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前編
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しおりを挟む「……なンだ、てめえ…」
「いやあ、なんか楽しそーなことしてっから、見学させてもらってましたぁ」
ははは、と笑う俺。
「……じゃあ黙ってそこで見とけ」
「えぇー?ヤですー」
俺は頭を掻きつつ、香川たちに近づいた。
「俺、先輩の弁当何気に楽しみにしてるんで」
「……あァ?」
「俺のじゃない。アレは残飯だ」
……あんた冷静だなー
「ん~、じゃあ今度、先輩が作ったのが食いたい」
「嫌だ。めんどくさい」
……即答…めんどくさいって…相変わらずツンツン…
「…おいお前ら、何わけわかんねえことを」
「じゃあデートしてください」
「死ね」
あ、ちょっと泣きたくなってきた。
「………。お前、なんなんだ?」
香川が肩を奮わせて言う。
「……俺ですか?たった今フラれちゃった通りすがりの一年ですけど」
「……ナメてんのか?」
両耳ピアスだらけの男と坊主頭の眉なしが、同時に飛びかかってくる。
……あーもう最近の子は血の気が多いったら。献血行け献血
五分もかからず二人を地面に沈めると、ふうーっと息をついた。
その瞬間、鋭い刃先が頬を掠める。
「……っぶねえぇっ」
「……っの野郎ッ!!」
あまり使い慣れていないのか、香川はがむしゃらに突っ込んでくる。
……ったくシャレになんねーから!
「……先輩こそ、ちょっとやりすぎじゃないですかー?」
ガッとその腕を掴んで捻りあげる。ミシッという関節の音と、無様な悲鳴。
「それ以上動くと折れますよ~?」
笑顔で言って、顔面に拳を入れた。
ドサッと崩れ落ちた香川の手を離し、振り返る。
「……えーっと、大丈夫っすか?」
「………」
藤村は俯いたまま、何も答えない。
「先輩?」
……あら、ほんとはビビってたとか?
「あ、もしかして惚れ直しちゃいました?」
冗談っぽく言ってみる。
だけど、いつものツンツンな返事は返ってこなかった。
「……先輩、」
「……お前…西中の、吉河キイチ…?」
声を発したのは、先に藤村にやられていた金髪の男。
「……そうですけど?」
青ざめた顔と、怯える目つき。
今まで何度も見てきたその表情。
あの時ユキちゃんも…同じような顔、してたっけ…。
……あーあ…
ここでは上手くやってくつもりだったのに。
……まあ、仕方ないか…
「……じゃあ俺、これで…」
弁当、まじうまかったな…。
藤村とはもうちょっと、仲良くなりたかったかも…。
そんなことを思いながら背を向けると、不意に呼び止められた。
「……吉河キイチ」
藤村に、初めて名前を呼ばれた。
てゆうかそもそもこいつ、俺の名前を知らなかったんじゃあ…
「……はい?」
藤村はじっと俺を見ている。
……なっ、なに?
「……お前、便利だな」
………は?
「あ、あの?」
「アリだな」
……え?ええ?何が?ってゆうか藤村笑ってる…?しかもなんか黒いよ?不気味だよ…?
「……あの、アリって、何が…?」
藤村は落ちていたカバンを拾い、立ち尽くしている俺の前に来た。
「……!!」
頬の傷に触れた白い手は、少し冷たかった。
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