sweetly

kotori

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後編

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今日はムカつくほど天気がいい。

気分は、最悪。

「……ごめんなさい、俺」

うるうるした目で、名前も知らないその男を見上げる。

……てか誰だよ、お前…

全然知らない奴に告られることは結構あった。
まあ、その方が断りやすくはあるけど。

……いつも思うけど、なんで俺が謝んなきゃなんないわけ?

「……わかった。悪かったな、いきなり呼びだしたりして」

ほんとにな、と思いつつぶんぶんと首を振る。
そして小さな声でもう一度、ゴメンナサイと言った。

……めんどくさい





「――じゃあ、また後で」

あいつは戻ってきた俺に気づくと、電話を切った。

「お疲れっす~」

いつもの笑顔。

「………」
「相変わらずモテまくりっすね。今月入って三人目?」
「……うるせえよ」

てめえを入れたら四人だよ。

「これ、ゴチでしたー」

手渡される空の弁当箱。

「今日の、唐揚げが超うまかったですよ。ポテトサラダもいい感じの塩加減で。あと、やっぱ卵焼き?甘くてふわーっとして最高~」

嬉々として感想を述べる様子が、かなりウザい。
何も言わずに煙草に火をつけると、空を見上げた。



「あのー、俺思ったんですけど」

ほんっと一人でよく喋るよな、こいつ。

「もうこうなったら、交際宣言しちゃいませんか?」
「……は?」
「そしたら、言い寄ってくる奴減ると思うしー」

……誰かこいつを黙らせろ

「……俺とお前がいつつきあったんだよ」
「えー、いつって…チューしたじゃん」
「…っあれはお前が無理矢理っ」

……むしろ殺してやろうか、こいつ…

「もー照れちゃって。でもそんな先輩が、好き」

……頬を染めんじゃねえってゆうか、大体こいつこんなキャラだったか?!

いちいち反応するのも癪なので、シカトすることに決める。

「ところで先輩、俺この間の中間、まじヤバくて」

――無視。

「五教科中、三つアカで」

……さすがバカ

「今度の期末もアカだったら、夏休み補習らしいんすよー」

――無視。

……てか、俺関係ねえし

「だから、教えてくれません?勉強」

……ぜってぇヤだ

俺は吸いかけの煙草をもみ消すと、立ち上がった。

「あっ、ちょっと待って。そーゆうことで、俺今日先輩んち行きますから」
「……は?」
「あ、やっとこっち向いた」

吉河が嬉しそうに笑う。犬かお前は。

「なんで来るんだよ」
「だから、勉強教えてもらいに」
「誰が教えるっつったよ」

どこまで勝手なんだよこいつは!!

「断る」
「えぇぇー……でも、ナミエさんはいいって」

……はァァ?!

愕然としている俺の前で、吉河はにいっと笑ってケータイを見せる。

「よかったら泊まっていって、だって」

……こいつは…っ

てかいつの間にラインとか始めてんだよ!

「おまえなあっ、」
「あ、予鈴」

じゃあまた後でーっ、と吉河は爽やかな笑顔で屋上を出ていった。


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