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後編
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しおりを挟むその若い女の人は、初めから俺に無関心だった。
一緒に生活を始めてからも家にいることは殆どなくて、まだ子どもだった俺は彼女の気を引くのに必死だった。
無邪気で素直ないい子を演じて、気に入られようとした。
それまでどんなに仲良くなってもみんないなくなってしまうのは、自分のせいだと思っていた。
だから、もっといい子になろうと思った。
自分のことを好きになってくれれば、きっとここに居てくれると信じていた。
――お母さん
俺はあの人をそう呼んだ。
食事の用意どころか、家の事を何ひとつしなかったその人を、目すら合わせようとしてくれないその人を、どんなに嫌な顔をされても俺はそう呼び続けた。
ところが、ある日。
俺は、彼女の本当の姿を知った。
――おかあさん…?
彼女は寝室のベットの上で、知らない男の人の上に跨っていた。
――………
――誰、その子
――……さあ?
彼女の瞳に、俺は映っていなかった。
俺は、彼女のなかに存在していなかった。
――なに見てんの?さっさと出ていきなさいよ
――………
何も言わずに、ドアを閉めた。
ひどい女だなあ、と笑う男の声。
――ひどいのは、あの子の父親よ
気持ちが悪い、と思った。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
そのあとすぐにトイレで吐いた。
そして、汚れた自分の手をぼんやりと眺めた。
求めたら、裏切られる。
そして心に生々しい傷が残る。
だったら、一人のほうがマシだ。
結局自分を守れるのは自分しかいない。
あの日から、俺は泣くのをやめた。
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