迷子猫(BL)

kotori

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第2章

6.ミケside

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なんでだ。
なんでなんだ。
全然わからない。 

キスだってセックスだって、今までに数えきれないくらいした。
でも、その行為自体に快感を覚えることはあっても、そこに感情が伴うことはなかったのに。

――気持ちがあるのとないのでは、全然違うと思うよ?

前に、可奈さんに言われたことを思いだす。

「………」

英語の教師の声をぼんやり聞きながら、窓の外の空を眺めた。

……可奈さんに会いたいな…

あの人の笑顔を見ると、妙に安心する。





「三宅」

廊下で河西に呼び止められた。

「帰るのか」

周囲に生徒がいたからか、口調が柔らかい。

「……頭痛がして」

タイミングが悪かった。
そのまま通り過ぎようとすると、彼はすれ違いざまに言った。

「おまえは絶対、戻ってくるよ」

思わず立ち止まって振り返ると、河西は笑っていた。

「人は、そう簡単には変われない」
「………」
「寺嶋も、そのうち気づくさ。そしたらおまえは…」

最後まで聞き終える前に、俺はその場から走りだしていた。





校舎から飛び出して、肩で息をしながらグラウンドのフェンスにもたれかかった。

「……っ、」

あまりの苦しさに、胸を手で抑える。

……なんだ、これ

それは今までに、感じたことがないような痛み。
その時カキーンという金属音が聞こえて、顔をあげるとグラウンドで生徒が野球をしているのが見えた。
昼休みなので、みんな制服姿だ。
ユウタああ、と誰かが叫ぶ。

「てめ打たれてんじゃねええ!」
「本気で走れ海斗ーっ!」
「うっせえ!!」

笑い声。
ワンバウンドしたボールを外野がキャッチして送球する。
海斗は砂埃をあげながら、ギリギリでホームに滑り込んだ。

「おっしゃアイス奢りぃ」
「裕太てめええっ」
「ごめん、今日調子悪くてさー」
「おまえいつもじゃねーか」
「ひでええ良ちゃん」
「海斗ぉ、おまえマジ野球部来いよっ」
「やだよ。あ、俺ジャモカ」
「んでだよ、もったいねえ!!」
「俺、運動嫌いだしー」

友達と一緒に、楽しそうに笑っている海斗の姿。

「………」

俺は目を逸らすと、ふらふらと校門に向かって歩き始めた。




 
「なんか外で会うと、変な感じね」

珍しく酒が入ってない可奈さんは、煙草に火をつけながら言った。

今日はユカリさんの店は休みだ。
前に教えられた可奈さんの携帯に電話したら、あと一時間で終わるからちょっと待っててと言われた。
そしてきっちり一時間後に、彼女は駅前のド○ールに現れた。

可奈さんはわりと名の知れた、大手の広告代理店で働いている。
忙しいのにすいませんと言うと、彼女は笑った。

――別にいいよ、あんたにはいつもつきあってもらってるし

可奈さんは黙っていれば美人で仕事ができる女の人って感じなのに、口を開いた途端に親しみやすい印象になるから不思議だ。
彼女の恋多き人生に関わってきた男達は皆、そのギャップに惹かれたのかもしれない。

「で、あんたは一体何に悩んでるわけ?」
「……悩んでる、っていうか…」

それさえもよくわからないっていうか。

「なんか相談があったから、電話してきたんでしょ?」
「………」
「………。ねえミケあんたさ、なんか隠してること、ない?」
「……え」
「別に言いたくないならいいけどさ、」

アイスティーをストローでかき混ぜながら、可奈さんが言う。

「ユカ姉も、心配してたよ?」
「………」

ユカリさんはなんとなく、気づいてる気がする。

「……可奈さん、俺…」

今までの事をかいつまんで話した。
家を出た事、お兄さんに拾われた事、そして今まで自分がしてきた事…。
可奈さんはそう驚くことなく、ただ黙って俺の話を聞いていた。

「……そういうこと、」

小さく息を吐く。

「ユカリさんには…言えなくて」

酒も飲めないのにいつ店に行っても笑顔で迎えてくれて、まるで年の離れた弟みたいにかわいがってくれて。
彼女には、軽蔑されたくなかった。

「……相手の子、海斗くんだっけ。全部知ってるの?」
「……大体は」

そもそも出会ったのが、バイト中だったし。

「じゃあその子は…覚悟してるんだね」
「……覚悟?」
「今までの事も含めて、あんたを受け入れようとしてるってこと。でも代わりにバイトまでするなんて、よっぽどあんたのこと好きなのねえ」

可奈さんは二本めの煙草に火をつけながら言う。

「そこまで自分の為に必死になってくれる人って、そういないよ?」
「………」
「あんたも、覚悟決めなよ」
「………」
「あたしでよかったら、いつでも相談にのるからさ」
「……可奈さん、さっき話したこと、ユカリさんには黙っててくれる?」
「いいよ。……でもさぁ、アレだね。初恋って感じだね」
「……は?」

はつこい?

「いやもうあんたの話聞いてると、そうとしか思えないんだけど」
「………。可奈さんの初恋っていつ?」
「小学校の頃。隣りの席の山口くん」
「……ありがち」

思わず吹きだすと、なによーっと可奈さん。

「あたしにとっては大切な、ちょっと切ない思い出なのよ?聞きたい?」

笑いながら頷く。
外は少しずつ、暗くなり始めていた。


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