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前編
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しおりを挟む夕飯の後、藤村母に泊まっていけと強く勧められた。
奴に訊いてみると勝手にすればとあっさり言われ、なんとなく断る理由もなかったのでお泊まり決定。
……なんだかなあ…
俺んちの三倍はあるでけえ風呂場で、誰が見ているわけでもないのにそろそろと湯船に浸かりながら思う。
……家族って謎だな…
てゆうかいいね広い風呂、まじ極楽。
ジャクジーまで付いてるよ…。
もうなんだか驚きを通り越して悲しくなってきた…リアル格差ってやつだ…。
藤村に借りたTシャツとジャージを着て、部屋に戻る。
「……せんぱーい、何やってんすか?」
「勉強。邪魔したら締め出す」
「…はーい…」
「………」
「………」
……ヒマだ…
テレビはあるけどつけたら絶対怒りそうだし、ゲームもマンガもないし…。
仕方なく、健太にラインすることにした。
『今、天使のおうち』
……てゆうか、こいつも勉強とかするんだね。
なんとなく、何もしなくても何でも出来るイメージがあったけど…たぶん学校の奴らもそう思ってる気がするけど…そうか、藤村も人の子だったのか…
じーっと華奢な後ろ姿を眺める。
そりゃそうだよな、ウチの学校でトップっつったら相当だし、それをキープするのはかなり大変だろう…。
もしかしたら天使は案外努力屋さんなのかもしれない…。
……髪…まだ濡れてるし
「……先輩、」
「うるさい」
「……まだなんにも言ってないし…」
てかなんで俺にはそんなに冷たいわけ?結構傷つくんですけど…。
「先輩、髪濡れてますよ」
「そのうち乾く」
「拭いてあげます」
「いらん。……っておいっ!」
手にしたタオルでわしわしと藤村の髪を拭く。
……やわらかいなあ
「やめろってばっ!」
「動かないでくださいー。痒いところはございませんか~?」
「アホか!!」
ばたばた暴れる藤村はまるで小動物のようにかわいくて、ぎゅーっと抱きしめたくなるのをなんとか抑える。
「……っ吉河てめぇいい加減にっ」
「………」
ふと、手を止めた。
「……季一、でいーっすよ?」
「……キーチ?」
あぁ、こいつのこの真っすぐな眼に弱いんだよ俺。
「そ。仲いい奴はみんなそう呼びますから」
「……別に、俺たちは仲良くないだろ」
「俺は仲良くなりたいです」
毎日一緒に(?)昼飯食う仲じゃないですか。
食ってんのは俺だけですけど。
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