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しおりを挟む「ごめん俺、ちゃんと聞いてなかった」
「だから俺、ゲイなの」
「………」
「………」
「なんで?」
「……なんでって、」
那波は困った顔をしている。
冗談ではなさそうだった。
「……っでもおまえ、いつも女の子と楽しそうに」
イチャついてたじゃん!
学校でもそれ以外の場所でもどこでも!
合コンとか行きまくってたし!
「いや、ソレとコレとは別ってゆーか」
……そういうもんなのか?!
経験値が低い俺には、よくわからない。
てゆうか経験とか、そういう問題でもない気もするけど。
「……浩介はさ、そういうの気色わりぃとか、思う?」
緊張した声。
不安げな表情。
こんな那波を見るのは初めてだった。
「……思わない、けど…」
突然すぎて驚いた。
突然じゃなくてもたぶん驚いた。
「正直、よくわからないけど…」
戸惑いは隠せない。
「……でも、那波は那波だし…」
「………」
今の俺の精一杯の答えをじっと聞いていた那波は、小さく笑った。
「……おまえは、そう言うと思った」
窓の外が明るくなってきた頃、ようやくレポートが完成した。
「マジ助かった!これで単位なんとかなるわ」
「……そりゃよかった…てゆうか、すげー眠…」
今日は午前の講義に出ないといけないので、今からだと二時間弱しか寝られない。
むしろもう起きてた方ががいいかも…と思いつつ、凝った首をコキコキ鳴らした。
「……浩介」
寝るのを諦めた俺は、狭いキッチンでコーヒーを淹れていた。
「…あ、おまえも」
飲む?と振り返った時だった。
「………」
…………え、
「……?!」
軽く唇が触れただけ。
でもそれは、間違いなくキスだった。
確かに重なっていた唇が離れてからも、俺は茫然としていた。
状況に頭がついていかない。
「……ごめん」
那波がぽつりと言った。
大学内の食堂はわりと人気があって、利用する学生は多い。
メニューも多いし、料金も良心的だ。
それに持ち込みも可能なので、持参の弁当やコンビニのおにぎりなどを食べている生徒もいた。
「なにボーっとしてんだよ」
「……え?」
顔をあげると、傍に和田が立っていた。
「ずーっとグルグルしてる」
隣りにいた梨香が、クスクス笑いながら俺の手元を指差した。
フォークに大量のナポリタンが巻きついている。
二人は持っていたトレイをテーブルに置き、俺の向かい側の席に座った。
「おまえまたB定?」
「うるさいなぁ、サバはおいしいしヘルシーだし栄養価も高いんだから」
「だからって三日連続はねーよ」
和田の呆れた声を無視して、梨香は俺の方に向き直った。
「こうちゃんどうしたの?なんか悩み事?」
今日も睫毛のカールは完璧だ。
「別に、なんでもないよ」
俺は笑って言う。
「そう?なんか、疲れた顔してるけど」
……さすが、鋭い…
「昨日遅くまで本読んでてさ。……ところで梨香、木下さんは元気?」
話題を変えるべく話をふると、別れちゃった、とあっさりした返事が返ってきた。
「はぁぁぁ?またかよ。まだ三カ月ぐらいだろ?」
「だって、合わなかったんだもん」
サバをつつきながら梨香が言う。
「……おまえに合う奴っていんの?」
「うるさいなぁ」
二人のこういうやりとりを、今年に入って三回は聞いた気がする。
「てゆうかあたしの事はいいんだってば。こうちゃん何してんの?」
「ほどいてる」
「浩介、目の下にクマできてんぞ」
少し長めの前髪をゴムでくくり、熱そうなラーメンに息を吹きかけながら和田が言った。
「勉強もいいけど、たまには息抜きしろよー?おまえだったら単位なんてどうせ余裕だろ?」
「こうちゃんはあんたと違って真面目なの」
「あ゛?」
「でも、ほんとにあんまり無理しちゃダメだよ?」
梨香が心配そうな顔で言う。
「ありがとう。でも、大丈夫だから」
「そう?」
「梨香こそ大丈夫?木下さんの事…」
「やだ、当たり前じゃん。もう顔も忘れかけてるし」
けらけら笑う梨香の隣りで和田がひでぇ女、と呟いた。
二人とは大学で知り合った。
食堂で偶然隣りに座った和田は、初対面にも関わらずまるで十年来の親友かの如く普通に話かけてきた。
人見知りが激しい俺は大いに戸惑ったけど、しばらく話しているうちに慣れた。
多少いい加減なところもあるけど、基本的にはいい奴だと思う。
その和田に紹介されたのが梨香で、彼女と打ち解けるのは時間がかかった。
キレイに巻かれた髪にばっちりメイク、服装もまさに女子大生という感じ。
今までそういうタイプの女の子と縁がなかった俺は、何を話せばいいのか全くわからなかったのだ。
でも話してみると、サバサバした性格のしっかりした女の子だった。
和田に小言?を言う姿はまるで年の離れたお姉さんみたいだ。
なんだかんだ言い返しつつも和田は彼女といると楽しそうだし、俺も梨香といるとなんだか安心する。
和田も梨香も(バイトやデートで)忙しくて、学校以外で会ったりする事はあんまりないけど、色々相談したり軽口を言いあえる、大切な存在だ。
……じゃあ、那波は?
那波は自分にとって、どんな存在なんだろう。
午後の講義をぼんやりと聞きながら、考えた。
子どもの頃から、いつも一緒だった。
違う学校に進学してからも、お互いの事なら誰よりもわかってるような気がしていた。
友達だとか大切だとか、そんな事を改めて考えた事もなかった。
自由奔放で、怖いもの知らずで、いつだって自分の思うように生きている那波。
そんなあいつに憧れながらも、身の丈を考えて慎重に生きてきた自分。
ずっと一緒にはいられなくても、まったく違う人生を歩んだとしても、それでも一番近くにいる。
そんなふうに、思っていた気がする。
……でも、そうじゃなかったのかもしれない
もしかしたら俺は、あいつの事を何もわかってなかったのかもしれない。
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