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二章 混ざり怪編
六話
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磨を家に招き入れた日の夜、大黒は夢を見た。
『なあ、お前はこれからどうするんだ?』
『どうするって?』
それは八年前のある日、大黒がまだ陰陽師になるための学校に通っている頃。
『お前みたいな子どもが逃亡生活なんてどうやるんだって話だよ』
『ああ、その事なら心配いらないよ。幸いにも日本は治安のいい国だ、泥を啜ってでも生き延びる覚悟があるのならどうにでもなるさ』
今よりも幼い大黒の前には、中性的な見た目の少女が一人。
二人は人目につかない路地裏で密談をしていた。
『いくら治安が良いからって悪い人間もいるだろ。協会からの追手だってそんなに甘いものじゃないはずだ、どう考えても現実的じゃない』
『ふうん? まあ僕なりに用心はしていくつもりだけど……、そこまで言うのならなにか代案があるのかい? まさか大人しく協会に出頭しろなんて言わないよね?』
少女は自分と同じくらいの大きさのリュックサックにもたれ掛かりながら、意地悪く口を歪める。
『誰が言うか、出頭しても殺されるだけだしな。そうじゃなくて……、大黒家に来たらどうだ? あの家は無駄に広くて部屋は余ってるし、糞みたいな男はいるけどそいつは感知能力も糞だから気をつけてればバレないだろうし、まあ他の奴らもなんとか誤魔化せるだろう』
大黒は後頭部を掻きながら、少女を匿うための場所として大黒家を提案した。だが、少女はその提案に肩を竦めることで否定の意思を示した。
『それこそ現実的じゃないよ、らしくない。君の言う通り大黒家に行ったとして、妹さんはどうするんだい? 他の人間は誤魔化せてもあの子から身を隠す技量なんて僕にはないんだよ?』
『些細な問題だ、純にはお前を匿うって説明しとけばいい』
『……君は、あの子の君に対する執着を見誤っているよ。あの子は君に害するものを許さない。問題を抱えた僕が君の手引で大黒家に行ってしまったら、次の日には協会の連中が大黒家に押し寄せてくるよ』
『純が密告するって? まさか』
そんなことはありえない、と首を振る大黒(妹馬鹿)を見て少女はため息をついた。
『まあいいよ、いつか君も思い知らされるだろう。とにかく、大黒家に行くのは無しだ。それよりそんなにも心配してくれるなら君が僕に付いてきてくれればいい。ずっと傍にいて僕を守ってくれ』
『それは無理だ、純をあの家に一人にするわけには行かない。守ると言うなら俺は純こそを守らなきゃいけないんだ』
『あの子にそういうのは必要ないと思うんだけどねぇ……』
『それに』
『それに?』
『お前と二人で生活なんてまっぴらごめんだ』
聞きようによってはプロポーズともとれる少女の言葉を大黒は一蹴した。そして、険しい顔で断言する大黒に少女は大げさに傷ついた顔をする。
『そんな……君と僕との仲じゃないか。なんでそんな事をいうんだい? 理由によっては涙が隠せなくなるかもしれない』
『よく言うよ。お前と二人なんて何されるか分かったもんじゃない。そこそこの付き合いだから心配はするけど、信用は一切してないってことは言われなきゃ分かんないか?』
あんまりと言えばあんまりな大黒の物言いに、少女は両手で顔を覆ってさめざめと泣く、振りをした。
『ううっ……ぐすっ……』
『嘘泣きはよせ。心配する気すら失せてきた。お前が一緒に来てほしいなんて言う時は、ほぼ体目当てなんだから警戒するのも普通だろ』
大黒が全く動揺しないことで少女も無意味だと悟ったのかすぐに嘘泣きをやめて、また意地の悪い笑顔に戻る。
『いいじゃないか体目当て、同級生の異性に体を求められるんだよ? 男子中学生なら垂涎物のシチュエーションだと思うけどねぇ』
『相手がお前以外ならな。いいよもう、面倒になってきたし、とっととそのでかい荷物持ってどこへでも行ってしまえ』
『そうするよ。君にこれ以上迷惑をかけるのは本意じゃないしね。何も考えず迷惑をかけていいのは綾人だけ』
『あいつも不憫だな……、人がいいばっかりにお前みたいなのにつけこまれる』
『綾人にもちゃんと感謝はしてるよ? さて、それじゃあ本当に僕は行くよ。また会えるかは分からないけど、一応、またねって言っておくね』
そう言って少女はもたれかかっていたリュックサックを背負い、大黒に手をふる。
『そうだな、お互い無事に生きてたらまた会おう。それまでにはもっとましな人間になっといてくれよ』
『考えておくよ』
大黒の軽口に一言だけ返事をすると、少女は背を向けてどこかへと立ち去っていく。
その映像を最後に大黒の夢も終わり、意識が現実へと引き戻されていった。
『なあ、お前はこれからどうするんだ?』
『どうするって?』
それは八年前のある日、大黒がまだ陰陽師になるための学校に通っている頃。
『お前みたいな子どもが逃亡生活なんてどうやるんだって話だよ』
『ああ、その事なら心配いらないよ。幸いにも日本は治安のいい国だ、泥を啜ってでも生き延びる覚悟があるのならどうにでもなるさ』
今よりも幼い大黒の前には、中性的な見た目の少女が一人。
二人は人目につかない路地裏で密談をしていた。
『いくら治安が良いからって悪い人間もいるだろ。協会からの追手だってそんなに甘いものじゃないはずだ、どう考えても現実的じゃない』
『ふうん? まあ僕なりに用心はしていくつもりだけど……、そこまで言うのならなにか代案があるのかい? まさか大人しく協会に出頭しろなんて言わないよね?』
少女は自分と同じくらいの大きさのリュックサックにもたれ掛かりながら、意地悪く口を歪める。
『誰が言うか、出頭しても殺されるだけだしな。そうじゃなくて……、大黒家に来たらどうだ? あの家は無駄に広くて部屋は余ってるし、糞みたいな男はいるけどそいつは感知能力も糞だから気をつけてればバレないだろうし、まあ他の奴らもなんとか誤魔化せるだろう』
大黒は後頭部を掻きながら、少女を匿うための場所として大黒家を提案した。だが、少女はその提案に肩を竦めることで否定の意思を示した。
『それこそ現実的じゃないよ、らしくない。君の言う通り大黒家に行ったとして、妹さんはどうするんだい? 他の人間は誤魔化せてもあの子から身を隠す技量なんて僕にはないんだよ?』
『些細な問題だ、純にはお前を匿うって説明しとけばいい』
『……君は、あの子の君に対する執着を見誤っているよ。あの子は君に害するものを許さない。問題を抱えた僕が君の手引で大黒家に行ってしまったら、次の日には協会の連中が大黒家に押し寄せてくるよ』
『純が密告するって? まさか』
そんなことはありえない、と首を振る大黒(妹馬鹿)を見て少女はため息をついた。
『まあいいよ、いつか君も思い知らされるだろう。とにかく、大黒家に行くのは無しだ。それよりそんなにも心配してくれるなら君が僕に付いてきてくれればいい。ずっと傍にいて僕を守ってくれ』
『それは無理だ、純をあの家に一人にするわけには行かない。守ると言うなら俺は純こそを守らなきゃいけないんだ』
『あの子にそういうのは必要ないと思うんだけどねぇ……』
『それに』
『それに?』
『お前と二人で生活なんてまっぴらごめんだ』
聞きようによってはプロポーズともとれる少女の言葉を大黒は一蹴した。そして、険しい顔で断言する大黒に少女は大げさに傷ついた顔をする。
『そんな……君と僕との仲じゃないか。なんでそんな事をいうんだい? 理由によっては涙が隠せなくなるかもしれない』
『よく言うよ。お前と二人なんて何されるか分かったもんじゃない。そこそこの付き合いだから心配はするけど、信用は一切してないってことは言われなきゃ分かんないか?』
あんまりと言えばあんまりな大黒の物言いに、少女は両手で顔を覆ってさめざめと泣く、振りをした。
『ううっ……ぐすっ……』
『嘘泣きはよせ。心配する気すら失せてきた。お前が一緒に来てほしいなんて言う時は、ほぼ体目当てなんだから警戒するのも普通だろ』
大黒が全く動揺しないことで少女も無意味だと悟ったのかすぐに嘘泣きをやめて、また意地の悪い笑顔に戻る。
『いいじゃないか体目当て、同級生の異性に体を求められるんだよ? 男子中学生なら垂涎物のシチュエーションだと思うけどねぇ』
『相手がお前以外ならな。いいよもう、面倒になってきたし、とっととそのでかい荷物持ってどこへでも行ってしまえ』
『そうするよ。君にこれ以上迷惑をかけるのは本意じゃないしね。何も考えず迷惑をかけていいのは綾人だけ』
『あいつも不憫だな……、人がいいばっかりにお前みたいなのにつけこまれる』
『綾人にもちゃんと感謝はしてるよ? さて、それじゃあ本当に僕は行くよ。また会えるかは分からないけど、一応、またねって言っておくね』
そう言って少女はもたれかかっていたリュックサックを背負い、大黒に手をふる。
『そうだな、お互い無事に生きてたらまた会おう。それまでにはもっとましな人間になっといてくれよ』
『考えておくよ』
大黒の軽口に一言だけ返事をすると、少女は背を向けてどこかへと立ち去っていく。
その映像を最後に大黒の夢も終わり、意識が現実へと引き戻されていった。
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