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anniversary編
おまけ
しおりを挟む……なんか、去年もこんな感じだったような…
巽の部屋で、こたつに入って。
あの時初めてキスをした。
「………」
「どうした?」
ううんと小さく首を振り、背中を預ける。
巽の腕のなかは、あったかい。
「……なんでもない」
本当は別に、どこかに行ったりしなくてもいい。
特別な事なんてしなくても、こうやって一緒にいられるだけで幸せだけど。
……でもそれを、当たり前にしたくないから、
これから先も、ずっとずっと一緒にいたいから。
「……明日、晴れるといいな」
ぎゅうっとしがみつきながら言うと、そうだなと巽は笑って俺の髪を撫でた。
―――
イルミネーションどころか街灯すらあまりない公園で、コウタと初めてキスをした。
軽く唇が触れただけ…そんなキス。
「………」
「………」
「……なんか、」
「……え?」
「この身長差が気に食わねぇ」
「ええっ」
キスしたつもりが、された感じになってるし。
「そ、それは…どうしようも、」
コウタの本気で戸惑った声に吹きだした。
「ほら、」
「え、」
「飯、食いにいこ」
手を差し出すと、コウタは恥ずかしそうに笑って自分の手を重ねてくる。
手をつないだだけなのに、なぜか心までほっこりとあたたかくなった。
「あ、やべ。予約の時間過ぎてんじゃん」
「予約してたのっ?」
「うん。なのにあの女のせいで…。あぁそうだ、麻里のことだけど…」
俺達は並んで、明るい街の方へと歩きだした。
――――
悩めるサンタは、どうやら年上の女にハマっているらしい。
「色白でちっさくてー、とにかくすげぇかわいいんすよ!」
酒はあんまり強い方じゃないのか、訊いてもない事をぺらぺらと喋る。
「でもその子、彼氏がいるんだろ?」
「そうなんすよ…たぶん今ごろ、一緒に…」
サンタはホールのケーキを抱え、フォークをくわえたままガクンとうなだれる。
「まぁ、飲めよ」
「……お兄さんの彼女さんて、どんな人だったんすか?」
「どんなって…まぁ、普通?」
正直なところ、よく知らなかったりする。
そんなに長くなかったし。
「てゆうか、なんで別れたんすか?」
「さぁ、忙しくてあんまり会えなかったからなぁ」
忙しくなくても会わなかったかもしれないけど。
そもそも、なんでつきあってたんだろうな。
「すれ違いってやつですね…」
サンタの神妙な顔つきを見て、思わず吹きだした。
「え、なんで笑うんすか?!」
「いや、ごめん」
最後に本気で恋をしたのは、いつだっただろう。
煙草に火をつけながら、ぼんやりと思った。
こいつくらいの年の頃は、まだ誰かを本気で想えてたような気がするんだけど。
「恋愛って難しいっすね…」
「そうだな」
笑いを堪えながら答える。
いつか俺にもまた、このケーキのように胸やけがするほど甘い恋をする日がやってくるんだろうか。
彼のように誰かを想い、焦がれ、悩む日が。
そんなことを思いながら、俺はこくりこくりと揺れだしたサンタに毛布を掛けてやるために立ち上がった。
end
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