sweetly

kotori

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後編

18

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次の日、ナミエさんは出ていった。

荷物は宅急便で送ったらしく、手に持っているのは小さなボストンバックだけ。

「元気でね」

玄関先で、ナミエさんは俺をぎゅっと抱きしめた。

「いつでも連絡してね」
「……ナミエさんも」
「また三人で遊ぼうよ」

季一がにっと笑って言う。

「次は耐久カラオケ大会だな!!」
「……練習しとかなきゃ」

ナミエさんは、泣き顔で笑った。



迎えのタクシーが来て、その時になって俺はようやく伝えたかったことが言えた。

「……今まで…ありがとう。その…」

――家族に、なってくれて

ナミエさんは驚いた顔をして、でもすぐに首をふった。

「私こそ、ありがとう」

そして、またねと言って笑った。
涙で化粧が落ちかけていたけど、とてもきれいな笑顔だった。



タクシーが見えなくなるまで、季一と二人で見送った。
そして自然に、手をつないでいた。

「そういえばさ、」

ふと、季一が言った。

「さっき、何渡してたの?」

それはずっと渡せなかった、動物園のおみやげだった。
小さなウサギがついたストラップで、子供っぽいかなと思ったけどナミエさんは喜んでくれた。

「………」
「え、ちょっ、シカト?」

俺は結局最後まで彼女のことをお母さんと呼ぶことはなかったし、そういうふうにも思えなかった。
でも、それでよかったと思う。
母親じゃなくても、血は繋がってなくても、ナミエさんは確かに俺の大切な家族だった。

だから、幸せになってほしい。
心からそう思った。

「先輩、泣かないで」
「泣いてない」
「寂しかったら、俺がいつでもギュッてしてあげるよ?」
「寂しくない」

……それは少し嘘だけど

「一緒にいてくれるんだろ?」

振り返ってそう言うと、季一は目を丸くした。

「……勿論」
「……なんだよ今の間」
「いやっ、あの」
「さてと、学校行くか」

門をくぐりながら言う。

「えっ、もう昼だしサボろうよ」
「却下。お前これ以上バカになってどうすんの?」
「……ひどっ」
「学年十位以内が条件だな」
「……ハイ?」
「あと、絶対バレないようにしろよ」
「……え?ええっ?!」

……やっぱどうかしてるな、俺…

「せっ、先輩それって」
「お前顔がウザい」
「~~っせんぱーいっ!!」
「暑苦しいっ」

抱きついてくる季一を押しのけつつ、でもこういうのも悪くないと思う。



見上げた空は、今日も青くて。
もうすぐ、夏がくる。


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