【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水

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第21話 3,000vs1

第21-1話 DTキレる

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○のろし
 私達には達成感が少しはあった。良い事をしたと少なくとも私はそう思っていた。それが誰かから押しつけられた迷惑でも、私を陥れようとした陰謀であっても、私達が解決をした事は事実だった。しかも大団円。もっとも里で殺された人には申し訳ないとは思うが、私の知っている人は誰も悲しんではいない。

 その煙は家の方角から立ち上っていた。
 その煙を最初に見つけたのはエルフィ。荷馬車の幌の上でのんびりしていると、ぼんやりと見えたといいます。
「なんか~煙が見えます~のろしみたい~」エルフィがいつも通りのんびりと言いました。
 さすがに自分の家の方角とはいえ、かなり遠いのでまさかと思っていました。なので疑惑が確信に変わるまでさらに時間がかかりました。
 山火事なのかとも思いましたが、煙が小さく一筋上がっているだけなのです。
 私は、薬草の栽培用の畑がある事を思い出しましたが、薬草の培地は湿地であり、周囲の木が燃えなければ、火の延焼はあり得ないはずなのです。そもそも火の気があの周りには無い。
 しかし、馬達の方が何か危機を察知して、徐々にスピードを上げていきます。
「あ~ちょっと~ペース速いよ~」エルフィがそう言いながら幌の上から御者台に飛び降りて、制御しきれないパムと交代した。しかしエルフィでも馬達を落ち着かせる事ができずに慌てている。
 途中、十数人の馬に乗った一団とすれ違った。普段なら馬車が行き逢う時には、挨拶をして速度を落とすのだが、こちらに挨拶することもなく、視線も合わせずかなりの速度で通り過ぎていった。どうもうさんくさい。
 家に到着してみると薬草の小屋が燃やされていて、煙の立ち上っている方に向かうと、やっとの思いで作り上げた薬草畑が3分の2焼かれているのを見て、私はめまいがしました。
「これはさっきすれ違った者達がやったのでしょうか」ユーリがちょっと怒って言いました。
「たぶんそうだと思いますが、残念ながら証拠がありません」私はその場所に片膝をついて頭を抱えて言いました。
「さっきの一団の後ろの者がかなりの量の袋を抱えていました。あの袋は薬草を持ち出したのではありませんか?」メアが相手と通過する時に確認していたのでしょう。ああ、そうでしたか。
「それならば証拠が確保できそうですね」私は表情を変えずに立ち上がりました。表情を変えたつもりはありませんでしたが、その顔を見て全員が息をのんで声を出しませんでした。
「二手に分かれましょう。馬車を2両に分割します」私は努めて冷静に作業をしようとしましたが、手が震えてうまくできません。見かねてパムやエルフィが手伝ってくれました。馬車を2両に戻して、小さい方の馬車を軽くする。
「ユーリとパム、レイであの者達の後を追いかけてください。どこかに野宿するか、もしくはビギナギルで宿をとるはずです。それを確認してください。残りの方達は私と一緒にくすぶっている部分を消火して被害を確認してください」私は少しだけ冷静になろうとして、そう指示しました。
「わかりました」ユーリとパム、レイは私の様子を気にしながらも小さい馬車ですぐ出発した。
「決して近づかないでください。場所の確認ができたら、レイが場所を知らせに戻って来てください」走り出す前に馬を止めて私はそう言いました。重ねて、
「ごめんなさい。本当なら私がそちらに向かいたいのですが、消火には私の力が必要だと思いますので」
「わかりました」パムがウンにムチを当ててようやく走り出す。飛び出すようにウンは走り出した。
 残った私達は家の周囲を見回る事にしました。幸いな事に家と厩舎は、結界の効果なのか壁を焦がしただけで終わっていました。しかし倉庫はそうはいかなかった。
「これはひどいのう」モーラが焼けた倉庫を見て言った。
「薬草の乾燥に支障が出ては困るので、結界から外していたのですよ。残念です」私は燃え残った柱に体を預けてすでに黒い消し炭になった柱を手で握った。消し炭になった部分が砕けて粉々になった。
「それでも、使っていた袋とかまだ焼け落ちていないと思います」メアが中に入ろうとするのを私は止めて頭を左右に振る。
 エルフィが畑の方から戻ってきた。私を見ると悲しそうに頭を左右に振った。どうやらだめだったようだ。
「試作の畑の方はやっぱりだめですか」私は一縷の希望を持っていたのです。
「全滅ですね~せっかくうまくいっていたのですが~土が乾いてしまって、しばらくは元には戻りませんね~これはショック~」口調は普通だが、エルフィもかなりショックを受けています。
 エルフィと2人で土や水はけなど試行錯誤の末。やっと良い方向に育ち始めたところだったのですが。
「まあ家が燃えなかっただけよしとしましょう。エルフィごめんなさいね。こうでも言わないと心が落ち着かないので」
「旦那様が私より色々考えて畑作りを頑張っていたじゃないですか、それを思うと・・・」そう言うエルフィだって一緒に育てていたのです。私よりもつらいと思います。
「私もそばで見ていましたから」メアは私の肩に手をかけました。
「メアさん私は大丈夫です。それよりモーラ、アンジーすいませんが・・・」
「ああ関係者への裏取りじゃな。わしの洞窟を確認した後、村にいるエリスの所に行って来るわ」
「お願いします。アンジーは、今回の件を魔王様にお伝えください、まさかとは思いますが、可能性を潰したいので念のため確認をお願いします」私は努めて冷静に自分自身を制御しようとしています。
「そうね。まずあり得ないけど念のため確認してくるわ。モーラと一緒に行って来るわ」
「お願いします」2人は少し離れたところから、飛び去っていった。
「エルフィ。周囲の状況は確認できますか?」
「今のところ大丈夫ですね~」
「では、ユーリ達の所に向かいますか」
「は~い」アとクウの目が充血している。ああ、あなた達も怒っているのですね?鼻息荒く蹄が地面を蹴って表現しています。
「では、エルフィよろしくお願いします」
「私も一緒に行きます」メアさんもちょっとただならぬ雰囲気です。
「一緒に来ていただけるなら、私を抑える役をお願いしたいのですが」
「ご主人様。残念ながら今回ばかりは難しそうです」いつも冷静なメアの口が強く結ばれている。
「きっとみんなそうですよね」
 途中でレイと合流しました。走り抜けていった一団は、野営先を横に流れている川の河原に決めたようでした。
 ユーリがかなり離れた場所に馬車を止めて我々を待っていた。
「パムさんが様子を見に行っています」
「なるほど。エルフィどうですか」
「もう少し近づけば会話は聞き取れますね~」エルフィが耳に手を当てています。
「モーラとアンジーから連絡があるか、確証がつかめたら近づきます」
 そうしてしばらくは、その場所にじっとしている。かなり長い時間に感じている自分がいる。少しして盗賊の集団の様子を見に行っていたパムが戻って来ました。
「会話を聞いていましたが、ぬし様が以前に会った王女様の国、ロスティアの王様の家臣が雇ったようですよ」
「それでは問題なさそうですね」
『聞こえているかしら。これからモーラと共にそちらに合流するわ』アンジーから連絡が入りました。
『確認したけど。ルシフェル様はそんな小さい事はしないと。この前会った暗殺者が断言したわ』
『あの暗殺者さんですか。もう魔王の元へ帰っていたのですね。魔王様とは連絡は取れなかったのですか』
『今後は、魔王様が不在の時は彼が私たちの対応をするそうよ』
『わかりました』
『モーラはどうでしたか』
『やはり他の者達のからみではないな。エリスの所にも何度か嫌がらせがあったみたいだが、やらせたのは例の賢王らしいぞ』
『盗賊達もその話をしているようですからねえ』
『ふむ、慎重に対応しないとけっこうまずいからな。まだ手を出すなよ』
『どうしてですか?』
『もうじきそちらに着く。先走られても困るから全員に話しておかないとな』
『そんなに慎重にならなければいけませんか』私はちょっとイライラしています。
 そうこうしているうちにモーラとアンジー、なんとエリスさんまでお見えになりました。
「まだ手を出しておらんな」
「そうですけど。一体なんなのですか」
「エリスの話だと、薬草を盗んで行ったが一応国使みたいなのじゃ。国の依頼書を持ってエリスの所にきておる」
「なるほど。国使が盗賊ですか。なおのこと許せませんね」
「おぬしならそうなるじゃろう。だが殺すなよ。殺せば、あっち側はどうとでも難癖をつけることができる。最悪攻め込んでくる可能性があるからな」
「ああ、攻め込む口実なのですか」
「間に国があるから今すぐには攻めはしないだろうが、いずれそれを理由に攻め込んでくるかもしれんぞ」
「うちが狙われた理由はなんですか」私はエリスさんに向かって聞いた。
「推測でしか無いけど、魔族との小競り合いと、隣国との小競り合いのせいで医薬品が欠乏しつつあったところに、効果のある薬草が流通し始めて、それに目をつけて国の力を使って買い占めようとしたという事らしいのよ」エリスさんがそう答えた。
「なるほど。あんな国にまで流通してしまいましたか」
「それについては私も悪いわ。今回の元魔王一家の騒ぎの間にいつの間にか冒険者への闇の販売ルートができていて、それを発見できずにいたから」エリスさんがすまなさそうです。
「ああ、水面下でそんな話もありましたね。それはしかたがないです。それでも、そんなに急に必要になりますか?小競り合いなら、徐々に薬草を集めても良いわけでしょう?しかもうちのは絶対量が少ないんですよ」私は納得がいきません。
「その辺は私もわからないわ。でもね、急いであなたの薬草を手に入れる必要があったのは間違いないわね」
「隣国との小競り合いはどうなんですか?」パムがそちらの動きを気にして言った。
「ロスティアはね、両隣の国からそれぞれ城塞都市を略奪しているのよ。その領地ともどもね。あれから二十数年経過して、住民も定着を始めていたんだけれど、城壁都市の内部では王様のやり方に不満が募っているらしいわ。そこに住んでいる魔法使いがそう言っているのよ。それなのにさらに違う城塞都市にまでちょっかいを出しているみたいよ」
「それで、戦争の準備のために薬が必要になったということですか」私は聞いていてため息しか出ません。
「ええ、以前いたビギナギルや今住んでいるファーンは、どこかの国の属国ではなく経済都市だから自衛が必要になるのだけれど、間にハイランディスがあるおかげで、賢王の国から直接攻撃されることはないのよ。
 今回ハイランディスの王は、ロスティアの王からこの薬草をよこせと言われて、うちの国のものではないし知らないと突っぱねたらしくてね。うちの国には関係ないと賢王に話したら、賢王は、ならば、我が国で確保しても問題ないだろうと、無理矢理承諾させたそうよ。そして、国として私の所まで買いに来たと言うのよ。でも、そもそも供給できる量を作っていない事を話してお帰りいただいたのだけれど、在庫はないのかとか、店の中の品物を検分させろとか、私がいる時にやってきては商売の邪魔をしていたのよ」エリスさんも苦々しい顔をして言いました。
「なるほど。でも、私の家が狙われたのはおかしいですね」
「それがわからないのだけれど。この辺で薬草を作っているのはあなただけじゃない?村の人に聞いて、あなただとわかったのじゃないかしら。家には結界が張ってあったけど、魔法使いなら逆に見つけやすかったのかもしれないわ。そして家には薬草があった」
「それはかなり切迫していますねえ。今回長期にいなくなったことで、盗みに至ったという事ですか」
「その前は、獣人やら魔族やらが出入りしていたから警戒していたんじゃないの?」
「住民に不便がないように人間は結界を通れるようにしていましたからねえ。でも戦争になるというのはどういうことですか?」私はモーラに尋ねる。
「国使を殺すという事は、敵対行為と取られるということじゃ」モーラが当たり前のように言った。
「そうですねえ。じゃあ捕まえてそのままその王の所まで行きましょうか」私は納得が行かないので直接行動で示そうとそう言った。
「その者達が本当のことを話すと思うか?わしらのせいだと国王に訴えるのは間違いないぞ。買い取ったものを奪われたとかまで言い出すかもしれんぞ」
「ああそうですね。それを証明する方法はありません。じゃあ誰とも知らない夜盗に殺されてくれればいいですね」私はサラリとそう言った。
「おいまさか」
「こちらから殺意を持って殺してしまえばそれは人殺しですよね。ああ、こちらが襲われてやむを得ず殺すのは正当防衛ですね。そうそう。盗賊のところに私が身一つで行けば、きっと襲ってくれますよね」私は冷ややかにそう言った。表情は硬いままです。
 私の言葉を聞いても、誰も答えずにいる。そうだ、誰もが同じ気持ちなのだ殺したいほど憎いと。
「今回の件。私ひとりで片付けますね」私は皆さんに聞こえるように言った。
「行かせませんよ」アンジーが私の腕をつかんでいった。
「行かせてくださいよ」
「そうは言いながらも、あそこにいる盗賊をひとまとめに捕まえて、そのまま直接王様のところに行って直談判して、脅して帰ってくるのでしょう?」アンジーが私の頭を覗いたかのように言いました。
「見抜かれていましたか。だいたいそのとおりですねえ、ついでに王女に王様になってもらおうかと」
「まあ、人を殺さないあんたのシナリオはそんなところよね。その後その王様が何をしてくるかわかるでしょう?」アンジーは言い聞かせるように私に聞いた。
「さすがに隣国をまたいでこちらに侵攻してこないでしょう。その意思を示したらさらにお灸をすえにいきますが」私は冷静に言った。
「あなたがやろうとしている事は、王では無く国を動かしてしまうことになるのよ」アンジーがため息をついた。
「でも、前回も壺の件の時は、あそこの王に直接理解をしてもらいましたよね」私はだだをこねる子どものようにそう言った。
「前回と今回は状況が違うのよ。わかっているのでしょう?」アンジーも負けずにそう言った。
「確かに違いますね」私は怒りで何を言われているかさえわかっていません。何が違うのでしょうか?
「今回は、あたし達の家の場所を知られているのよ。今後は、常に家と家族を守らなければならないの。国を相手にね」
「でも、魔王様にも家の場所を知られてしまいましたしねえ。今更ではないですか」
「ルシフェル様は、敵対するときはお互い予告すると言ったでしょう。それは守られるから対応は出来るわ」
「敵対すると宣言されたら、それからは魔族と戦いの日々になりますよね。同じではないですか?」
「それはそうなんだけれど、それは魔族との事でしょう。でも私たちは人間の国にまで干渉してはいけないのよ」
「ではどうすれば今後も安心して、あの家で日々の生活の糧を得て幸せに暮らしていられるのでしょうか」ユーリがアンジーに尋ねました。そうなのですよ。
「そうですね。選べるのはこの人達の記憶を忘れさせることくらいですかね。忘れさせるというよりは、違うことと認識させることですか。あなたならできるのではなくて?」アンジーが挑戦的に言った。
「記憶誤認ですか?」そういえば記憶の操作はあのネクロマンサーもやっていましたねえ。私はアンジーの言葉を聞いて、ついつい独り言をつぶやき始める。
「記憶を1日丸々消したりするとそこに空白というかひずみができてしまうので、そのひずみに昨日やったことを今日もやったこととして思い出すようにさせましょうか」
 私はそこで一度言葉を切って作業を整理しました。
「昨日、家を見つけたと記憶していることを、一昨日店に行って因縁をつけたことにすり替えて、家を見にも行ってないことにしましょうか。ここに野宿しているのは、家も見つからず、店で騒いでも何も出てこない。期限が来たのでしかたなく帰る旅路なのだと思い込ませますか」私は整理ができたのでみんなの方を向いて言います。
「そんなことできるのですか?」パムが驚いています。
「私が言い出した事だけど大丈夫なの?」アンジーも不安げです。
「ほころびがいつ出るかですが、王の前か臣下に会って質問された時に違和感があって思い出すかもしれませんが、普通は、「昨日何をしていて、一昨日は~」と、記憶を順番に思い出そうとするので、記憶が連続していれば大丈夫だと思います」私は新しい技術となるとついつい使ってみたくなり、そう説明しました。
「では~その方向で~薬草を取り返しに行きますか~」エルフィがお気楽に言いました。
「だいぶ冷静になったようじゃな」モーラが私を見てそう言いました。
「はい落ち着きました。では、エルフィとパムさんは、ひとりも逃さないように彼らの後ろに回ってください」
「はい」
「特にエルフィは、人数を確認して漏らさないように」
「は~い」
「では行きますよ」

○奪還
 川の畔にたき火が見える。そのたき火を囲んで食事をしている者、横になっている者、酒を飲んでいる者と様々だ。私はその人達を見回して、ボスらしき人を見つけて歩いて行く。
「こんばんは~」私は、盗賊団のたき火にゆっくりと近づいて行きます。両手を挙げて降参するように。後ろには、ユーリとメアがついてきている。
「誰だお前達」全員が私を見て、手元に置いていた剣を手に取る。
「何か食事をされているんですねえ。火の明かりと匂いにつられて来てしまいました」私は嬉しそうにそう言いました。
「お前らにやる食い物など無いわ」立っていたひとりの男が言った。
「そうですか残念です。そのかわり持っている荷物をいただきますね」私はそこに立ち止まって言いました。手はもう下ろしています。
「はあ?俺らから荷物を奪う?ふざけるなよ。できるものならやってみろ。そんな子ども連れで何ができ・・・まさか?」その男は私と大剣を持っているユーリ、ナイフを手にするメアを見て青ざめる。
「私たちから奪っていった荷物だけでいいのですが返してもらえませんかねえ」私はその表情の変化に嬉しくなってそう言いました。
「いや、これはさる国に献上しなければならないもので・・・」なぜかその男が低姿勢になりました。
「盗んだものを献上するのですか。すごいですねえ」私は右手を前に出して指を鳴らす準備をします。
「こちとら、その国の国使としてきているんだ。うかつに手を出すとその国が動くぞ」おや、盗賊さん国使だと認めましたね。
「国使が盗みですか。ひどい国ですねえ」私はそう言った後一瞬消え、その男の目の前に現れる。空間移動では無く単に加速して移動しただけですが。
「ひっ」突然目の前に現れた私にその男は怯えている。
「そんなに怯えなくてもいいじゃないですか。どうしたんですか?」その男の顔に出来るだけ顔を近づけなめまわすように見ている。
「いや俺がよく噂で聞いているやつら・・・人達によく似ているので・・」本当に冷や汗をかいているみたいです。
「へえ?どんな噂ですか~」私はちょっと面白くなってきました。
「やさ男と女の子ども・・・さん2人とメイド服を着た女・・・の人、大剣を背負ったおん・・女性、あと、エルフが・・」
「そうですか、残念ですねえ、エルフは今ここにはいませんよ・・・それでどんな噂なんですか~」
「いや関わるとろくな事にならねえ、両腕切り取られるらしいって噂だ」そこでやっと腹が据わったようです。
「それは正しくないですねえ、両腕を切り取ってもちゃんとつけてあげるんですけどね」
「あ、ああそうなのかい?それは噂を訂正しないとなあ」
「でも、後で落ちるかも知れないって、その男は言うんですよ?違いますか?」
「ああ、まあそういう話だ。まさかとは思うが・・・」
「違うと思いますよ~エルフは一緒にいませんでしょう?でも、あなたの後ろにエルフが立っているかも知れませんねえ?」その男は思わず視線を後ろにそらす。エルフの顔が炎に浮かんで見えた。エルフィナイスです。
「ひいいい」全員が後ろを見てエルフが立っていることを確認する。
「おや?エルフさんがいましたねえ。ところで盗んだ薬草・・・」
「わかった返す。返す。火をつけたことも謝る。頼むから殺さないでくれ」
「あれえ?国使だったんじゃないですか?あなた達偉い人なんですよねえ?」
「確かに国の依頼だし、国王からはなんとしても手に入れてこいと言われていた。だが、命が危ないのにそんなことを言ってはいらねえ。頼む。殺さないでくれ」
「でもそのまま帰ったらあなたの身も危ないのではないですか?」
「取引先までしか追えなかったと言う。言うから」
「わかりました。でも、倉庫を燃やしてくれたお返しはしませんとねえ」
「頼む腕を切らないでくれ」
「そんなことはしませんよ」
「本当か?」
「はい。ところで誰が火をつけるように指示したのですか?」
「そ、それは」
「皆さんで指さしてください」全員がこの男を指さす。
「やはりそうですか」
「仕方なかったんだ、手に入れたら他の所には売れないように燃やすよう言われていたんだ。俺は悪く無い。悪く無い」
「そうですね、あなたに命令した人が悪いですね」
「そうだろう?」
「だからといってあなたがそれをする必要はなかった。そうですよねえ」
「いやだから」
「腕を切らないと言ったじゃないですか。大丈夫切りませんよ。でも腕を切られた時よりももっとひどい苦痛をあげますね」私はその男の顔を手で覆って、こめかみを親指と中指で握りこむ。その男は、両腕でその手を必死にはがそうとするがその男の体が徐々に持ち上がっていき、足をばたつかせている。
「うああああああああぎゃあああああ」その男はひどい叫び声を上げる。叫び声が止まると同時に体ががくりと力が抜けてだらんとなった。私はその手を離し、空中にあったその体は、どさりと地面に落ちる。こめかみには黒い跡があり、血がにじんでいる。放心状態でうつろな目をしている。
「大丈夫ですよ、あなた達には痛みがないようにしますから」私はそう言って、両手を前に出して指を握ったり開いたりして近づいていく。
『ひとり逃げました。姿が見えません』エルフィが心の声を叫ぶ。
『ああ大丈夫です。ワイヤーでしっかり捕まえています』パムさんがそう言った
『よかった~』
『この方はたぶん魔法使いですよ。どうしますか』私は、男達に向かっていたが、方向を変えてパムのそばに向かう。
「逃げられなくて残念でしたねえ」私はそう言って立ち止まる。そこには透明な人の体の形にからまった細い糸が浮いている。私がパムに言われて作った特殊な糸だ。声をかけるとその人は姿を現す。
「ねえ取引しない?」ずる賢そうな目で薄笑いを浮かべた女の口がそう言った。
「何を取引するのですか?」
「今回の事。王様には黙っていてあげるわ」
「それが取引の条件になるのですか?」
「私が戻らないと探しに来るのよ。どうしてかわかる?」
「どうしてですか?」
「私がねえ王女と一緒に勇者をやっているからよ」
「それだと探しに来るのですか?」
「当然でしょ。勇者チームの一員に何かあったら大変ですもの」
「もしかしてあなた、さきほどうちの納屋に火を掛けましたか」
「それと何の関係があるの。そうよ私が火をつけたわよ。それが何か?」
「勇者の一員が火付けをするのですか。一般の薬師の小屋を」私は左手を握りしめた。
「だってあなたいないんですもの。王の命令だったし」そう言って嬉しそうにその女は笑った。
「あなたは王女の勇者の一員であって王の手下じゃないんですよね。あなたの勇者としての正義はどこにあるのですか」その笑っている顔を見て、怒りで殴りそうになるのを我慢してそう言った。
「正義?あるわけないじゃない。私はね、ただ敵を倒すだけよ。今回は王に言われたから来たのよ、ちょっと興味があったから。それはね、あんなすごい薬をどうやって作るのか興味があったからよ。まああんた達がいなかったしねえ。いたら、作り方教えてもらってから全員殺してレシピを自分だけのものにしようと思っていたけど。
 ねえ、作り方教えてくれる?教えてもらっても殺さないであげるから」その女魔法使いはねっとりとした笑い顔でそう言った。縛られていても、余裕でそう答えた。ずいぶんと自分の魔法に自信があるようです。
「そうやって王女の威を借りて好き勝手にしていると」私の中に殺意が芽生えるのを感じました。
「そうね、相手の国の市民を焼くのは私の仕事だしね。焦げる匂いを嗅ぐのは最高に幸せだから」その女魔法使いは、うっとりしながらそう言った。魔法使いにはこんな人ばかりなのでしょうか?でも知っている魔法使いは、一人を除いてみんな普通の人でしたけどねえ。
「それを王女は知っているのですね」
「さあ?私は王女が去った後に焼き尽くすだけだから知らないかもしれないわね。あ、でも最近疎遠なのは、それを感づかれたのかもしれないわねえ。あははははは」そう言って高らかに笑っている。
「ならば今は勇者一行じゃないですよねえ」
「王は、一応勇者の一員と言ってくれたわよ」笑うのをやめてそう言った。
「実は、最近ではなくてかなり前から王女とは一緒に行動していませんね」私は念のため尋ねました。
「どうしてそう思うのかしら」彼女がピクリとその言葉に反応した。
「王女様に一度お目にかかった時に、あなたはそばにいませんでしたよ」私は何か納得してしまった。
「ふう~ん会ったんだ~」あらバレたという顔をしています。
「さて、あなたのメッキもはげたようですし、どうしましょうかねえ」私は、その魔法使いを上から下まで見て言いました。私の表情は、どうやらすごい陰険だったようです。
「ふ、ふ~ん。どうするつもりよ」先程までの余裕はもうないようです。
「私は師匠がいないのですよ。なのであなたの魔法を勉強させてください。ああ、私と勝負してください」
「へえ?ただでは勝負しないわよ」ちょっとだけ余裕が戻って来たようです。
「私を最大級の炎で焼き尽くした後、先ほど使った消えた魔法で逃げてください」
「はあ?」
「私を焼き尽くせたらあなたの勝ちですから、そのまま逃げられますよ。他の者にも追わせません」
「へえ」急に嬉しそうな顔になった。
「ただ焼き尽くせず、逃げられなかったらあなたの負け。殺しはしませんけど、他の国の人とは言え人間を殺したことを少しは反省してもらいます。どうです?悪い話ではないでしょう?」
「なるほど、先に消えてもいいのね」
「かまいませんけど、先に逃げようとしても逃げ切れませんよ。もっとも逃げ切れるほど遠く離れて私を焼き尽くすのは問題ありませんよ」
「いいわよ~。じゃあ少し離れましょうか」そう言ってその魔法使いと私は川縁から離れる。
「いいですよどうぞ」私の声を待たずその魔法使いは消えた。
「あ~逃げましたよ~」
「わかりました」私は、足に魔法を使い素早く移動して魔法使いの腕をつかむ。
「それを待ってたわ~」魔法使いは、掴んだ私を火だるまにした。しかし、私が手を離さないので、私を燃やしている火がその魔法使いの体に移り始める。
「この!この!この!」魔法使いの声と同時に私の体に炎が何度も何度も吹き上がる。しかし私は腕を離さない。
「あんた私と心中したいわけ?」ようやく私が掴んだ腕から魔法使いの服に燃え移る。
「そんなわけないですよ」パッと腕を放す。すでに私の周りの炎は消えている。
「私を黒焦げにすることもできず、逃げることもできませんでしたね。残念でした。私はおかげで勉強になりました」私は一瞬で間を詰めて、再び腕を掴んだ。
「で?私をどうするのよ」さすがに怯えている。その魔法使いのローブについた炎はすでに消えていて、ローブを焼き尽くすまではいかなかった。
「右手の人差し指をお出しください」私は握った左腕をミシリと音がするほど絞り上げた。その魔法使いは、さすがに右手を差し出した。
「何を」魔法使いの言葉を待たずに私は、出された人差し指を私の左手の親指と人差し指で潰すように挟み込む。
「ちぎれるちぎれる」その魔法使いは痛みにバタバタと体をねじらせている。
「大丈夫ですよちぎったりしません」
「何をしたのよ」
「簡単です。火の魔法を使ってみてください」その魔法使いは魔法を起動したようだ。しかし、ちょろちょろと火が出るだけで炎と呼べるものではない。
「これは・・」その魔法使いが少し力を入れると、今度はその火が炎となり、自分の方向に吹き上がり顔を焼いた。
「あつつつ。なんなのよこれ」
「しばらくは不便を感じてください。しばらくと言ってもいつ治るかわかりませんので、その間にあなたを恨む誰かが、それを知ってあなたを襲うかも知れませんけどね。すこしは肝を冷やしてください」私は嬉しそうに笑いながらそう言った。
「なっなんてことするのよ」その魔法使いは驚いた表情でそう怒った。中途半端な怒りですねえ。
「あと。私たちと会ったことを忘れなさい」先ほどの男にやったように頭を鷲掴みにしてこめかみに力を入れる。ほんの一瞬「うがっ」と言ってその魔法使いは意識を失った。私は、鷲づかみにしていた手を離す。そしてその魔法使いはどさりと地面に落ちた。私はその魔法使いを見もせず、他の盗賊達に視線を向ける。誰もが怯えている。一番近くにいた盗賊の側に行き、頭を左右に振って嫌がるその男の頭を鷲掴みにして気を失わせる。その男が痛がらずに倒れたのを見て安心したのか、そこにいた残り全員は、素直に術にかけられてくれた。そしてその場でみんな眠っている。
「終わったか?」モーラが聞いてくる。
「ええ。そんなに皆さん怯えないでください。何もしていないんですよ。本当に暗示をかけただけで、村に行ったが薬を作っている人には会えなかった。場所もわからなかった。当然薬も手に入らなかった。毎日薬屋を見張っていただけで成果はなかった。と思い込ませただけです。怖がらせたのは演技です」
「演技なのはわかったけどノリノリだったわねえ。あんた才能あるわよサイコな悪役の」アンジーがいつも通りため息をつく。
「感情がつながっているからこそじゃなあ。だがあやつらが憶えていたら夜中に絶叫するくらいの恐怖だろうに」モーラがそう言うと皆さんも頷いています。まあ自業自得ですが。とほほ。
「皆さんも怒りをぶつけたかったでしょうけど。毎度すいません」誰も返事をしてくれません。とほほ。
「さて戻りましょうか」
 モーラがドラゴンになり、隠密の魔法で消えた後、私たちの馬車をつかんで、家の近くまで戻りました。
「もし、あるじ様の考えているとおりにあの国に乗り込んでいたらどうなっていましたでしょうか」ユーリが私にそう質問した。
「そうですねえ、あの場で言質を取った後、全員手足を一度切って、痛みを覚えてもらった後、つないで馬車に乗せて出発です。だってモーラが飛んでいったら色々問題があるでしょうから。ああ、あの魔法使いはあの話を聞いた後で燃やしていますね」私はなぜか嬉しそうにそう言っていたようです。自覚ありませんけど。
「そういえば、あの指先の魔法が斜めになるのは。どうやったのですか?」パムが尋ねた。
「いえ何もしていませんよ。その魔法使いは指の先で魔法陣を展開しているのが見えたので、展開する領域を小さく歪ませたのです。なので、魔方陣が大きく展開できず、小さくなっていますから、火力を上げようと魔方陣を大きくするとゆがんでいるので方向がかわります。でも一時的なものですのですぐ直りますよ。記憶を変える前にショックを与えたかっただけなのです。彼女のおかげで透明化の魔法をゲットできましたしね」
「なるほど。さっきの話の続きじゃが、死体と盗賊を載せて馬車で行くつもりだったのか」モーラが嫌そうな顔で私に聞いてきました。
「途中で肉が必要になったら順番に誰かをエサにして、食いついたところで魔獣を殺し、傷薬で傷を治すというのを繰り返してその王の元まで行くと思いますね」私の顔は嬉しそうだったらしいです。
「気が狂うであろう」モーラがそう尋ねます。皆さんの顔が青ざめています。ああ、感情つながったままですものねえ。
「その前に魔獣の肉が余りますよ。そして、国使様をお助けしましたと国王の前に行きます。そこにあの王女がいたなら、黒焦げの魔法使いを見せ、こういうことをしていたことを知っていますか?と聞きます。その間、王様にはガタガタ騒ぐならこの場で殺すと脅しておきますね」どうやら誰もフォローはしてくれなさそうなので続けて話しました。
「それで、私のことを無礼千万と言ったら、「あなたの国の方が無礼でしょう。そんな無礼な国とその国の王などいらないですね」と言ってから「王の首をはねたいのですが、良いですか」と王女に尋ねますね」
「王女がいなかったらどうするんですか?」パムが怯えながらも私に尋ねました。
「そうですねえ王様を説教しているうちに連れてこいと言いますねえ」
「そりゃあ災難じゃ」モーラがため息をついた。
「まあ、その説教の間にいままでしてきた占領の歴史を確認していくでしょうね。国益のための戦争と言った瞬間、首に刀をつきつけましょう。いいかげんにしろと。だったら私の私益のためにこの国が潰されても文句は言うな、くらいは言わないとダメでしょうね。まず最初にあんたの首をさし出してもらうねとは言いたいですよ」私の話に皆さん無言です。
「首を取ったらそうですね。この者国益と偽り私腹を肥やし、国益と信じた兵の命を粗末にしたこと万死に値する。として、首を城前にさらすことにします」
「相変わらずえげつないことしようと考えているのう」
「人間なんてこれくらいしないと変わりませんよ。しかもしばらくしたらすっかり忘れて私を襲いに来ますよ」
「気分が優れません」
「私も~変にリアルなイメージで気持ち悪いです」
「これは拷問にも近いくらいリアルなイメージでした」
「レイ吐くなよ」
「毛玉がのどにこみ上げて・・・げろげろげろ」毛玉って猫じゃないんだから。
「こんなもので終わって良かったわ」
「ああそうじゃな」


Appendix
さて、シナリオ通り進んでいますねえ。良かった良かった。
これからもドンドン国王を刺激してくださいね。

続く




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