手をつないで(BL)

手をつないで

6

　
淳とケンカした。

本当はもっと冷静に話をするつもりだった。
ところがこの前受けた模試の結果があまり良くなくて、苛々してたこともあってつい言い過ぎてしまった。

――大体さ、おまえもちょっとは先の事とか現実を考えろ

八つ当たりだった。
だけどそれが本音だった気もする。

とはいえ、もとはといえば黙っていた自分が悪い。
反対されたら、あいつに引き留められたら、絶対に迷ってしまう。
それがわかってたから、なかなか言いだせなかった。
あらためてその理由を考えてみると、随分と情けない。

進学の事を黙っていた理由、相談できなかった理由――あいつは馬鹿だけど、ちゃんと話せばきっとわかってくれる。
俺の気持ちを理解してくれる。
そう、思ってたのに。





「……なにしてんの、おまえ」

話をする為に向かったあいつの家の前で、その場面に遭遇した。

「……巽、」

衝動的に相手の男を殴りつけたいと思う反面、一度沸点を通り越した怒りは俺に妙な冷静さをもたらした。

……なんでそうなるんだよ、

他の男の腕のなかで泣いている淳を見て思った。

……離れるってわかった途端、それかよ

心配？あの男が自分に対してどういう感情を持ってるのか気づいてねぇのか。
無自覚なら尚更タチが悪い。

素直で、人を疑うことを知らない。
そんなこいつの純粋なところが好きだった。
泣き虫で、甘えたで、頼りなくて放っておけない。
そんなこいつを守りたいと思った。
だけどそれは俺の独りよがりな考えで、淳は別に俺じゃなくてもよかったんじゃないのか？
こいつは単に、自分に優しくしてくれる、大切にしてくれる、甘えさせてくれる存在が欲しかっただけじゃないのか？
例えばそう、あの男のような。

考えれば考えるほど嫌になる。
その弱さが、許せなくなる。

「……おまえのそういうとこ、嫌いだよ」

見開かれた瞳、失われた言葉。
立ち尽くしている淳をそのままにして、部屋を出た。
このまま一緒にいたら、もっと酷いことを言ってしまいそうな気がして。
お互いに頭を冷やしたほうがいいような気がした。



それからしばらく会わなかった。
連絡も殆ど取らなかった。
淳が入院したのを知ったのは、それからちょうど一ヶ月がたった頃だった。