とか。」
「ああ、嘘は言っていないわよ。じゃあ見せてあげるから一緒に来て。」
 アンジーに連れられて、2人は倉庫のような所のさらに奥に入って行く。その先は、柱などが折れて重なっていて部屋であることが一見してわからなくなっている。アンジーは、倒れている柱を器用に越えたり、しゃがんで下をくぐったりしてさらに奥に入って行く。
 アンジーが立ち止まるとそこには、武具や防具が飾ってあった。
「こんな所どうして知っているんですか。」ユーリがびっくりしている。
「前回来た時にユーリが倒れたじゃない。その時にいろいろ見て回ったのよ。そのときにね。これを見つけていたのよ。」
「でも、こんな古くて錆びた物を渡すんですか。」
 メアがおいてある埃まみれの鉄兜を汚いものを触るような感じでつまみ上げる。
「そう思うわよねえ。」
 アンジーは笑いながらそう言って、そこにあった剣を両手で触りながら目をつむる。温かい光が剣を包み、錆や傷などが元に戻っていき、新品のようになる。
「光の回復魔法ですか。」メアもユーリも驚いている。
「そうね、でも一度、古くなっているから、完璧に戻るわけでもないのだけれど、それだって耐久性がやや劣るだけよ。」
「エルフィの回復魔法とは違うのですね。」
「そうね、あいつに言わせると神代魔法と一般の魔法では、基礎理論が違うのだそうよ。もっとも使っている人たちには理論なんて関係ないのだとも言っていたわ。」
「確かにご主人様は、モーラ様にもそう言っていましたね。」
「まあ、これは後でも良いのよ。とりあえずあることを確認しにきただけよ。馬と荷馬車を確保しましょう。あ、ユーリ、これを一部もらい受けても良いわよね。」
「ええ、私には必要のないものですし、かまいません。ですが、差し上げる物以外で使える物があるなら、住んでいる方々にもお渡ししたいのですが。」
「お安いご用よ。こんなところで使ってもらえるなら。領主冥利につきるでしょうね。」
 そう言って3人でそこを出て、1階のホールに向かう。そこには困った顔のリアンがいた。
「あ、ユーリさん何とかしてくださいよ。」
「どうしたのですか。」
「孫に似ているとか、みんなが言い出しまして、色々と世話してくれるのですが、私自身ネクロマンサーなのであまり親しくしたくないんですよ。それにすでにこの周辺に死体を配置しているので、監視に入りたいのですが、他の町の話をして欲しいと言って離してくれないのです。」
「わかりました。少し話してみましょう。」
「お願いします。僕は、鐘楼に上がって監視を始めます。」
「お願いね。」
 アンジーが声をかけた。
「まあ、食事と安全と引き換えだから仕方ないけど、本当はひとりで暮らしたいでしょうにね。」
「そうですね。親しくなれば別れるのがつらくなり、ましてや近所に暮らしています。正体がばれた時に皆さんの見る目が変わるのが恐いのでしょう。」
「誘ったのは、失敗だったかしら。」
「いえ、あの小石の効果を消していないので、同じようなことが起きると思われます。なので、あそこにひとりで暮らしているのは、さすがに危険かと思います。」
「そうよね。さて、この良い匂いは、夕食なのかしらねえ。ああ、あの人達にも分けてあげた方が良かったかしら。」
「いいえ、施しは受けないと、あの勇者なら言いそうです。」
「確かにそうね。」
 クシュン その噂の勇者はくしゃみをした。
「おやめずらしい。どうしたのですかくしゃみなんて。」
「誰かが噂をしているのだろう。勇者の噂を。」
「良い噂だと良いのですが。」と優しそうな女性が言った。
「そうだよなあ。」と女剣士が言った。
 少し離れたところで、例の男の魔法使いと忍者が話していた。
「あまりにも話がうますぎないか。罠じゃないのか。」
「だからお前に来て欲しいんだよ。話を聞いて欲しい。いや、彼女からは、話だけしてくれと言われていたんだ。言い過ぎた。」忍者が説得しようとしている。
「洗脳されているわけではなさそうだな。」
「ああ、平和を願っていると言っていた。」
「それだけでそんな物をくれるというのか。信じられない。」
「声を荒げてどうしたのですか?」
 優しそうな女性がもめ事なのかと心配して近づいてきた。
「ああ、勇者様にも聞こえていましたか?」その男は、気にして勇者を見る。しかし寝ているようだ。
「いいえよくお眠りです。」
「そうか、よかった」
「良かったら話を聞かせて欲しいのだけれど。だめ?」
「そうだよ仲間じゃないか。」
 一緒に近づいてきた女剣士が言った。その横には、別の魔法使いの男がいつのまにか立っていてうなずいている。
「実は・・・」そう言って話をする。途中から怪訝そうな顔をする一同。
「確かにそこまでしてもらうのは変だ。だが、私達が単身でこの戦争を止めに行くにはそれくらいの格好で行かないと入れてくれさえしないだろう。」
 女剣士は、悲しそうにそう言った。
「そうよね、今の私たちの置かれたこの状態を打破するには、これしかないと、私はそう思ってしまうのです。」
と、やさしそうな女性は、寂しそうに言った。
「そうなんだよ。これだけ頑張ってもじり貧なんだ。最近は特に例のマジシャンズセブンの噂のおかげですっかり勇者に対する期待のレベルが上がってしまっていて、最初の予定とはかなり違っているんだ。」
「そうだな、他にも異種族の3人組が、旅先で色々な事件を解決したりして、私達の活躍する機会も奪われていたし。」と女剣士が付け加える。
「なあ、俺は直接会って話をしている。だから信じたくなっているんだ。だまされてもいい気がしているんだよ。ただ、たぶんこの取引を受けた時に何か言われるかもしれない。その予感もあるんだ。だから一緒に来て話を聞いてくれ。頼む。」
「ひとつ言って良いか。」意外そうにみんながその男の魔法使いを見る。きっといつも話さないタイプなのだろう。
「この話のデメリットって何だ。俺たちは名も売れていない、失うものは無い。もしかしたら門前払いをくう。いや、たぶん門前払いをくうんだよ。そこで俺たちの役目は終わりだ。無くすものが何かあるのか。」
「戦争を止めるという勇者としての責務に失敗したということだね。けっこう後々響きそうだ。」
「でも、無名の俺たちに後々はあるのか?これまで失敗を恐れて慎重にやってきた。名声を汚さないように。だが、それではだめなんじゃないのか。」
「そうかもしれないな。」と、女剣士
「わかった。とりあえず話を聞いてこよう。疑問に思ったらやめてくるけどそれでもいいな。」
「ああ、それでいい。」
「待って私も連れて行って。きっと話してみればわかると思うの。」
「確かに、あなたなら違和感に気付くかもしれないね。」
「とりあえず、ひとり増えても良いか聞いて欲しい。」
「ああ、すぐ行ってくる。」
「大丈夫なの?」
「俺の気配を簡単に気付く人たちだ、行ったら話せると思う。」
「そんなレベルの人たちならなぜ自分たちで?」
「勇者ではないのだろう。たぶん」
「でもそれって・・・いいえ、今は気にしないでおきます。」
 そうして、忍者は廃城に来てアンジー達の了解を取り、翌朝その男女は川辺から廃城までまっすぐ廃城に向かった。
「一般の人に迷惑が掛かるので裏口からお入りください。」
 門の手前でメイド服のメアがお迎えする。
 静かに中に入り、2階の一室に案内された。
 そこには忍者がすでにいて、ユーリとアンジーがそこに立っていた。やさしそうな女性の方は、アンジーを見るなり。そこに跪き手を合わせた。
「パトリシア、どうしたんだい急に」
 パトリシアと呼ばれたその女性は、祈るのをあやめない。アンジーが近づき。
「すこしまぶしかったのね、ごめんなさい。今は大丈夫よね。」
 そう言って彼女の手を取り、立たせた。
「どういうことなのですか。パトリシア。」
「どうもこうもありません。この方は紛れもなく神の使徒様です。」
「違いますよ。私は、天から地に落とされた身。そのような者ではありません。」
「さて、あなた名前を何といいますか。」アンジーはそう言って男の方を見る。
「わ、私はライオット・サリンジャー。勇者の仲間です。」
「ライオット・サリンジャーですか。では、サリンジャー。あなたは、神の宣託を受けたと触れ回っていると聞いたが本当ですか。」
「本当でございます。確かに声を聞きました。」
「その声は神を名乗りましたか。」
「はい、私は神であると。」
「そうか、わかりました。もういいです。」そう言ってからアンジーの表情は急に柔らかくなった。
「さて、聞きたいことは終わったので本題に入るわね。」
 まるで憑き物が落ちたかのように口調や雰囲気を変えたアンジーがそう言った。周囲はあっけにとられている。もちろんユーリもメアもだ。顎が落ちている。
「忍者さん、ええとお名前は、なんて言ったかしら」
「ダイアン・カーンです」
「失礼、ダイアンさんから聞いていると思うけど、私達からの提案について考えてくれたかしら。」
「はい、でも、いくつか質問が。」
「面倒だから一つにしない?」
「では、この話に何か裏があるのでしょうか。」
「そうね、確かに胡散臭いわよねえ。私達が求めることは、この戦争が3国のまま平和になることなの。1国に2国が占領されたり1国が2国に併合されたりするのを望まないのよ。」
「そこが貴方たちの利益になると。それが裏だとおっしゃるのですか。」
「理解が早いわね。さすがパーティーのまとめ役。頭の回転が速くて助かるわ。」
「しかし、私達が1国を説得したところで・・・なるほどそう言うことですか。」
「すごいわねえ。ここまでの会話でこの話を理解したの。驚きだわ。」
「念のため確認しても良いですか。」
「質問ではないということにするのね。いいわよ。」
「その3国のうち2国には、それぞれ勇者がいるということですね。」
「あなたも噂くらい知っているでしょう?それが答えよ。どう?この話受ける?念のため言っておくけど、私達は、どの国とも通じていないわ。むしろ逆でどの国とも無関係なの。私達にとって大切なのはそれぞれの国に住んでいる人々の安全だから。」
 そう言って沈黙するアンジー。ライオットと名乗った者は、パトリシアとダイアンに目で合図する。2人ともうなずいているのを確認して、こう言った。
「わかりました。一度持ち帰って午後からまた伺います。」
「話しを断るのなら来なくても良いわよ。貴方たちも忙しいでしょうから、太陽が下り始めたら諦めるわ。」
「わかりました。失礼します。」忍者は消え、2人は帰って行った。
「アンジー様は、いつもすごいですね。これでは、天界も取り戻したくなるわけです。」
「だからいつも言っているでしょう。こんなの天使の本分ではないと。」
「確かにそうですが。さらに磨きがかかっていますね。」
「いつもは即興だけど、今回は時間があったからね。それでも来た人のなりを見てから少しだけ調整はするのよねえ。」
「なるほど、やはり2名来たのも違いますしねえ。」
「そうね、あの子パトリシアだっけ。あの子のリアクションがオーバーすぎてそこは、失敗してしまったわ。」
「あれはちょっとやばかったですね。効果ありすぎました。」
「それでもあのライオットさんはすごいですね。こちらの意図をしっかり把握していました。」
「あの話した感じだと、彼の中では、勇者を名乗らない者は利用しても問題ないと思っているのよ。だからこちらがマジシャンズセブンだろうと予想はしても勇者候補でない以上、利用すべき者として扱おうとしてくれているわ。」
「この話に乗ってきますか。」
「勇者次第だけど、乗ってくるでしょうね。」

 そのライオットとパトリシアは、自分たちの野宿している場所が川べりなので、道を歩かず草むらを進んでいる。
「はー、すごい方でした。」パトリシアがうれしそうに言った。
「そんなにすごいのですか。」どうも懐疑的らしい。ライオットが言った。
「はい、あのオーラが見えないなんてもったいないですね。」
「そうなんですか。でもあなたにわざと見せましたよね」
「はい、そうしないと話を信じてもらえないと思ったのでしょう。」
「そうでしたか。たぶんあれは・・・」
「はい、間違いなくマジシャンズセブンの方達ですね。」
「まあ間違いないでしょう。であれば、この話受けるのに何の問題もありません。」
「そうなるのですか?」
「ええ、あの人達は、自分の住んでいるところが安全であれば良いのです。だから今回の戦争を3国が存在したまま終わらせたいのですよ。そうすれば、あそこまで侵攻することはないからです。」
「でも、そんなことをしなくても攻めてきても追い返せば良いのではありませんか。」
 ダイアンが周囲の警戒から戻って来てそう反論する。
「確かにそれはありますが、そうですね。力を誇示したくないのでしょうか。誇示すればするほど敵は増えますからね。」
「やはり一般の人々のことを考えているのではないでしょうか。」
「そうかもしれません。この戦争で人が死ぬのを早く止めたいと思うのは同じかもしれませんね。」
「そうですね。きっとそうなのでしょう。」パトリシアが大きく頷いている。
 そうして川べりに戻り、勇者には、彼女らがマジシャンズセブンであることを話さず。話を受けることに決めて、昼前に全員で廃城に来た。
「来たわね。」
 アンジーは、微笑みながら、裏手に案内し、用意していた武具防具、食料を積んだ荷馬車を引き渡す。
「約束どおり用意したわ。問題ないかしら。」
「これほどまでとは、こんな廃城に錆ひとつない武器防具があったのですか。」
「昨日の夜、使える物を選別して、ちゃんと修理したわよ。きれいなまま置いてあったわけではないわ」
「なるほど、ありがとうございます。」
「あともう一つだけ。このまま逃げても別に構わないわよ。やっぱり私達には荷が重すぎると思ったとしてもそれは仕方ないことだから。」
「・・・」
「でもね、それによって戦争が続き、たくさんの死者が出ることも考えて欲しいの。勇者さん達。」
「行くにきまっているだろう。俺は勇者だし。みんなは勇者のパーティーだ。しかも今回は魔獣じゃなくて国だぞ。問題ない。そうだな。みんな」
 しかし、それ以外の人は、不安そうだ。確かに、ドサ回りから急に国際舞台で劇をやれと言われているようなものだ。さすがに怖いだろう。
「でも、いいかしら。行かないで終わるのではなくて、城の門だけは叩くのよ。断られたらその国に見る目がなかったと堂々と言えるわ。でも門前までも行かなかったら貴方たちが自ら負けを認めたことになるのよ。そうでしょう?」
「確かにそうです。では、ありがとうございました。頑張ります。」
「無理しなくて良いの。でも門は叩くのよ。」
 そうして俺様勇者様ご一行は、道を進んでいった。もちろん馬と一行にはアンジーの防御魔法がかけられている。

「ここでの仕事は終わりましたか?」
「そうもいかないのよ。あのライオット様ご一行が到着する直前に国王に入れ知恵しておかなきゃならないのよ。そこで本当の終りね。」
 そうして、無事ハイランディスに到着したライオット様ご一行は、城門にて来訪の理由を告げると、本当にすぐ国王に謁見できて、しばらくの滞在となった。
 話によると、ここの水神様から国王に勇者一行を迎え入れろとお告げがあったそうで、臣下がうまくとりなし、城にしばらく滞在できることになったという。
「あの方はもしかして水神だったのか?」
「いいえ違います。水系の方ではなく光属性の方でした」とパトリシアが断言している。
「だとすれば、水神も今回の戦争を止めたがっていると言うことかもしれないな。」と思うライオットであった。
「メアありがと。代わりに水神役やってくれて。」
「別にアンジー様でも良かったのではありませんか。水神と言わず神と言えば嘘にはならないでしょう。」
「まあねえ、やってもよかったんだけど。嫌な予感がしただけよ。それだけなの。ごめんなさいね。」
「かまいません。不謹慎ですがおもしろかったので。」
「ならよかったわ。」
 そうして、アンジーとメアは、モーラの手に乗って家に戻った。

「ただいま~」
「お帰り~」
「疲れた~」
「ユーリの所はうまくいっていましたか?」
「ああ、傭兵さん達が合流して、住民を護衛しながら農耕しているわ。しばらくはそんな感じになりそうね。」
「そうですか。」
「ねえ、孤児院はどうなっているのかしら」
「魔法使いさん達が来て手伝ってくれていますよ。」
「あんたのところに勉強しに来ていないの?」
「一応講師として教えていますよ。まだ2回しかやっていませんけど。」
「熱心ねえ。もしかして考え方からやっているのかしら。」
「まあ、そうなりますねえ。やはり魔力量が少ない人たちばかりですので、生き方とかの相談も多くて。」
「あら、カウンセリングもしているの」
「話を聞いてあげるだけですよ。それくらいしかしてあげられません。魔法使いの里では、魔法の制御の基礎くらいしか教えていないようで。少し憶えるとすぐ放り出されるらしくて。その後の生活とかのケアまではしてくれないみたいで、生きていくのは大変だったみたいですよ。」
「まあ、魔法使いの里も託児施設ではないからしようがないわねえ。これからすぐ見に行くのだけれど。そういえば、あれから獣人とエルフはどうなったの?」
「ああ、とりあえず、捕らえていた方の獣人とエルフは、どちらも解放しました。今後、モーラの縄張り内に入った場合には問答無用で殺すとモーラが言い渡しましたよ。残りの真面目な人たちは、人間との交流をしながら適職についてもらいましたよ。」
「どういうこと?」
「エルフには、農耕に従事してもらって、獣人には牧畜に回ってもらいました。」
「なじむのかしら。」
「ノウハウを教えて、違う場所で営農してもらうことになりますが、しばらくは共に生活してもらいますね。」
「そう、よかったわ。なら後は、戦争終結だけね。動き出してからまだ一週間なのに長く感じるわ。」
「パムからの連絡で、まもなく交渉の日時が決まりますよ」
「段取りの再確認は、孤児院を見てくるから帰ってからにしてね。」
「いつもどおり風呂ですよ。」
「ああそういうことね。」


 そうして、私達は夕食後、お風呂に入った。ユーリとパムを除いて。


 ロスティアの城内。拝謁の間にある国王の椅子は空席。その横に王女であり勇者とされているイオナート・ロスティアが立っている。左右には臣下の者達が並んでいる。
 王女の前には、謁見のために数人が伏している。
「両国から何の申し立てがあったと言うのか。降伏するとでも言ってきたか。」
「いいえ、両国に、それぞれ勇者が訪れ、この戦争をやめるよう進言し、それを了承したとのことであります。」
「降伏するのではないのか。」
「勇者を仲介人として、戦争を中止したいとのことであります。」
「戦闘を開始しおって今更か。」
「実際には、負傷者は出ているものの死者はほとんど出ておりません。今回の件は、義勇軍なる者達の勇み足であったとの報告が参っております。」
「なるほど、国が宣戦布告をしておいて何を言うのか。」
「それについては、何者かが偽りの報告をしたとのことであります。」
「確かに、本来であれば、正式な書状により宣戦布告があるはずだがそれはなかったな。しかし、戦争が起こっておれば、当然わかるであろう。」
「敵国の城塞であることから、事実確認に時間がかかったこと。軍から離反した一部の者達が、武器を強奪して事に至ったという事です。」
「それにしても対応が遅くはないか。」 
「それについてはお詫びしたいとのことです。ですが、勇者の介入により会議開催を提案してきました。」
「両国ともにか。」
「はい、マクレスタ公国が先に提案され、それにハイランディスが乗った格好ですが」
「なるほどな、私が勇者を名乗っているから、3勇者による会議とするか。誰が考えたのか。」
「提案は、マクレスタ公国の門を叩いた流浪の勇者と聞いています。」
「名前は、隻眼のジャガーとその一行です。」
「ふむ、一度は聞いたことがあるな。不死身のジャガーと言っている異世界から来た者だろうな。」
「もう一組はですね・・・」
「あの方であろうなあ。このようなことを考えつきそうなのは、名もなき賢者様に違いない。」
「いいえ、その勇者の名は、ユージ・イシカリと申します。」
「聞いたことがない。ああ、田舎を回る勇者をかたる者か。」
「そのようです。」
「そうかやはりあの方はでてこぬか。で、私を交えて会議を行いたいと。」
「はい、戦後処理ですね。」
「では、私は了承せざるをえないな。日時の調整を進めてくれぬか」
「御意」
 そうして3国間における停戦調停会議、勇者会議の開催が決定した。

  - 続く -

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