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後編
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しおりを挟むなんとか心を落ち着かせて部屋に戻ると、二人は笑顔だった。
「先輩長かったっすね~もしかしてべ」
「それ以上喋ったら、一生口きかねえ」
「ねえ、モノポリーやらない?」
「おっしゃああ!リベンジっ!!」
「いや俺が勝つ。ルール教えろ」
「知らねーのかよ!」
今日だけでいい。
今日だけでも、俺は家族としてここにいたかった。
「……先輩、もう寝た?」
二階にあがったのは三時を過ぎた頃だった。
「………」
起き上がる気配。
優しく頭を撫でられるとなんだか胸が熱くなって、ずっと我慢していた涙がぽろりとこぼれた。
それを見られたくなくて、身体を反転させる。
携帯に残ってた、沢山の着歴。
きっと必死で捜してくれたんだと思う。
――無事でよかった…
何度もそう繰り返して。
そしてホテルでも、俺が眠るまでずっと抱きしめてくれていた。
まるで小さな子どもをあやすように、髪や背中を撫でながら。
「……一緒に寝てい?」
そう言うと、返事を待たずによいしょとばかりに布団の中に入ってくる。
「……狭い」
「でもほら、あったかい」
……もう夏だっつーの…
背中からがばっと抱きしめられると、心臓がバクバクした。
「……先輩、大丈夫だよ」
「………」
「俺は、ずっと傍にいるから」
耳元で囁かれる声に、また涙が溢れる。
「………。ありがと、」
その力強い腕にしがみついて、呟いた。
「……うん」
まわされた腕に力が籠もる。
はなしてほしくない、と思った。
もうずっとこのままでいたい。
その気持ちがどんな感情からくるものなのかは、わからないけど。
「……先輩、こっち向いて」
「………」
そっと、身体をひっくり返された。
「……泣かないで」
指の腹で、そっと涙を拭われる。
そして――ゆっくりと唇が重ねられた。
抵抗は、しなかった。
出来なかったんじゃない。
「……ん、ぅ…」
それは、今までしたキスとは全然違った。
下唇を優しく噛まれたと思ったら、口の中に侵入してきた舌が至る所を這っていく。
そして自分の舌と絡みあう。
息ができないくらい激しくて深いキスは、痛みや悲しさを束の間忘れさせてくれた。
「…キ、イチ…っ」
長いキスの後、俺は季一の首にしがみついた。
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