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しおりを挟むそれから俺はまた、皐月と暮らすことになった。
こんなことになっても、皐月は前と変わらず優しかった。
何も訊かずに、ただ傍にいてくれた。
――今度の週末、どっか行くか?
まるで何もなかったみたいに笑って。
――ほら、ココア。熱いから気をつけろよ、
気を遣ってくれてるんだってわかってたけど。
その笑顔を見る度に、なんだか胸が苦しくなった。
昼下がりのマック。
「……祐希、」
顔をあげると、テーブルの前に多田が立っていた。
「……久しぶり、」
あぁ、と言って多田は向かい側の席に座る。
「電話…出られなくて、ごめん」
LINEも沢山くれてたみたいだった。
あんな別れ方をしたにも関わらず、ずっと心配してくれてたんだろう。
「ちょっと、色々あって…」
「……祐希、おまえ…」
多田はなぜか、俺の顔を見て茫然としていた。
「……大丈夫か?」
「何が?」
「……や、なんでもねぇ…」
それからしばらくして、店を出た。
週末でもないのに、街は人で溢れている。
「……いろいろ、ごめん」
隣りを歩きながら、ぽつりと言う。
「許してもらえるとか、思ってないけど…」
「……いいよ、もう」
「……でも、」
もういいって、と遮るように多田が言う。
「……多田?」
「………」
多田はなぜか泣きそうな顔をして、俺を見ていた。
駅に向かう途中、不意に多田が言った。
「……おまえさ、前に言ったじゃん、強くなりたいって」
「……え?」
「それってたぶん、一人じゃ無理なんだよ」
ぎゅっと握られる手に、思わず身体が震える。
けれどそれに構うことなく、前を向いたまま多田は続けた。
「一人じゃないから、人は強くなれんだよ」
「………」
俺は何も、答えられなかった。
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