along-side(BL)

kotori

文字の大きさ
19 / 54

3

しおりを挟む
 
講義が終わって帰る支度をしていると、梨香に声をかけられた。

「風邪、もう平気なの?」
「おかげさまで」

彼女は笑顔で答えたけど、顔色が悪くて声にもいつもの元気がない。
それに少し、痩せた気がする。

「ノート、貸してくれない?」
「いいよ」

自販機でコーヒーを買ってきて渡すと、梨香はありがとうと微笑んだ。
いつかと、逆の風景。



邪魔にならないように少し離れた席に座った。
そしてそのくるくる巻かれた髪を眺めながら、木下の事を訊こうかどうか迷っていた。
すると、梨香が先に口を開いた。

「……和田から聞いたんでしょ、木下の事」
「え、」
「あのお喋り。あのさ、あたしほんとに平気だから。変な気、つかわないでね」

彼女は顔をあげずに言う。

「……でも梨香は、本気だったんだろ?」
「……。それでも、全然平気」
「……」

そんなはずはないと思ったけど、口には出さなかった。
確かに梨香は強い。
俺みたいにうだうだ悩んだりしないし、弱音を吐いたりしない。
でもそれがたまに、すごく痛々しく感じられる事がある。

「あんな奴の事なんて、別にもうどうでもいいし」

いつも強気で並みの男より勇ましい彼女が、本当はとても繊細な心を持ってることを俺は知ってる。たぶん、和田も。

「……梨香」

慎重に、言葉を選んだ。

「なんか俺に、出来ることってある?」

俺に出来ることなんて、グチを聞くとかヤケ酒につきあうとか、そんな事しか思い浮かばないけど。
でもそうする事で少しでも気が紛れるなら、いくらでもつきあうつもりでいた。

「………」

梨香は黙って、持っていた缶をテーブルに置いた。

「……ないよ、そんなの」

その大きな瞳は濡れていた。

「……こうちゃんは、優しいね」

ふふっと笑うと、グロスを塗られた唇が艶やかに光る。

「……梨香、」

何を言うべきかわからずにいると、彼女の方からゆっくり近づいてきた。

「………!」

甘い、香水の匂い。
我にかえると同時に、柔らかい唇が離れる。

「……なんて、冗談。ごめん、やっぱりあたし、ちょっとおかしいみたい」

慌てたように梨香が言う。

……冗談って…

「ほんとごめん。バカみたい、あたし。何してるんだろ」
「……梨香、大丈夫?」
「えー?大丈夫に決まってるじゃん。そうそう、今日も合コンなんだよね~」
「梨香、」
「もうっ、そんな顔しないでよ、ほんとに平気だから。……それよりごめんねこうちゃん、変なことして」

ノート借りてくねと梨香は言うと、教室を出ていった。





「来てるなら、電話くれればよかったのに」

部屋の電気とエアコンをつけながら言うと、那波はそうだな、と笑った。

「いつからいたんだよ。寒かっただろ?今風呂沸かすから」

だいたい部屋は近いんだから、帰っとけばよかったのに。

「あ、腹減ってる?昨日の残りのカレーならあるけど」

……でも、来てくれてよかった

一人でいたら、きっと色々考えて落ち込んでた。
梨香があんなに思い詰めてたなんて、気づかなかった。
つきあいも長いし、それこそいつも俺の事を心配してくれていたのに。

「そうだ、カレーうどんにする?この間おいしい作り方がテレビであってて…」

そんなどうでもいい話ばかりしていると、那波がキッチンに入ってきた。

「……どうしたの、」

そっと後ろから抱きしめらると、なんだか泣きたくなった。
いつもそうだ。
俺は周りにいる誰かの優しさに、甘えてばかりで。

「何が?」
「なんか、元気ないから。ぼーっとしてるし」
「……そうかな」

……那波の事だって、

迷惑だとか巻き込まれてるだとか、確かにそれはそうなんだけど。
でも失うかもしれないって時になって、本当は自分が必要としていた事に気づいて。

……いつも遅いんだよ、俺は

「………」

やっぱり無理にでも聞きだすべきだったのかもしれない。
梨香も本当は、それを望んでいたのかもしれない。

「……浩介、こっち向いて」

那波の手が頬に触れた時、顔をあげた。

「那波…ごめん、俺ちょっと出掛けてくる」

……今行かないと、きっと後悔する

彼の腕の中からすり抜け、さっきまで着ていたコートを手に取る。

「……あのリカって子のとこ?」
「うん。ちょっと心配で…」

先に連絡しようと思って彼女の番号を探していると、那波が俺の手から携帯を取った。

「……行かせない」
「は?…何言ってんだよ、返せ」

やだね、と那波は言う。

「おまえさ、あの子とキスしたの?」

驚いた。

「英文科の奴らに目撃されてたみたいよ?」
「あれは…」
「ひでぇ女だよな。普通冗談でキスするか?」
「梨香は…本当はそんな子じゃない。だから、」

心配なんだよと言うと、那波の表情が険しくなった。

「……何それ。じゃあ本気ってわけ?」
「は?違うって。梨香は木下って奴の事で悩んでて、」

那波はぽいっと携帯をソファの上に放ると、俺の腕を掴んだ。

「那波?……痛っ」
「来いよ」

それは今まで聞いたこともなかったような、冷たい声だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

処理中です...