迷子猫(BL)

kotori

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第1章

6.ミケside

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熱いシャワーは、全てを洗い流してくれる気がする。
全身に湯を浴びながら、そんなくだらないことを考えた。

ガチャリ、とドアが開く音。

「長風呂だな」
「……せっかちだね、」

振り返らずに呟くと、後ろから腰に手をまわされた。

「知らなかったのか?」
「………」

濡れた肌に触れる手は冷たくて、鳥肌がたった。
でもそれはすぐに馴染んで、身体の至る所を撫で回されると徐々に自分の身体の方が熱をもっていく。

「……っ!」

いきなり先端を弄られて、びくりと肩を震わせた。

「気持ちいいのか?」

耳元で囁く声は低く、蜜のように甘い。

「でもおまえは、もっと酷くされるのが好きなんだよな?」
「…っあ!や」

硬くなりはじめたソレをぎゅっと握られ、思わず痛いと声をあげた。

「いや…っ、」
「嘘つけ」

そのままタイルの上に、仰向けに寝かされる。

「ほら足開けよ、淫乱」
「………」

言われた通りにすると、湯気の中から彼の顔が現れた。
そしてなんの前置きもなく、いきなり突っ込んでくる。

「……っあああっ!やだ、ム…リっ!」

反射的に彼の身体を押しのけようとする。
けれどそれは簡単にねじ伏せられて、彼は乱暴に俺の身体を貫いた。
まぁよくあることなので、前もって自分で慣らしていたからよかったものの。

……無茶だっ…て…っ

それでもいきなり挿れられると、やっぱりキツい。

「やっ!痛い、あ、あぁっ、やめ…っ!」

どんなに喚いても抵抗しても無駄なことだとわかっていて、でも敢えてそうするのは彼が悦ぶからだ。
Sっ気のある客は結構いるけど、この男はその中でも特に酷い。
だけど、セックスは上手かった。



……あいつと寝たら、どんな感じだろう

全身で彼のモノを受け入れながら、そんなバカみたいなことを考えた。
でも想像はできなくて、そのうち考える余裕もなくなってくる。

「は、あ…んっ!」

気を失うかと思うほど乱暴に突き上げられ、かと思えば尻を掴まれ小刻みに動く。
たぶんこの男は、俺の身体を俺以上に知り尽くしている。
苦痛は徐々に快感にすり替えられ、気がつけば男の動きに合わせて腰を振って喘いでいる自分がいた。

「……ぅあ、っ……あ」

痛みで一度は萎えたペニスが、再び熱をもちはじめた。
誰とやろうが正直に反応する、この浅ましい身体。
自嘲気味に笑った俺が気に障ったのか、彼は更に激しく俺を犯した。

自分の漏らす声と、肌がぶつかる音だけが浴室に響く。
もうシャワーの音は、聞こえなかった。
目を閉じて、与えられ生まれゆく快楽とその熱に身を委ねて。
俺は考えるのをやめた。



行為の後、彼はいつものように窓辺で煙草を吸っていた。
ベットに横たわったまま、ぼんやりとその後ろ姿を眺める。

……あの窓の向こう側

そこにあるのは、彼の日常。
俺にとっての日常は、彼らにとっては非日常。
だから彼らは目的を果たすと、その窓の向こう側にある生活へと帰っていく。

バスローブを羽織り、彼の隣に立った。
昼間はあんなに晴れていた空が、灰色の雲に覆われている。

「……吸うか?」
「……フツー勧める?教師のクセに」

笑って、彼のゴツゴツした指から吸いかけの煙草を抜き取る。
この煙草の匂いを嗅ぐのが好きだ。
この男の身体にしみついている、匂い。

「……家、帰んなくていいの?先生」

……寄り道ばっかりしてさ、

すると、彼は黙ったまま俺を抱き寄せた。
夜風に冷えた俺の身体は、さっきとはまた違うぬくもりに包まれる。

「……灰が落ちるよ」



征服欲が強く、嫉妬深い。
この男とのセックスは、彼の隠れた本質を露わにする。
普段は穏やかな、彼のなかに眠るもの。
有無を言わせず屈伏させ、蹂躙し、ギリギリまで追い詰めたうえで散々焦らす。
理性を失い懇願する相手に向けるその眼差しは冷たく、時に蔑むように笑う。

……歪んでる、

彼と寝ることが嫌いじゃない自分も、人の事は言えないんだろうけど。

幾度となく重ねられきた身体は、それを知ってる。
痛みや苦痛や恐怖がある一点を越えた時の、浮遊感、そしてまるで自分の身体ではなくなるような、あの感覚。

絡まる舌に応えながらも、再び熱を持ちだした彼の下半身に手を伸ばす。
吸いかけの煙草は、とうに奪われていた。
口いっぱいに頬張ったペニスを舐めまわしながら、唾液と先走りにまみれたソレがドクドクと脈打つのを感じる。
低い呻き声が聞こえた。
俺は額に汗を滲ませながら苦悶の表情を浮かべている彼を見上げて、微笑む。

「……もっと?」

そう言葉を発した瞬間、強い力に腕を引かれた。


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