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第5章
18.ミケside
しおりを挟む窓から射し込む西日が、教室全体を橙色に染めていた。
「……あんた、なに考えてんの?」
窓際に立つ、その広い背中に問いかける。
「……さぁな、」
振り返った彼の表情は、逆光で見えなかった。
「認めたくなかっただけなのかもな」
「……は?」
「ただ、今さら善人ぶるつもりもないけどな」
「……!」
それは一瞬で、避ける暇もその隙もなく。
触れた唇はすぐに離れて、茫然としている俺に河西はじゃあなと言った。
ドアが閉まる音。
残されたのは、なんだか懐かしい煙草の匂い。
「……もしもし、」
『ミケ?』
電話の向こうの声は明るい。
夕陽がきらきらと反射する川。
辺りにはトンボがたくさん飛んでいて、もうだいぶ涼しくなった風が川原のすすきを揺らしていた。
ついこの間まで、俺はこいつとはまったく違う世界にいるんだと思ってた。
そうやって壁をつくって何も信じないようにする事で、自分を守っていたような気がする。
だけどこいつはそんな事に構いもせず、真っ正面からぶつかってきて臆病な俺を壁の内側から連れ出してくれた。
そして今、俺はこいつの隣りにいて、こいつと同じ時間を生きている。
「わかった、じゃあ八時に駅で……は?あぁ、はいはい」
ナンパ野郎に気をつけろよ、と念を押されて苦笑いする。
「……海斗、」
立ち止まって、あの時と同じような茜色の空を見上げながら言った。
「……ありがとう」
それはずっと言えなかった言葉。
きっと直接言った方がいいんだろうけど、たぶん恥ずかしくて無理だから。
『……何が?』
不思議そうな声。
「……べつに、」
するとなんだよそれ、と海斗は笑った。
電話を切って、川沿いの道を歩きだす。
まだ当分、先になるだろうけど。
いつか伝えられたらいいと思う。
俺を好きになってくれて、ありがとうって。
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