sweetly

kotori

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前編

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「……バカじゃねーの」

後ろに立っているので、藤村の表情はわからない。

「先輩は要先輩、でいーっすか?」
「……下の名前は嫌いだ」
「じゃあカナちゃん」
「殺すぞ」

ギッと睨みつけられる。……おお怖っ

「じゃあ、今までどおり先輩で」

奴は再び勉強を始めた。

「……先輩」
「さっさと寝ろよ」
「腕枕しましょうか?」
「死ねよ」
「なんでお母さんの弁当、食わないですか?」
「………。お前には関係ねーだろ」
「大アリでしょ。俺が代わりに食ってるわけだし」
「……じゃあ、」
「もう食わなくていい、とかナシですよ?どーせ捨てるんでしょ?」
「………」
「お母さん、先輩が弁当食ってくれて嬉しいって」
「………」
「もっと先輩と話したいって」

……これは、言ってないか

「……お前に何がわかるんだよ」
「……わかんないですよ、俺には。だから、教えて下さい」

俺にはわからない。
自分の為に作ってくれた弁当を捨てたりする気持ちも、母親にあんなに淋しそうな顔をさせる気持ちも。

「……なんでお前に」

不機嫌な顔で振り向いた藤村の手を掴む。

「知りたいから」
「………!はなせよ」
「ヤです」

目を見開く藤村。

……どーしたんだ俺…

俺らしくない。
だけど。

「俺、先輩のこともっと知りたい」

それが、正直な気持ちだった。

「誰にも、言いませんから」
「………」
「てか、言ったらツブされんでしょ?俺」

初めて会った時のことを思い出して、ちょっと笑った。
噂の天使のとんでもない素顔を知ってから、二カ月。

初めは嫌な奴だと思った。
いつもにこにこ笑って愛想振りまいてるのに、実は腹黒。
口は悪いし態度でけーし、自己中だし人の話は聞かねーし。
だけど気づいたら、時折見せる無邪気な笑顔や真っ直ぐな言葉に惹きつけられていた。

この気持ちがなんなのか、未だによくわからない。
自分でも何がしたいのか、よくわからないけど。

「………」

俺はゆっくりと手を離す。

……いくらなんでも、強引すぎるか

家族の事情なんていろいろだし、他人に知られたくないことだってあるだろうし。
それは、わかってたはずだったのに。

「……すいません、立ち入ったこと訊いて」

俺寝ますと言って、用意してもらった布団に潜り込む。

……長期戦かな…

焦ったって仕方ない。
藤村のことをわかりたいと思うのは、心を開いて欲しいと思うのは、俺の勝手な気持ちだし。

「……五人め、なんだ」

しばらくして、藤村がぽつりと呟く声が聞こえた。


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