【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水

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第20話 魔族の子

第20-11話 そしてサヨナラ

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○元魔王一家の死 
 しばらくして、ユーリとエルフィが馬車に乗ってその場所に到着した。
「遺体を運びましょう。棺桶は急遽作ってきましたので、あまり出来は良くありませんが」ユーリが私にそう言った。
 乗せてあった棺桶をそこに並べる。彼らはその中に丁寧に遺体を入れて、私達の馬車に積んだ。3つの棺をぎりぎり並べて積むことができた。サイズは馬車に合わせたようです。
「お住まいになっていたあの洞窟に移動させましょう。そして今後の事を考えましょう」私は頭を下げたままそう言った。
「そうですね。では、一度あの洞窟に戻りましてこれからの事を考えます」親衛隊の人がそう言って頭を下げた。
「できる限りのことはさせていただきます」
「ありがとうございます」親衛隊の人たちを大きい馬車に乗せて、手綱はエルフィが持ち、小さい馬車はユーリが手綱を握り、その場所を去る。
 その場から全員がいなくなった。夕暮れと共に冷たい風がその場所を吹き抜けていく。その頃に何組かの者達が、その場所を確認しに来ようだが、それぞれ頷き合ってその場所を離れたようだ。真夜中にエルフィとレイがその場所に来て少し離れた場所から何かを掘り出して、丁寧に穴を埋め戻してからそこを去った。
 元魔王一家が自殺したという事実は、関係のあるすべての種族に知れ渡ることになった。動くかと思われた魔族も特に動きがないとアンジーが確認している。
「さて、次は遺体の移送ですね」パムが私に尋ねた。
「魔族は遺体を欲しがりますかねえ」私はモーラを見て聞きました。
「こればかりはわからん。新しい里に持って行くと噂が流れた時にどう動くかじゃな」
「すぐに移動しないとだめじゃないかしら」アンジーが冷静に言った。
「今夜中に移動かのう」
「さすがに一晩はそのままにしないと怪しまれませんか」ユーリが言いました。
「確かにな。明日出発じゃな」モーラがそう言ってみんなが頷いた。私は連絡用の糸を使って洞窟に連絡をした。
 翌日の朝にもう一両の荷馬車に乗ってあの洞窟に向かう。
「用意はできましたか」
「はい大丈夫です」
「では出発しますね」
 棺の入った大きな馬車は、エルフィが御者台に、小さい馬車はユーリが手綱を握っている。
「遺体の移送にあたっては、2台の馬車でどちらも私がシールドを掛けておきます。周囲からは見つからないでしょう。今日の午後から出発して、モーラの縄張りを越えて、夜になってもそのまま移動を続け、明け方に移動を中止して休憩と睡眠を取り、その後、移動は夜に行って、夜が明ける前に早めに森の中に潜んで昼の間に睡眠を取ることになります」全員が頷いています。
「もちろん今回もモーラには不干渉をつらぬいていただきます」
「まあな。魔族のトラブルじゃから。静かに見守っていたことにしておくわ」
「では行ってきます」
「気をつけてな」『後でこっそり追うわ』
「はい、わかりました」『見つからないでくださいね』

○遺体の移送
 そうして、2両の馬車は出発した。今回の2両編成は、2両とも新型車両で、大きい方は2頭で引いているが、4頭で曳くことも想定している。もう一両は、小型の車両で1頭で引いているが、2頭曳きにも可能にしています。どちらも色々進化させていて、特に足回りについては、乗り心地を向上させ、悪路走破性と操縦安定性も良くしている。引く馬にも負担がかからないよう車輪のベアリングも改良してあります。
 大きい方の荷馬車には、遺体と3人の元親衛隊員と他に獣人さんと元魔王家族3人が乗っていて、御者台にはエルフィとパムが座っていた。小さい方の荷馬車には、アンジー他メア、エルフィ、レイが乗っていて、御者台には、私とユーリが乗っている。
「急ぐと怪しまれますしねえ」私はそう言っているのですが、馬はいつもどおりのペースで駆けています。
「これが普通の速度だとすれば、以前よりかなり速い気がするのですが」手綱を持つユーリが心配そうに言った。
「まあ、今回のために色々と速く走れるよう馬車に工夫をしましたからねえ」私はつい嬉しくなってしまいました。
「確かに揺れも少なくて乗り心地も良くなっているし、馬の引っ張る負担も軽くなっているから早くなっているのでしょうけど。この速さで急に止まれるのかしら?」アンジーが不安げです。
「馬の動きに合わせて馬車が微妙に加減速するようになっていますから大丈夫ですよ」私は胸を張ってドヤ顔でそう言いました。エヘン。
「相変わらずそういうところには便利な技術を持っているわねえ」アンジーさんジト目はやめてください。可愛い顔が台無しですよ。
「馬のスピードに合わせて荷馬車も走れるのなら、馬が何の負担もなく走るスピードで馬車が走れることになりますが」メアさんが心配そうにそう言った。
「きれいな道なら理論上可能ですが、実際は道が悪いですからね。馬の思うとおりには走れませんし、馬の動きにb者が合わせようとするので、多少は馬に負担はかかります。そんなに速く走れませんよ」馬に磁石のようについて行くわけではありません。あくまでアシストしているだけですから。
「そろそろ夕暮れです。停車場所を探して食事を取りませんと」メアがそう言った。
「そうですね」私は後ろの馬車に灯りで合図を送る。馬車の速度が徐々に落ちていき、道幅が広いところに停止した。全員が馬車から降りて伸びをしている。
「馬の調子はどうですか?」私はエルフィに確認しました。
「まだ大丈夫みたいですよ~少し休ませれば、夜中に休憩を挟んで夜明けまではいけそうですね~」エルフィが馬と話をしている。かなり余裕がありそうです。
「食事をした後、少し休憩して移動しましょう」
 メアさんと親衛隊の方と元魔王の妻が食事を作り始める。馬用の干し草は、幌の上にカゴをつけて積んでいる。水は私が生成している。レイとパムが戻ってきた。2人には先行してもらってルートの安全を確認してもらっていたのです。
「お疲れ様でした。どうでしたか?」
「問題はなさそうです」パムはそう言ったが、パム自身はかなり疲れているようだ。
「食事をした後、休憩して睡眠をとってください」
「はい」
「親方様、膝を・・・」レイが私をジッと見つめます。
「はいはい」私は膝を伸ばして座り、そこに小さく獣化したレイが顎を私の太ももに乗せて横に座ります。私にモフモフされながら眠りにつくレイ。ユーリがうらやましそうに見ている。
「おいで」素直に私の膝に頭を乗せるユーリ。
「あらあら」元魔王の妻がそれを見て微笑んでいる。私の背中にはエルフィが背中を預け、足を伸ばしたすねにはパムが寝ている。
「楽しそうですねえ」元魔王様も私を見ている。なぜかあの子もその姿を見ていた。いや、馬車に入っていた方がいいのではありませんか?
「では私も」アンジーがそう言って反対側のすねに頭を乗せようとしたところで、
「アンジー様、お食事の用意を手伝ってください。馬車ではずーっと寝てらっしゃいましたよね」とメアが声を掛けた。
「わかったわよ」アンジーが失敗したという顔をしてうらやましそうに食事の手伝いに行った。食事の匂いがし始めて、メアの「お食事の用意ができました」の声に全員が目を開ける。そして楽しい食事が始まった。
 あの子もレイとユーリと遊んでいる。馬車の中はつまらないですからねえ。
「さて夜の移動です。何が出てくるかわかりませんよ」
「そうじゃな」後ろから声がしたので全員が後ろを振り向く。
「誰?」アンジーが驚いて振り向いている。
「わしじゃよ」暗がりからモーラが出てくる。
「ああモーラ。お早いお着きで」
「ふむ、食事には間に合ったか」
「そろそろ出発しますので、お早く召し上がりください」メアがそう言って食事の用意をしている。
「さすがに今日は何も無かったか」モーラは食事をしながらそう尋ねる。
「はい。今夜は何もなさそうです」
「問題は明日以降じゃな」
「捜索の網にかからないよう移動速度を上げていますが、多分見つかりますよね」
「そこの獣人、合流地点までは1週間と言ったか」
「いや、このペースで朝まで移動を続けられるなら、もっと早いかもしれねえ」
「うむ。では急ごうか」
 そうして第1日目の夜間移動は無事に終わった。
 次の日の朝を迎えて、朝日が昇る頃に木陰のある所を探して休憩している。
「さすがに眠いのう」
「エルフィは大丈夫ですか?」
「メアさんと交代だったので大丈夫ですよ~」
「ユーリはどうですか」
「はい大丈夫です。あるじ様の膝の上で寝ていましたから」
「なんかずるいです」なぜレイがそれを言いますか。
「交代制にしますか?」メアさんの目が恐い。順番を狙っていましたか。でも、メアは睡眠要らないはずではありませんか?
「では、私たちは先行します」パムがそう言ってレイとともに立ち上がり、互いに頷きあって、その場所から消えるように走り去った。
「お願いしますね」いなくなったであろう方向に向けて手を振りながら私は言った。
『帰ってきたら膝枕をお願いします』パムが笑い声で脳内通信してきました。
『あーー。ずるいー。僕もです』レイが続けて言った。
『はいはい、でもここからが本番です。気をつけてくださいね』
『『はい』』パムもレイも真剣な声で私に返事をして気配を断った。
「さて、仮眠取りますか。・・・おや皆さん目が血走っていますが」
「あんたの腕枕を誰が使うか狙っているに決まっているでしょ」アンジーがなぜかむくれて言った。
「いや、私も眠らせてください」
「御者台で仮眠取ったでしょ。ユーリの膝枕で」
「それはそうですが・・・・」
「仲がおよろしいことですねえ」元魔王の妻がそれを微笑ましく見ている。あの子も一緒だ。
「まったくこんな男のどこがいいのじゃろうなあ」
「あなたもそうなんでしょう?」元魔王様はモーラにそう聞いた。
「わしはまあ家族じゃからなあ」
 モーラは、夜通し元魔王様と馬車の中でずっと話をしていたそうです。これまでの事とこれからの事、知っている事、知らない事、全てを教えてもらうように話し続けていたのだそうです。
「わしらに必要なのは情報じゃ。魔族のこれまでの事、考え方、生き方、生活習慣などを知らないではいられない。わしらはあやつらと敵対する可能性もある。そうして少しでも知識を持たないと生き延びてはいけないのじゃ」
「そうですね」私はそれしか返事が出来ませんでした。確かにそうなのです。
「それと他種族についての考え方や、これまでの確執なんかも知っていることを全部教えてもらうつもりじゃ」
「全てとは言いませんが話せる範囲でお話しします」と元魔王様が言った。
「すまぬな、わしらの生死がかかっておるでな」
「それほど重要なことなのでしょうか」メアが驚いています。
「ああそうじゃ。残念ながら早々にドラゴンの里を出たわしにとっては、ドラゴンの里の事さえもおぼつかぬ。それを補完しないとどうにもならぬ。よろしくな」
「はい」元魔王様がそう返事をした。
 そうしてその日は、夕暮れ近くまで仮眠を取り、パムとレイが戻って来て、経路に問題が無いことの報告を受け、食事を取った後出発して、その日の夜も走り続けて何も無く朝を迎えた。
「では行ってきます」パムもレイもたぶん疲れているのだろうが、そんな素振りも見せずに出て行った。
 その日の夕方の食事の用意をしているとレイとパムが薄汚れて戻ってきた。
「何かありましたか」
「かなり先の方にですが、魔族の検問ができていました。ここの土地は人族しかいないはずなのですが、なぜか魔族が道を塞いでおりました」多分パムは山の中をかき分けて、探ってきたのだろう。汚れがひどい。
「私たちが魔族の領地の境界を歩くわけがないと考えてのことでしょうね」
「人もあまり通らない獣道ですから、魔獣がいても当然ということなのかもしれません」
「迂回ルートはありましたか?」
「難しいですね。でも1つだけ方法がありそうです。魔族は谷に陣取っていますので、谷に降りずに険しい山腹を移動すれば見つからずに移動することが可能かもしれません」とパムが言った。
「あとは、囮による誘導ですかねえ」
「ぬし様。今はまだその手は使わないほうが良いかと思います。ここを通っている事を知られるのが一番まずいと思います。ここを走っている事を発見されると、この谷は越えられても、その先に待ち伏せされると迂回も出来ず、逃げ場がなくなります。この谷とこの先の平野を越えるまでは気付かれるのはまずいと思います」
「ではパムさんの案で行きましょう」
「でも、馬車を通すのは難しいですよ?」パムがそう言った。
「私の魔法を使います」
「どうやるつもりですか」パムが心配そうに私に尋ねる。
「食事を取って少し休んでください。休憩を取ってその方法を見てから眠ってください」
「はあ」納得できていない感じのパムでしたが、メアに食事をするよう促されて食事を取り始めます。
 現在の状況を私が皆さんに話しました。全員に緊張感が走る。
「ねえ大丈夫なの?」アンジーが不安げだ。
「まあなるようにしかならんじゃろう。そうじゃな」モーラが不敵に笑った。
「そうですね。なるようにしかなりません」私はそう言いました。
 全員の食事が終わったあと、2台の馬車で出発する。谷に降りていく道の横に、かすかに獣道が見えているところを発見して、そこから向かうべき反対側の山の方角に向かって道のないところに分け入ろうとする。
「そのままは入れないじゃろう」
「なので、いつものシールドを馬の前に展開します」私は馬車の両脇から棒状にした土を真っ直ぐ前方に伸ばし、その前に回転する円盤を展開して、さらに馬に当たらないように薄い壁を作った。
「ほうほう、それで?」モーラが興味深々で聞いてきます。
「荷馬車の方につながっているので、直接馬には負担はかかりません。そして、馬が前に進むとですねえ」私はムチを馬に入れて少しだけ前に進みます。すると前に置いた土の壁が木をや雑草を押し倒して進んでいます。
「おお。木を倒しながら前に進んでいるのではないか」モーラが面白そうに御者台で見ています。
「木によってはさすがに折れませんので、切り進みます」私は、前方に突き出した、壁の隙間から細い腕を2本出して、その先についているギザギザのある円盤を回転させました。
「何じゃ前について回っているものは」
「チェーンソーといいまして、刃を高速で回して木を切っていきます」
「あんたそれ金属でしょう?いいの使っても」アンジーがちょっと不安げに言いました。
『待ってください』何処からともなく声が聞こえてきました。
「おや、誰の声ですか」私はその声を聞いてすぐ馬を停めました。後ろを走っていた馬車は、合わせるように停まりました。
「ふむ、会議に出席していたドリュアデスじゃな」モーラの声に応えるように実体化して私とモーラの前に現れる。
「はい私です。これ以上前に進まないでください。そんなことをしなくても私が道を開いてさしあげますから」お顔が少し怒っているように見えるのですが。
「いいのか?そんなことをして」モーラが不安そうな顔で聞いた。
「あなた達が今やろうとしている事は、その先の足元にある希少種の生態系を破壊する行為になります。私達にとっては、かけがえのない希少種がそこにはあります。さすがに踏み荒らされては元に戻らないでしょう。私達が手を貸しますからそのような行為はおやめください」ドリュアデスさんがちょっと焦ってそう言いました。
「なるほど、この領域に入った時から監視はしていたのじゃな」
「はい。この辺一帯は私たちが管理する土地、しかしながら誰にもそれを知られてはいけないのです。木や草はどこにでも生えるもの。私たちはどこにでもいてどこにもいないことになっていますが、この地にしか生えない草木もあります。私たちが精霊として生きていくために必要な特殊な草がここにはあるのです。ですので、特別にここを通しますから。その木を切り倒しながら突き進むのをやめてください」
「それは大変失礼しました。ですが、ここから戻り魔族のいる谷の方に向かってもいいのですが、手をお貸しいただけるということですか」
「先ほどから申しておりますように、この地は私たちが管理しております。その事は魔族達にも知られたくありません。このまま貴方たちをそのまま行かせて、ここで戦闘でも起きてしまったら、この周辺の土地がどうなるかわかりませんから」
「ならばお言葉に甘えます。そして帰りはここを通らないようにします」私はお辞儀をしました。
「ありがとうございます。そうしていただければ助かります」同じようにドリュアデスさんもお辞儀を返してくれました。
「ええ、残念ながら私にはそのくらいしか恩には報いることができません」
「いえ、それでいいのです。この世界を共に暮らす生物なのですから」
「のうドリュアデスよ。わしの鱗はいらんか?」
「なにをおっしゃいますモーラ様。そんなもったいない」
「わしも、借りを作るのがあまり好きではなくてなあ、次にわしが脱皮するときにでもそれを譲ろうじゃないか。それでよいか?」
「そのお言葉だけで十分でございます。いつも辺境の賢者様の恩恵に日々感謝している者からすればもったいないお言葉です」
「すまんが、今回の件、他には漏らさぬようにな」
「私どものことも秘密にお願いします」
「では、すまぬが通してくれ」
「はい」
 そうして、ドリュアデスさんのおかげで無事にその難関を越えることができた。
「助かりました」
「まあ、あやつとは持ちつ持たれつらしいからのう」
「らしいって」
「元魔王から話を聞いていた時に、わしの頭の中にも先祖の記憶がひらめいて出てきてなあ。その記憶がそう言っているだけじゃ。わしはよくしらぬ」
「はいはい」
 あの谷を通らずに移動できたおかげで、予定よりもさらに数日早く目的地の街の手前に到着した。街には入らず、手前の森の中に馬車を停めた。
「じゃあいってくるぜ」そう言って獣人さんは出かけようとする。
「気をつけてね。絶対見張られていると思うから」アンジーが念のためそう言った。
「そうだな」その言葉を残して、その獣人は街に向かって走り出した。
 我々のうち、メアとユーリが変装して荷馬車で食料の調達に街に向かった。
「あの2人が一番人間に近いから、頑張ってもらいましょうね」アンジーがそう言った。
 かなり大きい街で多分他種族も生活していると聞いているとはいえ、モーラやアンジーは異質である。獣人もドワーフもエルフも生活しているのかも知れないが、悪目立ちしては困るので他の人達は様子見だ。
 すぐに戻ってきた2人は、食料を荷馬車に積んで特に問題もなく帰ってきた。見張られてもいない。
 そして、夜半に獣人が戻ってきた。
「こんなに早くここに到着するとは思っていなかったようだ。だが、むしろ好都合だったようで、ここまで魔族の手が回っていないらしい。すぐ馬車を替えて出発することになったよ」獣人さんも嬉しそうだ。
「そうですか。それで馬車は?」
「用心して別な場所に手配した」
「では場所を教えてください。レイ、パム念のため周囲の確認に向かってください。お願いします」
「わかりました。場所を教えてください」パムとレイは獣人さんから場所を聞いて様子を見に出て行った。
「俺は、あっちの馬車に伝えた後、2人を追って確認に行ってくるぜ」獣人さんはそう言って馬車から消えた。
 3人がいなくなった後、
「それでは、我々も移動をしますか」
「お待ちください。周囲が急に静かになりました」
「なるほど、やはり監視されていましたか。エルフィどうですか?」
「少ないです~10人くらいですね~」
「では外に出ますか」私が立ち上がると、皆さんも立ち上がりました。
「わしは・・・」モーラが座ったまま
「そのローブをかぶって静かにしていてくださいね」私がそう言うと、メアがモーラにローブをかけました。
「とほほ。しょうがないのう」
 そうして、メアと私、ユーリの3人が外に出る。アンジーとエルフィは、それぞれ御者台で手綱を持っている。
「どこの手の者ですか?攻撃してきたら反撃しますよ。まずはお話ししませんか」私は周囲に向かってそう言った。
「ああ話し合いから始めてくれると助かる」暗闇から声がして、見覚えのある顔が暗闇の中から現れる。そこには、獣人のゾンビを追ってきた時の魔族の人が立っていた。
「おやあなたは」
「久しぶりだな。あの時あんたが言った言葉を思い出したよ。「次はどこで会うでしょうかねえ」と言ってたよな。こんなところで会うことになるとはなあ」その魔族さんは何やら笑ってそう言いました。
「その節はご苦労様でした。あれから戻って何か言われませんでしたか?」
「あんた達の推察どおりさ。おかげでこうして無事に生きているよ」顔は無表情になったがそれでも嬉しそうだ。
「それはよかったです。さてこの度の出会いは、敵ですか味方ですか?」私はその魔族さんから目を離さずに言った。
「ああ、少なくともこちらに攻撃の意思はない」
「少なくともとは物騒ですねえ」私はそう言いながら左手を腰のあたりにあげて戦闘態勢を取った。
「そう言う意味にも取れるか。大丈夫だ。戦う意志はない。むしろ周囲の敵を排除してあるから安心して欲しい」
「そうでしたか。それでこの後はどうしますか」私はそう言いながらも手は腰のあたりに上げたままです。
「いや、そこの馬車にいる元魔王親衛隊にそれを伝えにきたんだ。今後お前達に手を出す者はいないと。安心して新しい里に元魔王の遺体と共に行くがいいとね」その魔族は両手を開いて肩まで上げて、攻撃の意志がない事を示して見せた。
「そうでしたか。多分聞こえていると思います」
「そうそう、もうひとつだけ。今後元魔王一家の関係者については、何者にも手を出させないと現魔王が確約したことも伝えて欲しい」その魔族はそう言いながら少しだけ微笑んでいる。
「なるほど。それほど重要な言葉を伝えに来たあなたは、さぞかしすごい人なのでしょうねえ」
「ただの刺客さ、裏切り者や悪人を成敗しに陰で暗躍するただの刺客だ。そうだろうアンジーさん?」その魔族はそう言ってアンジーに視線を投げる。
「あああああああ、あなたが、そそそそそそそそのししししししかくさんだったのですねねねねねねね、もももももももしかして、わわわわわ私を殺しに来ましたか」アンジーが突然動揺して意味不明のことを言っている。
「まさか。本当にただのお使いさ。あんたが本当に俺を知らなかったとはな。あの時知らない振りをしていたのは、てっきりばれないようにだと思っていたのに、本当に演技じゃなかったんだ」笑って言いました。
「私も知らないことはいっぱいありますよ。わたしはルシフェル様の使いっ走りですから」アンジーがマジ顔でそう言い返す。
「そういうことにしておくよ。では、あんたとは次に会うときはどこで会うんだろうな」私に向き直って私を見つめながらそう言いました。
「願わくば敵味方ではないことを祈っていますよ。せっかくお知り合いになったのですから」
「ああ、俺もそうありたいよ。そうそう、その遺体ずいぶんと新鮮だなあ、元魔王の匂いがプンプンしているな。ではな」そう言って10人ほどの気配は一度に消えた。
「背中に冷や汗があふれています~」御者台のエルフィがガタガタ震えています。
「あ、あんたねー当たり前よ。あれが、ルシフェル様の懐刀なのよ。前回はどうして気付かなかったのかしら。予想しておくべきだったわ。あの時ルシフェル様が殺せと命じていたら、あんた本当に死んでたわよ」
「あの時にみんな言っていたじゃないですか、殺意を感じないと」
「笑いながら殺すのよ、殺意なんか感じないの」アンジーが思い出して両腕を寒そうに抱えてそう言いました。寒いですか?
「それは恐いですねえ」
「おぬし緊張感がないのう」
「とりあえず、今回の件はこれで手打ちということですね」
「まあ、すべてを騙すためにはまだ遺体を運び続けなければなりませんが」
 全員の緊張感がやっと解けた頃
「おーい、合流地点に来ないから何かあったんじゃないかと迎えに来たぞ」獣人さんが大きな声で迎えに来ました。
「大声出して不用心ですねえ」私はその脳天気な姿にちょっとイラッとしています。
「途中で、獣人ゾンビの時の魔族に会いました」パムが私に近づいて来てぼそりと告げました。
「そうですか。何か言っていましたか?」
「もう茶番は終わったと」パムが面白くなさそうに言いました。
 私は、彼が言っていた言葉を伝えて、その場にいなかった全員が安心し、違う馬車に遺体を移動して私たちはそこで引き上げることにした。
「いろいろありがとうございました」元魔王親衛隊長は、顔を出せない元魔王に代わって頭を下げてくれました。
「新しい里で幸せに暮らせることを祈っています」
「ありがとうございます。里が安定すれば、きっと交流ができるようになると思いますので、その時にまたお目にかかれることを祈っています」
「私もそちらの里を見てみたいので、ぜひ遊びに行かせてください」
「よろこんで」
 そうして我々は帰路についた。
「2両で帰るのですか?」レイが珍しく私に聞きました。
「いいえ、小さい方の馬車を後ろに連結させて1両にします」
「重くならない?」アンジーが不安そうに言いました。
「そのへんは調整しています」私は胸を張ってそう言い切りました。だって大丈夫ですよ。
「深くは聞かないわ」アンジーがヤレヤレという表情でそう言った。
「そうしてください」小さい馬車の馬具の部分をはずし、大きい方の馬車の後ろに連結器をつけて、後ろにつなげる。前の車両を3頭立てになるよう調整を行う。
「なるほどこれはすごいな」モーラが感心しています。
「本当は2階建てにしたり、小さい馬車の車輪を取って重ねたりしたかったのですが、支える柱が重量に負けそうだったり、乗るスペースが減るのであきらめました」
「それが良いな」そうしてゆっくりと我が家に戻りました。

○のろし
 行きのルートと違う道を通ってきたので、ビギナギルのそばを通って戻って来ました。ビギナギルには残念ながら寄らずに家に戻るつもりです。アンジーが、死体を運んでいた馬車なのだから一度家に戻るべきだと言ったのです。
 見慣れた道が見えてきて、もうじき家に到着するという所まで来ました。
「はぁぁぁぁぁあ」アンジーが深く長いため息をついた。安堵のため息なのはみんなが感じています。
「アンジー様。今回、もしかしたら魔族が家族になるのではと不安に思っていましたか?」メアが尋ねた。
「そうよ。でも馬車の中にも誰もいないし、荷車の方にも誰も乗っていなかったので安心したわ」アンジーがそう言って荷馬車の中を見回す。
「あそこで全員別な馬車に乗ったじゃないですか」ユーリがそう言ってアンジーを見ています。
「そうよね。そうなのよ。エルフィがしつこく魔族がいませ~んって言っていたものだから、どうも気になっちゃってねえ」アンジーがそう言いながら腕を伸ばしている。本当に安心したようだ。
「私は予言者じゃありませんよ~」御者台ではなく幌の上の方からエルフィの声が聞こえる。
「これでエルフィの予言は当たらない事もあるんだと安心したわ」アンジーが幌の上に向かって本当に嬉しそうに言いました。
「これまでの予言は、ほとんど予知でしたものね」私はそう言ってモーラを見る。
「エルフィの場合は願望をいっているだけじゃからなあ」モーラも天井の幌に向かって言った。
「たくさんの家族の方が~楽しいじゃないですか~」エルフィの声だけ聞こえてくる。残念そうではありません。
「そうなれば馬車を増やす必要もでてきますねえ」私はそう言って寝っ転がりました。
「この馬車なら長距離乗っても疲れないのう」
「荷物も後ろにあるからゆっくり座れるしね」
「エルフィ、幌の上は涼しいですか?」私がそう聞きました。もしかしたらレイも幌の上にいるのでしょうか?
「ばっちりです~」
「わたしも日光浴しようかしら」アンジーが本気の口ぶりでそう言いました。
「あ~なんか煙が見えますよ」エルフィがノンビリとそう言いました。

Appendix
ついに私達にまで貸しを作るとはな
正確には私達にではありませんが
いや、元とはいえ魔王の事件だよ。しかも私達が関わるより余程手際が良かったのだから。
確かにそれはそうですね。私達が騒いでいたらどうなっていたかわかりません。
そういう意味でもあの土地はどんどん利用価値が高まり、しかも混迷してくるねえ
利用価値ですか?
ああ利用価値さ。それは我々だけではなく他の種族も同じだろうけれどね
そうですね。この段階で抹殺することは考えないのですか?
今はまだ借りを作っているからね。そんな状態で抹殺したら人族以外の種族への立場を悪くするよ。 最悪他の種族からの信頼がなくなるよ。裏切られるのは嫌だからねえ
気にされますか。
今後この世界を維持していくためには、他の種族とはうまくやっていかいないと絶対あとで何か起きると思うよ。

続く
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