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前編
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しおりを挟む一服した後、ぼんやりと空を眺める。
春の陽気が眠りを誘い、フェンスにもたれるようにしてウトウトしかけていた。
―――……い
「………」
―――おい、
なんだようるせーなと思った瞬間、腹に衝撃を受けた。
「……っ?!なっ…!!」
さすがに飛び起きると、目の前に人影。
見上げるとそこには彼が立っていた。
……藤村、要…
「てめぇ、とっとと起きろ」
その愛らしい顔立ちからは、とても想像できないセリフ。
……てゆうかこいつ、蹴ったよな…?
見るとシャツにはくっきりと足跡が…。
「ちょっ、何すっ…!」
「てめえがさっさと起きねえからだろ」
だからって蹴るな!!
どういうルールで生きてんだコイツは!!
……落ちつけ俺、奴は一応先輩だ…
「………。で、なんなんすか?」
「これ、食え」
「……は?」
差し出されたのは、バンダナに包まれた弁当箱。
……はい?
「……え、えっと、なんで?」
「いいから食え」
……いや意味わかんねーから。いいからって何が?
「あの…俺もうメシ食ったんですけど…」
「………」
「………」
おそろしく冷ややかな視線が全身を突き刺す。
……なにこの威圧感…
てゆうか、その人を人とも思ってないような目はやめてください…。
「……食い、ます…」
その妙な迫力に負け、弁当を受け取る。
すると奴は、少し離れた場所に座って煙草を吸い始めた。
「………」
弁当の中身は意外にも普通だった。
むしろ、おいしそう。
「……あ、あの―…」
俺は黙ったまま煙草を吸っている藤村に声をかける。
「これ…」
「毒入りだ。死ね」
……え、えええ…
「嘘だ」
無表情の藤村。
……あんた、なんなのマジで…
貰った弁当は唐揚げに卵焼き、野菜炒めにおにぎりといかにもって感じで特別目新しくはないけど、普通においしかった。
とりあえず食い終えた俺は、空の弁当箱を藤村に返した。
「ごちそーさまでした…」
「おう」
「ところで先輩、コレ…」
「うまかった?」
「え」
上目づかいに見上げてきた彼に俺は不覚にも、ちょっとだけドキドキしてしまった。
今なら中村や広田が騒いでた理由が、少しはわかる気がする。
……てかこいつ、やべえ
たぶん、なんか出てる。
変なフェロモン、みたいなの。
「……うまかった、です…」
「そっか」
小柄で華奢な身体つき。
シャツから覗く白い首筋…って俺、何見惚れてんだ。
ハッと我に返って、慌てて意識を逸らす。
「じゃあお前、明日から毎日食いに来い」
……は?!
「……せ、先輩が俺に、作ってくれるんすか?!」
……てか、なんで?!
「……何ワケわかんねーこと言ってんだ、てめえは」
またしても、冷ややかな表情。
……あら?
「残飯処理」
……はい?
「いちいち捨てんの、めんどくせーし」
……はいい?
「あ、あの―この弁当は一体…」
「いいから、明日も来い。で、感想教えろ」
「え?ちょっ…なんで?!」
てか残飯処理って何?あんた俺に何食わせたの?!
奴は、俺の問いかけをきれいにシカトして屋上から出ていく。
ナゾの弁当の包みを持って。
そして俺はまたしても、屋上に一人取り残されていた…。
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