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第5章
17.海斗side
しおりを挟む「……だっせぇ」
「……うるせぇ」
深夜のファミレスはがらがらに空いていた。
向かい側の席に座っていた裕太は、俺の顔を見てにやにやしている。
「なに、誰にやられたの」
「……おまえとお袋」
「え、海斗の母ちゃん意外とバイオレンス」
「つーかてめぇ、まじで痛かったし」
「たりめーじゃん、本気だったし」
ずるずると音をたててコーラを飲み干しながら、こともなげに裕太は言った。
あれから、本当に色々と大変だった。
バイトは無断欠勤でクビになってたので謝り倒してなんとかまた雇ってもらい、俺がいない間の穴埋めをしてくれていた春日さんと上原にも謝った(春日さんは心配してくれてたけど、上原はマジギレだった)。
そしてユカリさんの店に行ったら、今度は駆けつけた可奈さんにこっぴどく叱られた。
「……てかおまえさぁ、」
皿の上のポテトをつまみながら裕太が言う。
「あいつのどこに惚れたわけ?」
「は?」
「三宅だよ。俺にはまったくわかんねぇんだけど」
「………」
「………」
「……さぁな」
「……言えよ」
「俺にもよくわかんねぇよ」
どこが好きかとか、その理由とか。
わからないというより、言葉では簡単に言い表わせない。
「けど、傍にいたい」
そしてずっと、大切にしていきたいって思う。
「……ふぅん、」
裕太は俺の返答に納得はしていないようだったけど、それ以上は何も言わなかった。
「……美咲のこと、頼むな」
俺が言うのも、なんだかおかしいけど。
「……無理」
「は?」
「……てゆうか、フラれた」
「……は?」
「だからフラれたの!二回も言わせんじゃねぇ!」
「え、なんで?」
「知るかよっ。もしかしてまだおまえのことが好きなのかと思って訊いたら、それは違うって言うし」
しばらく一人で頑張りたい、と彼女は言ったらしい。
「………」
「よくわかんなかったけど、それ以上何も言えなくてさ…」
ぐすぐすと鼻を鳴らす裕太。
「ひと夏の恋だったな…」
「おまえに言われると、なんかムカつくわ…」
「仕方ねぇな、メシでも奢ってやるよ」
「マジで?よっしゃ、今日は朝までパーッと!」
「それはパス。あいつ部屋で待ってるし」
「……うぅわサイアク…」
引きつった裕太の顔を見て、思わず吹き出す。
「よし、良平呼び出すか」
戻ってきた日常は、以前と少しだけ形を変えていた。
だけどやっぱり相変わらずで。
それがなんだか、心地よかった。
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