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第5章
19.
しおりを挟む「まぁ、よかったじゃない。二人とも無事だったわけだし」
ユカリさんが微笑むと同時によくないっ、と可奈さんがカウンターにジョッキを置いた。
「ったく、どんだけ心配したと思ってんのよ!」
「スミマセンでした…」
何も言えずにしゅんとする俺たちを見て、まぁまぁとユカリさんが宥めに入る。
「だけど二人とも連絡がとれなくなった時は、ちょっと焦ったわよ?いざとなったらウチの子総動員で探そうと思ってたんだから」
「……総動員?」
おもむろに振り返ると、そこにはえらくガタイのいい男たちが笑顔でこちらを見ていた。
「……迫力あるわね」
「……そうっすね」
あらゆる意味最強であろう彼らを見て、思わずたじろぐ。
「ま、もういいけどね…」
溜め息混じりに可奈さんが言った。
「………」
「どうしたの?ミケ」
「……花火…」
「……ああっそうだよ、花火大会!もう終わっちゃったじゃん!」
ここ数日何かと忙しかったせいで、すっかり忘れていた。
「行ってみたかったのに…」
「行ったことないのかよ…」
「来月もあるんじゃない?」
どこだっけー、と携帯を弄る可奈さん。
「ちょっと遠いかも?」
「それならもう、どっかで普通に花火をした方が…」
海斗が言うと、じゃあさーと可奈さん。
「とりあえず花火大会は来年にとっといて、バーベキューとかどう?」
「それいいかも!花火もできるしね!」
「いいっすねー!」
「バーベキューしたことない」
「だと思った!」
出会ったのは、夏の初め。
それからいろんなことがあって、すれ違ったり傷つけあったり。
だけどきっと、これからなんだと思う。
「……ところで可奈、あんたが包丁持つところって、なんだか想像できないんだけど」
「……昼ドラ並の刃傷沙汰はありそうだけど」
「ちょっとミケ、どういう意味よ!あのねぇ、これでも…ってコラそこ!堂々といちゃいちゃしない!」
隣りに座る彼の手を握れば、優しい眼差しを返される。
「あらあら。じゃあ車はあたしが出すから、可奈は場所調べといて」
「わかったー。じゃあアンタたちは買い出し担当ね!」
「はーい!」
信じることは、そう容易くはないけれど。
これからだって、迷うことも間違えることだってあるだろうけど。
……きっと、大丈夫
迷ったら、話を聞いてくれるひとがいる。
間違えたら、叱ってくれるひとがいる。
そして誰よりも大切なひとが、傍にいるから。
夜が更けていくと共に、盛り上がっていく四人の会話。
そして気がつけば、長かった夏ももう終わりに近づいていた。
end.
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