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しおりを挟む俺が望むものは、いつだって手に入らない。
それがわかっているのに、それでもまた望んでしまうのはどうしてなんだろう。
「……祐希?」
深夜、連絡もせずに家に行くと多田は驚いた顔をした。
「どうしたんだよ、」
「………。今日だけ、泊めてくんない?」
「は?」
戸惑うような多田の声。
「……今日だけで、いいから…」
どうして多田だったのか。
顔を見て、安心したかったのかもしれない。
多田は俺を突き放したりしないって、思ったのかもしれない。
「……なんか、あったのか?」
俺を部屋に入れてくれながら、多田は言った。
「………」
「言いたくねぇなら、別にいいけど」
酷いことをした俺に、まるで何もなかったかのように接してくれ、気遣ってくれる多田。
その優しさに甘える俺は、本当に卑怯で最低だと思う。
「腹、減ってないか?」
でも、駄目だったんだ。
一人でいたら、きっと逃げだしたくなってしまうから。
……そしたら、なんの意味もなくなる…
「……祐希?大丈夫か?」
心配そうに俺の顔をのぞきこむ多田に、キスをした。
「……っ?!」
動揺している隙に無理矢理舌を捻じこもうとして、引き剥がされる。
「……おま、何して…」
「…………」
無言でベルトを外そうとすると、やめろと言って多田は俺の手を掴んだ。
「……なんなんだよ、おまえ…変だぞ?」
「………」
きっと、これが最後だから。
俺が多田にしてあげられることなんて、もうこんなことくらいしかないから。
「……じっとしてて、」
そう言うと、俺は多田の足の間に顔を埋めた。
「………っ!ゆう、」
……違う、本当は
俺は多田を利用してるんだ。
今は何も、考えたくないから。
それからしばらくして、多田が小さく呻いた。
「……は…なせ、も…出る、」
「………」
俺は離さなかった。
「ゆう、きっ」
髪を掴まれた瞬間、口のなかに苦い味が広がった。
「……んで、」
俺の前でうなだれたまま、多田は言った。
「……なんで、こんなことするんだよ…」
「………」
ごめんと呟くと、多田は何も言わずに部屋を出ていった。
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