九尾の狐、監禁しました

八神響

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三章 壊れゆく日常編

二十七話

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 ――――草木も眠る丑三つ時

 スヤスヤと静かに寝息を立てている少女の前に一体の妖怪が現れた。

 妖怪の名前は馬面うまづら、名前の通り顔だけは馬になっていて体は人間の姿である人身馬頭の妖怪だ。

 馬面が吐く息には毒気が含まれており、馬面は夜な夜な民家に侵入し自分の息を寝ている人間に吹きかけ体調を崩させるという性質を持っている。

 その馬面が現在標的にしているのは相生家の長女、相生姫愛である。

 部屋を見渡し相生以外の人間がいないことを確認した馬面は、昨晩と同じように相生の枕元に立ち息を吹きかけるために身を屈めた。

 毎晩一呼吸二呼吸浴びせて、相生の体をじわじわと弱らせていく。それが馬面に与えられた任務。

 相手は妖怪を見ることも出来ない人間の女、常であればこれほど簡単な仕事などない。

 だがその日は一つだけ普段と違うことがあった。

「…………」
「…………!?」

 果たしていつからそこにいたのか、馬面の真横には木刀を持った片腕の男が立っていた。

 そして馬面が男の存在に気付くと同時に、男は木刀で馬面の首を切り落とした。

 馬面は何が起こっているのかを理解出来ずに命を落とし、馬面の死体も十秒としない内に塵となって自然に還った。

 馬面がいなくなったその部屋にはぐっすりと眠っていて起きる気配のない相生と、馬面を滅した男、大黒真の二人だけが残った。

(これでとりあえず問題が一つは解決したか。今の所はハクが言ってた懸念点もなんとかなってる。後は……)

 頭の中で問題を整理した大黒は万が一にも相生が起きないように細心の注意を払って相生の部屋から出ていった。

 そのまま大黒は玄関へと歩を進め家の中から外に出ると、庭の方まで真っ直ぐに向かっていく。

 馬面が部屋に入ってきた時、大黒は消失結界という結界を張り相生の部屋でひっそりと身を潜めていた。

 消失結界は結界の中から身動きこそ取れなくなるものの、結界内にあるものの姿、臭い、音、気配を完全に消す隠密用の結界である。

 やれること自体は隠形と大差はないが、大黒にとっては隠形よりも消失結界の方が精度も高く、隠形と違い術者以外も結界内に入れば同じ効果を得られるという点もあり大黒が重宝している結界の一つだ。

 相生を付け狙う妖怪の油断を誘うために消失結界を使っていた大黒は、今は逆に自分の存在をアピールするためにこうして庭にまで出てきていた。

「……火行符」

 懐から札を一枚取り出した大黒はそれを空に向かって投げつける。

 大黒の言葉で火へと変わった札は直線を描き、一定の高さに到達するとパァっと花が開いたように弾け飛び、深夜の空を一瞬だけ彩った。

 彩った時間は本当に短く、その場所を注視していない限り気に留めないであろう代物だった。

 だがそれでも、大黒は伝えたい人間には確かに伝わったという確信を持ってその人物が来るまで庭で待機することにした。

(腹、減ってきたな。一段落したらコンビニに行って夜食でも買ってこようか。ホットスナックとかはもう置いてないだろうけどおにぎりかサンドイッチくらいはあるだろうし。委員長の飯は美味かったし出来ればそれを味わったままの舌で寝たかったけど、空腹には代えられない。とっとと終わらせて、とっとと食って、とっとと寝よう)

 大黒が取り留めのないことを考え始めて二分と少し、とうとう待ち人が大黒の元へとやってきた。

「…………」

 暗がりの中、背後から大黒に近づいてきたその男は手に小さなナイフを持っていて、外さない位置まで近寄るとナイフを大黒に向かって勢いよく投擲した。

 しかし、

「……危ないな、人に向かってナイフを投げちゃいけませんって小学校で習わなかったのか?」

 攻撃に備えてあらかじめ自分の周りに結界を貼っていた大黒までは届かず、ナイフは結界に弾かれて地面に突き刺さった。

「いやいや何を仰る、空に向けて火を放つほうがよっぽど危険じゃん? ……にしてもなぁ、あわよくばナイフが結界を突き抜けてお前を殺せれば楽だったのに」

 男は地面に突き刺さっているナイフを拾い、刃先についた土を手で払う。

 そこまで至近距離に来られて、ようやく大黒も男の顔を確認することができた。

「ま、お互いに思う所はあるだろうがとりあえずは挨拶か……。どーも、家庭教師さん。俺は相生姫愛の友達、大黒っていうもんです」

 月明かりに照らされた男の顔は、数時間前に大黒とすれ違った相生姫愛の兄の家庭教師を務めるという男に相違なかった。

「はっは、これはどーもご丁寧に。俺がカテキョって姫愛ちゃんから聞いてた? まあなんて読んでもらってもいいけど一応、俺の名前は上原礼うえはられい。そのまま家庭教師さんでも、上原さんでもご自由に」

 上原はヘラヘラと笑って大黒に自己紹介を返す。

 だが、その笑顔の裏には隠しきれない苛立ちが見えていた。

「はーっ……、誤算だよなぁ。まさか姫愛ちゃんの彼氏が陰陽師だったなんて。お前って協会所属? それとも商売敵おなかま?」
「どっちでもないしそもそもまず陰陽師でもない。更に言うなら彼氏でもない。全部的外れだ」
「はぁ? 少なくとも陰陽師でもないは嘘だろ。あんな古臭い符丁とか知ってるのも使えるのも陰陽師だけだろーが。それとも何? 違反でもして陰陽師資格剥奪でもされたか?」
「……当たらずとも遠からずってかんじだ。説明するのも面倒だしその認識でいいよ」

 上原を呼び出すために大黒は火行符を空で散らせた。それは陰陽師の間では火急の用を意味する合図で、仲間の陰陽師は今すぐ火柱が立った所に集まってこいという呼びかけだった。

 通信機器が発達した現代ではそんな符丁を使う陰陽師などほぼいないが、緊急時にはきちんと使えるように小学校の内に覚えさせられる。

 それを使った大黒は間違いなく陰陽師と何らかの関わりがあるため、上原は大黒を警戒していた。何よりも殺したら角が立つ人物であるかどうかということを気にしていた。

 だからこそ大黒が現在陰陽師でないと知った上原は、その顔を醜く歪めて醜悪な笑顔を浮かべた。
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