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桜
10.
しおりを挟むあなたは変わった人だと言うと、彼女は笑った。
「どうしてですか?」
「どうしてでしょうね」
近くのレストランで食事をした後、散歩がてらに代々木公園を歩いていた。
足元で、かさかさと枯れ葉が音をたてる。
「ストイックなんですね」
「……僕が?」
「敢えて自分を見せないようにしているというか、」
「……人は多かれ少なかれ、そういうものでしょう」
するとそうですね、と答えた彼女は空を見上げる。
冬の薄い日差しが、彼女の黒く美しい髪と白い肌を照らしていた。
「でも私は、見えないものに興味なんてないんです」
「……つまり、自分に見える部分だけでいいということですか」
「ええ」
彼女はにっこりと笑う。
「その人が知られない方がいいと思っている事を、わざわざ知ろうとする必要なんてないでしょう?」
「………」
「そもそも知ることって、そんなに重要ですか?」
――私にはあなたがわからない
別れた恋人に、よく言われていた。
――だって私は、あなたのことを何も知らない
どんなに傍にいても寂しくなる。
だったら一緒にいる意味なんてないじゃない。
その晩、部屋に帰ると留守電のランプが点滅していた。
それを無視してキッチンに向かい、グラスにウィスキーを注ぐ。
「………」
グラスを手にリビングに戻り、数日前からテーブルの上に放置されている白い封筒に目をやった。
それは学生時代の恋人の、結婚式の招待状。
不器用で、優しい奴だった。
生真面目で他人に左右されない強さもあった。
そんなあいつに泣きながら謝られたら、責められるわけがない。
それに、わかっていた。
いつかこうなるということも、その関係に未来も希望もないことも、それでも離れられなかったのはお互いの弱さであるということも。
だから俺はただ頷いて、その手を離した。
それはあいつの為に俺ができる、唯一のことだったから。
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