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Xmas編
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しおりを挟むそして、クリスマス・イヴ。
街はイルミネーションに彩られ、クリスマスソングが流れている。
幸せそうなカップルが手をつないで歩いているなか、両手に大きなビニール袋を持った男が二人。
……いろんな意味でツラい…
「まじ寒い…」
「あとはー…、31のアイスパック?いらねーだろ」
「……死ねあいつら…」
クリスマスパーティーという名目の飲み会で集まる事になったはいいものの、ジャンケンで負けた俺と巽は買い出し係になってしまった。
袋の中身はチキンにケーキ、お菓子につまみ、そして大量の酒。
「つーかなんでピザじゃダメなわけ?」
「……寒い…俺死ぬかも…」
「死なねーよ」
巽の寒がりは病的だ。
冬になると朝起きられなくて、学校に遅刻するのはほぼ毎日。
ひどい時は休む。
理由はただ、外が寒いから。
「ほら、急いで帰ろうぜ?」
「……それ貸せ」
「え?」
ほれ、と巽が俺の手からビニール袋を取った。
「……いいよ!持てるから」
「うるせえ、非力」
「鍛えてるし!」
「へー、そう」
あっさり言うと、巽はさっさと歩きだした。
荷物を持ってくれるのは嬉しいけど、なんかムカつく。
「もう迷子になんなよ」
「なんねーよっ!てゆうかいつの話だよ!」
てかよく覚えてたな!
「ありえねーよな、中坊で迷子って」
「うるせええ大体アレは、おまえらが急にいなくなるからで…」
修学旅行先でいつの間にか一人ぼっちになってて、そんな時に限って携帯の充電切れてたりして。
「だからって、半泣きはナイよな」
「……泣いてないし!」
ほんとはちょっとだけ泣きそうだったけど。
探しに来てくれた巽の顔を見たら、なんか安心して。
何してんだバカって言いながら優しく頭を撫でたりするから。
「……おまえのせいだ」
「……は?」
「俺の涙を返せ!!」
「意味わかんねーし」
呆れたように笑う巽。
「………」
あの時もそんなふうに笑って、手をつないでくれて…俺の胸はきゅーんってした。
したんだけど。
――あ、ワリぃ俺沙紀と約束してたんだわ
集合場所に戻ると巽はさっさと当時の彼女の元へと行ってしまった。
こいつにとって俺は頼りないバカな友達なんだろう、今も昔も。
放っておけないから構ってくれてるんだと思う。
そして俺はずっと、そんな関係に甘え続けている。
恋人みたいにせつない思いをしなくていい。
浮気されることも別れることもない。
変に見栄を張ったり気を使ったりしなくていいし、しばらく会えなくても、ちょっとケンカしたりしても、次に会った時にはいつも通りに笑いあえる。
変わらないその距離がいい。
そのままがいい。
そう、思ってたのに。
「……も、しもし…」
買い物が終わってようやく巽の家に着いた時、携帯が鳴った。
リクかと思っていた俺は画面を見て目を見開いた。
『久しぶりじゃん』
その声に、携帯を持った手が震えた。
「……先輩…」
玄関で靴を脱いでいた巽が振り返り、目が合う。
「……なんですか?」
『今から会わねえ?』
「え…」
クリスマスだし、と先輩は言った。
『ほら、前に約束したじゃん』
確かに約束はしたけど。
でもそれは、つきあい始めた頃の話で。
あの時とはもう状況が違うし。
……でも…
「……淳?」
……覚えててくれたんだ…
『淳?』
「………」
だって、好きだったんだ。
いっぱい好きって言ってくれて、ぎゅうって抱きしめてくれて、キスしてくれて。
あいしてるって、言ってくれた。
俺は走っていた。
行くなって言った巽の手を振り切って、先輩と待ち合わせた場所まで、全力で。
「…先輩っ」
久しぶりに会った先輩は、やっぱカッコよくて。
笑った顔を見たら、泣きたくなった。
「どっか行きたいとこ、あるか?」
「イルミネーション見たい!」
「ああ、そういやそんな事言ってたな」
「先輩は?」
「おまえが行きたいとこでいいよ」
先輩は笑って言った。
イルミネーションを見に行って、ご飯を食べて、散歩して…。
訊きたい事はたくさんあったけど、もうどうでもいいような気がした。
わざわざ蒸し返したくないし。
こうやって、一緒にいられるだけでいい。
そう思えるくらい幸せな時間だった。
「……あ、」
ベンチに座っている女の子が抱えている、大きなぬいぐるみ。
「ん?」
「あ、いえ…あのウサギ、俺も持ってて」
「ウサギ?」
俺の見ている方を見て、先輩はぶっと吹き出した。
「お子様だな、淳は」
ぶぅっとムクレると、先輩は笑って俺の頭を撫でる。
「でも、かわいい」
「………」
嬉しかった。
嬉しかったけど、なぜかその時俺は巽のことを考えていた。
――行くな、
そう言った巽は、珍しく真剣な顔つきをしていた。
だけどその時の俺は、先輩のことで頭がいっぱいで。
……巽、怒ってるかな
あの時掴まれた腕にそっと触れた。
勝手なことばかりしてるし、もういい加減呆れられたかも。
……いつも、気にしてくれてるのに
迷惑ばっかかける俺は最低な友達だ。
――次は、いい男見つけろよ?
――おまえを誰よりも、大切にしてくれる奴にしろ
「………」
「……淳?」
「……え?」
……あれ?
「どうしたんだよ」
今からどうする?と先輩が言う。
「俺んち来る?」
「………」
「淳?」
……え、でも、それって…
「……あ、あの、先輩…」
その時、携帯が鳴った。
携帯の画面を見て、先輩は一瞬顔を歪めた。
「……わりぃ淳、ちょっと待ってて」
そう言うと俺から離れる。
あの子だと思った。
あの時、先輩と教室にいた…。
「……だからうぜえんだよ、そういうの」
先輩の声は苛立ちを含んでいた。
「てか…勝手に家に来られたりとか、マジ迷惑。何勘違いしてんの、おまえ」
さっきとは打って変わって冷たい表情。
「すぐ帰れよ。もう俺に関わんな」
なんだか、心がすうすうする。
さっきまであんなに楽しかったのが嘘のようで。
……俺はなんで、この人を好きになったんだろう
「待たせてごめんな」
先輩は、俺にはあんなことを言ったりしないかもしれない。
「……先輩、」
でもだからってあの子の事は遊びで、俺の事を本気で想ってくれてるんだって。
そんなふうには、やっぱり思えない。
「……俺と、別れてください!!」
「……は?」
先輩の表情が固まる。
「……俺…先輩とこれ以上つきあうの無理です」
「……何言ってんだよ、なんで」
「……この前…教室で、アレ見た時からずっと考えてて…」
「……あれは別に…てゆうかなんで今更、」
「今更じゃないです…言えなかっただけです。……見なかったことにしようって、思ったけど…。やっぱ無理です」
「………」
「先輩はきっと、俺を一番大切にはしてくれない」
先輩と別れてから、俺はまた走っていた。
今度はきっと、間違えてない。
そう思いながら。
「遅くにすいませーん!!おじゃましまーす!!」
「あら淳ちゃん、久しぶり~」
「おばちゃん!巽は?」
「たぶん部屋にいるわよ~あ、でもさっき…」
バタバタと階段を駆けあがり、勢いよくドアを開ける。
「巽!!ってえええ?!」
「おま…うるせー…」
「なっ…何してんの?!」
「……何って」
「……ってゆうかアンタ誰?」
「おまえこそ誰だぁぁ!!」
五分後。
「てゆうかぁ~これ結構ありえなくない?」
俺の隣では、謎の美女が座ってビールを飲んでいる。
「……まぁ、なくはないんじゃね?」
巽がコタツの上にあった雑誌を取りながら言う。
「ねぇよ!!」
怒鳴る俺に、だよねえと美女が笑う。
「ヤッてる最中に乗り込んでくるって相当だよね~。まぁおもしろいからいいけど」
「何がおもしろいんだよ?!」
「てか淳、さっきから何怒ってんの?」
「あ、淳くんってゆーんだー、あたし美佳ー」
「訊いてねえし!!」
「てかおまえ、あの浮気野郎はどうしたんだよ。仲直りしたのか?」
「………。別れた」
「……なんで、」
「………」
「……あたしトイレ行ってくる~」
美佳がフラフラと部屋を出ていった。
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