sweetly

kotori

文字の大きさ
3 / 44
前編

3

しおりを挟む
 
一服した後、ぼんやりと空を眺める。
春の陽気が眠りを誘い、フェンスにもたれるようにしてウトウトしかけていた。



―――……い

「………」

―――おい、

なんだようるせーなと思った瞬間、腹に衝撃を受けた。

「……っ?!なっ…!!」

さすがに飛び起きると、目の前に人影。
見上げるとそこには彼が立っていた。

……藤村、要…

「てめぇ、とっとと起きろ」

その愛らしい顔立ちからは、とても想像できないセリフ。

……てゆうかこいつ、蹴ったよな…?

見るとシャツにはくっきりと足跡が…。

「ちょっ、何すっ…!」
「てめえがさっさと起きねえからだろ」

だからって蹴るな!!
どういうルールで生きてんだコイツは!!

……落ちつけ俺、奴は一応先輩だ…

「………。で、なんなんすか?」
「これ、食え」
「……は?」

差し出されたのは、バンダナに包まれた弁当箱。

……はい?

「……え、えっと、なんで?」
「いいから食え」

……いや意味わかんねーから。いいからって何が?

「あの…俺もうメシ食ったんですけど…」
「………」
「………」

おそろしく冷ややかな視線が全身を突き刺す。

……なにこの威圧感…

てゆうか、その人を人とも思ってないような目はやめてください…。

「……食い、ます…」

その妙な迫力に負け、弁当を受け取る。
すると奴は、少し離れた場所に座って煙草を吸い始めた。

「………」

弁当の中身は意外にも普通だった。
むしろ、おいしそう。

「……あ、あの―…」

俺は黙ったまま煙草を吸っている藤村に声をかける。

「これ…」
「毒入りだ。死ね」

……え、えええ…

「嘘だ」

無表情の藤村。

……あんた、なんなのマジで…



貰った弁当は唐揚げに卵焼き、野菜炒めにおにぎりといかにもって感じで特別目新しくはないけど、普通においしかった。
とりあえず食い終えた俺は、空の弁当箱を藤村に返した。

「ごちそーさまでした…」
「おう」
「ところで先輩、コレ…」
「うまかった?」
「え」

上目づかいに見上げてきた彼に俺は不覚にも、ちょっとだけドキドキしてしまった。
今なら中村や広田が騒いでた理由が、少しはわかる気がする。

……てかこいつ、やべえ

たぶん、なんか出てる。
変なフェロモン、みたいなの。

「……うまかった、です…」
「そっか」

小柄で華奢な身体つき。
シャツから覗く白い首筋…って俺、何見惚れてんだ。
ハッと我に返って、慌てて意識を逸らす。

「じゃあお前、明日から毎日食いに来い」

……は?!

「……せ、先輩が俺に、作ってくれるんすか?!」

……てか、なんで?!

「……何ワケわかんねーこと言ってんだ、てめえは」

またしても、冷ややかな表情。

……あら?

「残飯処理」

……はい?

「いちいち捨てんの、めんどくせーし」

……はいい?

「あ、あの―この弁当は一体…」
「いいから、明日も来い。で、感想教えろ」
「え?ちょっ…なんで?!」

てか残飯処理って何?あんた俺に何食わせたの?!
奴は、俺の問いかけをきれいにシカトして屋上から出ていく。
ナゾの弁当の包みを持って。

そして俺はまたしても、屋上に一人取り残されていた…。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

僕と教授の秘密の遊び (終)

325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。 学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。 そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である… 婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。 卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。 そんな彼と教授とのとある午後の話。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...