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前編
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しおりを挟む二階の奥に、藤村の部屋はあった。
「先輩…今の人、先輩のお母さん…?」
「……ああ」
まじでか!!俺、あんなキレイな人が作った弁当食ってたんか!!
てゆうかなに、こいつ美形で秀才で金持ちで母さん美人で…どこまで嫌味な奴なんだ…ちくしょー羨ましすぎる!!
「………」
「…痛っ!」
いきなり消毒液をぶっかけられて、思わず声がでた。
「動くな」
手当てしてくれるのは嬉しいけど、もちょっと優しくしてほしい…。
けど…それにしても…。
時折頬に触れる手や、息がかかるくらい近くにある顔に、俺はもうありえねえくらいに…いやいやいやそれはない。
ないけどそのほんのり赤い唇に今すぐキスしたいとかそんなことを…思ってる俺はおかしい…絶対おかしい!
……やべえ、心臓壊れる…
てか、俺が壊れる。
意識しないようにしようと必死になればなるほど、気持ちがあらぬ方向に動いていく。
そんな俺がなけなしの理性を保つことに全神経を集中させている間に、手当ては終わった。
「ありがとう…ございました…」
「メシ、食ってくか?」
「え、いいんすか?」
「もう用意してると思うし」
藤村は救急箱を持って部屋を出て行く。
「………」
なんか、妙なことになってきている。
今頃合コンで女の子と仲良くしていたはずが、なぜか藤村の家に行くことになり、そして今奴の部屋に一人…。
それにしても広い部屋だな…そして殺風景…。
俺の部屋みたいに、雑誌や菓子の袋なんか散らかってない。
てゆうかそもそもこの部屋には物が少なすぎて、散らかる要素がない。
エロ本とか見ねえのか?とついベットの下を覗いていると、コンコンとドアをノックする音。
部屋に入ってきたのは藤村母だった。
「すいません、ありがとうございます」
ジュースのグラスをテーブルに置きながら、いいえと彼女はにっこり笑う。
外見はちょっとハデだけど、優しそうな人だと思った。
「吉河くんは、要くんと仲がいいの?」
「え…あ、はい…」
仲がいいのかは、ものすごく微妙なところですが。
俺としてはそれを望んでいるんですけども。
「……あの子が家に友達を連れてくるなんて、初めてだから驚いちゃった」
「……そうなんですか?」
意外だった。学校で見かける時はいつも、友達(とゆうか取りまき)に囲まれてるのに。
「……要くんって、学校ではどんな感じ?」
……二重人格です
「……すごく、人気があります」
嘘ではない。
「……そうなんだ」
藤村母は安心したように笑った。
ついその笑顔に見惚れていると、なんの前ぶれもなく部屋のドアが開いた。
「……なんの話をしてるんですか?」
部屋に入ってきた藤村の表情は、穏やかなのに声が冷たい。
「……ああ、ごめんなさい。ごはん、すぐにできるから」
藤村母はそう言うと、部屋を出て行った。
そしてドアが閉まると同時に、藤村は無表情になった。
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