私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜

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約束した場所

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『金曜日、食事に行きませんか?』

 なんて送るか何度も何度も入力し直し、結局シンプルな言葉でお誘いの連絡をした。真崎さんの話を聞いて、副社長と向き合わなきゃって思えたから。それに失恋するとしても、ちゃんと自分の気持ちを伝えないと次に進めないってことにも気付けたから。

 ただ…月曜日に送るんじゃなかった。ポジティブ思考になったりネガティブ思考になったり、告白するぞって気合を入れたりやっぱり無理かもって思ったり、早く金曜日になってほしいようななってほしくないような、気になってソワソワしてしまう。

 そんな1週間を過ごしてようやく金曜日の定時1時間前…

「あっ、月曜の会議で必要な資料、作るの忘れてたっ!」

 うわぁ…近くに座っている営業さんの大きな独り言が聞こえてしまった。作ってほしそうな目でこっちを見てくるけど、気付きたくない。

「佐伯さん、お願いがあるんだけど…」
「あー、はい。なんですか」

 最悪。もっと早くに思い出してくれればよかったのに…。コレ、絶対1時間じゃ終わらないよ。念のため先に連絡しておこうかな。

『残業になりそうです』

 気合を入れた日に限って残業なんて…先行きが不安でしかないよ。

『何時まででも待ってる』

 ………。たったこれだけでも期待してしまうじゃん。


 ダメ元で定時までに終われるよう頑張ってみたけど、やっぱり無理だった。後1時間とかで終われるかなぁ?

「佐伯さん? 何かありました?」
「えっ!? な、なにもないよ」
「あるんですね」

 津村ちゃんにだけ聞こえるよう小さな声で、今夜副社長と食事に行き、ちゃんと向き合ってくると伝えると…

「じゃあもう帰りましょう! 残業なんてしてちゃダメですって。あとは私に任せて行ってきてください」
「でもっ」
「行ってきてください!」

 残業したいような、変わってくれてありがたいような、最後まで不安定の気持ちのまま副社長に連絡し、待ち合わせの駐車場へ向かう。



「お疲れ様です…」

 久しぶりにちゃんと顔を見たかもしれない。副社長は私が来たことに安堵したような、少し嬉しそうにも見える顔をしていて、なぜだか涙が出そうになった。

 諦めなきゃって思っていた間もどんどん好きになってしまっていたんだ…。こんなに好きになる人が現れるなんて…この想いが届いてほしい。実ってほしい。

「行こうか」
「…はい」

 副社長が予約してくれていたお店は、2人で初めて食事に行った某有名ホテルに入っている、自然薯メニューが豊富にあるあのお店。

 店員さんに案内されたのは窓際で、景色が最高にいいテーブル席。

「ちょうど月曜にキャンセルが出たみたいでな。初めて花音から食事に誘ってもらったから、どうしてもこの店に来たかったんだ」

 あの日、今度は景色のいい席をと約束したことをちゃんと叶えてくれた。同じように覚えていてくれてすごく嬉しい。




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