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後編
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しおりを挟む「……お前、家帰んなくていいの?」
「えー?」
日曜日。
二人で風呂掃除をしていた。
大人が四人は余裕で入れそうな、無駄に広い風呂場。
「別に、親父いつも遅いしなんも言われない」
「ふうん…」
……にしても、来すぎだろ…
ナミエさんがいなくなってから、季一はほぼ毎日ここに泊まっている。
いつの間にか、服や靴なんかの私物も持ち込まれていた。
……にしても、あつ…
七月に入ってから、毎日真夏のような暑さが続いている。
タイルをブラシで擦りながら、時折額の汗を拭った。
「……先輩、」
「ん、」
「……なんかエロい」
「……はァ?」
季一はたまに、意味のわからないことを言う。
たまにというかけっこう頻繁、いやいつもか?
「先輩」
「喋ってないで手ぇ動か……ぶッ!」
いきなりシャワーの水をかけられた。
「……ッなにすっ…!」
「涼しいかなって」
「あほかっ」
季一の手からシャワーヘッドを奪う。
「…っうわッ冷てぇ」
そう言うとげらげら笑った。
まるで、幼い子どもみたいな笑顔。
それから掃除を中断して、水遊びをした。
「あーもうっマジやめろって!ガキか!」
「とかいって何しようとしてんの?!」
ぎゃあぎゃあ騒いで、それに疲れるとタイルの壁にもたれかかるようにして座った。
「……簡易プールだな」
「……どこがだよ」
開いている窓の外は眩しいくらいに明るくて、どこからか蝉の鳴き声が聞こえてくる。
静かな、夏の午後。
ふと、手のひらが重なった。
「………」
濡れている季一の手は熱くて、それが自分の手を通して伝わってくる。
人の、ぬくもり。
視線を感じて顔を上げた瞬間、唇が重なった。
「んっ……ふ…」
不意打ち。
もう何度目だろう…。
でも最近ようやく受け入れ方がわかってきた俺は、できるだけそれに応えようとする。
結局すぐに翻弄されて流されて、されるがままになるんだけど。
それがなんとも、不本意なんだけど。
長いキス終え、ぷはっと息を吐いた。
……なんか、クラクラする…
顔が、熱い。
絶対赤くなっている自分の顔を見られたくなくて、フイと顔を背けた。
そして何事もなかったかのように言う。
「……あーあ、服びしょびしょじゃん」
「じゃあ脱げばいいじゃん」
「そりゃ着替えるけど…って、」
ぺったりと肌に貼りついていたTシャツを捲り上げられて、驚いた。
「何して…っ、わ」
バランスを崩して、倒れそうになる。
「!」
床に打ちそうになった頭を、季一の腕に抱えられた。
「…危ねーっ」
……誰のせいだ!!
そう文句を言おうとしたけど、言葉がでてこない。
腕のなか。
絡まる視線。
季一の髪を伝った水滴が、俺の頬に落ちた。
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