迷子猫(BL)

kotori

文字の大きさ
45 / 78
第4章

1.ミケside

しおりを挟む
  
「えー、じゃあ海斗くん、わざわざ休みとったの?」

なんか悪かったかなぁ、と可奈さんが言う。

「でも、海斗も会いたいって言ってたし」
「んー、いきなりこの店で会うよりはねぇ」



――海?

ペットボトルの水を手にした海斗は、意外そうな顔をした。

――可奈さんに誘われたんだけど…一緒においでよって

――あぁ、てゆうか誰?あの人

――誰って…知り合い

としか説明のしようがない。

――悪い人じゃないよ

酒癖は悪いけど。

――ふぅん

――……でさ、もう一人、今まですごく世話になった人も来るんだけど

――へぇ

いんじゃね、と海斗は笑った。

――俺も会ってみたいかも。それになんか、俺たちすげえインドアだしさ。たまにはいいよな



「ユカねえ、おかわりー」
「可奈、あんた飲み過ぎよ?」

空いたグラスを受け取りながら、ユカリさんが呆れた顔をする。

「ミケ、あんたももう時間でしょ」
「えー、もう帰んの?いいじゃん、今、夏休みでしょー?」
「補習があるんだって」
「補習ぅ?あんた頭いいんじゃなかったの?あーっ、もしかしてカレシといちゃつくのに忙しくて、勉強する暇がなかったとかー?」
「………」
「げっ、マジで?やらしーわね、ガキのくせに」

まあまあ、とユカリさん。

「でも、海斗くんも一緒なんでしょ?」
「……それがあいつ、自分だけ先生に頼みこんで追試受けてて…」

そもそも試験を受けられなかったのは、あいつが朝方までちょっかいだしてきて寝過ごしたせいなのに。

「そういえば、あんたあの先生とはどうなったの?」

ユカリさんが思いだしたように言う。

「どうって…別にどうもなってないけど」

ストローでオレンジジュースをかき混ぜながら答えると、可奈さんが身を乗りだしてきた。

「ちょっ…あんたまさか、教師にも手ぇだしたの?」
「だしたっていうか、別に…」
「ドSらしいわよ」
「……見たい!!あんたちょっと、今度海に連れてきなさい!!」
「無理」

てゆうかそれ、想像するだけでまじ怖いし。

……それにしても

明日の補習の事を考えるとかなり憂鬱だ。
河西とはもうずっと連絡をとってないし、学校で話すこともなかった。 

……なのになんで、よりにもよって…

補習中、たまに感じる強い視線。
だいたい海斗にだけ追試を受けさせてる時点で、何か思惑を感じるし。

「よし!こうなったら絶対海でイイ男捕まえる!」
「……それって男連れだとまずいんじゃ」
「あんたは海斗くんといちゃいちゃしときなさいよ!」
「いちゃいちゃって…」
「でも、よかったわね」

ユカリさんが笑いながら言った。

「うまくいってるみたいじゃない」
「……うん」

俺は曖昧に笑うと、氷が溶けて薄くなったオレンジジュースを飲んだ。





「可奈さん、大丈夫?」
「なにがー?」

タクシーを拾う為に、駅前まで歩いていた。
完全に酔っている可奈さんは、前に会った時より少し痩せた気がする。
店ではいつもと変わらない様子で笑ってたけど、なんとなく無理をしてる感じがあった。
たぶんそれには、ユカリさんも気づいてた。

「……なんか、あったの?」
「えー?別にないよぅ。なに、ミケちゃんあたしのこと心配してくれてんのー?」

やさしーっ、といきなり抱きつかれる。

「ちょ、あぶな…」
「………。ねぇ、あたしのこと、ほんとに好きになってくれる男なんているのかなぁ?」

ぽつり、と可奈さんが呟く。

「……可奈さん?」

なぁんてね、と彼女は笑いながら身体を離した。

「心配してくれてありがとう。でもほんとに、大丈夫だから」
「……だけど、」

と、その時。
鋭い視線を感じて、振り返った。

「………!」

そこに立っていたのは、前に屋上で会った海斗のクラスメイト。

「……誰?」

可奈さんはきょとんとしている。

「……ふぅん、おまえ女ともヤれんだ」

まるで汚いものを見ているような表情で彼は言った。

「……この人は、そんなんじゃ…」
「おまえさぁ、海斗になに言ったの?どうやって唆(そそのか)した?」
「………」
「別におまえが誰とナニしてようと関係ねぇけどさぁ、俺の友達巻き込むのはやめてくんねぇ?」

雰囲気を察した可奈さんが、ちょっと待ってよと口を挟む。

「あんた、いきなりなんなワケ?偉そうに」
「るせぇな、部外者は黙ってろよ」
「……あんただってそうじゃないの?」

可奈さんがむっとした顔で反論する。

「それに、この子と海斗くんはちゃんと…」
「黙れよ!!どうかしてんじゃねぇの、おまえら」

怒鳴り声に、通行人がちらちらとこっちを見ていた。

「大体ちゃんとってなんだよ、こいつは金の為なら誰とだってヤるんだぜ?」

気色わりぃんだよと彼は言い捨てると、背を向けて歩きだす。

「なによそれっ」

俺は呼び止めようとした可奈さんの手を掴んだ。

「いいから、別に」
「はぁ?あんたムカつかないの?!あんな好き放題言われて」
「慣れてるから。それに…」

事実だし。

「あいつの気持ち、わかんなくもない」
「……ミケ、」

……だけど、

あいつの事は気にしなくていいって、海斗は言った。

――話せば、わかる奴だから

でも今の感じじゃ、うまくいかなかったんだろう。

……あたり前か

「……ねえ、可奈さん」
「……なに?」
「誰かを大切にするのって、難しいね」

そのせいで、壊れてしまうものもある。

「生きるのって、めんどくさいね」
「……まだ若いくせになに言ってんの!」

べしっと背中を叩かれる。

「みんなそうやって、色々悩みながらもしぶとく生きてんのよ」
「……うん」

可奈さんが言うとなんか説得力があるなぁと思いつつ、俺は笑って頷いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

彼は当て馬だから

藤木みを
BL
BLです。現代設定です。 主人公(受け):ユキ 攻め:ハルト

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...