迷子猫(BL)

kotori

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第2章

9.

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連れていかれたのは、通りの外れにあるこじんまりとしたラーメン屋だった。

「寺嶋、好きなもん頼めよ」

並んでカウンターに座ると、河西が言った。

「いや、でも」
「いいからいいから。腹減ってんだろ?」

確かに今日は忙しくて、賄いを食うヒマもなかった。

「……すいません」

俺はチャーシュー麺大盛、河西は普通のラーメンと餃子を注文した。

「……いいんすか?見回り…」
「さすがにこんな所までは来ないだろ」

……いや、そういうことじゃなくて…まぁいいか

「……で?おまえはいつから、あそこでバイトしてんの?」
「………。二カ月前っす」

やっぱバレてるよなぁと思いつつ、正直に白状した。

「……けど、なんで見逃してくれたんですか?」

するとそうだなぁ、と河西は煙草に火をつけながら言った。

「俺は別に、学生が働くのは悪いとは思わないからなぁ。社会に出たらむしろ、学校の勉強より経験の方が役立つ事もあると思うし」

やっぱりこの人は、教師っぽくない。

「けどまぁ、決まりは決まりだからな。理由によるよ」
「………」

その時ラーメンが運ばれてきて、まぁとりあえず食えよと河西は言った。
本当の事を言うべきか、迷った。
この感じなら、進学費用だと言えば見逃してくれそうだけど。

「……初めてだったんです」

割り箸を割りながら言った。

「何が、」
「誰かの為になんかしたいって思ったこと、今まであんまなかった気がするんです、俺」
「………」
「つっても俺、大したことは出来ないんですけど。けど、それでも…出来る限りのことはしてやりたくて」

それが、自分のためでもあって。

「……前に、話してた奴のこと?」
「……はい」

あの時河西と話したことで、俺は自分の気持ちに気づくことが出来たんだと思う。
だから、信用できると思った。

「……世界の壁は、乗り越えたか」
「それは…たぶん、まだっす」

ラーメンを啜りながら言う。

「けどそんなもん、俺がぶち壊してやろうかと」
「……頼もしいな」

河西が笑った。

「なんか俺、超恥ずかしいこと言ってますね」
「そうだな」

ラーメンはとてもおいしかった。



河西とは店の前で別れた。
すぐ帰れよって言われたけど、明日はせっかくの休みだ。
さっそく裕太発案のアリバイを使わせてもらう事にする。
ミケに電話をしながら夜空を見上げると、きれいな月が見えた。


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