迷子猫(BL)

kotori

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第2章

10.ミケside

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「おかえり」

そう言ってから、その言葉を自然に口にした自分に気づいて驚いた。
でも海斗は俺の動揺に気づくことなく、ただいまと言う。
それこそ、自然に。
なんだか落ち着かない気持ちで、煮物を温めなおそうと鍋を火にかける。

「あ、ごめんメシいいわ。さっき…知り合いに会ってさ、ラーメン食った。それ、明日食べていい?」
「うん」

いいも何も、おまえに作ったんだし…。

「………」

……あれ?

「あー、マジあちぃ…シャワー、借りてい?」
「……うん」

……俺、こいつの為にメシ作ってたの?

「……ミケ?」

茫然としている俺に気づいて、海斗が俺の顔を覗きこむ。

「どうした?」
「……っ!なんでもない、さっさと入れよ」
「……?うん」

浴室のドアが閉まると同時に、息を吐いた。
ふるふると持っているおたまが震える。
なんで俺、こんなにどきどきしてんの?
意味わかんない。
その時、再び浴室のドアが開いた。

「なーミケ、シャンプーの替え…何してんの?」
「………」

びっくりして、おたまを落としてしまった。



「……何、どうした?気分悪い?」

風呂からあがった海斗が言う。

「なんか、顔赤いし」

デコにデコをくっつけられる。

「……っ!」
「熱はねぇみたいだけど」
「……なんっ、でもないから」
「そ?」

その時、テーブルの上で携帯が鳴った。
海斗の顔が離れて、ホッとする。

「……やべ、忘れてた」

画面を見て、海斗は慌てたように電話にでた。

「すいません、連絡遅れて。……はい、あ、もう大丈夫っすよ」

海斗の声の隙間に、途切れ途切れに聞こえてくる女の声。

……大丈夫って、何が?

「……何かあったの?」

電話を切った海斗に言った。

「いや別に、大したことじゃねぇんだけど」
「………」

ねぇんだけど、なんだよ。
てゆうか、俺は何を気にしてるんだよ。

「……ミケ?」
「………」

……おかしい

今日の俺はおかしい、うん。疲れてんのかな。
別にいいじゃん、電話の相手が誰だって。

「……今のは、春日さん。バイト先の先輩」
「……訊いてねーし」
「じゃあなんで、そんな顔すんの?」

海斗はおかしそうに笑って俺を抱き寄せると、床に座った。

「かわいー」

そう言うと、俺のデコにキスをする。
続けて目尻と頬にも唇をつけられて、ぎゅうっと抱きしめられた。

「どうしよ、マジで。超好き」
「……っ意味わかん」

文句を言ってる途中で、唇を塞がれた。

「………ん…ッ」

今日の俺は、やっぱりおかしい。
たぶん昨日、遅くまでテスト勉強をしたせいだ。
電話の相手が誰なのかわかってホッとしてるのも、なんか今、すごく気持ちがいいのも。

きっと全部、そのせいだ。



いったん頭を冷やそうと思い、風呂に入った。
そして部屋に戻ると、海斗は床の上に大の字で眠っていた。

「………」

疲れていたのか、いびきまでかいている。

……マヌケな顔…

「……おい」

肩を揺すってみても、まったく起きる気配はない。
前から思ってたけど、こいつはほんとに寝起きが悪い。
てゆうか、一回眠ってしまうと全然起きない。
おかげで何回遅刻しかけたことか。

「……海斗、こんなとこで寝たら風邪ひくから」
「……ん…」
「ベットで寝ろって」

うにゃうにゃとワケのわからない事を呟いて、海斗は俺の手を掴んだ。
そしてそのまま抱き寄せられる。

「ちょっ…」
「……ミケ…」
「……っ」

まるでぬいぐるみみたいに抱っこされて、俺は固まった。

「……かい、」

抱きしめられたまま顔をあげると、海斗は気持ち良さそうに寝息をたてていた。

「………」

……なんなんだよ

腰に手をまわして、目を閉じる。
海斗の腕のなかはいつだってあたたかくて。
そのたくましい胸に顔を埋めていると、なんだかとても安心できて。

だけど、心臓が破裂しそうなくらいに。

すごくどきどきする。


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