nesessary(BL)

kotori

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――おまえが来てから、この家はおかしくなったんだ

おまえのせいだと言って、養父は俺を殴った。

――その子さえ、いなかったら

幸せになりたかったと母さんは泣いた。

許せない、と兄さんは言った。

――おまえだけ自由になるなんて、絶対に許せない





「祐希くん?!」

その声にはっとして顔をあげる。

「……大丈夫?」
「………」

浩介が心配そうな表情で顔を覗きこんでくる。
どうやらうたた寝をしてたらしい。

「うなされたけど…」

飲む?とコップを差しだされた。

「ごはん、出来たけど…食べられる?」

いつの間にか外は暗くなっていて、明るい部屋にはいい匂いが漂っていた。



「あり合わせで悪いんだけど…」

浩介は申し訳なさそうに言ったけど、本当は敢えて胃にやさしいものにしてくれたんだろう。
いただきます、と言ってよそってもらった雑炊を口に運ぶ。

こいつはきっと、知ってるんだろう。
だけど、何も言わない。
そんな素振りも見せない。

「……おいしい」

素直にそう言うと、浩介は嬉しそうに笑った。

「よかった。ちょっと作りすぎたから、遠慮せずに食べて」

以前、皐月が風邪をひいた時にも作ってくれた雑炊は、薄味だったけどとてもやさしい味がした。
それはまるで、作った人間の本質を現しているかのようだった。



皐月はいつも、あたたかなぬくもりで俺を包んでくれた。
さりげない優しさと愛情で、俺を充たしてくれた。
そんな彼の傍にいることを、俺は何よりも望んでいたはずだったのに。
今は一緒にいるのが辛い。

あの時以来、俺たちの関係はおかしくなってしまった。
皐月を心配させたくなくて、だけど普通にしようとすればするほどわからなくなって。
きっと俺は無意識に、皐月を傷つけてるんだと思う。
皐月はそんな俺を気遣いながら、やっぱり無理をしてるんだと思う。



――祐希、

俺を呼ぶその声は、前と変わらず優しいのに。
向けられる笑顔も、触れる唇も指先も体温も、何も変わりはしないのに。

こんなことになっても俺を大切にしてくれる皐月に、何一つ応えることが出来ない俺に、

あいされる資格なんてあるのかな。


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