九尾の狐、監禁しました

八神響

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三章 壊れゆく日常編

二十六話

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「あ……っと」
「おっと、悪いね。まさかタイミングが被るとは思ってなかった」

 相生が玄関の扉を開いた先には、ちょうど靴を履いて外に出ようとしている男の姿があった。

 スーツを着たその男は大黒と相生の姿を見るとニヤニヤした笑みを浮かべ、二人の横を通り過ぎていく。

「じゃあねー、姫愛ちゃん。ご両親がいないからって男遊びは程々にしときな」
「人聞きの悪いこと言わないで下さい」

 男が通り過ぎざまに言った言葉に相生はムスッとした表情を浮かべ言い返すが、男はただヒラヒラと手を振って家から出ていくだけだった。

「……今のは?」
「さっき言ってたお兄ちゃんの家庭教師だよ。……こんなこと言うのもあれだけど、軽薄そうでちょっと苦手なんだ」

 男が完全に出ていったことで二人の会話は再開された。

 そして話題は相生の兄の家庭教師のことへと切り替わる。

「へー、委員長にも苦手な相手とかいたんだな」
「大黒くんは私をなんだと思ってるの? 私だって人並みに好き嫌いはあるよ」
「そうなんだろうけどさ。普段からあまりにも分け隔てなく人助けをしてるし、もはやそういう感情なんてないものかと」
「……? 困ってる人を助けるのに相手の好き嫌いって関係ある?」
「は……」

 無垢な瞳で考えもしなかったことを言われた大黒は思わず言葉に詰まる。

「わ、私何か変なこと言った?」
「……いやぁ、全人類が委員長みたいな人間だったら戦争なんて起こらないんだろうなって思っただけだよ」
「凄い大袈裟なこと言うね」

 相生は大黒の言葉に『ないない』と言いながら首を振って、廊下を歩いていく。

「そんな大袈裟でもないけどな。俺なんて嫌いな相手が目の前で死にそうになってたらどんな状況であろうと見捨てる努力するだろうし」
「助ける努力じゃないんだっ!?」
「そりゃもちろん。見捨てることでこっちにデメリットがあっても、どうにか頑張って見捨ててみせる。金を積まれようが助けない。それが俺の信条だ」
「大黒くんは道徳の授業を受け直したほうが良いよ!」
「ま、冗談はともかく」

 大黒はそこで一旦、無理やりに話を切る。

「見た目通り部屋も多いし、そろそろ家宅捜索させてもらってもいいか?」
「家宅捜索なんて言い方をしなかったら心置きなくオッケーを出してたんだけどね……。でも、いいよ。一応私もついていかせてもらいたんだけど大丈夫かな? 金庫とかがあって入っちゃ駄目な部屋もあるから」
「ぜひとも付いてきてくれ。そして今後そんな部屋があることは絶対に他人に言うなよ? 確実に忍び込もうとする奴があらわれるから」
「大丈夫だよ。無断でその部屋に入った人は蜂の巣になるよう設計されてるらしいから」
「相生家怖っ!」

 裕福な家の闇に触れながら、大黒は相生主導の下相生邸の調査に入る。

 ホール、応接間、リビング、書斎、浴室、トイレ、クローゼット、バルコニー、物置、テラス。

 立ち入り禁止の部屋以外は隅々まで異変が無いかを調べ、妖怪の出どころを探る。

 感知能力がそこまで高くない大黒も、相生邸に着いた時から妖怪の気配は感じていた。

 相生が妖怪に憑かれていることはもはや疑いようがなく、妖怪の住処が相生邸であることも間違いなかった。

 後は家の状態から妖怪の出現条件を推測して、ハクが言っていたをクリアすればいい。

 そう考えていた大黒だったが、

(……どうにも、思ってたより面倒な事になりそうだ。対処は俺にも出来るレベルだけど、その後のことまで考えると迂闊なことは出来ないな。こんな事をしてる理由にもよるし。……なんにせよまずは様子見、妖怪の出現条件は大体予想通りだろうし後のことはそれからだな)

 想定外の問題が発生したことで今後の方針を変えることにした。 

(にしてもなぁ、万が一長期戦になったらどうしようか。何日も泊まらせてもらうわけにはいかないし……、そんなことになったらそれこそ変な誤解を生みかねない。そもそも絶対にハクが寂しがる、なんなら今日一日いないだけでも俺恋しさに泣いてるかもしれない。そう考えたらあんまり悠長にはしてられないな。多少危険でも展開を早めるか)

「ね、ねぇ……」
「ん?」

 顎に手を当てて思索にふけっていた大黒に、相生が遠慮がちに声をかける。

「大丈夫なの? なんか凄い顔してたけど……」
「ああ、悪い悪い。ちょっとだけ厄介そうな事案だったから考え込んでた。でも、委員長は不安がらなくても大丈夫だ。これくらいなら俺がなんとか出来る」
「いや、そうじゃなくて。なんか言葉では言い表せないくらい気持ち悪い顔してたから頭がどうにかなっちゃったのかなって思って……」
「だいぶキツイこと言うなぁっ!」

 妙な角度からの心配を受けてたことを知った大黒はガバっと振り向き、相生に食って掛かる。

「あの委員長に罵倒されるほど酷い顔してたか!?」
「『あの』っていうのがどのなのかは分からないけど、筆舌に尽くしがたい顔はしてたね。名状しがたい顔とか、ふさわしい言葉が見つからない顔って言ってもいいかも」
「全部漠然とした表現だけど物凄いマイナスの意味で言ってるってことだけは分かる!」

 言い終わった後大黒はため息を吐き、調査の終わった部屋を出る。

「はぁ……、これからは気をつけるよ。大学で唯一の友人である委員長に嫌われたら、残り一年もない大学生活さえろくに乗り切れそうもないし。主に課題の面で」
「それくらいのことで嫌ったりはしないけどね? それより私に嫌われたくない理由が課題っていうことの方がよっぽど嫌いになりそうだよ」
「まあそれは置いといて、もう調べたいことは全部調べ終わったからご飯にでもしよう。色々付き合わせちゃってるし適当に出前でも取ってくれたらお金は払うよ」
「いいよいいよ。私のことで来てくれたんだし、今日は私の手料理をご馳走してあげる」

 相生は自分の二の腕にポンと手を置いて握りこぶしを作る。

「そりゃ嬉しいけど委員長って料理も出来るのか?」
「一通りは仕込まれてるよー。自分の口に入れるものは自分で作れっていうのがうちの家訓だからねっ」
「闇が垣間見える家訓だな……。じゃ、お願いするよ。人の手料理を食べるのは久しぶりだから楽しみだ」
「まっかせといて!」

 相生は自信満々な笑顔を見せて、大黒をリビングまで連れて行く。

 その笑顔を見て、大黒は相生にとって一番いい形になるよう今回の問題を解決しようと改めて心に誓った。
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