1 / 25
【プロローグ】
しおりを挟む
《プロローグ》
何処か、謎の場所
「…何処だ此処」
最初に言い放った言葉はその一言
目を開いた後に暫く寝起きでボーっとする頭を、少しだけ覚ました後にゆっくりと辺りを見回す
するとそこには全くと言って良い程に見覚えの無いまっさらな白い部屋、というよりは空間が視界に広がっていた
そしてそんな摩訶不思議な空間に、俺【達人 正】は立っていた
「あー、えっと…罰ゲーム?」
最初に思い口にしたのはその一言
全方位見渡しても地平線が視界に一本途切れなく繋がれている、つまりほぼ果てが見えない程の広さという事だろう
地平線が見える程の真っ平らな部屋に空とも天井とも言い難い真っ白な世界、何度見ても現実味すらない
いっそ夢か何かと頬を抓ってみても俺の顔の一部分が蚊に刺されみたく不自然に赤くなって痛いだけ、目も覚まさない
もう一つ言うと夢にしては妙に、リアルな感覚があった
本当に何だ此処
まぁ夢にしろ何にしろこのままこの不自然な場所に何もせずにするのも、流石にちょっと体が落ち着かない
そう思い、ひとまず一呼吸置いて立ち上がり
「…取り敢えず色々調べるか、何もしないよかマシだ」
俺はそう言って、取り敢えず辺りを探索にとそこら辺を歩き始めた
と意気込んだその後の、数十分が経った頃
「はぁ…はぁ…、本当にどうなってんだ…?」
本当に全くといって文字通りの如く何も無い、俺はその結果を知りながら汗を腕で拭った
それもその筈見えど歩けどあるのはせいぜい真っ白な背景に同じく真っ白なタイルっぽい質感の床、そして嫌というほど写っている地平線
此処までくると恐怖すら浮かんできて、気味が悪い
「本当に何だよ此処…俺が何したってんだ」
おまけに幾ら独り言を言っても何をしてもうんともすんとも変化は無い、誰も見てすら居ないのだろうか
まるで何かの都市伝説…謂わば一億年ボタンの様、いや三億だったか
何にせよこのままでは何をするにも始まらない
本当に参った、いきなり万事休すである
「こりゃマジで困った
食料どころかボタン一つの影も無いってどうすりゃ良いってんだよ、出来の悪いデスゲームでももうちょい優しいぞ…」
俺自身が発している言葉自体は余裕ぶってはいるが実際問題、かなり危険な状態であり内心かなり困惑し焦りまくっている
食料も無し、物も無し、時間を図るものも無し、窓なんかもっての他
場所すらも何処か分からない状態、事実そもそもこんなだだっ広い場所が一体世界の何処にあるというのだろうか
いやそれ以上にこうまで手のつけようがないとやる気すらも起きないし何ならもう一度寝直したいくらいだ
何とも歯痒く、そして訳の分からない状況だ事である
…いや、となるとそもそもどうして場所に俺を連れてきたのだろうか?
身代金…ならもっと羽振り良い金持ち狙うし身動き取れなくする位はするだろうし、私怨だとしても拘束位はするだろう
そもそもの話攫うのならこんな大層そうな場所を準備して此処にわざわざ置いておく必要も無い
ならばどうして俺をこんな所に放逐したのか
一体何が目的でーー
ーーその瞬間だった
突然現れた謎の不気味な気配を感じ、そして慌てて勢い良く後ろへ体ごと振り返えろうとしたその瞬間
「…ぉッはよぉおござぁぁああいぃぃいまぁぁああすッッッッ!!!!」
「ぁぁああああッ!?!?」
耳が破壊されかける程の声量の叫びが俺の耳を襲う
俺は反射的に急いで必死に耳を塞いだ…が既に耳鳴りが酷く頭に響く程の痛みが俺自身を襲っていた
「っ痛ぇ…何しやがんだ手前ぇ!!」
誰だって鼓膜破こうとされればそりゃ怒るだろう
人の耳の近くで叫ぶそのふざけた思考をした頭を一回ぶん殴ってやろうと俺は躍起になり気配の大本を目撃する
そこにいたのは如何にも見るからに珍妙な男だった
「なんちって、どうだビックリしただろう!それとも驚き過ぎて目ん玉とかが飛び出たかなぁ?」
背丈は俺と同じくらいだから歳も同じ位か?服も俺と同じ…というか色だけ違うからなんか対照的にすら見える、少なくとも変な格好ではない
うん、まぁ…その頭に被った変な顔っぽい何かが書かれた段ボール以外はな
…そんな事よりも、突然何の予兆も無く現れたコイツは一体何なのだろうか、というかもうこの時点で嫌な予感しかしないのは俺だけなのだろうか
「いや、誰?」
「?」
「いや首傾げてないて、お前だよお前!」
俺は煽る様に首を傾ける段ボール男を思いっきり指さす
「えーゴホン…ぬぁあらばぁ答えよう!!」
妙にハイテンションな段ボール男
「正体不明で大胆不敵、最強無敵のこのワタシの衝撃たる正体をっ!まずはこの偉大なるボクちんを!
その名は~っ…【ハコボン】ッ!!」
「…………」
訂正、恰好じゃなく中身そのものが変態というかハジケた何かだ
俺は多分今この茶番を見てさぞ苦虫を噛み潰した様な何とも言えない顔をしているのだろう、ただただ純粋にウザい
「そして何を隠そう!!この俺、その正体は!!
…此処の管理者です、どうも宜しく御願い致します」
「……あ、うん」
それよりもテンションの上げ下げが激しすぎる
急にハイになっていたかと思えば急に冷静かつ丁寧な言葉使い、それはもう狂人という程に情緒不安定にすら見える
「んだよノリ悪いなー…衝撃の新事実なんだぞー!!」
確かに衝撃的だったけども違うそうじゃない、そうじゃなくて
取り敢えずこの面倒臭い空気にも流れにも大分ウンザリなんで本題に入ろう
「じゃ取り敢えず俺を此処に誘拐してきた訳を話さんかい、じゃねぇとこの場で今すぐにでも指詰めんぞオラ」
「待って、待って分かった…ガチのヤツ話すから首絞めんといて…!!」
人は首を締めあげて無理矢理にでも吐かせるに限る
やり方はちょいとばかし強引だが茶番に付き合う気も少なくとも今は無い、というかもういろんな事が面倒になってきた
「な、何でそんな怒ってんのさ!」
「怒るわ!勝手に人様攫った挙句人の鼓膜破壊しようとして何しらばっくれてんだこの野郎!」
「あぁお客様困りますお客様!」
尚もふざけ倒す男をキレながら締め上げる俺
さっさとある事吐かせて自宅に帰って寝たい気分だ、この男を相手にするだけでもかなり疲れ心底嫌になってくる
そう考えながら俺は絞めていた首を床に叩き付けた
「そもそも俺みたいな一般人捕まえて何しようってんだ
さぁ洗いざらい吐いて貰おうか…この期に及んで下らない事抜かしてみろ、その肉片一つたりとも残さず缶詰にするぞ」
「おいちゃんそんな事言う奴確実に一般人じゃないと思うの!」
何てとんでもない脅しをかけながら締め上げていると
「わ、分かった言う!言います!
えーっとですね、貴方様には少し手伝って頂きたい事がありまして、それで此処に呼んだという事でして…」
「は?」
言われて見て思い出したがそういえば確かにこの部屋、まだどういう所なのかというのを全く知らなかった
俺は一番最初の疑問に戻り考える…が現時点ではやはりまだ予想がつかず、よく分からない
そう考えている間にも男は独りでに語り始める
「あー、ゴホン…
実は此処は、簡単に言えばあるものを管理をする場所なんですわ」
「管理をする、場所…?」
この何もない空間で管理するものとは一体何なのか
「で、この場所何かって言うとねー
…分かりやすく言えば何ていうか、漫画でいう所の…別世界の転生者を管理するための所なんです」
「…えーっと」
余計、意味が分からなくなった
「成程、テキトーな事言って誤魔化そうって腹か」
「違う違う違うって!コレ本当、マジの話なんだって!」
即座にダンボールごと頭を鷲掴みにして持ち上げて脅しを再開した、それに対し肝心の男は手を振って無実を訴えかける
「なら証拠は?なぁオイ」
「いやいやアンタが一番分かってんでしょ!?分からないの、アンタ一回死んで此処に来たの!お分かり!?」
「は?んな事あるワケねーだろーが…」
その時、俺の脳裏にふと過去が浮かぶ
自分が学校帰りに交差点を通った事、その交差点で挽かれそうになった子供がいた事、それを助けて自分が犠牲になった事
つまりトラック転生のテンプレートに遭った事を
「どうよ、その様子だと信じてくれた?」
動きが止まった俺に対し男が声をかける、が
「…いや無い、ありえない俺がそんななろうみたいな事」
「強情だねチミも」
そんな突拍子も現実味も無い事信じられる筈も無く、首を振って否定しようとする俺を呆れる様子の男
だがこのまま自分が意固地になっても話が進まない為に大人しくしていよう、決して認めたワケでは無い絶対に
「んーまぁ、勝手に話すから良いんだけどね
簡単に言うと君が死んだせいで僕らに不都合な事が発生してねー、で仕方ないからから転生させるって事になったのねん」
「とんでもなく軽いような超重いような感じがするんだけど、何?ゲームの修正パッチとほぼ同価値なの俺の存在」
「大体同じモンでしょうね」
「殴るぞ」
眉間にシワを寄せかけるが一旦冷静になろうと抑え込む
「で、俺は何ていうか…オマエが居たトコで言う、謂わば【神様】って言う感じのモンなの
居るでしょ?八百万の神とギリシャ神話とか」
どう見積もってもお前にそんな権威は感じない
それににしても神様とは、そんなモン人の空想なだけで実在しないかと思ってた
「で、さっきも言った通りアナタはワタシ達にとってちょっと不都合~…なんでお馴染みファンタジー系の転生にでもしてやろうかなってワケ、そんでついでにあわよくばボクちんのお手伝いもしてホスィ訳さぁ!!
ご理解OK?ドゥーユーアンダスタン?」
腹立つ話し方は一旦置いておいて兎も角、もしコイツの話を信じるなら俺が今此処に居る理由は大体分かった
「えーつまりアレか、なろう転生か」
「しょーゆーこと、情緒無いねチミ」
お前にだけは言われたくない、てかさっき散々言ってたのお前
まぁだが実際自分に死んだ記憶的なものがある現在、その様な自体とでも理解しておかないと混乱しそうである
主に果ての無い空間とか謎の男とか今の俺の現状とか諸々で
「で、なら一体俺はどうすりゃ良いのさ」
「おっ信じちゃうの?てっきり信じられないーってとゴネると思ったんだケドなー、まっ手間が省けて良いか!」
今でも信じてはいない、決して
「…つっても基本的にゃやる事は丁度今言った通り【異世界転生】、ついでに私のお仕事を手伝って貰いたいんよ」
「仕事?」
仕事、となると神様の仕事を担っていくワケになるのだが
「仕事っても大した事じゃないよ、ただちょっと世界救えとか国の問題全解決しろとかその程度よん」
「その程度で済ますレベルじゃねえ」
ゲーム感覚で国救うのが一般なのなら自分はトラック程度で死なないと思うのだが、そこのところは何を言っても仕方ない
「まぁまぁ話はここから、なろう転生だって言ってましたよねん?」
言ってたな、俺が
「てなワケで…君にはチートを差し上げます!
コレなら世界征服もお手の物、異世界攻略も楽チンなのですっ!」
「何て雰囲気の無い謳い文句…で、どんなの貰えんの?」
パワーでごり押しな能力ステータス限界値系か、技術で器用万能な大量スキル系か、それともピーキーな相性勝負の異能系か、はたまた知能全部乗せか、万能型かまた別の何かか
こう考えると夢でもワクワクするものである…あくまで、あくまで信じてないけれども!
「そんじゃ【能力やスキル等を限度無く習得出来るチート】あげる、これなら最悪雑魚敵数百年位続けて倒してりゃラスボス越えるから
そういう訳で宜しく、後適当に頑張ってね!」
「待って」
前言撤回、やっぱ神ってクソ以外の何物でも無ぇや
だってこの能力パっとだけ聞いてりゃ聞こえは良いが、要は何もない状態でエンカウントスライムのみでレベル上げて魔王倒せというものだ
いや無理ゲー以前に…最早人生レベルの嫌がらせか何かだろ
「分かった話し合おう、せめて異世界の言語で話せるアレとか無限収納出来るアイテムボックス的なソレとか、せめて手心を…」
「取り敢えず様子見て修正パッチ追加って事で、行ってらっさーい」
「今すぐ直せぁあアアアーーーー…!!!!」
抗議する暇も無く俺は突如真下に出現した大穴の中の真っ暗闇に向かって、そのまま抵抗する間も無く一気に真っ逆さまに落下していってしまった
マジで覚えてろよ、クソ神野郎
そして勿論その後元住んでいた世界とは似ても似つかないようなファンタジー世界に転生し英雄と奉られる事になるのだが、まだこの時の俺は全く知る由も無かった
…そして、これは俺の感覚にして無数にも思える転生を繰り返した後のお話
ー【とある世界】ー
「……来たか」
とある世界の真っ黒な四角い建物の中のだだっ広いある一つの部屋、そこにはある二人の男の影が姿を露わにしていた
「よっと、此処か」
「クックックック…」
二人はお互い対になる様にそれぞれ向き合いながら立っている
そのうちさっきまで座っていたのか部屋の玉座に背を向けて仁王立ちをし、もう一人の男を見下しながら自身のマントを翻して口を開いた
「良くぞ此処が分かったな、我の長年の敵だったアイツさえ気付かなかったというのに」
「ただの裏技だ、ウラワザ」
もう一人の男は着ている安っぽい黒のシャツに付いた土埃を払いながら、半開きの目で対の男をただじっと見据えている
そう、この男こそが今の俺こと転生者【達人 正】なのだ
俺は現在この世界にていつも通り転生に成功し此処に過ごしこの世界のラスボスと少しばかり体面をしている、言わば最終決戦というやつだ
…といっても俺はあくまでもこの世界の主人公では無い、まぁそれに関しては今の俺の仕事を含めて後々機会があったら…という事にしておく
と、そうこう説明しているうちに目の前の男がまた喋りだそうとしていた
「裏技ねぇ…まぁ良い、それよりも
先ずはこの我の真の拠点にたどり着いた事を素直に誉めてやろう、今までこの我が研究所を見つけ出したのは貴様が初めてなのだからな」
「そりゃどうも…」
こんな悪趣味な研究所に似つかわしくない玉座置いといて良く言うよ厨二野郎、大体此処はクリア後に主人公が見つけるはずの裏要素的な場所だろうが
と、俺はそんなどうでも良い事を考えながらズボンのポッケに手を突っ込む
「だが…残念な事にこの溢れ出る力はもう誰にも止められん、世界を救う異能を持ち我を倒したアイツも…そして貴様でさえも!!」
「ふーん」
話からみるとその主人公とやらは世界を救う程に大層な力をお持ちのようで、俺は結局最後まであんま面識無かったけど
「何故我にこんな強大な力が備わったのかは分からない…がそのお陰で俺は更に強くなった、今や世界…いや銀河をも支配出来るだろう!!」
「そんで?」
「…貴様にも目に浮かんでくるだろう…この世界の全てが我に支配される光景を、この世の全てが絶望に染まるその瞬間を!!」
「そうか」
「……貴様、さっきから「ふーん」とか「そんで」とかやけにテキトーな返事ばかりだが…よもやこの我の言葉を聞いていないのではあろうな?」
「そうっすねー」
「…………ぬうぅぅぁああああーーーーッッ!!!!」
完全に話を聞かずに耳をほじくっている俺に、遂に目の前のがブチ切れた
今からしたら悪いとはちょっとだけ思っちゃったりしてる
「あ、話終わった?そろそろ戦っとく?」
「…良かろう、こんな巫山戯た茶番はもう仕舞いだ
頂点の更に上の…神の領域にまで達したこの我の力をとくと見ろ!!」
そう言うと目の前の敵である男は何やら黒く怪しげなオーラを漏らしながらふわりと厨二浮かんでいき、俺を睨む様に見つめ直す
すると男の力だろうか、この部屋全体が地震の様に震え始めた
「そして…ぬぅうううんッ!!」
そして次の瞬間、男の体が怪しいオーラに包まれ急に光りだす
数秒光った後に黒いオーラが煙の様に晴れていきその姿がやっと顕になった
「…采配の神!!
ハァハハハハハ…コレが、神たる我のォ…真の姿だァ!!」
だがその姿と雰囲気はまるでさっきとは別のものだ
ドス黒いエネルギーを自身に取り込んだその姿は肌が黒く染まり刺青の様な模様が刻まれていく、そしてそのオーラはより邪悪なものへと染まっていく
その姿は最早神ですらない禍々しい何かだった
「畏怖し、恐怖し、震え上がれ…喚け、叫べ、乞い続けろォ!!世界は全て我の為に有るのだ、それが運命!!有るべくして起こったのだ!!」
宗教じみた妙に気持ち悪く臭く長ったらしい言い回しで両手を広げ叫ぶ、自分が本当に創造主か神の子にでもなったつもりなのか
「あのー…まだ時間かかりそう?何なら早く寝たいんだけど俺」
これはゲームじゃない、当然スキップ機能なんてこの世界には無い
意味一つ無い無駄な長丁場に若干イライラしてきた俺は鼻を呑気にほじりながら棒立ちになって、つい覚醒ラスボス相手に挑発をかましてしまった
「その余裕が何時まで持つのか…見物だなァッ!!」
すると男は手をこちらに向けて紫色のデカいエネルギーの弾を放ってきた
「…ッ!!」
俺は素早く初弾を回避し敵を改めて見据える
「死ね死ね死ね死ね、死ねェーーーー!!」
対する敵は俺を狙ったまま一気にマシンガンの様に小さな光弾を絶え間無く連続で放ち、有無を言わさぬまま仕留めようとした
瓦礫崩れと爆発による煙が俺を覆い小綺麗だった部屋は見る影も無い
「我の力の前に為す術も無い様だな…
だがこの程度で終わるとは思っておらん、更なる地獄を思い知るがいい!!」
そう叫びながら男は次に煙の中に勢い良く飛び込み俺に蹴りを叩き込んだ
「ぐぅ…ッ!?」
俺は壁を突き破り吹っ飛んだ形で施設を強引に出た、がそれを敵が追う
逃がさんとばかりに追い詰める様に
「そォらぁああッ!!
でぃああ!!ふんッ!!オラァ!!ぜぇィああッ!!」
「…………っ!!」
何度も追い討ちをかましてブっ飛ばしその度に光の速さと言わんばかりの超速で回り込み、また殴り飛ばすの繰り返し
威力もまた凄まじく強化されており打撃を一発放つだけで風が吹き荒れる
「フン、されるがままとは随分と敵ながら情けないな!?
だが容赦する気は既に微塵も無い、そろそろカタをつけさせて貰おう!!」
「っ…ぉおお!?」
そう言って今度は男は俺の胸ぐらを掴んで高く空中へと放り投げた
その飛距離は雲などすぐに突き抜けてオゾン層近くにも及ぶ、といっても男からしたら本当にただ放り投げただけなんだろうが
それ程に、相手は強大な力を持っているという事か
「っとと、随分と荒っぽい真似しやがるな…」
俺は何とか自身の能力で勢いを止めつつ空中であるその場に留まった
「ほう…まだ減らず口が叩けるとは余裕ではないか、前の我では到底適わなかっただろう…素直に褒めてやりたいものだな」
と、そんな事を思っている間にも敵であるあの厨二男は俺の遥か上を飛び、まるで本当に神にでもなったかの様にコチラを見下していた
黒く邪悪なオーラを纏い仁王立ちをするその姿は、正にラスボスだろう
「良かろう、その力と意地に敬意を評して…
我が最大最強である奥義を持ってして、一撃で跡形も無く葬ってやろうぞ」
「何だ?」
男がふと腕を上に挙げると、周りに漂っていた邪悪なエネルギーが男の真上へと吸い込まれていきみるみるうちに大きな球体となった
「……これは」
「確か貴様は御託が嫌いなのだったな、ならば今此処で苦痛も後悔も辞世の句を読む暇も無く一瞬にしてこの世から消してやろう!!」
いやだからそういうのが長ったらしいって
「ではさらばだ、死ね」
そう言って男は俺に向かって手を思いっ切り勢い良く下ろす
「裁きの一撃ッッ!!!!」
するとそれに呼応した様にエネルギーの塊である真っ黒な球体が一気に膨れ上がり、一本のレーザーとなって俺に降り迫ってきた
その圧力たるや凄まじくさっきの打撃が鼻で笑えるレベルで、大気…いや空間…世界そのものが震えている様にすら感じる
厨二ネーミングとはいえ神の裁きの名に恥じぬ威力であるのは間違いない、少なくとも他の人から見るならば
「…………」
そう思っている間にもビームは自分を抹消せんとばかりに向かってきている、おまけに視界を埋め尽くす程巨大であり逃げられそうにない
コレは、流石にどうしようも…
…と、思うワケもないのだが
「……………………は?」
たった一撃、たった一発の軽いパンチ
「…っと、まぁこんなモンか」
それでもあんな力だけの攻撃をかき消すのには充分過ぎる
その衝撃は空気中を伝い、ビリビリと大気を掻き分けながら広がっていく
ただの、何の変哲もない軽い殴打でだ
「な、何が起きたというのだ…一体何が…!?」
「あっトドメ刺すの忘れてたそぉいッ!!」
「ごふぁッ!?!?」
そしてさり気なく有無を言わさぬまま強烈な腹パンを男の腹に加える
男は息を飲む暇もなく、寧ろ胃液ごと吐きながら意識が薄れていく
「馬鹿な…この俺が、一撃で…!!」
男はそのまま辞世の句すら無く身体を光らせ、やがて爆散し消えていった
まぁ何とも汚く真っ黒な花火だことか
というワケでこの世界のも、漸く役目が終わったという事である
最初にあのトチ狂った馬鹿神様に穴に落とされた後
俺はあの後、アレが言った通り文字通り転生する事となった
そこからは面倒な事こそ多々あったと思うが、まぁ成功もすれば人並みに失敗する事もあったというか
そして一度目の転生を終えた後もまた、少しあの元凶と話し合った後にまた別の世界へと転生していく事になっていったのさ
いつしか俺は転生をしてはまた転生を…というループが自分の中では当たり前になっていって、いつの間にか数え切れない程の異世界へと次々に飛んで行っては色々して…ってのをずっと繰り返す様になった
自慢じゃないがそりゃあもう色々な世界に行ったね
ありきたりな勇者と魔王が戦うファンタジーな世界や侍とか武士とかが蔓延る時代劇的な世界から殺伐とした、デスゲームまで…
勿論それだけ色々してれば経験や力も嫌でも色々身に着くってもんで、じみーな技術に研究方法から所謂魔法とか超能力とかなんてのまで幅広ーく手に入れた
…いや手に入れたというか、正直半ば呪いっぽく押し付けられたね、うん
とまぁ最初こそそりゃあ新鮮な感覚だったし中には使い慣れなかったりーとか面倒だとかも多かった、だけれどもまぁ今となってはそれも気鬱
長いことやれば人は慣れるっていうけれど、これも正直な話慣れたくはなかったと言えばそうだ
寧ろ帰りたい気持ちのが多かったね、うん
と、話が大分逸れた訳だが
そんなワケで俺は今日も面白おかしくもあのバカの仕事とやらに付き合うという名目でまた異世界を満喫する旅に行っていた、という事だ
だが一つだけ、転生したばかりの俺は失念していた事があった
珍しく動揺していたからか…はたまた異世界転生なんてものに小学生の遠足前日みたく内心はしゃいでいたからか、まぁ冷静な思考では無かっただろうな
まぁだからこそ…
俺も思わなかった
まさか本当に、それが一億回続くなんて…
《プロローグ・完》
何処か、謎の場所
「…何処だ此処」
最初に言い放った言葉はその一言
目を開いた後に暫く寝起きでボーっとする頭を、少しだけ覚ました後にゆっくりと辺りを見回す
するとそこには全くと言って良い程に見覚えの無いまっさらな白い部屋、というよりは空間が視界に広がっていた
そしてそんな摩訶不思議な空間に、俺【達人 正】は立っていた
「あー、えっと…罰ゲーム?」
最初に思い口にしたのはその一言
全方位見渡しても地平線が視界に一本途切れなく繋がれている、つまりほぼ果てが見えない程の広さという事だろう
地平線が見える程の真っ平らな部屋に空とも天井とも言い難い真っ白な世界、何度見ても現実味すらない
いっそ夢か何かと頬を抓ってみても俺の顔の一部分が蚊に刺されみたく不自然に赤くなって痛いだけ、目も覚まさない
もう一つ言うと夢にしては妙に、リアルな感覚があった
本当に何だ此処
まぁ夢にしろ何にしろこのままこの不自然な場所に何もせずにするのも、流石にちょっと体が落ち着かない
そう思い、ひとまず一呼吸置いて立ち上がり
「…取り敢えず色々調べるか、何もしないよかマシだ」
俺はそう言って、取り敢えず辺りを探索にとそこら辺を歩き始めた
と意気込んだその後の、数十分が経った頃
「はぁ…はぁ…、本当にどうなってんだ…?」
本当に全くといって文字通りの如く何も無い、俺はその結果を知りながら汗を腕で拭った
それもその筈見えど歩けどあるのはせいぜい真っ白な背景に同じく真っ白なタイルっぽい質感の床、そして嫌というほど写っている地平線
此処までくると恐怖すら浮かんできて、気味が悪い
「本当に何だよ此処…俺が何したってんだ」
おまけに幾ら独り言を言っても何をしてもうんともすんとも変化は無い、誰も見てすら居ないのだろうか
まるで何かの都市伝説…謂わば一億年ボタンの様、いや三億だったか
何にせよこのままでは何をするにも始まらない
本当に参った、いきなり万事休すである
「こりゃマジで困った
食料どころかボタン一つの影も無いってどうすりゃ良いってんだよ、出来の悪いデスゲームでももうちょい優しいぞ…」
俺自身が発している言葉自体は余裕ぶってはいるが実際問題、かなり危険な状態であり内心かなり困惑し焦りまくっている
食料も無し、物も無し、時間を図るものも無し、窓なんかもっての他
場所すらも何処か分からない状態、事実そもそもこんなだだっ広い場所が一体世界の何処にあるというのだろうか
いやそれ以上にこうまで手のつけようがないとやる気すらも起きないし何ならもう一度寝直したいくらいだ
何とも歯痒く、そして訳の分からない状況だ事である
…いや、となるとそもそもどうして場所に俺を連れてきたのだろうか?
身代金…ならもっと羽振り良い金持ち狙うし身動き取れなくする位はするだろうし、私怨だとしても拘束位はするだろう
そもそもの話攫うのならこんな大層そうな場所を準備して此処にわざわざ置いておく必要も無い
ならばどうして俺をこんな所に放逐したのか
一体何が目的でーー
ーーその瞬間だった
突然現れた謎の不気味な気配を感じ、そして慌てて勢い良く後ろへ体ごと振り返えろうとしたその瞬間
「…ぉッはよぉおござぁぁああいぃぃいまぁぁああすッッッッ!!!!」
「ぁぁああああッ!?!?」
耳が破壊されかける程の声量の叫びが俺の耳を襲う
俺は反射的に急いで必死に耳を塞いだ…が既に耳鳴りが酷く頭に響く程の痛みが俺自身を襲っていた
「っ痛ぇ…何しやがんだ手前ぇ!!」
誰だって鼓膜破こうとされればそりゃ怒るだろう
人の耳の近くで叫ぶそのふざけた思考をした頭を一回ぶん殴ってやろうと俺は躍起になり気配の大本を目撃する
そこにいたのは如何にも見るからに珍妙な男だった
「なんちって、どうだビックリしただろう!それとも驚き過ぎて目ん玉とかが飛び出たかなぁ?」
背丈は俺と同じくらいだから歳も同じ位か?服も俺と同じ…というか色だけ違うからなんか対照的にすら見える、少なくとも変な格好ではない
うん、まぁ…その頭に被った変な顔っぽい何かが書かれた段ボール以外はな
…そんな事よりも、突然何の予兆も無く現れたコイツは一体何なのだろうか、というかもうこの時点で嫌な予感しかしないのは俺だけなのだろうか
「いや、誰?」
「?」
「いや首傾げてないて、お前だよお前!」
俺は煽る様に首を傾ける段ボール男を思いっきり指さす
「えーゴホン…ぬぁあらばぁ答えよう!!」
妙にハイテンションな段ボール男
「正体不明で大胆不敵、最強無敵のこのワタシの衝撃たる正体をっ!まずはこの偉大なるボクちんを!
その名は~っ…【ハコボン】ッ!!」
「…………」
訂正、恰好じゃなく中身そのものが変態というかハジケた何かだ
俺は多分今この茶番を見てさぞ苦虫を噛み潰した様な何とも言えない顔をしているのだろう、ただただ純粋にウザい
「そして何を隠そう!!この俺、その正体は!!
…此処の管理者です、どうも宜しく御願い致します」
「……あ、うん」
それよりもテンションの上げ下げが激しすぎる
急にハイになっていたかと思えば急に冷静かつ丁寧な言葉使い、それはもう狂人という程に情緒不安定にすら見える
「んだよノリ悪いなー…衝撃の新事実なんだぞー!!」
確かに衝撃的だったけども違うそうじゃない、そうじゃなくて
取り敢えずこの面倒臭い空気にも流れにも大分ウンザリなんで本題に入ろう
「じゃ取り敢えず俺を此処に誘拐してきた訳を話さんかい、じゃねぇとこの場で今すぐにでも指詰めんぞオラ」
「待って、待って分かった…ガチのヤツ話すから首絞めんといて…!!」
人は首を締めあげて無理矢理にでも吐かせるに限る
やり方はちょいとばかし強引だが茶番に付き合う気も少なくとも今は無い、というかもういろんな事が面倒になってきた
「な、何でそんな怒ってんのさ!」
「怒るわ!勝手に人様攫った挙句人の鼓膜破壊しようとして何しらばっくれてんだこの野郎!」
「あぁお客様困りますお客様!」
尚もふざけ倒す男をキレながら締め上げる俺
さっさとある事吐かせて自宅に帰って寝たい気分だ、この男を相手にするだけでもかなり疲れ心底嫌になってくる
そう考えながら俺は絞めていた首を床に叩き付けた
「そもそも俺みたいな一般人捕まえて何しようってんだ
さぁ洗いざらい吐いて貰おうか…この期に及んで下らない事抜かしてみろ、その肉片一つたりとも残さず缶詰にするぞ」
「おいちゃんそんな事言う奴確実に一般人じゃないと思うの!」
何てとんでもない脅しをかけながら締め上げていると
「わ、分かった言う!言います!
えーっとですね、貴方様には少し手伝って頂きたい事がありまして、それで此処に呼んだという事でして…」
「は?」
言われて見て思い出したがそういえば確かにこの部屋、まだどういう所なのかというのを全く知らなかった
俺は一番最初の疑問に戻り考える…が現時点ではやはりまだ予想がつかず、よく分からない
そう考えている間にも男は独りでに語り始める
「あー、ゴホン…
実は此処は、簡単に言えばあるものを管理をする場所なんですわ」
「管理をする、場所…?」
この何もない空間で管理するものとは一体何なのか
「で、この場所何かって言うとねー
…分かりやすく言えば何ていうか、漫画でいう所の…別世界の転生者を管理するための所なんです」
「…えーっと」
余計、意味が分からなくなった
「成程、テキトーな事言って誤魔化そうって腹か」
「違う違う違うって!コレ本当、マジの話なんだって!」
即座にダンボールごと頭を鷲掴みにして持ち上げて脅しを再開した、それに対し肝心の男は手を振って無実を訴えかける
「なら証拠は?なぁオイ」
「いやいやアンタが一番分かってんでしょ!?分からないの、アンタ一回死んで此処に来たの!お分かり!?」
「は?んな事あるワケねーだろーが…」
その時、俺の脳裏にふと過去が浮かぶ
自分が学校帰りに交差点を通った事、その交差点で挽かれそうになった子供がいた事、それを助けて自分が犠牲になった事
つまりトラック転生のテンプレートに遭った事を
「どうよ、その様子だと信じてくれた?」
動きが止まった俺に対し男が声をかける、が
「…いや無い、ありえない俺がそんななろうみたいな事」
「強情だねチミも」
そんな突拍子も現実味も無い事信じられる筈も無く、首を振って否定しようとする俺を呆れる様子の男
だがこのまま自分が意固地になっても話が進まない為に大人しくしていよう、決して認めたワケでは無い絶対に
「んーまぁ、勝手に話すから良いんだけどね
簡単に言うと君が死んだせいで僕らに不都合な事が発生してねー、で仕方ないからから転生させるって事になったのねん」
「とんでもなく軽いような超重いような感じがするんだけど、何?ゲームの修正パッチとほぼ同価値なの俺の存在」
「大体同じモンでしょうね」
「殴るぞ」
眉間にシワを寄せかけるが一旦冷静になろうと抑え込む
「で、俺は何ていうか…オマエが居たトコで言う、謂わば【神様】って言う感じのモンなの
居るでしょ?八百万の神とギリシャ神話とか」
どう見積もってもお前にそんな権威は感じない
それににしても神様とは、そんなモン人の空想なだけで実在しないかと思ってた
「で、さっきも言った通りアナタはワタシ達にとってちょっと不都合~…なんでお馴染みファンタジー系の転生にでもしてやろうかなってワケ、そんでついでにあわよくばボクちんのお手伝いもしてホスィ訳さぁ!!
ご理解OK?ドゥーユーアンダスタン?」
腹立つ話し方は一旦置いておいて兎も角、もしコイツの話を信じるなら俺が今此処に居る理由は大体分かった
「えーつまりアレか、なろう転生か」
「しょーゆーこと、情緒無いねチミ」
お前にだけは言われたくない、てかさっき散々言ってたのお前
まぁだが実際自分に死んだ記憶的なものがある現在、その様な自体とでも理解しておかないと混乱しそうである
主に果ての無い空間とか謎の男とか今の俺の現状とか諸々で
「で、なら一体俺はどうすりゃ良いのさ」
「おっ信じちゃうの?てっきり信じられないーってとゴネると思ったんだケドなー、まっ手間が省けて良いか!」
今でも信じてはいない、決して
「…つっても基本的にゃやる事は丁度今言った通り【異世界転生】、ついでに私のお仕事を手伝って貰いたいんよ」
「仕事?」
仕事、となると神様の仕事を担っていくワケになるのだが
「仕事っても大した事じゃないよ、ただちょっと世界救えとか国の問題全解決しろとかその程度よん」
「その程度で済ますレベルじゃねえ」
ゲーム感覚で国救うのが一般なのなら自分はトラック程度で死なないと思うのだが、そこのところは何を言っても仕方ない
「まぁまぁ話はここから、なろう転生だって言ってましたよねん?」
言ってたな、俺が
「てなワケで…君にはチートを差し上げます!
コレなら世界征服もお手の物、異世界攻略も楽チンなのですっ!」
「何て雰囲気の無い謳い文句…で、どんなの貰えんの?」
パワーでごり押しな能力ステータス限界値系か、技術で器用万能な大量スキル系か、それともピーキーな相性勝負の異能系か、はたまた知能全部乗せか、万能型かまた別の何かか
こう考えると夢でもワクワクするものである…あくまで、あくまで信じてないけれども!
「そんじゃ【能力やスキル等を限度無く習得出来るチート】あげる、これなら最悪雑魚敵数百年位続けて倒してりゃラスボス越えるから
そういう訳で宜しく、後適当に頑張ってね!」
「待って」
前言撤回、やっぱ神ってクソ以外の何物でも無ぇや
だってこの能力パっとだけ聞いてりゃ聞こえは良いが、要は何もない状態でエンカウントスライムのみでレベル上げて魔王倒せというものだ
いや無理ゲー以前に…最早人生レベルの嫌がらせか何かだろ
「分かった話し合おう、せめて異世界の言語で話せるアレとか無限収納出来るアイテムボックス的なソレとか、せめて手心を…」
「取り敢えず様子見て修正パッチ追加って事で、行ってらっさーい」
「今すぐ直せぁあアアアーーーー…!!!!」
抗議する暇も無く俺は突如真下に出現した大穴の中の真っ暗闇に向かって、そのまま抵抗する間も無く一気に真っ逆さまに落下していってしまった
マジで覚えてろよ、クソ神野郎
そして勿論その後元住んでいた世界とは似ても似つかないようなファンタジー世界に転生し英雄と奉られる事になるのだが、まだこの時の俺は全く知る由も無かった
…そして、これは俺の感覚にして無数にも思える転生を繰り返した後のお話
ー【とある世界】ー
「……来たか」
とある世界の真っ黒な四角い建物の中のだだっ広いある一つの部屋、そこにはある二人の男の影が姿を露わにしていた
「よっと、此処か」
「クックックック…」
二人はお互い対になる様にそれぞれ向き合いながら立っている
そのうちさっきまで座っていたのか部屋の玉座に背を向けて仁王立ちをし、もう一人の男を見下しながら自身のマントを翻して口を開いた
「良くぞ此処が分かったな、我の長年の敵だったアイツさえ気付かなかったというのに」
「ただの裏技だ、ウラワザ」
もう一人の男は着ている安っぽい黒のシャツに付いた土埃を払いながら、半開きの目で対の男をただじっと見据えている
そう、この男こそが今の俺こと転生者【達人 正】なのだ
俺は現在この世界にていつも通り転生に成功し此処に過ごしこの世界のラスボスと少しばかり体面をしている、言わば最終決戦というやつだ
…といっても俺はあくまでもこの世界の主人公では無い、まぁそれに関しては今の俺の仕事を含めて後々機会があったら…という事にしておく
と、そうこう説明しているうちに目の前の男がまた喋りだそうとしていた
「裏技ねぇ…まぁ良い、それよりも
先ずはこの我の真の拠点にたどり着いた事を素直に誉めてやろう、今までこの我が研究所を見つけ出したのは貴様が初めてなのだからな」
「そりゃどうも…」
こんな悪趣味な研究所に似つかわしくない玉座置いといて良く言うよ厨二野郎、大体此処はクリア後に主人公が見つけるはずの裏要素的な場所だろうが
と、俺はそんなどうでも良い事を考えながらズボンのポッケに手を突っ込む
「だが…残念な事にこの溢れ出る力はもう誰にも止められん、世界を救う異能を持ち我を倒したアイツも…そして貴様でさえも!!」
「ふーん」
話からみるとその主人公とやらは世界を救う程に大層な力をお持ちのようで、俺は結局最後まであんま面識無かったけど
「何故我にこんな強大な力が備わったのかは分からない…がそのお陰で俺は更に強くなった、今や世界…いや銀河をも支配出来るだろう!!」
「そんで?」
「…貴様にも目に浮かんでくるだろう…この世界の全てが我に支配される光景を、この世の全てが絶望に染まるその瞬間を!!」
「そうか」
「……貴様、さっきから「ふーん」とか「そんで」とかやけにテキトーな返事ばかりだが…よもやこの我の言葉を聞いていないのではあろうな?」
「そうっすねー」
「…………ぬうぅぅぁああああーーーーッッ!!!!」
完全に話を聞かずに耳をほじくっている俺に、遂に目の前のがブチ切れた
今からしたら悪いとはちょっとだけ思っちゃったりしてる
「あ、話終わった?そろそろ戦っとく?」
「…良かろう、こんな巫山戯た茶番はもう仕舞いだ
頂点の更に上の…神の領域にまで達したこの我の力をとくと見ろ!!」
そう言うと目の前の敵である男は何やら黒く怪しげなオーラを漏らしながらふわりと厨二浮かんでいき、俺を睨む様に見つめ直す
すると男の力だろうか、この部屋全体が地震の様に震え始めた
「そして…ぬぅうううんッ!!」
そして次の瞬間、男の体が怪しいオーラに包まれ急に光りだす
数秒光った後に黒いオーラが煙の様に晴れていきその姿がやっと顕になった
「…采配の神!!
ハァハハハハハ…コレが、神たる我のォ…真の姿だァ!!」
だがその姿と雰囲気はまるでさっきとは別のものだ
ドス黒いエネルギーを自身に取り込んだその姿は肌が黒く染まり刺青の様な模様が刻まれていく、そしてそのオーラはより邪悪なものへと染まっていく
その姿は最早神ですらない禍々しい何かだった
「畏怖し、恐怖し、震え上がれ…喚け、叫べ、乞い続けろォ!!世界は全て我の為に有るのだ、それが運命!!有るべくして起こったのだ!!」
宗教じみた妙に気持ち悪く臭く長ったらしい言い回しで両手を広げ叫ぶ、自分が本当に創造主か神の子にでもなったつもりなのか
「あのー…まだ時間かかりそう?何なら早く寝たいんだけど俺」
これはゲームじゃない、当然スキップ機能なんてこの世界には無い
意味一つ無い無駄な長丁場に若干イライラしてきた俺は鼻を呑気にほじりながら棒立ちになって、つい覚醒ラスボス相手に挑発をかましてしまった
「その余裕が何時まで持つのか…見物だなァッ!!」
すると男は手をこちらに向けて紫色のデカいエネルギーの弾を放ってきた
「…ッ!!」
俺は素早く初弾を回避し敵を改めて見据える
「死ね死ね死ね死ね、死ねェーーーー!!」
対する敵は俺を狙ったまま一気にマシンガンの様に小さな光弾を絶え間無く連続で放ち、有無を言わさぬまま仕留めようとした
瓦礫崩れと爆発による煙が俺を覆い小綺麗だった部屋は見る影も無い
「我の力の前に為す術も無い様だな…
だがこの程度で終わるとは思っておらん、更なる地獄を思い知るがいい!!」
そう叫びながら男は次に煙の中に勢い良く飛び込み俺に蹴りを叩き込んだ
「ぐぅ…ッ!?」
俺は壁を突き破り吹っ飛んだ形で施設を強引に出た、がそれを敵が追う
逃がさんとばかりに追い詰める様に
「そォらぁああッ!!
でぃああ!!ふんッ!!オラァ!!ぜぇィああッ!!」
「…………っ!!」
何度も追い討ちをかましてブっ飛ばしその度に光の速さと言わんばかりの超速で回り込み、また殴り飛ばすの繰り返し
威力もまた凄まじく強化されており打撃を一発放つだけで風が吹き荒れる
「フン、されるがままとは随分と敵ながら情けないな!?
だが容赦する気は既に微塵も無い、そろそろカタをつけさせて貰おう!!」
「っ…ぉおお!?」
そう言って今度は男は俺の胸ぐらを掴んで高く空中へと放り投げた
その飛距離は雲などすぐに突き抜けてオゾン層近くにも及ぶ、といっても男からしたら本当にただ放り投げただけなんだろうが
それ程に、相手は強大な力を持っているという事か
「っとと、随分と荒っぽい真似しやがるな…」
俺は何とか自身の能力で勢いを止めつつ空中であるその場に留まった
「ほう…まだ減らず口が叩けるとは余裕ではないか、前の我では到底適わなかっただろう…素直に褒めてやりたいものだな」
と、そんな事を思っている間にも敵であるあの厨二男は俺の遥か上を飛び、まるで本当に神にでもなったかの様にコチラを見下していた
黒く邪悪なオーラを纏い仁王立ちをするその姿は、正にラスボスだろう
「良かろう、その力と意地に敬意を評して…
我が最大最強である奥義を持ってして、一撃で跡形も無く葬ってやろうぞ」
「何だ?」
男がふと腕を上に挙げると、周りに漂っていた邪悪なエネルギーが男の真上へと吸い込まれていきみるみるうちに大きな球体となった
「……これは」
「確か貴様は御託が嫌いなのだったな、ならば今此処で苦痛も後悔も辞世の句を読む暇も無く一瞬にしてこの世から消してやろう!!」
いやだからそういうのが長ったらしいって
「ではさらばだ、死ね」
そう言って男は俺に向かって手を思いっ切り勢い良く下ろす
「裁きの一撃ッッ!!!!」
するとそれに呼応した様にエネルギーの塊である真っ黒な球体が一気に膨れ上がり、一本のレーザーとなって俺に降り迫ってきた
その圧力たるや凄まじくさっきの打撃が鼻で笑えるレベルで、大気…いや空間…世界そのものが震えている様にすら感じる
厨二ネーミングとはいえ神の裁きの名に恥じぬ威力であるのは間違いない、少なくとも他の人から見るならば
「…………」
そう思っている間にもビームは自分を抹消せんとばかりに向かってきている、おまけに視界を埋め尽くす程巨大であり逃げられそうにない
コレは、流石にどうしようも…
…と、思うワケもないのだが
「……………………は?」
たった一撃、たった一発の軽いパンチ
「…っと、まぁこんなモンか」
それでもあんな力だけの攻撃をかき消すのには充分過ぎる
その衝撃は空気中を伝い、ビリビリと大気を掻き分けながら広がっていく
ただの、何の変哲もない軽い殴打でだ
「な、何が起きたというのだ…一体何が…!?」
「あっトドメ刺すの忘れてたそぉいッ!!」
「ごふぁッ!?!?」
そしてさり気なく有無を言わさぬまま強烈な腹パンを男の腹に加える
男は息を飲む暇もなく、寧ろ胃液ごと吐きながら意識が薄れていく
「馬鹿な…この俺が、一撃で…!!」
男はそのまま辞世の句すら無く身体を光らせ、やがて爆散し消えていった
まぁ何とも汚く真っ黒な花火だことか
というワケでこの世界のも、漸く役目が終わったという事である
最初にあのトチ狂った馬鹿神様に穴に落とされた後
俺はあの後、アレが言った通り文字通り転生する事となった
そこからは面倒な事こそ多々あったと思うが、まぁ成功もすれば人並みに失敗する事もあったというか
そして一度目の転生を終えた後もまた、少しあの元凶と話し合った後にまた別の世界へと転生していく事になっていったのさ
いつしか俺は転生をしてはまた転生を…というループが自分の中では当たり前になっていって、いつの間にか数え切れない程の異世界へと次々に飛んで行っては色々して…ってのをずっと繰り返す様になった
自慢じゃないがそりゃあもう色々な世界に行ったね
ありきたりな勇者と魔王が戦うファンタジーな世界や侍とか武士とかが蔓延る時代劇的な世界から殺伐とした、デスゲームまで…
勿論それだけ色々してれば経験や力も嫌でも色々身に着くってもんで、じみーな技術に研究方法から所謂魔法とか超能力とかなんてのまで幅広ーく手に入れた
…いや手に入れたというか、正直半ば呪いっぽく押し付けられたね、うん
とまぁ最初こそそりゃあ新鮮な感覚だったし中には使い慣れなかったりーとか面倒だとかも多かった、だけれどもまぁ今となってはそれも気鬱
長いことやれば人は慣れるっていうけれど、これも正直な話慣れたくはなかったと言えばそうだ
寧ろ帰りたい気持ちのが多かったね、うん
と、話が大分逸れた訳だが
そんなワケで俺は今日も面白おかしくもあのバカの仕事とやらに付き合うという名目でまた異世界を満喫する旅に行っていた、という事だ
だが一つだけ、転生したばかりの俺は失念していた事があった
珍しく動揺していたからか…はたまた異世界転生なんてものに小学生の遠足前日みたく内心はしゃいでいたからか、まぁ冷静な思考では無かっただろうな
まぁだからこそ…
俺も思わなかった
まさか本当に、それが一億回続くなんて…
《プロローグ・完》
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる