九尾の狐、監禁しました

八神響

文字の大きさ
39 / 117
二章 混ざり怪編

七話

しおりを挟む
(夢……か。昔の夢を見るなんていつぶりだ。過去なんて捨て去ったつもりだったけどまだ未練があるのかね、俺は)

 目を覚ました大黒は、天井を見つめながら先程まで見ていた夢の事を考える。

(それとも子どもが近くにいてノスタルジックな気分にでもなってたか)

 そして大黒は上半身を起こし、夢の原因かもしれない存在へと目を向ける。

 大黒が目を向けた先には小さな膨らみがあった。大黒と同じ布団の中にいるそれは、昨日から大黒の家に居着いた磨という少女だ。

 大黒はすやすやと眠っている磨を見て、困ったような笑みを浮かべる。

「ヤバい絵面だよなぁ、兄妹でもない年の差男女が同じベッドにいるなんて……」

 磨が住むにあたって、唯一自分の意思を見せたのは寝る場所だった。

 初めの内は廊下でもベランダでも良いと言っていた磨だったが、そんなことを大黒とハクが許すはずもなく、当然の帰結としてハクの部屋で一緒に寝るという提案が出された。

 しかしその提案を聞いた瞬間、磨は大黒の腕から手を離さなくなった。

 どれだけ諭しても大黒から離れる気配の無い磨に根負けして、結局磨は大黒と共に夜を過ごした。

 大黒はその時の事を思い出しながら、磨を起こさないように静かにベッドから降りた。

(あの時のハクは可哀想だったなぁ……。避けられすぎて涙目になってたし。しかし磨は何がそんなに嫌だったんだ……? 俺ならハクと寝れるなんて状況、一も二もなく飛び付くのに)

 首をかしげながら大黒がリビングに入ると、焼き魚と味噌汁の匂いが食欲を刺激してきた。

「おはよう、今日も美味そうな匂いがしてるな」
「おはようございます。今日は早いですね、いつもなら後5時間は寝てるでしょうに」

 キッチンで朝御飯の準備をしていたハクは、料理をしたまま振り返らずに返事をする。

「5時間って……、もう9時だぞ。さすがの俺だって昼過ぎまで寝たりはしないさ」
「何を言っているんですか。一昨日起こしに行った時は『ゴールデンウィークの初日なんだからまだ寝かせてくれ。俺はしばらく冬眠するんだ』なんて文字通り眠たいことを言っていたのに」
「……っかしぃなー。そこまで頭の悪いことをいった覚えが無いんだけどなぁ……」

 大黒は額に手を当てて渋い表情をする。

「ところで幼子と同衾した気分はどうですか? ……なるほど、やはり有頂天のようですね」
「何も言ってないのに勝手に結論を出さないでくれ。後、同衾なんて危険すぎるワードも使わないでくれると助かる」

 大黒は心底冷たい目線を送ってくるハクに冷や汗を垂らしながら懇願する。

 しかしハクはというとそれには何も答えず、大黒から顔を背ける。

「な、なんかいつもより冷たくない? 微妙に殺気すら感じる気がするんだけど……」
「気のせいでしょう。……いえ、貴方と話す時はいつも殺意を抱いていますからあながち気のせいではないかもしれません」
「恐るべき真実っ!」

 大黒は日常が常に死と隣り合わせだったことに戦慄する。

 そして今の発言は冗談だったとしても、現在感じている殺気は気のせいでは無いことに気づいた大黒は、思わず思い当たった原因を口に出してしまう。

「分かった、ハクってば磨に嫉妬してるんだな。全く、そんなに俺と一緒に寝たかったのかー。言ってくれればいつでもこの家のベッドを1つにしたのに」
「…………貴方の目にも見えているように、私の手には包丁が握られています。その事を念頭に置いてもう一度発言してみてください」
「すいません、調子に乗りました」

 大黒の的外れな予想に対して返ってきたのは、鈍く光る刃物による脅迫だった。

 そんな殺気と凶器が揃っているハクを相手にしてしまったら、大黒に謝る以外の選択肢はなかった。

「……いいでしょう。私も八つ当たりが過ぎました。……そうですね、白状しましょう。私は嫉妬しています、もちろん磨にではなく磨に選ばれた貴方に」

 平身低頭といった様子の大黒を見てハクも溜飲が下がったのか、素直に自分の心情を吐露し始める。

「……選ばれた、なんて感じでもなかった気がするけどな。あれはどっちかって言うと……」
「分かっています、私が避けられていたということは」

 目を逸らして言葉を濁した大黒の代わりに、ハクがその言葉の先を紡ぐ。

「不思議だよな……、客観的に見てもハクを避ける要素なんて無いと思うけど」

 大黒はハクを上から下まで見回しながら言う。

 同年代くらいの容姿、同性、見目麗しい、等の、磨がハクを見て思いそうなことを並べると印象が悪くなることなどあり得ないように思える。

 いくら大黒に助けられたからといって、どちらと寝るかを選べと言われたら、ハクを選ぶのが自然だ。

 しかし、そうはならなかった。その事が大黒にとっては不思議でしょうがなかった。

「確かに客観的に見れば私が選ばれる可能性の方が高いでしょう。ですが、それはもういいのです。私だって子どもに嫌われる経験は初めてじゃありません。……ショックはショックでしたが」

 ハクはゆっくりと包丁を置いて、一旦言葉を区切る。

「……? じゃあなんで嫉妬なんてしてるんだ?」
「端的に言うのなら、私を避けた先が貴方だったことです。正直、貴方以外であればこんなに濁った気持ちにならなかったでしょう」
「そ、それはやっぱり俺の事を特別に思っててくれて……!」
「ええ、貴方みたいな人としてどうかと思う人間に負けたのだと思うと腸が煮えくり返りそうです。そのくらいには特別に思ってます」
「オッケー! この話は止めよう!」

 期待していたのと180度違った答えを聞かされ、大黒は強引に話を打ち切ることにした。

 ハクとしてもそれ以上大黒を詰る気はなかったようで、料理を再開しながら違う話題を振ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...