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しおりを挟む数日後。
その日は珍しく、仕事が早く終わった。
「皐月さーん、今日どうっすかー」
カウンターを拭きながら、田浦が言う。
「悪い、また今度」
「また彼女さんっすかー?ラブラブっすねぇ」
「……どうだかな」
とか言いつつ。
今夜は一緒にご飯を食べる約束をしていたりする。
昼間の電話では俺が作るから楽しみにしてて、とえらく意気込んでたけど。
……あいつが料理って…
気持ちはすごく嬉しい。
だからたとえ失敗してどんなに不味いものがでてきたとしても、全部食うつもりでいる。
ただ問題は味じゃない…その過程だ。
お湯で火傷してないか、包丁で指まで切ってないか…あいつのことだから何かやらかしそうで、心配し始めたらキリがない。
「今日はもう、上がっていいから」
「えぇ?まだ片付け、終わってないですけど…」
「明日俺がやるからいい」
うん、なんか嫌な予感がしてきた。
早く帰ろう。
そしてその嫌な予感というのは、想像してた以上に悪い形で的中した。
家に帰ると、なぜか部屋は真っ暗だった。
「……祐希?」
電気をつけ、部屋を見渡す。
……出掛けてるのか?
その時ふと、テーブルの上に置かれた一枚の紙きれに気づいた。
ごめんなさい
さようなら
「………」
俺はしばらくその場に立ち尽くした。
……なんで、
すぐに携帯に電話をしたけど、繋がらない。
ごめんなさい
さようなら
そう書かれた紙きれの隣りには、俺があげた鍵が置いてあって。
部屋の中をよく見ると、元から少なかったあいつの荷物が全部なくなっていた。
「………」
明るく静かな室内で。
俺はただ、茫然としていた。
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